藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

国の威信。

*[次の世代に]安心の行方。
年金の加入逃れと「あえてボイコット」している人が同一ではないと思うけれど。

それにしても「どんどん支給額が減る」「支給年齢はどんどん上がる」で若者などはもうあきらめ顔だ。

二十代の人に聞くと「どうせもらえないんでしょ」という答えが返ってきた。
国はそれでも強制徴収、とばかりにローラー作戦を展開するけれど、こんな状態がいつまでもつのかと心配だ。
 
年金のシステム不具合の中身を聞いても実に危なっかしい運用になっている。
すでに生活保護国民年金は逆転現象を起こしているし、いずれどこかの党が「年金廃止、ベーシックインカムでやり直し」を掲げて政権を取るのではないだろうか。
日本人は「超保守民族」でリセットすることがとことん苦手だと思う。
かつての軍部の暴走はこんな感じで始まったのではないだろうか。
不満の鬱積は怖いものだ。
 
 

厚生年金の加入漏れ、なお156万人 企業の保険料逃れで

厚生年金に加入できる資格がありながら、国民年金のままになっている労働者が156万人に上ることが厚生労働省の推計で分かった。厚生年金に加入していないと将来もらえる年金額が少なくなる。厚労省は加入を逃れている事業所をあぶり出すなどして3年前から44万人減らしたものの、なお国民年金加入者の1割に相当する規模だ。加入逃れをなくすための追加対策が求められそうだ。
厚労省はこのほど国民年金の2017年時点の第1号被保険者の就業状況をもとに、厚生年金をもらえる可能性がある人を推計した。
厚生年金は法人事業所や従業員5人以上の個人事業主に加入を義務づけている。にもかかわらず、加入を逃れている疑いのある事業所は18年9月時点で約40万に上る。資格があるのに加入していないと、将来もらえる年金額は少なくなる。
厚生年金の保険料率は18.3%で、企業と従業員が折半する仕組みだ。企業が負担を減らすため、意図的に加入しないことが多い。従業員から保険料を徴収しながら、払っていない悪質なケースもあるとされる。
公的年金国民年金(基礎年金)と厚生年金の2階建てだ。国民年金のみの場合、保険料を40年間満額納めてもらえるのは1人あたり月額約6万5千円。厚生年金は上乗せされる形で、標準的な夫婦世帯の年金額は月22万1504円になる。
加入逃れの疑いのある事業所は15年9月時点で約79万あった。15年度から国税庁の情報提供を受け、加入指導を強化。実務を担う日本年金機構が電話や訪問で加入を求めるなどして3年間で未加入事業所は半減した。未加入事業所は中小零細企業が多いとみられ、電話や訪問による加入促進は限界がある。
厚労省は老後の支えを広げる目的で、厚生年金の適用拡大に取り組んできた。16年10月には適用の条件を緩めて、(1)従業員501人以上の企業に勤める(2)労働時間が週20時間以上(3)月額賃金が8.8万円(年収約106万円)以上――などを満たす人を対象にした。500人以下の企業でも労使合意を条件に短時間労働者が厚生年金に加入できる。
現在、検討中の年金改革でも厚生年金の加入者増をめざし、従業員数の基準を引き下げる案を検討している。
厚生年金の適用基準を緩める一方、未加入の事業所が多い状態が続けば、老後の支えを広げるという政策効果が十分に発揮できない。保険料を負担している企業が不公平感を募らせる恐れもある。未加入者の解消に向け、IT(情報技術)を活用するなど効率的な加入促進策が求められる。
 

 

仮想が現実に。

*[ウェブ進化論]仮想通貨の行方。
少し投機熱が落ち着いた感じの仮想通貨だけれど、相変わらず取引は無くならない。
誰に聞いても「根拠」の説明がわかりにくい仮想通貨は、実は「リアルマネーの退避場所」なのではないだろうか。
今の日本円とか、明らかに価値が希薄化していると思われるが、だからと言ってドルにもユーロにも元にもレアルにも全然安心感はない。
仮想通貨はそんな閉塞感から「各国の通貨政策」に影響されない存在が求められていたのではないかと思う。
けれど仮想は仮想。
そこにも(自分たちが理解できる)根拠はなかった。
だからいっそ今こそ「金本位の通貨」を作り直したら、世界中の信任が得られると思うのは自分だけだろうか。
いろんな学者や金融機関が、いろんな理屈を編み出し、またそれを国の政府が承認し。
そんな「いろんな人たちの思惑が混ざり合った各国の通貨」ではないものを。
自分は「素朴に金やプラチナに根拠を持つ価値の尺度」がもう一度再登場するのではないかと思っている。
 
「バーチャルに翔んだ世界」は、いつか現実との接点を探すのではないだろうか。
 
[FT・Lex]デジタル決済のリップルJPモルガンは脅威
2019年4月4日 3:34
仮想通貨の中核技術であるブロックチェーン(分散型台帳)を使った決済会社、リップルは、アウトサイダーであり、インサイダーでもある「ハイブリッド」だ。サンフランシスコに本社があるリップルは、堅苦しく古めかしい銀行業と、派手な仮想通貨の世界を結び付けようとしている。スペインのサンタンデールや英バークレイズなどの大手銀行との提携によって、社会的信用が得られる。リップルのデジタル通貨XRPは、価値が3ドルから約30セントに下落したにもかかわらず、仮想通貨の愛好家の間で評判がいい。
リップルの仮想通貨は価値が下がったものの、利用者の評価は高い=ロイター
リップルのファンは、やや反発したビットコインの投資家のように、必死になってXRP上昇への期待にしがみつかなくてもいいことを期待している。XRPは、リップルの決済システムの潤滑油という正当な機能を果たすことが本来の役割だ。
ずっとくすぶっている疑問は、果たしてXRPが必要なのかどうかだ。もし必要でなければ、米仮想通貨交換会社のコインベースが推計している140億ドルという市場価値は、特に世界の銀行間決済システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT、本部・ベルギー)の2017年の収入が10億ドル未満と報道されたことを考えれば、高すぎるようにみえる。

大手銀の方が優位か

リップルの現状は本末転倒だ。同社は、XRPの市場価値を正当化するビジネスモデルが存在することを証明しなければならない。
XRPは実用化に先立って、投資が行われている。リップルは新しい「Xラピッド」がそれを変えることを期待している。国境を超える決済でXRPを普通の通貨間の懸け橋として使うサービスだ。リップルは、これによって流動性が拡大し、取引時間を数日から数秒に短縮できると言う。そうなれば為替リスクが減るはずだ。
大手銀行はリップルの「Xカレント」の方を好んでいるようだ。これはXRPを必要とせず、迅速に決済を終了させることができる。
JPモルガン・チェースによる同じ分野への参入は、リップルにとって問題だ。かつて仮想通貨は詐欺だと批判したジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、独自のデジタル通貨「JPMコイン」を立ち上げた。JPMコインは閉鎖されたネットワークの中で取引され、ドルに連動している。
一部のライバルは警戒するかもしれないが、JPモルガンはJPMコインの利用を拡大する力を持っている。リップルは最初からデジタルの企業であり、ウォール街の大手銀行の方が決済に使われる正当なデジタル通貨では優位性があるかもしれない。
(2019年4月3日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/
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シェアは進むよどこまでも。

*[ウェブ進化論]シェアの果て。
日経より。
日本中の空き家がシェアされようとしているという話。
そもそも、およそ規制はいつまでも規制のままではいられない、と思う。
Uberairbnbの排除はいつまでもつのだろうか。
街並みや文化財の保護、というのなら大義名分がある。
けれど「何かの集団の保護」のための規制は「他の何かの集団の利益」を害していることがままある。
 
そして「何かの集団」というのは往々にして「自分の立場からしかものを言わない」。
個人ならまだしも「集団の利益を代表して」の言い分はつまり「それ以外の人々はに二の次」な発言が多い。
政治とは、そうした人たちの「喧騒のるつぼ」だ。
恐ろしや。
 
反して。
自分の持っている、"時間"や"物"や"スキル"や"経験"なんかもこれからは「とことんシェアする時代」になりそうだ。
 
そういえば酒場の相談だって悩みのシェアだ。
「頭脳のシェア」が一番すごいことになるのではないだろうか。
一つの問題を、全員で考える。
 
 
 
全国どこでも住み放題 空き家を改築、月4万円から
2019年4月3日 21:30
家や住所は1人に1つだけ――。そんな常識が覆されようとしている。今年に入り、毎月決まった額を支払えば全国の拠点にいつでもどこでも住み放題になるサービスが続々登場している。価格も家賃と同水準か安いものも多く、一般の人でも利用しやすくなっている。

地方を旅しながら仕事

不動産系スタートアップ企業アドレス(東京・千代田)は4月から一定の料金を支払えば全国の施設に何日でも滞在できるサービスを開始した。料金は「年会員」が年48万円と1カ月あたり4万円。単発の「月会員」は月5万円だ。東京・渋谷など首都圏だけでなく、徳島や福井など全国に計11カ所(3月下旬時点)ある。
アドレスは4月から一定の料金を支払えば全国に11ある拠点に何日でも滞在できるサービスを開始した(神奈川県の拠点)
空き家や別荘を改築し今後も拠点数を増やす計画だ。個室を確保しつつ、シェアハウスのようにリビングやキッチンを共有する。公衆無線LANWi-Fi(ワイファイ)」も利用できるため仕事場としても使える。
宿泊できる個室にはクイーンサイズのベッドがあり、同室なら追加料金を払わず家族で利用することができる。法人契約も受け付けており、既にリクルート住まいカンパニーやガイアックスなど6社の利用が決まっている。注目度は高く「サービス開始前から(3月下旬時点で)既に1200件の問い合わせがあった」(アドレス)という。
KabuK Style(長崎市)も4月から定額の住み放題サービス「HafH(ハフ)」の提供を始めた。月額料金を支払えば自社で運営する長崎の施設のほか、国内46カ所と台湾やギリシャなど海外7カ所の既存のゲストハウスやホステルを使用できる。料金は毎日利用できるプランで月額8万2000円。1カ月に数日限定で利用するプランは1万6000円からだ。
「HafH(ハフ)」は国内外に53の拠点を活用し旅しながら働くというニーズに応える
大瀬良亮共同代表は「多くの人にとって、パソコンがあればどこでも仕事ができる時代。いつもと違う場所で働くと仕事の効率が上がる」と強調。ハフの住居を拠点に、地方を旅しながら仕事をするといった使い方も想定している。
Little Japan(東京・台東)が運営するホステルパスは、ひと月あたり2万5千円で国内外計14カ所のホステルにいつでも宿泊できる。利用できるホステルは都市部に多く、平日は勤め先に近いホステルから出勤し、週末は地元に帰るという暮らしが可能になる。「仕事のために引っ越していた人も多かったがサービスを活用することで地元に住み続けることできる」と最高経営責任者(CEO)の柚木理雄氏は話す。
海外でも同様のサービスはあるが、ノマドワーカーやアドレスホッパーとよばれる特別な人向けのサービスが多く、価格も月額20万円程度することも多いという。日本で増えている定額住み放題サービスは10万円以下の場合がほとんど。全国賃貸管理ビジネス協会によると2019年2月時点で全国の平均賃料は5万4153円。都内でも7万1184円と光熱費や家具・家電の費用を払わなくてよいことを考えると各サービスの利用料金は決して高くない。アドレスの佐別当隆志社長は「一般的な住居費と大きく差をつけないことによってサービス利用者の裾野が広がる」と話す。
価格を抑えてサービスを提供できるのは「日本全国で人口に対して住居が増えすぎている」(Little Japanの柚木CEO)ことが一因だ。13年の総務省「住宅・土地統計調査」では、全国の空き家戸数は820万戸と全戸数の13.5%。今後も空き家数は増加する見込みで野村総合研究所は33年には27.3%に達すると予測している。
訪日客の増加で全国で開業ラッシュが続いたホテルやホステルもここへきて過剰感がでてきた。都内のホステル経営者は「あきらかに供給過剰。一時期に比べて空室も目立つ」と話す。
空き家問題や地方の過疎化を食い止める糸口となるのではないかとの期待も高まっている。多くのサービスは地方にいって仕事をするだけではなくその土地の人々との交流を促すことをサービスの中核にしている。アドレスではそれぞれの物件に管理人として地域住民を配置し、居住者との交流を促す。管理人を通じて農作業の手伝いなど地域の仕事に積極的に参加してもらう。ハフも定期的にイベントを開催し地域との交流の場を作る予定だ。「旅行で訪れるだけでは生まれない関係性をつくることで、新しい仕事が生まれ、地方の活性化につながる」(アドレス)。一人が複数の拠点を持ち、暮らすことで限られた人口を地方と都市で奪い合うのではなく、シェアする。そんな時代がやってくるかもしれない。
(渋谷江里子)
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まだスピードの時代。

