藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

合理性て(2)

*[次の世代に]今さら習慣の見直し。人生の帯。
先月は体調が思わしくなく、ひと月ほど酒を控えていたら、これが実に合理的なことに気がつく55歳。
大丈夫か俺。
 
それにしてもつくづく「依存心」とは怖いものだ。
アルコールくらいでこれだから薬物に手を染めたひとの苦労はどれほどのものだろうか。
その大変さを想像するに、手を出さないのが一番だなどと思ったり。なんやこの感想は。
 
酒は睡眠を実は妨げる、とよく聞くけれど体感してみると寝覚めの感覚がまるで違うことに驚く。
寝覚めの快適さ」が報酬になって、まあ禁酒もいいか、というくらいの感覚になるから、自分はこれまでどれほどの不快感を毎朝体験してきたのだろうかと呆れる。
思えば毎日飲むようになって30年ほど経つ。
そのうち20年はタバコも喫っていた。
そんな風に思い返せば習慣とはつくづく恐ろしいものだ。
気がつけば人生の時間を「帯のように」使ってしまうから。
飲む打つ買う、というけれどそれ以外でも「刺激」とか「興奮」を伴うものには注意が必要だ。
まあ最後に仕事とかが残ったりしそうな気がしますが。
あ、我が師は「最後には学問が残る」とおっしゃっておりました。

合理性て(1)

*[次の世代に]余裕のない時代。
ほぼ日より。
「生産性」「経済効率」「合理性」と毎日のように口走る。
何やらそういう感覚が染み付いていて、何を見ても「そんなこと」を考えているような気がする。
世の中は日々豊かになっているだろうに、それでもどんどん「そういうこと」は進んでいるようだ。
 
都心の一等地はますますブランド化しているらしく、ますます値上がりしているという。
身近にあった銀座でもこの10年で見違えるほど再開発されて、老舗の大衆店はなくなってしまった。
テナント料もとんでもなく高いというから普通の値段のお店はやっていけない。
地主はそれでもまた「新しく入るテナントがいる」から家賃を下げないらしい。
結果的に街は「高いばかり」「ブランドものばかり」「キラキラのビルばかり」になってしまった。
観光客は来ても、街の魅力はなくなってしまったように感じるのである。
"店子といえば子も同然"とは落語の中くらいしか聞かないフレーズになってしまったけれど、少しは子育て感覚で店を育てる家主さんが増えて欲しいものだ。
一円でも高く、では世知辛すぎる。
いつかはそんな時代がまた来るだろうか。
 
・いま、「ほぼ日」は北青山という場所にある。
近くには秩父宮ラグビー場があるし、
そのとなりは神宮球場だ。
選手ではないけれど、観客としてはうれしい環境だ。
さらに、もうちょっとだけ、そう5分か10分歩くと、
あのオリンピックのメインスタジアムがある。
実を言えば、そういうスポーツの施設があることは、
ここに引っ越してきた重要な理由ではなかった。
周囲に多少でも緑が見えて、交通の便がよくて、
なんとなくあかるい感じがあって、
乗組員全員の顔が見える広さがあって…というような、
わりと実用を考えていたけれど、スポーツ施設のことは、
「そういうのも、いいよね」という程度のおまけだった。
 
それにしても、原宿、青山あたりにずっといるなぁ。
個人事務所の時代からだから、ぼくにとっては、
半生どころではない年月を、ここらで過ごしてきた。
一時、「ほぼ日」をスタートさせるときに、
わざわざ人の来にくい環境に本拠地を移したけれど、
やっぱり青山に戻ってしまった。
「ここにいたほうが、いまが見える」という理由を、
乗組員たちには語ったし、それは事実だと思っていた。
たしかに、青山には世界的なブランドの旗艦店がある。
美容室のメッカでもあるようだ。
しかし…それが「いま」を表現しているかといえば、
「ちがうんじゃないの?」と思えてならない。
ではなにが「いま」かは、わからないのだけれど、
青山にはグッチだヴィトンだといったブランドと、
たくさんの美容室があるけれど、それ以外が空っぽだ。
青山という幻想を当てにして、さまざまな店が開くが、
ビジネス的には、思ったほどの集客も売上もないし、
家賃はめっぽう高いから、かなりの速度で撤退する。
いま、もうすでに青山にいる意味はないのかもしれない。
と、そんなことを考えながら青山にいるのである。
聞けば、N.Y.五番街の老舗なども店を閉めているとか。
やっていけないほど家賃が高くなっているからだという。
 
仕事場のある場所として、青山はどうなのだろう。
冷静に、いまぼくは、理想の引越し先考えている。
いますぐのことじゃないとは思うんだけどねー。
 
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
ここに「ほぼ日」がくればいいのにという場所、どこだろ?