*[ウェブ進化論]その次にあるもの。
結局1990年ごろから始まったネットの時代は「スピードの勝負の時代」だったと思う。
どんどん通信速度が速くなり、それにつれてどんどん「送るものの量」も増えてきた。
今やロードショウの絵以外映画1本分くらいは軽くストリーミングできるくらいになっている。
 
しかしさて、まだもう少し「スピード勝負」は続きそうだ。
おそらく、「あらゆるコンテンツやセンサーの情報がリアルタイムに届く」ようになれば、ようやく「通信速度の競争」は無くなるだろう。
つまりそれが「5Gの世界」の可能性は高いと思う。
「量」や「質」や「速さ」が満たされて、ようやく自分達は次のことを考え始める。
今の100倍くらいの速度があってこそ、さらに次のことを追求するのが現代の習わしなのかもしれない。
「もっと速く」の先にあるものをそろそろ想像しておきたいと思う。
 
沸騰する5G、あらゆる産業に革新
2019年3月20日 21:30
従来の100倍の実効速度、10倍の精度で通信できる次世代通信規格「5G」の商用化が2019年から世界で始まる。その影響は携帯電話市場にとどまらず、製造業、医療などあらゆる産業を再定義することになりそうだ。5Gがもたらす果実を得ようと、世界中の企業がその動きを加速し始めている。

5キロメートル先の患者に遠隔操作で手術

スペイン・バルセロナで開催された世界最大の携帯関連見本市「MWC19」には多数の企業が出展した。
19年中には世界で続々と5G商用サービスが始まる見込みだ。携帯電話の業界団体GSMアソシエーション(GSMA)によると、一部地域で既に5Gの商用化が始まった米国、韓国に加え、19年にはチェコ共和国フィンランドサウジアラビア、スイス、オーストラリア、カタール、スペイン、ポルトガル、香港、英国などでも5Gの商用サービスが始まる見込み。25年の5G普及率は世界で15%、韓国では約6割、米国や日本では約5割に達する見通しだ。
「5Gの商用サービスを始める20年春までに企業と共同で100個のサービスを用意したい」。NTTドコモの古川浩司取締役常務執行役員はこう力を込める。
ドコモは18年から5Gの協業を始め、現在は約2300の企業や自治体が参画している。今月8日の展示会では5G商用化時に有望なサービスを50以上用意した。
凸版印刷と共同開発した遠隔授業サービスでは、生徒が拡張現実(AR)を活用して沖縄の歴史を学べる。タブレットに沖縄古来の剣が浮かび上がり、遠隔地にいる説明者がリアルタイムで解説してくれる。
パナソニックと共同開発したサービスではスポーツの試合会場で撮影した複数の動画を遠隔地の利用者がスマホ上で好きなアングルから視聴できる。NECと共同開発した「スマート街路灯」は内蔵カメラを使って年齢層や男女を判別する。

普及のペース加速も収益化は道半ば

5Gを使えば複数人でVR空間でゲームを楽しめる
5Gによって技術的に難しかったサービスの現実味が高まり、提供しようとする企業が続々と市場に参入してくる。それが多くの消費者の関心を5Gが集めることで、普及のペースが加速する、という構図だ。
質的・量的変革をもたらす5Gは、携帯電話事業者にビジネスモデルの変革を突きつける。ただ、遠隔医療やスマート工場、自動運転など新たなビジネスの種をどのように収益に結びつけるのかについて、世界の多くの企業はまだ模索を続けている。
当面、世界の携帯電話事業者は現在のスマホの延長上のビジネスからスタートするだろう。動画や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などのコンテンツ配信などだ。その後、徐々に5Gのカバーエリアを広げていくなかで、企業向けの用途を拡大し、スマホを超えた新たな収益源に注力していくと見られる。
誰が最初に5Gという新たな果実をもぎ取れるのか。世界的な競争がいま始まろうとしている。(堀越功)
日経産業新聞 2019年3月20日付]

認知症という魔物。

*[次の世代に]病気を追いかけすぎないこと。
まあそれにしても、「科学技術が進歩すればするだけ、課題もどんどん増えること増えること」。
時代劇では「流行り病」で済まされていた病気の種類はどれほど増えているだろうか。
そして解明が進めば進むほど、さらに分からないことも増えてくる。
認知症」とか「神経内科(精神科)」とか。
昔は「ボケた」という表現で理解されていた症状が、今や大問題になっている。
ここ数十年は「認知症」についての取り組みが一番のテーマになりそうだ。
それはともかく。
 
高齢者の問題は「病気の話」が圧倒的に多い。(次は貧困だ)
高齢になれば、何かの病気や機能不全が始まり、そのうち寿命を全うする。
その自然の摂理を、どこまでも「病い」として追求することを、私たちはやめない。
健康寿命、という言葉はもう常識になりつつあるが、けれど誰も「さっさと逝きましょう」とは言わない。
高齢者の側から、そういう潔さを意思表示せねばならない時代になるだろう。
自分はそうしたいと思っている。
 
 

アルツハイマー予防」に既存薬が劇的効果 大阪市立大教授が発見、メカニズムを解説

ライフ週刊新潮 2019年2月28日号掲載

アルツハイマー予防に劇的効果の既存薬――富山貴美(1/2)

 近い将来、認知症患者が1千万人を超えることはもはや避けられない現実。一方、医療の最前線では、「予防」によってアルツハイマー病を克服する研究が進められている。大阪市立大学の富山貴美研究教授が明かす新たな認知症対策のカギは、意外にも既存薬にあった。
 私が「リファンピシン」という薬に、アルツハイマー病の原因となるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」の蓄積を抑える作用があると発表したのは1994年のことです。この発見が四半世紀の時を経て、「予防薬」として結実しようとしています。
 研究のきっかけとなったのは、92年に報告された、日本のハンセン病患者に関する論文です。端的に言うと、ハンセン病患者の人たちは高齢になっても認知症を発症する頻度が極めて低かった。この論文に目を通した私は、「何かある」と感じました。
 ご承知の通り、ハンセン病患者は当時の国の政策によって強制的に隔離されてきました。そうした方々は長期にわたって外界から隔絶され、しかも、同じ薬を投与され続けてきた。
 もちろん、その時点では仮説に過ぎませんでしたが、患者が服用してきた何らかの「薬」が、アルツハイマー病の発症を抑制したのではないかと考えたのです。
〈謂(いわ)れなき差別に晒され、社会との接触すら奪われたハンセン病患者の痛ましい過去。時を超え、現代の「国民病」に立ち向かう斯界の権威が、かつての患者たちの歴史から、曙光を見出した瞬間である。
 認知症治療薬の開発が急がれるなか、目下、世界中の注目を集めているのが、富山貴美研究教授が進めるこの研究だ。〉
 ハンセン病患者に関する論文を読んだ私は、早速、患者たちに長期投与されてきた薬の調査に乗り出しました。主な薬はダプソン、クロファジミン、そしてリファンピシン。これらの薬を入手して「アミロイドβ」の凝集を防げるか調べたところ、最も顕著に効果が現れたのがリファンピシンでした。
 その後、原因タンパク質の小さな集合体である「オリゴマー」の形成を抑えることができるかを調べると、ここでもリファンピシンが断トツで優れた結果をもたらしたのです。さらに研究を重ね、リファンピシンはアミロイドβだけでなく、タウやαシヌクレインといった、様々な原因タンパク質のオリゴマー形成も抑制することが判明しました。
 これにより、リファンピシンがアルツハイマー病だけでなく、脳の神経細胞が徐々に失われることで発症する、他のタイプの認知症にも効く可能性が示されたわけです。
 続けて、私たちは遺伝子改変マウスを使った実験に移りました――。
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ライフ週刊新潮 2019年2月28日号掲載

発症メカニズム

 その結果を示す前に、まずアルツハイマー病の発症メカニズムについて説明させてください。というのも、かつて唱えられていた発症メカニズムには誤解があり、これを理解しないとリファンピシンの効果を正確に分かって頂けないからです。
 そもそも、認知症のなかで最も多いのがアルツハイマー病で、認知症全体の60%近くを占めています。
 そして、このアルツハイマー病に、前頭側頭型とレビー小体型を加えた三つが、脳の神経細胞が徐々に失われることで発症するタイプの認知症です。この三つを合わせると認知症全体のおよそ80%に達します(図1を参照)。
 このような認知症の治療には、「脳内に何が溜まって神経変性を起こすのか」を知ることが不可欠です。
 この点についてはかなり研究が進んでおり、アルツハイマー病の場合は、先に述べた「アミロイドβ」と「タウ」という二つのタンパク質が脳に蓄積して発症に至ることが分かっています。
 ちなみに、認知症を引き起こすプロセスには共通する部分も多く、アルツハイマー病の解明が進めば、認知症全体の治療に繋がるというのが研究者の共通認識です。その上で、アルツハイマー病が発症するメカニズムは、2000年頃までこう考えられてきました。
 まず、アミロイドβが脳に沈着することで「老人斑(オリゴマーの固まった状態)」ができる。すると今度は、神経細胞内にタウも蓄積し始める。これらが脳の神経細胞を殺していく。そして、最終的に認知症が発症するのだろう、と。
 そのため、かつては神経細胞を殺すアミロイドβを取り除き、老人斑を消すことができればアルツハイマー病は治ると考えられてきました。実際、世界各国でアミロイドβ標的薬の研究開発が続けられ、狙い通りに老人斑を除去できたケースも報告されています。
 ところが、です。
 老人斑が消えたにもかかわらず、患者の認知機能は一向に回復しませんでした。
 臨床段階に入った薬もほとんどが失敗に終わっている。そこで、改めて原因を追究していくと、前述の「オリゴマー」の存在がクローズアップされてきました。
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ライフ週刊新潮 2019年2月28日号掲載

認知機能が改善

 オリゴマーとはタンパク質などが二つ、三つと寄り集まった小さな集合体。問題となったのはアミロイドβのオリゴマーでした。オリゴマーは小さすぎて目では確認できません。しかも、水に溶ける性質があるので脳内を動き回り、様々な部分に分散している。そのせいで最近まで存在を掴めていませんでした。
 アミロイドβのオリゴマーが増えると、タウも同じように凝集してオリゴマーを作り始めます。
 こうして誕生したアミロイドβとタウのオリゴマーこそが、脳の神経細胞を殺し、最終的にアルツハイマー病を引き起こす原因でした(図2を参照)。
 これが最新の研究で解明された発症メカニズムです。ただ、そうすると老人斑とは一体何だったのかという疑問が生じますよね。
 実は、画像診断技術の進歩によって、老人斑は高齢者だけでなく、40~50代の中年期からすでに現れていることが分かってきました。
 この点から次のような解釈が導き出せます。
 まず、オリゴマーはアルツハイマー病が発症するかなり以前から悪さを始めているようだ。しかし、患者が若い頃は代謝が活発なのでオリゴマーは分解されてしまう。中年に差し掛かると代謝は衰えるけれど、今度は脳が自らを守るために有害な物質を牢屋に閉じ込めるようになる。つまり、老人斑という形でオリゴマーを1カ所に隔離し、無力化してきた。
 さらに年齢を重ね、ついにオリゴマーを処理できなくなると、沢山の神経細胞が死滅し、最後には認知機能が落ちていく。
 現在ではこのような考え方が定着しつつあります。
 長い年月をかけて脳の神経細胞を失い続けた末に、とうとう症状が現れ、アルツハイマー病と診断される。ただし、死んでしまった神経細胞は決して元には戻りません。そのため、アルツハイマー病と診断されてからアミロイドβを除去する治療薬を投与したところで効果は薄い。だからこそ、発症前に「予防」することが重要になるわけです。
 そして、私が予防薬として可能性を見出しているのが、冒頭で触れた「リファンピシン」という薬です。
(2)へつづく
富山貴美(とみやま・たかみ)
大阪市立大学研究教授。理学博士。1984東京工業大学理学部化学科卒業。大阪市立大学大学院医学研究科准教授を経て、2018年から同大学院の認知症病態学研究教授。
特集「認知症1千万人時代に朗報! 『アルツハイマー』予防に劇的効果の既存薬」より
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AIの目。

*[ウェブ進化論]一番自分を見ているやつ。
そう遠くないうちに、AIが自分たちの表情をリアルタイムに見て、健康状態から精神の安定度、さらには犯罪を犯しそうかどうか、を予測できる日が来るだろう。
自分でも気づかない「顔色」とか「表情」を誰よりも客観的に判定してくれるのだから、ある意味最高のパートナーとさえ言えそうだ。
 
ネットでやり取りされたデータの解析なんて、実に簡単な入り口だろう。
(そのうちみんな大事な情報のやり取りはネットではしなくなるのでは、とも思う)
そうした不正の防止のためだけではなく。
できればもっと前向きなことにITを使って欲しいものだ。
 
例えば「兆候アドバイス」。
夫婦やカップルの関係が悪化したり。
親子のコミュニケーションは大抵摩擦があるものだし。
仕事場での関係もストレスフルだし。
そんな中で自分が「果たして平常な精神状態でいるのかどうか」ということも疑わしい。
 
「少し表情が険しいですよ」
「睡眠が安定していませんでしたね」
「脈拍が速いですよ」
「今夜はリラックスしていますね」
なんてAIスピーカーが話しかける未来はもうすぐだろう。
却って自分たちが一番不得意な「冷静な目」を提供してくれる最良のパートナーになるかも、と期待しているのは自分だけだろうか。
 
 
 
 
 
AIで不正取引の芽察知に乗り出す銀行
2019年3月27日 7:03
もしトレーダーの不正取引をほんの出来心の段階で、例えば離婚で巨額の慰謝料を抱えたり、ポーカーで大負けしたり、退屈な日々の仕事がイヤになったりして魔が差す前に止めることができたらどうだろう。
もし「クロ」と判定されるメールが1日1万通にも上り、身動きがとれないでいる不正監視担当者が、トレーダーの言葉使いなどの微妙な変化から彼らの行動の異変を察知できるようになったら、とも想像してほしい。
銀行はトレーダーによる不正の兆候をつかもうと、AIを活用して会話やメールなどの監視に動き出した=ロイター
万引きを予測する人工知能(AI)搭載カメラを日本企業が発売する世の中だ。世界有数の大手銀行が今、例示した以上のことが可能になる先進技術を取り入れ始めているというのは、それほど信じがたいことではない。
ここ数年、銀行業界はトレーダーを監視する能力を飛躍的に向上させている。いかにも不正を働いていることがわかるような語句だけでなく、「この会話はオフラインでしよう」といったさりげない言葉も検知できるコミュニケーション監視ツールを採用し始めているのだ。
銀行はトレーダーの行動に以前より厳しい制限をかけるようになった。巨額取引が簡単には行えないようにし、(米JPモルガン・チェースのトレーダーがロンドン市場で巨額のデリバティブ=金融派生商品=の持ち高を抱えて動けなくなり、大きな評価損が発生した「ロンドンの鯨」事件のように)一度に60億ドル(約6600億円)もの巨額損失を出す事態に至りにくいようにしている。アイルランドの情報分析会社コーリティクスによると、世界のトップ13行が過去10年間に被った損失と科された罰金の合計額は100億ドルを超える。

メールの言い回しまで特定

AIと機械学習を武器にした銀行の不正取引をなくす取り組みは今、新たな時代に入ろうとしている。「我々は可能性の扉を開けた」。米IBMで同社のAI「ワトソン」を利用した金融機関向けサービスを担当するマーク・アンドリューズ副社長はこう語る。不正を行う可能性の高いトレーダーを予測するための同社のツールは、会話の口調を監視したり、借り手の信用力を示すクレジットスコアの変化を利用したり様々なことをするという。
すでに10行以上の銀行がワトソンを導入し、日々のやりとりを監視している。「我々はトレーダーのメールを調べ、コミュニケーションのパターン、つまり内容だけでなく言い回しまで特定している」とアンドリューズ氏は話す。
機械学習を利用することの利点の一つは、容易に回避されてしまうような特定のルールを設定しないで済むことだ」と同氏は言う。「トレーダーの立ち居振る舞いが変わった途端にコンピューターはひとりでに学習し、より迅速に対応できるようになる」
重要な成果の一つは銀行が処理しなければならない「偽陽性」の件数が減っていることだ。本来はシロであるのに、誤ってクロと判定される事案のことで、従来のシステムでは1カ月あたり数十万通ものメールが不正の疑いありと分類されるため、その中から実際の不正を探し出すのは至難の業だった。
ワトソンがリスクの高低を識別するおかげで、銀行は受け取る警告数を減らすことができる。低リスク事案に割く労力やコストを削減するのが狙いだとアンドリューズ氏は話す。

警告事案が毎月45万件も

同じく銀行向けの監視ツールを提供する英ビヘイボックスのアーキン・アディロフ最高経営責任者(CEO)は一例を挙げ、ある銀行ではトレーダーが妻に頼み事を送信するといった「くだらない内容」まで検出するせいで、全体の警告事案が毎月45万件に上っていたと話す。
「我々のツールを導入することで、そのうちの95%を削減できた」。アディロフ氏は言う。
アンドリューズ氏によると、銀行は新たに別の指標も監視システムに取り入れ始めている。例えば人事評価やクレジットスコアを使い、不正取引を行う動機や傾向があるトレーダーを特定するのだという。
IBMはそれとは別に、公的記録など他の情報を監視システムに利用できるようにするツールも開発した。有罪判決や巨額の支払いを伴う離婚調停は危険信号になりうる。「これについては多くの問い合わせを受けているが、製品化したケースはまだない」とアンドリューズ氏は話す。
「多くの企業は、まだどの手法に投資すればよいか見極めようとしている段階だ」
不正取引検知システムの価格は通常1000万ドル以下で、銀行が被ってきた数十億ドル規模の損失に比べれば少ない。しかし、銀行は採用するシステムについて依然、「価格を気にしている」とアンドリューズ氏は言う。
その一因として、同氏は巨額の不正取引事件が近年は起こっておらず、規制当局者の要請が顧客の身元確認やマネーロンダリング資金洗浄)対策に移ったことなどを挙げる。

高度な技術でも根絶できない

銀行は不正取引を完全になくす解決策を求めてはいないものの、「警告数を20%減らしつつ、その20%の中には絶対、実際の不正が含まれないようにすることはできないか?」などと聞いてくるという。それに対するアンドリューズ氏の答えはいつも「ノー」だ。
重要な問題は銀行文化の改革や取引制限の厳格化、規制当局からの圧力などに加え、技術的に高度なツールを使うことで不正取引を過去の遺物にすることができるかどうかだ。
英調査会社オートノマス・リサーチのアナリスト、レックス・ソコリン氏によると、機械学習と、IT(情報技術)を活用して規制などに対応するいわゆる「レグテック」を組み合わせることで、大手銀行は実際に市場で不正取引が行われる前に内部で兆候をつかみやすくなる。同氏は「(とはいえ)絶対確実なシステムはありえない」とも指摘する。
ある米大手投資銀行の頭取は、不正取引は10年前と比べ、緊急性の高い課題とはみなされなくなったものの消え去ったわけではなく、今後も決してなくならないだろうと話す。他行でも同じような見方をしているが、断言していると思われないよう、公には語りたがらない幹部が多い。
「基本的には、常にそれ(不正取引)は懸念材料だ」と英金融サービス助言会社FSコムのオーエン・クミスキー氏は述べる。
「ITを活用すればより効果的な抑制策になるだろうが『大丈夫、不正を根絶してくれるブラックボックスを手に入れたから、もう過去の問題だ』などと本気で口にする人には出会ったことがない」
By Laura Noonan
(2019年3月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/
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遺伝子治療の先。

*[次の世代に]そのまた先。
日経より。
がんが「がん遺伝子パネル検査」によって治るかもしれない。
技術のレベルが上がるにつれ、指数的に使える分野が増えていく。
技術のすごい一面だ。
>>がんの引き金は遺伝子変異。遺伝子が傷付いて細胞が激しく増殖し、免疫システムによる駆除が追い付かなくなることで発症する。
そこで、異常増殖の原因となった遺伝子変異を探して対応する薬を投与すれば、効果的にがんを抑えられる。
 
つまり「遺伝子変異」をさせなくする。
がんを発生させない。
けれど人類は、というか生物はこの「遺伝子変異」で進化してきたのだとも聞く。
変化に強いものこそが生き残ってきた、と。
 
がんという遺伝子のエラーを、どこまで防げば人は長生きするのか。
防ぐ行為は果たして生物としての人のためになっているのだろうか。
まだまだ技術の道のりは、先が長いに違いない。
 