寿命の先に

*[次の世代に]*[医療]中身が大事。
日経より「高額医療」の記事。
江戸時代の日本人の寿命は40歳程度、縄文時代はなんと15歳だったというから、自分たちは抜群に長生きになっている。
医学の発達が進めば進むほど「新たな病気」も判明し、またそれへの挑戦が始まる。
まるで永遠に終わりのない"いたちごっこ"に思えるが、実際にはどうだろうか。
人は病がなければ120歳まで生きる、とも言われるがともかく屋久杉のように何千年もの生命を宿している、というわけではないらしい。
人工知能はともかく。
将来的にも「人が五百年も生きる」ということはなさそうだ。
せいぜい100年ちょっと。
だとするともう人の医療は「かなりのところ」にまで進歩してきているのではないだろうか。
日本ではしばしば「人生100年時代です」とCMが流れている時代である。
 
まだまだ「最後まで健康に生きる」とか「原因のわからない難病に挑む」というテーマはあるものの、「寿命への挑戦」についてはそろそろ終わりを迎えるような気がする。
これからはQOL(生活の質)をいかに維持していくかということが主流になるに違いない。
長く生きるというよりは「最後まで楽しく生きる」が次のテーマだ。
 
がんは克服できるか(5) 高額薬は誰のもの
2019年8月3日 2:00
「実証! これが37万ドル(約4000万円)のスーパー細胞だ!」。米テキサス州ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターの病室。トッド・シャイブリー(53)はベッドから、ツイッターに興奮気味に投稿した。
手にした点滴剤は米ギリアド・サイエンシズの「イエスカルタ」だ。スイス・ノバルティスの「キムリア」と同じようにCAR-T技術を使ったがん治療薬で、2017年に米国で新薬承認を受けた。がんを攻撃するように遺伝子を改変した自らの免疫細胞が入っている。
4月にがん細胞がなくなる「完全寛解」と診断された。7月の検査でも再発していない。6年前にがんを発症し、いくつもの抗がん剤を試してきた。今回は「治るかもしれないという可能性が見えてきた」。

 
シャイブリーさん(右)はがん治療薬「イエスカルタ」で寛解した(3月、米テキサス州)
だが、米国で先端の医療を受けられるかは、患者がどのような保険に加入しているかに左右される。自営業のシャイブリーが加入する民間保険の保険料は年2万ドルで、検査や入院費を含め治療にかかる費用は50万ドルを超えた。
対照的に、医療が原則無料の国民保険制度(NHS)を持つ英国。税金などでまかなわれるため原則的に高額な薬は使えない。そのため、医療技術評価機構(NICE)が費用対効果を見極める。1人の患者が健康な1年を暮らすための治療費などをおおむね2万ポンド(約270万円)とし、薬価がそれを下回れば保険適用を推奨する。NICEは年間約80種類の薬を審査するが、2割ほどは価格が高いなどの理由で却下される。
ファイザーの肺がん治療薬「ビジンプロ」もその一つ。もともとの希望価格は30日分で約2700ポンドで、年間の治療費は基準を上回る。だがファイザーは値下げをNICEに提案、5月の再審査で推奨が決まった。「革新的な薬がNHSで提供され、患者はより長く人生を送れるかもしれない」。NICEで審査委員会を統括するマインダート・ボイセン(51)は語る。
英国では年間約1500人がビジンプロを使う見込み。値下げしても顧客を獲得したほうが利益になるという計算も働く。命とお金はてんびんにはかけられないが、それでも、医薬の進化と保険制度、薬の価格の微妙なバランスの上で救われる命もある。
(敬称略)

行政への秘策。

*[小さな行政]なんでもボランティア
日経産業より。
日本はレスキューや救急は100%プロの公務員ですが、海外では資金的に続けられないことがわかってきています。
米国ではこうした業務に従事する人の7割以上をボランティアが占めています。
これは米国に限らず、オランダや英国でも同様です。日本にもそのような時代は間違いなくやってくるでしょう。
これだ。

f:id:why-newton:20190915172922j:plain

行政の仕事に関わっていると、何と言ってもその煩雑さに驚かされる。
〇〇局、〇〇課、〇〇室、専門官、指導官、課長、局長、課長補佐…もうゲップが出るほどの組織の数である。
街中の役所でもそうだが、いわゆる「本省」に行ってみると直感的に「あ、ここの建物の中って採算がまるで取れてないな」と分かる人は多いだろう。
組織の名前を全部把握している人は天才に違いない。
ともかく規制と管理の塊で、効率性がまるでない。
と愚痴っていても仕方ない。
解決策は公務員を減らしたり、省庁再編なんかだがちっとも進行していない。
記事にある「ボランティア化」は実に具体的な解決策だと思う。
警察官ですらボランティアが存在するというから、日本の公務員も総ボランティア化を推進してはどうだろうか。
与党には期待できないから新しい政党の公約にぜひ掲げてもらいたいものだ。