遺伝子でわかる、がんの「最適解」 検査機関マップ
「がんゲノム医療」が動き始めた。個人の遺伝情報を基に最適な治療法や薬を決定するテーラーメード型医療だ。その中核となる「がん遺伝子パネル検査」の保険診療が今年からスタート。保険適用を受けない自由診療も含め、様々な医療機関や検査機器メーカーらが陣営を形成している。国内で年間100万人発生するがん患者にとっての道しるべとなるか。
「あなたのがんに効果が期待できる薬がありました」。東京都内で自営業を営む小林和明さん(67)は、通院先の大学病院の医師からこう告げられた。小林さんは肺がんを患っている。今回の受診は約1カ月前に受けたパネル検査の結果を受けたものだ。
医師が提案した薬は、中外製薬のアレセンサだった。「ALK」という遺伝子異常がある患者に効く。医師から「従来の抗がん剤に比べて副作用が少ない」といった説明を受けて、小林さんは治療を受け入れることを決断した。「確実に効く保証はないらしい。でも副作用が少ないのはありがたい」と話す。パネル検査の結果はアレセンサに続く2番手、3番手の薬を選ぶ際にも活用される見込みだ。
がんの引き金は遺伝子変異。遺伝子が傷付いて細胞が激しく増殖し、免疫システムによる駆除が追い付かなくなることで発症する。そこで、異常増殖の原因となった遺伝子変異を探して対応する薬を投与すれば、効果的にがんを抑えられる。その実現のために不可欠な技術がパネル検査。米国では広く活用されている手法だ。
日本ではこれまで保険診療の枠組みが決まっていなかったため、一般には普及していなかった。しかし2種類のパネル検査が昨年末に厚生労働省の承認を受けたことで、潮目が変わった。2019年度前半には2種類の保険診療が始まり、がんゲノム医療が国内でも本格的に立ち上がる。
1つは国立がん研究センターNCC)が開発し、シスメックスが取り扱う「NCCオンコパネル」。もう1つはスイスのロシュ子会社の米ファウンデーション・メディシンが開発し、中外製薬が取り扱う「ファウンデーション・ワン」だ。患者はこれらのパネル検査を、全国の中核拠点病院などで保険診療で受けられるようになる。
実際の流れはこうだ。パネル検査のサービス事業者は患者の検体を受け取り、米イルミナなどが開発した「シーケンサー」と呼ぶ分析機器で遺伝情報のデータを読み取る。そして米IBM三井情報といった事業者が提供する分析ツールを活用し、データから患者の遺伝子変異の情報などを抽出。学術論文などと照合してリポートを作成する。その結果を基に、医師が治療方針を決める。
パネル検査の保険診療で患者が負担する費用は未定だが、ファウンデーション・ワンは既に米国で3500ドル(約40万円)で実施されている。それに近い値段が設定された場合、患者の「3割負担」であれば費用は数万円以上だ。シスメックスの家次恒・会長兼社長は「いずれ安価にできるだろうが、今は先行投資がかさんでいる」と話す。
課題はある。保険診療を受けるには条件をクリアしなければならない。「標準治療を一通り受けたこと」「日常生活に支障のない体力が残っていること」などだ。保険財政の圧迫を考慮した結果だが、対象は全がん患者の1%程度にまで絞られてしまう。残り99%のがん患者は保険診療でパネル検査はできない。
また、検査終了までの期間は一般に4~6週間ともいわれるが、標準治療を一通り受けた患者にとっては、その日数は重みを持つ。
そこで注目されるのが、保険適用のない自由診療の枠組みだ。一部の病院では15年ごろから先進医療の一環として実施されていたが、保険診療の整備に合わせ、自由診療によるパネル検査のサービスも広がってきた。
自由診療によるがん遺伝パネル検査の特徴は、遺伝子数や費用、がんの種類、検査期間などの豊富なバリエーションだ。遺伝子数が多いほど情報量は増えるが、自治医科大学の萩原弘一教授は「薬の選択に直結するのは数十種程度」と指摘する。「研究に役立つ貴重な情報だが、患者の利益にすぐに結びつかない」ためだ。自治医大が開発したパネル検査は遺伝子の数を7つに絞った。がんの種類も肺がんに特化しており、最速1週間で検査する。費用も研究名目で大学研究費で賄う。
慶応義塾大学病院などが提供するパネル検査も、研究目的でのデータ活用に患者が同意すれば、無料で実施する。静岡がんセンターなどが7月以降に提供予定のパネル検査は、がんの種類を大腸がん、肺がん、乳がんの3種に特化。価格を20万円に抑えた。大阪大学タカラバイオ、米サーモフィッシャー・サイエンティフィックが参画する「オンコマイン」は米国で実績がある。現在は先進医療で実施しているが、保険診療の適用を目指す。
パネル検査により、患者が自分に合った薬や治療法を選ぶ時代が到来する。パネル検査を受けたからといって、最適な治療法が必ず見つかる訳ではないが、選択肢の数だけ、患者の進む道が広がる。
がんゲノム医療の裾野の広がりを受け、分析やITなど企業を巻き込んだ陣営づくりもさらに熱を帯びそうだ。
がん遺伝子パネル検査 がん患者の遺伝情報から最適な薬や治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」で使われる。がん組織などから検体を採取して分析する。「パネル」とは複数の遺伝子を組み合わせたセットを指す。
 パネル検査を実際に手掛けるサービス事業者は複数あり、このうち2陣営の保険診療適用が19年度前半に決まる見通し。また医療機関を中心に、自由診療の枠組みでパネル検査を手掛ける動きも広がっている。
(野村和博)
日経産業新聞 2019年3月29日付]
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アジアの時代。

*[次の世代に]次の価値観を作れるか。
アジアには既に世界人口の半分以上が集中している。国連のデータによると、世界の人口上位30都市のうち21都市はアジアにある。(中略)
 
それでは実際のところ、アジアの時代はいつ始まるのだろうか。
フィナンシャル・タイムズ(FT)紙がデータを分析したところ、国連貿易開発会議(UNCTAD)の定義に基づく「アジア」の経済は20年、世界の他全域の経済の合計を上回る。
これは19世紀以降では、初めてのことだ。
数字が示すところでは、アジアの世紀は20年から始まる。
なんと来年だ。
記事によると、ここ三百年ほどアジア不遇の時代が続いたのだという。
アジアはここ数世紀の「近代化」では後塵を拝していたということだろう。
この近代化の中身中身は「製造」とか「金融」とか「為替」とかいろんな新しい技術だった。
つまりいわゆる「欧米のルール」について行くだけで精一杯だったのだ。
新しいルールは、昨今言われる「社会資本主義」とかの「技術ありき・金ありき」ではない価値観になるのだろう。
つまりルールがちょっと「アジア的」になるのではないか。
「競争、競争、とことんか競争という文化」がどこかで疲弊してくるのはもっともだ。
 
仏教的な思想の価値観が、「一周回って」再び支持されることになるのは来年からかもしれない。
率先者としての自覚を持とう。
 
「アジアの時代」が来年到来、世界は原点回帰へ
2019年3月27日 4:43
経済学者や政治学者、新興市場の専門家は「アジアの時代の到来」、つまりアジア大陸が新たに世界の中心となる転機が訪れると長年主張してきた。
中国経済はPPPベースで米国を超える(2018年11月、山東省の自動車工場)=ロイター
アジアには既に世界人口の半分以上が集中している。国連のデータによると、世界の人口上位30都市のうち21都市はアジアにある。また、アジアには2020年までに世界の中産階級層(05年現在の購買力平価=PPP=で、1人当たり日収10~100ドルの世帯)の約半数が集まる。
英調査会社LMCオートモーティブによると、アジアでは07年以来、自動車とトラックをどの地域よりも多く購入しており、30年ごろまでにはアジア以外全域の合計と同じ購入規模になると予測されている。
アジアの指導者は以前に比べ、この変化についてはばかることなく公言するようになっている。インドのモディ首相は直近のアジアインフラ投資銀行(AIIB)総会で「アジア大陸は今や、世界的経済活動の中心であり、世界の経済成長の原動力となっている。我々は今まさに、アジアの世紀と呼ばれる時代を生きている」と語った。
それでは実際のところ、アジアの時代はいつ始まるのだろうか。英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙がデータを分析したところ、国連貿易開発会議(UNCTAD)の定義に基づく「アジア」の経済は20年、世界の他全域の経済の合計を上回る。これは19世紀以降では、初めてのことだ。数字が示すところでは、アジアの世紀は20年から始まる。
大局的な視点から見ると、アジアは00年、世界生産高の約3分の1をわずかに超える程度だった。
FTは算定にあたり、物価格差調整後の国内総生産GDP)に基づく国際通貨基金IMF)のデータを分析した。PPPで各国の経済を評価するこの手法は、物価が低いことが多い発展途上国の人々が実際何を購入できるかを考慮に入れるため、最も妥当な手法であると一般に考えられている。
実勢レートでもアジアは世界生産高の38%を占める計算だ。00年代前半の26%を上回っている。

中国とインドの台頭

アジア経済が他地域を上回った先の未来には、何が待ち受けているのだろうか。答えの大半は、中国とインドの台頭にある。中国経済は今やPPPベースで米国経済を超え、世界生産高の19%を占める。00年の7%から2倍以上、上昇した。
インドは現在、世界3位(PPPベース)の経済大国であり、GDPはドイツや日本の約2倍だ。両国の経済規模は00年、PPPベースでインドより大きかった。
アジアの時代の到来は、最大規模の経済を誇る中国とインドだけではなく、それより規模が小さい中規模の国の経済成長のおかげでもある。インドネシアは20年までにPPPベースで世界7位の経済大国になり、23年までにはロシアを抜いて6位に躍り出ると予測されている。
アジア最速レベルの経済発展を遂げているベトナムは00年以降、PPPベースの経済ランキングでベルギーやスイスなど17カ国を追い越した。フィリピンの経済規模はオランダを上回り、バングラデシュはこの20年で13カ国を抜いた。
戦後日本の経済成長に始まったアジアの近年の台頭は、歴史的水準への回帰を示す。アジアは19世紀に至るまで、人類史の大部分で世界経済を牛耳っていた。
インドは世界有数の経済大国となった(2月、ムンバイの地下鉄工事現場)=AP
イタリアのボッコーニ大学で経済史を教えるアンドレア・コッリ教授は「欧州は17世紀末ごろ、世界のGDPの3分の2以上と世界人口の4分の3が集中する地域(アジア)に称賛と羨望のまなざしを送っていた」と説明する。
インドの政治家で作家のシャシ・タルール氏によると、世界経済におけるインド経済の規模は18世紀、欧州全域と同程度の大きさだった。その後300年間、学者が科学革命、啓蒙主義の時代、産業革命と呼ぶ現象で欧米経済が飛躍し、世界経済でのアジアの地位は低下した。
米ノースウエスタン大学のジョエル・モキール教授は「今起きているのは、大きな逆転現象だ。1500~1750年にかけて欧州は劇的変化を遂げたが、他の地域はそうではなかった」と説明する。
アジアは1950年代、世界人口の半数以上を抱えながら、生産高は世界の20%に満たなかった。英オックスフォード大学を経て、今は米ニューヨーク大学アブダビ校で経済史を教えるボブ・アレン教授は「アジアは19世紀、世界の製造拠点から、農産品を輸出する典型的な発展途上国へと変貌させられた」と述べる。

流れが逆転

しかしこの数十年間、流れが逆転した。欧米に追いついた初のアジア勢である日本と韓国の目覚ましい台頭でさえ、1970年代後半に中国を率いた鄧小平氏による市場志向の改革導入以降の中国経済の飛躍に比べれば「とても小さく」見える。
IMFのコッシー・マタイ氏率いるチームがまとめた地域別経済見通しによると、「貿易と海外直接投資による世界経済との融合、高い貯蓄率、人的・物的資本への巨額投資、適切なマクロ経済政策の調和がうまく組み合わさったこと」が貢献し、アジア経済はわずか数世代の間に大躍進を遂げた。キショール・マブバニ氏は近著「Has the West Lost It?」で、「2世紀続いた欧米諸国が世界の大国だった時代は、終焉(しゅうえん)を迎えつつある」と主張する。
1月、サッカーアジアカップU23ベトナム代表が決勝トーナメント進出を決め、ハノイで喜ぶファンにベトナム国旗を売る女性=AP
アジアでは過去50年の間に数億人が貧困から脱し、多くの国は世界銀行の定義による中所得国または先進経済国の地位を取得した。
アジアはまだ他地域より貧しいが、その差は縮まっている。
中国のPPPベースの1人当たりGDPは米国の約3分の1、欧州の約44%にとどまっている。IMFのデータによると、インドも同じく欧州の約20%しかない。
しかしインドと中国の1人当たり所得の対欧米格差は00年以来、劇的に縮まった。その間、中国はサハラ以南アフリカの1人当たり平均生産高に比べ、5倍近く裕福になった。両地域の水準は、1990年代中盤には同等程度だった。
どの尺度で見ても、アジアは世界経済の表舞台に戻りかけている。そのとき、「世界は原点回帰したといえる」とアレン教授は話す。
By Valentina Romei and John Reed
(2019年3月26日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/
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キャバクラからハッカーへ。

*[次の世代に]失敗こそが多様性に。
資格は18歳から24歳の非・大卒者。非行に走った少年少女の中で、人生を変えたいと思う者が集う。研修期間は営業が6カ月、ハッカーは1カ月だ。参加費は無料で、1日1000円の食費を提供する。ハッシャダイが用意するシェアハウスで共同生活を送って再生の道をともにする。
とさながら更生施設のようだが、それが一般の学校とどれほどの差があるだろうか。
むしろ、挫折はせず、周囲と同調しながら「与えられた課題を受けること」を得意とする人たちが、壁に当たってしまっている時代だ。
 
若いほどに、挫折や貧困や差別などを経験した人たちのほうが「その後の生き方に確信を持つ」ているような気がして仕方ない。
刺激がない「ぬるま湯」の中では個性は育ちにくいのだと思う。
 
逆境や挫折から、いたずらに若者を遠ざけないシステムへのは配慮が必要ではないだろうか。
今の世の中は「均質」を強調しすぎているのではないだろうか。
それはともかく。
 
逆説的に、一旦は未成年でアウトローになった人たちが、実はより情熱的に人生を考えるようになる、というのが「ヤンキー再生道場」だ。
貧困にせよ、失敗にせよそのリアルを知った人の体験は、座学の知識の比ではない。
「失敗のリアル体験は、想像からは決して得られない」ものなのだ。
座学はしても、必ず「実体験をする」という仕組みが若者には必要だと思う。
あ、若者だけではないけれど。
 
 

元ギャング、サイバーエージェントへ ヤンキー再生道場 ヤンキー再生道場(1)

地方の不良少年・少女や不登校だった若者たちを集めて企業が欲しがる人材に育てあげるスタートアップがある。2015年に創業したハッシャダイ(東京・渋谷)だ。再教育プログラム「ヤンキーインターン」の卒業生はすでに300を超え、サイバーエージェントソフトバンクなどで実戦力として活躍する。名だたる企業に引く手あまたの、知られざる「ヤンキー再生道場」の実態を紹介しよう。
■「変わらないかん」
2017年10月末の朝、地元の福岡市を後にした後藤竜之介(20、当時)は渋谷駅前の雑踏をかき分けるように歩き出した。初めての東京。待ち合わせに指定されたハチ公の銅像にたどりつくまでに何人もの人に道をたずねた。不安はなかった。強い思いを胸に故郷を離れたからだ。「変わりたい。いや、変わらないかん」
後藤を待っていたのはハッシャダイの「メンター」を名乗る男だった。オフィスに連れて行かれるとそのまま授業が始まった。ハッシャダイが提供する「ヤンキーインターン」だ。「ヤンキーインターン」は比喩ではなく、正式名称だ。
■参加費は無料
資格は18歳から24歳の非・大卒者。非行に走った少年少女の中で、人生を変えたいと思う者が集う。研修期間は営業が6カ月、ハッカーは1カ月だ。参加費は無料で、1日1000円の食費を提供する。ハッシャダイが用意するシェアハウスで共同生活を送って再生の道をともにする。
「ヤンキー」とはもともと米国の南北戦争当時、北軍兵士への蔑称として生まれた言葉だ。日本で不良をさす言葉として使われ始めたのは1970~80年代で、大阪が発祥と言われる。歌手、嘉門タツオの「ヤンキーの兄ちゃんの歌」がヒットして全国に広まったといわれる。
■福岡の有力ギャング集団
後藤もヤンキーだった。そろいの派手な色の服装で統一する、いわゆる「カラーギャング」の一員。福岡には4つの有力グループがあったが、後藤が属したのはレッドのグループ。他の色を町で見かければすぐにケンカが始まる。どちらかが立ち上がれなくなるまで殴り合う。繁華街に近い公園で30人対30人ほどのケンカになったこともある。後藤は凶器を使わず素手に徹したが、ケンカ相手のバイクにはねられて骨折したこともあった。
卒業して父親が経営する会社や、地元の営業会社で働き始めた。だが、すぐに思い始めた。「このままでいいのか」
何かしたいけど、何をしていいのか分からない。モヤモヤが募っていた時に耳にしたのがヤンキーインターンだった。
■サイバー子会社でマーケティング
その特徴は徹底した実践主義だ。座学はそこそこにチームに分かれて研修を受け、通信機器の訪問営業などをする。アポなしの飛び込み営業だ。成績に応じて給与も支払われる。一日に回るのは一人800軒。夜は各グループで反省会。シェアハウスに帰ると営業のロールプレイングが始まる。眠りにつくのはいつも深夜だ。
「みんなで料理を作ったり洗濯したり、たまに夜更かししたり」。高校時代とは全く雰囲気の違う仲間ができた。
それから2年――。後藤は今、サイバーエージェントの子会社で動画広告を運営するサイバーブル(東京・渋谷)で働いている。ベージュのスーツに、はやりの銀フレームの丸い眼鏡。ギャング時代の面影は全くない。仕事は動画広告のマーケティング。広告の効果があったかどうか、毎日報告される数字を見てSNSに流す広告の配信量やタイミングを決めていく。
ページ: 2
■大卒より熱量
「最初はどんな特攻服のヤンキーが来るのかと思いましたよ」。採用を決めたサイバーブル社長の中田大樹(30)はこう振り返る。ハッシャダイ主催の企業説明会で後藤から「なんとかはい上がりたいんです」と詰め寄られた。「こいつは熱量が違う」と思い、面接をへて採用が決まった。中田は「大卒だけを採用基準にしていると、優秀な人材を見つけるチャンスを失うことになる」と言う。
ソフトバンクの採用・人材開発統括部長の源田泰之(45)もハッシャダイに期待する一人だ。「今後、(インターン生達の)スキルを数値などで可視化できるようになれば、他の企業も受け入れやすくなるだろう」と言う。
ヤンキーインターンの卒業生は300人を超えた。サイバーやソフトバンクなどの大企業のほか、スタートアップにも多くの人材を輩出し、コンサルタントに転じた者もいる。
■募集はツイッター
ハッシャダイを立ち上げた社長の久世大亮さん
ハッシャダイを創業したのは、社長の久世大亮(25)だ。「中卒、高卒にはどうしてもネガティブなイメージがある。就職と進学以外の第3の選択肢を提供したい」と話す。
現在の年間売上高は3~4億円。インターン生が企業から受託する仕事や、卒業後の企業への紹介手数料が主な収益源だ。「全然もうかりませんよ」(久世)。実際、収支はほぼトントンだという。
そのため広告はほとんどなし。インターン生の募集はほぼツィッターなどSNS(交流サイト)経由だ。それを一手に引き受けていたのが最高執行責任者(COO)の橋本茂人(27)だ。SNSアカウントを50個以上操る橋本は日々、10代の女子高生やヤンキーたちのつぶやきを研究し情報発信する。今では毎月10人ほどがヤンキーインターンの門をたたく。
■デジタル人材、今年から減少へ
日本のIT業界は実は深刻な人手不足に陥っている。みずほ情報総研の調べでは2019年にも日本のデジタル人材は減少に転じる見通しだ。今後10年で79万人が不足するとの試算もある。
一方で、非大卒者たちがIT業界に就職する道は開かれていない。高校には就職先は生徒1人につき学校側が紹介する1社だけという風習が残る。選択肢が少ないためミスマッチも多く、高卒者の4割が3年以内に離職する。IT企業の多くは東京にあるため、地方の若者の選択肢にはなりにくいのが現状だ。
新潟県でキャバクラに勤めていたJURIさん
久世たちはそんなIT業界の窮状を逆手に取った。2018年、営業の研修が主体だったヤンキーインターンにデジタル人材育成コースの「ヤンキーハッカー」を新設した。
■キャバクラからハッカー
新潟県燕三条駅前の雑居ビルに入るキャバクラで働いていたJURI(22)は、9人いたハッカー第1期生のひとりだ。
夜9時から午前4時までキャバクラ嬢として働いた。仕事が嫌いだったわけではない。店はアットホームで居心地が良かった。「緑茶ハイ一杯くださーい!」。酒は強くないJURIを気づかい、店員は内緒でアルコール抜きの冷茶を出してくれた。
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「このままでも楽しい。でも、ずるずるとキャバ嬢を続けていいのだろうか」。そう考えるようになったJURIがツイッターで見つけたのがヤンキーインターンだった。
連絡を取ってみるとデジタル人材の養成コースが始まるという。でも、いかにも怪しいネーミングだ。「私、ヘタしたら売り飛ばされるかも……」。半ば本気でそう思ったと言うが、人生を変えたいという思いが、不安を上回った。キャバクラを飛び出し、ハッシャダイが運営する女性専用のシェアハウスに入った。
■官公庁のシステム支える
朝起きるとハッシャダイのメンターにLINEで連絡。すると、インターネットで公開されている教材をこなすよう指示が来る。分からないことがあればメンバーに質問する。
飛び込み営業で契約を取って回り、利益を生みだす営業コースとは違い、ハッカーコースは学校的な色彩が強い。ただ、企業側からのニーズは強い。
JURIは今、都内の中堅IT会社で働く。官公庁や大手機器メーカーのシステムを支える仕事だ。時には客先に常駐し、トラブルが起きれば昼夜問わずかかりっきりになる。今一番楽しいと思う瞬間は、自分で書いたプログラムが動いた時だ。「よっしゃー、すっきりって感じ!」。それは夜の世界にはなかった満足感なのだという。
■共同生活の実態
ヤンキーインターンの最大の特徴が共同生活だ。都内に3カ所あるシェアハウスのうち東京・狛江のシェアハウスは男性専用。今も7人のインターン生がいる。
夜11時。スーツを着たインターン生が続々と帰宅する。半年以上放置された炊飯器からは異臭が漂ってくる。「忙しくて料理をするヒマはないんですよね」。ここに来て8カ月の伊藤光隆(22)はこう話す。和歌山県の高校を出た伊藤は大工を辞めてヤンキーインターンに参加した。スタートアップへの就職も決まり、いまはインターン生を指導する立場だ。
毎日の営業成績は絶対だという。「契約が取れないからと言って怒られるわけではない。ただ、ここではどんなに悪ぶっていても契約が取れない奴は『ダセぇ』になるんですよ」。伊藤もシャワーを浴びながら毎日1時間、営業文句の練習を繰り返したという。
同じ屋根の下で生まれる強い絆が脱落を防ぐ。地元のコミュニティーから強制的に引き離し、再び「ワル仲間」に戻ることを防ぐ狙いもある。
■忘れられた「多数派」
日本社会に広がる深刻な人手不足。厚生労働省の就業構造基本調査によれば、現在、20代後半の年齢層にいる人々のうち、最終学歴が大卒・大学院卒なのは48%と半分を切る。
経済産業省出身で社団法人スクール・トゥ・ワークの代表理事を務める古屋星斗(32)は「現役世代の過半を占める非大卒者の力をどう生かすかは、日本の経済界全体が直面すべき課題だ」と指摘する。
女性の社会進出、外国人材の活用――。さまざまな対策がとられてきた中で、非大卒という光が当たりにくい「多数派」の存在は忘れられがちだった。
■創業メンバー5人の物語
ハッシャダイの創業メンバー5人がそこに目をつけたのは、彼ら自身がヤンキーだったからだ。
中心人物の久世は高校時代はヤンキー仲間と毎晩のように遊び歩いた。だが地元から大阪に出ると、努力次第で結果が出る携帯販売の面白さにのめり込んだ。
地元の京都・山科に帰るとヤンキー仲間4人を強引に一軒家に住まわせた。「おまえらを変えたる」。
この5人が東京に出てきて立ち上げたのがハッシャダイだ。自分たちと同じようにヤンキーたちを再生し、企業にも貢献できるビジネスにできるはずだ。その発想がヤンキーインターンを生んだ。
過去は変えられないけど、未来は変えられる――。そう信じる若者たちが今も、ちょっとむさ苦しいシェアハウスの部屋から明日へと飛び出す日を待ちわびている。
=敬称略、つづく
(大西綾、杉本貴司)
 

 

いずれあなたの部下になりたい。

*[次の世代に]本当の将来のために
AIは配属にも導入しており、適正配置につなげています。
科学的に人材戦略を組み立てる「ピープルアナリティクス」ですね。
AIのマッチングで離職率が下がるといった効果が出ています。
ほとんどの仕事がAIに置き換わるという話の前に。
すでに人のマッチングで成果が出ているという。
なんと。
今でも人の相性は、会社の人事という一見"公(おおやけ)"の場に大きく影響する。
政治でも企業でもNPOでも介護施設でも、あるいは家族やの家族や親戚や友人関係でもだ。
人間ってなんと難しいものか。
 
それがAIの中立な判断で「客観化」できればとても便利だ。
自分が「好みで選んでいるのか」「冷静に選んでいるのか」を悩まなくて済む。
 
さらには。
「若者に喜んで働いてもらうには、どんな会社であるべきか」を問うこともできるだろう。
だから「自分より優秀な人」に来て欲しいと思う。
「いずれあなたの部下になる」「いずれあなたを部下にしましょう」という"三国志"的な大局観は必要ではないだろうか。
今の会社組織や会社法のもとでは、どんどん小粒に世知辛い体質になってしまうと思う。
人材についての価値観を変えるのは今ではないだろうか。
 
リクルートが採る「とがった人材」は 就活ホンネ対談
2019年3月26日 21:30
人材ビジネスを幅広く手掛けるリクルート。起業家を輩出している実績も相まって、昔から「とがった学生」が志望してきた。人材のプロ集団はどんなふうに学生を集め、選んでいるのか。リクルート出身の採用コンサルタントである曽和利光氏が、新卒採用部長の菊地玲氏に聞いた。
菊地玲氏(きくち・れい) 1998年リクルート入社。「東北じゃらん」編集長など旅行事業の営業と人事を経験。2011年に退社し、中小企業の役員に就く。13年リクルートライフスタイルに入社、15年から現職。
曽和氏リクルートは2012年に持ち株会社体制に移行しました。リクルートホールディングス(HD)の下、事業会社と機能会社に分社し、採用も分かれて実施していました。19年卒学生からは再び事業会社のリクルートが採用を統括して一本化しています。理由を教えてください。
菊地氏 分社化は会社として意思決定スピードを高め、各市場に集中する狙いでした。それが達成され、次の段階に進みつつあります。採用は一本化に戻しましたが、採用の基準は変えていません。主体性がある、コミットする力がある、自律性が高い――そんな学生を評価しています。
曽和氏 リクルートは離合集散を繰り返してきました。分社後はグループ会社間で採用を競い合っていましたね。
菊地氏 かつては選考開始日に学生が(グループ会社をはしごして)建物を行ったり来たりしていました。組織の変化に加え、人材の出入りも多いです。変化を楽しめない人には厳しい会社かもしれません。
曽和氏 私がリクルートにいた当時、採用ではまずローラー作戦をかけました。来た人を採るのではなく、欲しい人を探し出して採るのが基本でした。
菊地氏 分社後もエンジニアについては一括で採用してきました。我々もITやグローバルの学生イベントに足を運び、直接口説きました。それで採用実績を積み、そこからリファラル(社員の紹介)などに採用手法を広げました。
曽和利光氏(そわ・としみつ) 京都大教育卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て、コンサルタント事業の人材研究所を設立。
曽和氏手を抜いてはいけない部分ですよね。一方で効率を高める工夫も求められます。
菊地氏 ITと経験や勘を融合したハイブリッドなやり方を採り入れています。例えばエントリーシート(ES)の選考。人の目だけでは評価がぶれます。人工知能(AI)を活用する人事戦略部が中心となり、社内で活躍している人材の条件からESを評価する手法を導入しました。ES選考の時間を大幅に短縮できています。
AIは配属にも導入しており、適正配置につなげています。科学的に人材戦略を組み立てる「ピープルアナリティクス」ですね。AIのマッチングで離職率が下がるといった効果が出ています。
曽和氏 就職先としての人気は以前よりも上がっています。とがった人材はあまのじゃくなので、「大企業になったリクルートには行きたくない」といった声もあるのではないですか。
菊地氏 確かに就活では数万人のエントリーがあります。リクルートHDはいまや売上高2兆円なので、我々が思っている以上に大手企業と認識されていますね。
曽和氏 リクルートはかつては親に入社を反対される企業でした。理系人材をスカウトするときも、国立大学の先生から「なぜ国の金で育てた学生をリクルートに奪われるのか」などと怒られたものです。
菊地氏 学生の意識も変わったと感じています。就職先としての競合もネットビジネスであればメガベンチャーが多いですが、でも商社と比べる人もいます。
起業のハードルが下がったことの影響もあります。大学時代に起業した実績を持つ学生にとって、もはや就職はゴールではありません。私たちもそうした学生に対しては、採用という形にはこだわらず、アライアンス(協業)のような新しい組み方を模索しています。
リクルートとして採用を統合後初の内定式(2018年10月)
曽和氏以前は、起業志向が強い学生にも入社させようと口説いていました。今は元リク(リクルート出身者)や出戻りの活用も多いです。
菊地氏 私も昼はウェブデザイン会社の役員、夜はイタリア料理店のオーナーといった生活を経て出戻りました。リクルートは『公園』のような組織であるべきだと思っています。遊具がプロジェクト。社内外を問わずに人が訪れ、またそれぞれの場に帰って行く――という感じです。
曽和氏 リクルート社員のキャリア形成の意識は、世間一般とは異なるかもしれません。「触れたことがない経験は全て成長につながる」という考え方ですよね。
菊地氏 特定の目標を掲げた「登山型」のキャリアではなく、「トレッキング」でいろいろ経験しながら最終的にやりたいことを見つける人も多いです。リクルートはネットビジネスと事業推進、それから顧客に接点を持つ営業の三つどもえで価値を高めています。今後はビジネスへの関心を高めたエンジニアも出てくると思います。
曽和氏 採用活動でも個人的に関係をつくっておけば、たとえリクルートを選ばずに外資に行ったとしても、また人脈をたどって数年後には帰ってきてくれますね。
「欲しい学生を探すローラー作戦は手を抜くべきではない」というのが2人の共通認識だ
菊地氏大切なことは、自分より優秀な人材を採ることだと思っています。中には自分よりできる人材を拒否してしまう人もいますよね。そうなってはいけない。人事として「尊敬できる後輩をどれだけ集めて仲間にするか」が使命です。
曽和氏 「将来こいつの部下になってもいい」と感じる学生を採るということですよね。素直よりも生意気くらいがちょうどいい。それから、すごい若手が来たら道をあけて譲ってあげる企業文化もありますよね。
菊地氏 リクルートは「価値の源泉が人」という企業。そのはじめの一歩が採用です。採用担当は今は40人くらいでプロパーが多いですが、事業部門の人も担当し、再び事業に戻すローテーションが一部始まっています。採用の重要性を認識し、今後はみんなで採用する機運を高めます。
曽和氏 採用担当は自分の考えを学生に伝える立場であるだけに、約束したことは有言実行する必要があります。採用担当を任せることは社員に対してもトレーニングになりますね。
(構成 企業報道部 小柳優太)
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ヤンキーの再生。

*[次の世代に]自分の声を聞く。

ヤンキーが象徴するアウトサイダーを集めて就業を斡旋している会社があるという。

過去は変えられないけど、未来は変えられる――。

全くその通り。

けれど一体「いつ自分を変えればいいのか」が分からない。

今の大学のシステムとか、就職の手はずに乗っていると、そのまま就職することになる。

そして働きながら「自分はこの道でいいのだろうか」と思いながら。

そのまま三十年も経てば定年が見えてくるわけだ。

時間はとても貴重なものだ。

現在、20代後半の年齢層にいる人々のうち、最終学歴が大卒・大学院卒なのは48%と半分を切る。

 多くの二十代は大卒と思いきや、半分以下だという。

それだけもう「多様性の時代」は始まっているのだろう。

自分の知る限りでも、大学を出たからといって「納得のない就職はしない」という若者は非常に多い。

もう昔のように「流された就職」をよしとする時代ではなくなった。

儲かろうが、苦労しようが、自分で納得しながら生きていく、ということができる時代になってきた。

若者にとっては「本当にやりたいこと」を探しながら働ける時代になってきている。

白けずに「直(ひた)向きにやりたいこと」を探してもらいたい。

元ギャング、サイバーエージェントへ ヤンキー再生道場 ヤンキー再生道場(1)

地方の不良少年・少女や不登校だった若者たちを集めて企業が欲しがる人材に育てあげるスタートアップがある。2015年に創業したハッシャダイ(東京・渋谷)だ。再教育プログラム「ヤンキーインターン」の卒業生はすでに300を超え、サイバーエージェントソフトバンクなどで実戦力として活躍する。名だたる企業に引く手あまたの、知られざる「ヤンキー再生道場」の実態を紹介しよう。
■「変わらないかん」
2017年10月末の朝、地元の福岡市を後にした後藤竜之介(20、当時)は渋谷駅前の雑踏をかき分けるように歩き出した。初めての東京。待ち合わせに指定されたハチ公の銅像にたどりつくまでに何人もの人に道をたずねた。不安はなかった。強い思いを胸に故郷を離れたからだ。「変わりたい。いや、変わらないかん」
後藤を待っていたのはハッシャダイの「メンター」を名乗る男だった。オフィスに連れて行かれるとそのまま授業が始まった。ハッシャダイが提供する「ヤンキーインターン」だ。「ヤンキーインターン」は比喩ではなく、正式名称だ。
■参加費は無料
資格は18歳から24歳の非・大卒者。非行に走った少年少女の中で、人生を変えたいと思う者が集う。研修期間は営業が6カ月、ハッカーは1カ月だ。参加費は無料で、1日1000円の食費を提供する。ハッシャダイが用意するシェアハウスで共同生活を送って再生の道をともにする。
「ヤンキー」とはもともと米国の南北戦争当時、北軍兵士への蔑称として生まれた言葉だ。日本で不良をさす言葉として使われ始めたのは1970~80年代で、大阪が発祥と言われる。歌手、嘉門タツオの「ヤンキーの兄ちゃんの歌」がヒットして全国に広まったといわれる。
■福岡の有力ギャング集団
後藤もヤンキーだった。そろいの派手な色の服装で統一する、いわゆる「カラーギャング」の一員。福岡には4つの有力グループがあったが、後藤が属したのはレッドのグループ。他の色を町で見かければすぐにケンカが始まる。どちらかが立ち上がれなくなるまで殴り合う。繁華街に近い公園で30人対30人ほどのケンカになったこともある。後藤は凶器を使わず素手に徹したが、ケンカ相手のバイクにはねられて骨折したこともあった。
卒業して父親が経営する会社や、地元の営業会社で働き始めた。だが、すぐに思い始めた。「このままでいいのか」
何かしたいけど、何をしていいのか分からない。モヤモヤが募っていた時に耳にしたのがヤンキーインターンだった。
■サイバー子会社でマーケティング
その特徴は徹底した実践主義だ。座学はそこそこにチームに分かれて研修を受け、通信機器の訪問営業などをする。アポなしの飛び込み営業だ。成績に応じて給与も支払われる。一日に回るのは一人800軒。夜は各グループで反省会。シェアハウスに帰ると営業のロールプレイングが始まる。眠りにつくのはいつも深夜だ。
「みんなで料理を作ったり洗濯したり、たまに夜更かししたり」。高校時代とは全く雰囲気の違う仲間ができた。
それから2年――。後藤は今、サイバーエージェントの子会社で動画広告を運営するサイバーブル(東京・渋谷)で働いている。ベージュのスーツに、はやりの銀フレームの丸い眼鏡。ギャング時代の面影は全くない。仕事は動画広告のマーケティング。広告の効果があったかどうか、毎日報告される数字を見てSNSに流す広告の配信量やタイミングを決めていく。
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■大卒より熱量
「最初はどんな特攻服のヤンキーが来るのかと思いましたよ」。採用を決めたサイバーブル社長の中田大樹(30)はこう振り返る。ハッシャダイ主催の企業説明会で後藤から「なんとかはい上がりたいんです」と詰め寄られた。「こいつは熱量が違う」と思い、面接をへて採用が決まった。中田は「大卒だけを採用基準にしていると、優秀な人材を見つけるチャンスを失うことになる」と言う。
ソフトバンクの採用・人材開発統括部長の源田泰之(45)もハッシャダイに期待する一人だ。「今後、(インターン生達の)スキルを数値などで可視化できるようになれば、他の企業も受け入れやすくなるだろう」と言う。
ヤンキーインターンの卒業生は300人を超えた。サイバーやソフトバンクなどの大企業のほか、スタートアップにも多くの人材を輩出し、コンサルタントに転じた者もいる。
■募集はツイッター
ハッシャダイを立ち上げた社長の久世大亮さん
ハッシャダイを創業したのは、社長の久世大亮(25)だ。「中卒、高卒にはどうしてもネガティブなイメージがある。就職と進学以外の第3の選択肢を提供したい」と話す。
現在の年間売上高は3~4億円。インターン生が企業から受託する仕事や、卒業後の企業への紹介手数料が主な収益源だ。「全然もうかりませんよ」(久世)。実際、収支はほぼトントンだという。
そのため広告はほとんどなし。インターン生の募集はほぼツィッターなどSNS(交流サイト)経由だ。それを一手に引き受けていたのが最高執行責任者(COO)の橋本茂人(27)だ。SNSアカウントを50個以上操る橋本は日々、10代の女子高生やヤンキーたちのつぶやきを研究し情報発信する。今では毎月10人ほどがヤンキーインターンの門をたたく。
■デジタル人材、今年から減少へ
日本のIT業界は実は深刻な人手不足に陥っている。みずほ情報総研の調べでは2019年にも日本のデジタル人材は減少に転じる見通しだ。今後10年で79万人が不足するとの試算もある。
一方で、非大卒者たちがIT業界に就職する道は開かれていない。高校には就職先は生徒1人につき学校側が紹介する1社だけという風習が残る。選択肢が少ないためミスマッチも多く、高卒者の4割が3年以内に離職する。IT企業の多くは東京にあるため、地方の若者の選択肢にはなりにくいのが現状だ。
新潟県でキャバクラに勤めていたJURIさん
久世たちはそんなIT業界の窮状を逆手に取った。2018年、営業の研修が主体だったヤンキーインターンにデジタル人材育成コースの「ヤンキーハッカー」を新設した。
■キャバクラからハッカー
新潟県燕三条駅前の雑居ビルに入るキャバクラで働いていたJURI(22)は、9人いたハッカー第1期生のひとりだ。
夜9時から午前4時までキャバクラ嬢として働いた。仕事が嫌いだったわけではない。店はアットホームで居心地が良かった。「緑茶ハイ一杯くださーい!」。酒は強くないJURIを気づかい、店員は内緒でアルコール抜きの冷茶を出してくれた。
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「このままでも楽しい。でも、ずるずるとキャバ嬢を続けていいのだろうか」。そう考えるようになったJURIがツイッターで見つけたのがヤンキーインターンだった。
連絡を取ってみるとデジタル人材の養成コースが始まるという。でも、いかにも怪しいネーミングだ。「私、ヘタしたら売り飛ばされるかも……」。半ば本気でそう思ったと言うが、人生を変えたいという思いが、不安を上回った。キャバクラを飛び出し、ハッシャダイが運営する女性専用のシェアハウスに入った。
■官公庁のシステム支える
朝起きるとハッシャダイのメンターにLINEで連絡。すると、インターネットで公開されている教材をこなすよう指示が来る。分からないことがあればメンバーに質問する。
飛び込み営業で契約を取って回り、利益を生みだす営業コースとは違い、ハッカーコースは学校的な色彩が強い。ただ、企業側からのニーズは強い。
JURIは今、都内の中堅IT会社で働く。官公庁や大手機器メーカーのシステムを支える仕事だ。時には客先に常駐し、トラブルが起きれば昼夜問わずかかりっきりになる。今一番楽しいと思う瞬間は、自分で書いたプログラムが動いた時だ。「よっしゃー、すっきりって感じ!」。それは夜の世界にはなかった満足感なのだという。
■共同生活の実態
ヤンキーインターンの最大の特徴が共同生活だ。都内に3カ所あるシェアハウスのうち東京・狛江のシェアハウスは男性専用。今も7人のインターン生がいる。
夜11時。スーツを着たインターン生が続々と帰宅する。半年以上放置された炊飯器からは異臭が漂ってくる。「忙しくて料理をするヒマはないんですよね」。ここに来て8カ月の伊藤光隆(22)はこう話す。和歌山県の高校を出た伊藤は大工を辞めてヤンキーインターンに参加した。スタートアップへの就職も決まり、いまはインターン生を指導する立場だ。
毎日の営業成績は絶対だという。「契約が取れないからと言って怒られるわけではない。ただ、ここではどんなに悪ぶっていても契約が取れない奴は『ダセぇ』になるんですよ」。伊藤もシャワーを浴びながら毎日1時間、営業文句の練習を繰り返したという。
同じ屋根の下で生まれる強い絆が脱落を防ぐ。地元のコミュニティーから強制的に引き離し、再び「ワル仲間」に戻ることを防ぐ狙いもある。
■忘れられた「多数派」
日本社会に広がる深刻な人手不足。厚生労働省の就業構造基本調査によれば、現在、20代後半の年齢層にいる人々のうち、最終学歴が大卒・大学院卒なのは48%と半分を切る。
経済産業省出身で社団法人スクール・トゥ・ワークの代表理事を務める古屋星斗(32)は「現役世代の過半を占める非大卒者の力をどう生かすかは、日本の経済界全体が直面すべき課題だ」と指摘する。
女性の社会進出、外国人材の活用――。さまざまな対策がとられてきた中で、非大卒という光が当たりにくい「多数派」の存在は忘れられがちだった。
■創業メンバー5人の物語
ハッシャダイの創業メンバー5人がそこに目をつけたのは、彼ら自身がヤンキーだったからだ。
中心人物の久世は高校時代はヤンキー仲間と毎晩のように遊び歩いた。だが地元から大阪に出ると、努力次第で結果が出る携帯販売の面白さにのめり込んだ。
地元の京都・山科に帰るとヤンキー仲間4人を強引に一軒家に住まわせた。「おまえらを変えたる」。
この5人が東京に出てきて立ち上げたのがハッシャダイだ。自分たちと同じようにヤンキーたちを再生し、企業にも貢献できるビジネスにできるはずだ。その発想がヤンキーインターンを生んだ。
過去は変えられないけど、未来は変えられる――。そう信じる若者たちが今も、ちょっとむさ苦しいシェアハウスの部屋から明日へと飛び出す日を待ちわびている。
=敬称略、つづく
(大西綾、杉本貴司)

自動物流の意味。

*[ウェブ進化論]どこまでがオートか。
今や都心には網の目のように交通網がある。
人や物の輸送や物流は史上ないほどに早く、安くなってきた。
さてそこに「自動運転」の登場だ。
今、人が運転している以上に自動化するメリットはどれほどあるのだろうか。
ドライバーの人件費はなくなるが、自動運転車の価格はそれを下回るのだろうか。

事故をただなくすだけ、ならセンサーで「危なくなったら即減速」を義務付ければいい。

 運転そのものを「フルオート」にして、出発点から目的地までを全て自動にする必要はどこにあるのだろう。
そういう着地点の議論がすっぽり抜け落ちての「自動運転主義」に思える。
 
物流にしても、「どこまで便利にするのか」というほどほどの議論が必要だろう。
「1分でも早くつく」というのは実は過剰な努力ではないだろうか。
 
[FT・Lex]ボルボ、自動運転技術の拙速な導入に警鐘
2019年3月26日 6:14
長年業界をリードしてきた乳母役は何でも知っている。現代のシートベルトを我々にもたらしたスウェーデンの高級車大手ボルボ・カーは、技術力を駆使して飲酒運転やスマホを見ながらの運転、スピード違反などの防止に努めてきた。それが今度は安全上の理由から、自動運転技術の拙速な導入に警告を発している。自社の野心的な計画の一部を延期した後だけにご都合主義的な発言にも聞こえるが、このメッセージには耳を傾けるべきだ。
高速道路での自動運転ソフトを搭載したボルボ車=ロイター
自動車事故は人的ミスによって引き起こされるケースが圧倒的に多いのだから、自動運転車を実現すれば道路はより安全になるはずだ。米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、報道機関が自動運転車による事故に過剰反応していると言う。米国では年間4万人が自動車事故で死亡するというのに、なぜ足首の骨折が一面のニュースになるのか、というわけだ。
しかし見切り発車をすれば、かえってプロジェクトが頓挫する可能性がある。社会的な反発を受けるリスクがあるからだ。2018年3月には米ライドシェア大手ウーバーテクノロジーズの自動運転車が事故を起こし、歩行者を死亡させた。テスラのEV数台も自動運転機能「オートパイロット」を使用中に事故を起こしている。

一部だけを自動化する危険性

特に懸念されるのは、一部だけを自動化した車だ。最近のボーイング737型機の2件の墜落事故も、人間が機械にとって代わる際に生じる問題を提示していそうだ。自動車の場合、ドライバーが非常事態時に運転を代わるよう期待されていても、突然ハンドルを握れといわれると反応は遅れがちだ。トヨタ自動車ボルボ、米フォード・モーター、米グーグル系の自動運転技術の開発会社ウェイモなどの自動車メーカーは、人間の介入を必要としない最先端の自動化技術を待つ方が安全だと考えている。
それで自動運転車の実用化が先延ばしになるのなら仕方ない。飛躍的な技術が全てそうであるように、自動運転車の実現も推進者が期待していたより遅れる可能性が高い。グーグルの共同創業者、セルゲイ・ブリン氏は12年、自動運転車が17年には入手できるようになると予測した。ただし、かつてグーグル社内の自動運転プロジェクトだったウェイモが試験段階で他社を大きく引き離しているとはいえ、ブリン氏が予測した期限はとうに過ぎてしまった。
自動運転車への膨大の投資額が輸送分野として恐らく史上最高であることを考えれば、同プロジェクトがいずれ実現するのは確実だ。ただし、規制当局と消費者が安全性を十分に確信した後だ。
(2019年3月26日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/
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技術が主役に。

*[ウェブ進化論]これから来る波。
地図情報もいよいよGoogle一強になりそうだ。
自分たちは、今や当たり前のインフラのようにGoogle検索エンジンを使い、amazonで注文した品は翌日に届く。
(MSの)excelで作った文書もおよそ誰とでもすぐに共有できる。
一般市民として使っている分には有り難いことだが、提供側は大変だったに違いない。
いつ回収できるかもわからない投資を、徹頭徹尾やり抜いたのがあの人たちである。
今になって「独占しすぎ」とか「傲慢だ」というのもどうかと思う。
彼らは「それなりの大きなリスク」を取ってきた人たちである
 
日本に限らず、世界中の地図が「人手を必要とせず、モバイルデータだけで」常に正確に作成されるのなら、それはすごいことである。
テクノロジーの脅威とはこういうことだろう。
だからこれからの"AI台頭"と言われるこれからは「ともかく人じゃないとね」というところを探すしかない。
そしてそれって「人間の平和ボケ」にも効くだろう。
 
他人ではできないこと。
機械ではできないことを本気で考える時代になった。
人には新たな試練が待っている。
 

地図不具合にみるグーグルの「特別な地位」

米グーグルの地図アプリ「グーグルマップ」の日本向けサービス上で、道路が消えるなどの不具合が起きている。地図大手ゼンリンから提供を受けるデータを減らす契約変更に踏み切ったためとみられる。背景にあるのが、地図データ作成・更新の自動化技術の進化だ。グーグルが不具合を起こしてまでサービスを更新するのは、膨大な位置情報を集められるデータ経済における「特別な地位」があるからだ。
「段差がある危険な細い裏道が主要道路のように表記されている」「私道が公道扱いされている」
更新後、ネット上では不満の声が相次いでいる。グーグルは「素早い解決に努めている」とコメントしている。
日本は地図精度への要求水準が厳しい世界的にも特殊な市場とされる。建物が密集し、狭い道幅で歩行者と車が行き交うため、雑な地図では利用者は目的地にたどり着けないばかりか、安全が脅かされる可能性すらある。このため道路の場合、抽象化せずに実際の形のまま、幅の変化などまで反映する地図が求められてきた。
こうした需要を捉え、ゼンリンは調査員が全国をくまなく歩き、道路の形から建物の細かな区割りまで、きめ細かく収集している。グーグルも市場のニーズとコストを考え、日本ではこれまで細かいデータの大半をゼンリンに頼らざるをえなかった。
だが、グーグルの地図向けに他社がアプリの開発をするときに、ゼンリンとの契約が邪魔になっていた。ゼンリンのデータの利用料が発生するほか、グーグルが使い勝手を良くするために導入したいダウンロードやコピーに制限がかかるためだ。
別の選択肢として、公開データを使った米マップボックスのような安価で利用制限の少ない地図サービスも出てきている。グーグルの契約変更に合わせてゼンリンがマップボックスと提携したのは、こうした地図の利便性をめぐる新しい競争を反映している。
関係者によれば、契約更新はグーグルから出た話だという。ゼンリン頼みから脱却し、自前データに切り替えた場合の不満はある程度は織り込んでいたはずだ。同社がゼンリンの細かなデータなしでも利用者が離れない程度まで自社技術が進化した、と判断した可能性が高い。
もともと日本における測量や地図作製は、旧陸軍系機関との関わりが深い。「陸上」から足で細かい情報を収集し、更新してきた歴史がある。だが、今は「空」を使った自動化が業界に地殻変動を起こしつつある。
人工衛星を使って測定したスマートフォンスマホ)の位置情報を土台にした移動データが大量に生み出され、機械学習技術の発達で衛星画像から建物の種類を判定する精度も急速に上がっている。これにカメラ付き車両で集めた道路周辺画像の解析を合わせると、さらに情報は充実してくる。ほぼ人の手を介さずに生成した地図データの精度が上がってきている。
こうした環境で圧倒的に優位な位置にいるのがグーグルだ。集まるデータ量だけでなく、そこから鍛えた分析の力でも他を圧倒する。スマホの基本ソフト(OS)を握り、地図サービスで高いシェアを持つ同社には位置情報が大量に集まる。膨大な移動パターンデータから道路の種類を判別する精度を飛躍的に上げられる。
グーグル地図の更新後に日本で問題となっている箇所は私道、衛星画像で判別しにくい裏道や影がかかった部分など、自動化プログラムが判別を苦手としている要素が多い。都市部以外ならドローンなどで効率的に確認すれば、ある程度問題は改善できるが、どうしても自動化しきれない部分は残る。
これを補うのにゼンリンは調査員を使うが、グーグルが使うのは無料サービスで集めた巨大な利用者網。地図更新後の利用者の混乱した動き、クレームまで分析することで地図情報を改良していける。偽情報が登録されるリスクはあるが、全体としては質の向上に有効な手法だ。
こうした利用者を開発に参加させる手法が可能なのは、グーグルの地図を多くの人が使わざるをえない状況があるためだ。交通情報や店の評価、道路、建物、地形の画像など便利な情報が集積し利便性が高い。ゼンリンの有償の高精度地図を自らの負担で無償提供し、便利な情報とひも付け、その対価として移動データを集めてきた。その長期投資の「果実」を刈り取ろうとしている。
今後、グーグル地図にさらに深刻な不具合が見つかる可能性もある。だが、多くの企業はデータ量や分析力が足りず、そもそもこうした実験を検討することすら難しい。地図更新の混乱は実はデータ経済におけるグーグルの覇権を象徴する出来事とも言える。(データエコノミー取材班 兼松雄一郎)
 

 

顧客との接点。

*[ウェブ進化論]一周回ってメルマガ。
日経より。
N自動車のナンバーワン営業マンの人の話を聞いたことがある。
もう十数年にわたって「1日に一台以上の車」を販売し続けているとのこと。
なんとその営業の真髄は「はがき」だった。
来店につれ、見積もりにつれ、購入につれ、アフターサービスにつれ、買い替えにつれ、他社への乗り換えにつれ。
折々に手書きの「はがき」を送る。
「心遣い」がマーケティングの真髄なのだと感心した。
さて。
大手の海外新聞各紙が再び顧客とのリーチを強めているという。
電子版の購読制で勢いのある新聞といえば、「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)や「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)が筆頭だが、NYTは、なんと約70ものメルマガをラインアップする。WSJも40弱だ。元気の良い新興メディアの代表格「アクシオス」は、創業2年弱だが、すでに20ものメルマガをそろえる。
新聞が廃れ、デジタルサイトが台頭し、今また「細やかなコンテンツの時代」になっているらしい。
結局、まだまだ「記者の筆力」がモノを言う時代は終わっていないようだ。
今一度「中身のある記事とは何か」について、自分たち読む側も考えてみたいと思う。
 
メディアに「メルマガ・ルネサンス」!? 読者との絆、復活の切り札
2019年3月20日 21:30
米国では、広告収入に依存して急成長街道をひた走ってきたメディアの多くが窮状に置かれている。前回の「新興メディア、一斉に人員削減 広告収入、成長軌道届かず」で述べたが、広告市場が、グーグルとフェイスブックの二大プラットフォームにより寡占化されている影響だ。
ニューヨーク・タイムズなど欧米メディアはニュースレターの配信に力を入れている
こうしたメディア業界で「救世主」と期待を集めるのが、「メールマガジン(メルマガ)」だ。
「いまさら、あの(ローテクな)メルマガ?」と首をかしげられるかもしれない。そう、あのメルマガなのだ。
米国では、一般的には「(eメール)ニュースレター」と呼ばれるが、これがいま、読者を集め、きずなを深める重要な武器として注目されているのだ。
昨年、「シカゴ・トリビューン」など米国の大手地方紙3紙が、研究機関と協力して各紙電子版の読者行動データの詳細な研究を実施した。電子版購読者を定着させるための鍵は、読者の「習慣化された行動」にあり、そのための最大の施策がメルマガだと研究者は結論づけている。
広告依存のメディア運営を見直そうとすれば、読者との直接的な関係を深めることが重要になる。広告表示の数量を競うようなあり方から脱却し、サブスクリプション(購読)に代表されるように、読者からの収益や読者との深い関係を事業の中心へとすえるアプローチが目立つようになってきた。
その点で、毎日、定期的に読者の受信箱に届くメルマガは、読者の閲覧を習慣化するのにぴったりで、忙しい現代の消費者にメリットがある。まさに「メルマガ・ルネサンス」だ。
ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年からスマートニュース執行役員。18年7月からフェロー。東京都出身。
具体例を紹介しよう。電子版の購読制で勢いのある新聞といえば、「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)や「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)が筆頭だが、NYTは、なんと約70ものメルマガをラインアップする。WSJも40弱だ。元気の良い新興メディアの代表格「アクシオス」は、創業2年弱だが、すでに20ものメルマガをそろえる。
それぞれがスター記者や編集者の魅力を前面に打ち出す。時には専門分野に強みをもつ独立系メディアを買収して、そのままメルマガの品ぞろえに加えたりと、メルマガ充実に並々ならぬ意欲を見せる。アクシオスは、有料購読制は採らないものの、専門テーマごとに集約されたメルマガ購読者層は魅力的な広告対象らしく、広告主が引きもきらないという。
日本で商業メディアが発行するメルマガといえば、ウェブ本体の「おまけ」的な産物だが、米国では浮動票ではなく強力な支持層をつかんでいるメディアは、メルマガの充実化を推し進めている。メディア復活の重要なヒントだろう。
 

先延ばしの構造。

GIGAZINEより
*[次の世代に]行動に移すとき。
学生時代の試験勉強とか、社会人のトラブル対応とか。
「先延ばし」すると大体良くならないことが多い。
つまり。
そういう(良くなさそうな)結果を予想するからこそ"先延ばし"をしてしまう。
けれど、結果「先延ばししたこと」でさらに悪くなることの方が多い。
つまり「先延ばし」は実は「自分に損な行為」なのだ(ということが多いと思う)。
 
でもそうと分かってしまえば簡単でもある。
「自分が楽になるため」の先延ばしはしない方が良いわけだ。
先延ばしではなく「考えを溜める」ということもある。
これは実に必要な行為で、拙速に決断すると思わぬ失敗もしてしまうから。
 
「じっくりと考えて」から「ぐずぐずせずに実行する」というのが極意だろう。
ついぐずぐずしている自分に気づいたら「今自分は何にグズついているのだ?」と自問しよう。
「もう先延ばしても、これ以上の考えは出ないな」と思えればGo!だ。
こんな感覚を若い人には持ってもらいたい。
 
 

やるべきことをぐずぐずと先延ばしにする習慣を利用して逆に生産性を上げることができる

 
やるべきことを締切直前まで先延ばしにしてしまう「先延ばし行動」をやめたいのについついやってしまう……という人も多いはず。先延ばし行動を断ち切るためのライフカレンダー「your life」なども作られていますが、先延ばし行動をすっぱりやめるのではなく、逆に利用して生産性を上げる方法が存在します。
 
How to Procrastinate Productively - The Atlantic - The Atlantic
 
「生産的に先延ばしする」方法は、以下のムービーは以下から確認できます。
 
 
 
「ぐずぐずと先延ばしにしてしまうほう?」と聞かれて「常に先延ばしにしていますね。今もしています」と答える男性。
別の男性は「どういう種類のことを先延ばしにしますか?」と聞かれて「仕事」と答え……
「先延ばしにすることが問題になったことはありますか?」と聞かれた女性は即答で「はい」と答えました。
このように、多くの人が「先延ばし行動」を行っており、一方で先延ばし行動をやめたいとも願っています。問題は、先延ばし行動をしてしまう人の脳は休息を求めているということ。では、脳の求める休息を与えつつ「生産的に先延ばしをする」ということは可能なのでしょうか?
 
習慣の力 The Power of Habit」という本の著者であるジャーナリストのチャールズ・デュヒッグ氏は、先延ばし行動のことを「道徳的な弱点」ではなく行動のきっかけ・ルーティン・報酬から構成される「習慣」だと語っています。例えば、「きっかけ」はメールボックスが一杯になっていること、「ルーティン」はFacebookをチェックすること、「報酬」は休息を取ることでリフレッシュできることなどを示します。
そこでリポーターのオルガ・カザンさんが先延ばし行動をしてしまう女性に対して「先延ばし行動を5~10分取るとリフレッシュした気分になる?」と聞くと……
「そういう気分にはなりません。先延ばし行動の後はやるべきことを受動的にやってしまったり、集中力がなくなったりしてしまうし、『自分がいかに先延ばし行動で時間を無駄にしたのか』を考えてしまいます」と女性は語りました。
一方で、「なぜ先延ばし行動を取ってしまうと思う?」と聞かれたこちらの男性は「迫り来るものが何もないかのように振る舞い、他のことをするのは気分がいいからです」と回答。つまり、先延ばし行動は頭をリフレッシュしてくれる役割があるものの、人や場合によっては単なる「時間の無駄」に終わってしまうことがあるわけです。
先延ばし行動を利用して生産性を上げる方法として「Simplified Habit Reversal(習慣逆転法)」という治療法があります。
習慣逆転法は通常、体をかきむしったり髪の毛を引っ張ったりというクセを持つ人の治療法として使われます。
Facebookをチェックする行為などは爪かみなどと同様に無意識で行われることなので、習慣逆転法のテクニックが使えるわけです。習慣逆転法は「(1)意識下練習」「(2)拮抗反応の学習」「(3)リラクゼーション練習」「(4)偶然性の管理」「(4)汎化練習」といった方法で行われます。まず、Facebookを触ってしまったらその度に記録などをすることで、自分がどのような状況でFacebookを触るかを認識し、無意識の行動を意識的に行えるようになります。これが(1)意識下練習です。そして、「Facebookを見たくなったらデスクを掃除する」といったような別の行動を体に学習させる、つまり(2)拮抗反応の学習で、先延ばし行動を生産的な行動に置き換えることができるはず、という理論です。
さらに、Implementation Intention(実行意図)というものも役立ちます。実行意図は「○○だったら△△をやろう」といったもので、どのような時にどのような行動を取るかをあらかじめ決めておくこと。この方法ではまず、やらなければならないことをToDoリストとして書き出します。
そしてリストの中にある「本を読む」というとタスクの後に「Facebookをチェックする」という行為をあらかじめ設定しておけば……
意志の力に頼らずとも、Facebookという習慣を「本を読む」という習慣に置き換えることができるようになります。
先延ばし行動は全てが悪いものではありません。スタンフォード大学の哲学者ジョン・ペリー氏は「構造化された先延ばし理論」を提唱しており、ペリー氏によると「重要な作業を先延ばしにして重要度の低い別の作業をしてしまう」という習慣を逆手にとり、最も重要な作業を後回しにすることで、重要性の劣る作業をどんどん片付けていけるとのこと。つまり、先延ばし行動を利用することで単純なタスクを生産的に行えるようになるわけです。
ここでカギとなってくるのは、重要なことを先延ばしにしている時にやる別のタスクが「まったくの無駄な行為」なのか「重要度は低いがやるべきタスク」なのかということ。先延ばし行動は全てが全て悪いのではなく、やり方によっては生産性を上げることが可能。先延ばし行動の後に罪悪感を抱かず、頭をリフレッシュすることができるような代替的な「先延ばし行為」を考える必要があるわけです。