仕事人秘録 新日本プロレス社長、ハロルド・ジョージ・メイ氏

  米で日本文化・商売学ぶ 
  2019年8月3日 4:30
大学は米国を選んだ。幼少期を過ごし、よい思い出が多かった日本文化を学びたいという思いと、父のように世界を渡り歩くビジネスマンになりたいという思い。それを両立させる方法を探った結果だった。

 
 
 
 
    大学生時代はボランティアとして、消防や救急、レスキューに参加した 
ビジネスマン、なかでも社長を目指そうと思ったのは高校生のときですね。インドネシアで社長になった父を見て、私もそうなりたいと思いました。一方で自分の武器は何かと考えたとき、やはり日本で生活した経験があるというのは大きいのではないかとも考えました。
米国の大学を選んだのは2つ以上専攻できるからです。両親がオランダに戻るので、オランダの大学も検討しましたが、専攻が1つしか取れません。私は経営学と東洋学を学びたかったので、それが可能なペンシルベニア州のバックネル大を選びました。早くから目標を設定できたので、筋道を立てて計画を立てることができました。
米国の大学では勉強以外の活動も推奨される。近くで見つけた地域の消防隊に参加した。
米国では「大学は勉強だけの場所じゃない。大人になるための場でもある」と言われます。「勉強以外にも何かしなさい」ということです。多くの学生はスポーツを選びます。しかし私はスポーツがあまり得意ではなかったので、別のものを探すことにしました。
そんなある日、街の消防署で「ボランティア募集」というポスターを見かけました。「これは何だろう」と思って聞いてみました。すると「救急隊」「消防隊」「レスキュー隊」の3つがあり、その資格をとるとプロと全く同じ救急業務や消防業務、レスキュー業務に従事できるということでした。
ただしボランティアなので、1円ももらえません。逆に忙しいときや都合が悪いときは参加を断れます。一生使える技術を学べるし、誰もしたことがないような体験ができる。世のためにもなる。「これはすごい」と思ってさっそく入隊しました。
日本にも消防団というボランティアの団体がありますが、プロとは資格やできることに差があります。米国のボランティアはプロと同じでした。これからはボランティアが重要になります。日本はレスキューや救急は100%プロの公務員ですが、海外では資金的に続けられないことがわかってきています。米国ではこうした業務に従事する人の7割以上をボランティアが占めています。
これは米国に限らず、オランダや英国でも同様です。日本にもそのような時代は間違いなくやってくるでしょう。プロがベースで存在すべきですが、ボランティアはそのうち必要になります。
ちなみにオランダにはボランティアの警官もいます。父の友人がそうでした。見た目はプロと変わりません。「今日はちょっと時間ができたから2時間だけ参加する」ということもできるのです。
北郷達郎)
  [日経産業新聞2019年8月2日付] 

チャンスはいつも傍に

日経産業よりビズリーチ南氏のインタビュー。
「雇用が流動化し、新しい働き方が求められる時代にこれはどうなのかと。転職情報を見える化し、みんなが自ら働き方やキャリアを選び、企業も人材を主体的に取りに行けないか。そう考えたのが創業の理由です」
うむむ。
人材サービスとか転職支援とかいうと、どうも「人転がし」という印象がつきまとうのは、昔の落語のネタを見ても明らかだ。
つまり何か「新しい付加価値」を生むのではなく、右から左に人を紹介する手数料商売にすぎない、と思われていたのだと思う。
――逆に言えば社会の課題、つまりビジネスチャンスはまだまだある?
「その通り。働き方改革や人手不足もそう。生産性向上のため、企業向けに人材データをクラウドで管理するサービスを始めました。最近は事業の譲渡を検討する経営者と買い手の企業をつなぐサービスも手掛けています。経営者不足に悩む中小企業は本当に多い」

 つまり自分の「仕事人としての情報」を登録しておく。

さらには仕事以外の部分も登録しておいてもいいだろう。
そうすれば、誰かが(あるいはシステムが)自分を見つけてオファーがくるかもしれない。
逆に、やりたいことがあれば、自分がオファーする側に回ってもいい。
透明化されていれば善意の輪が広がるだろう。
amazonではないが、完成した品物の流通は佳境を迎えつつあるが、人材の市場はまだまだ「流通過程に乗っているもの」はほとんどないことは注目に値する。
自分の「自分らしさ」もこれからはどんどんと流通していく時代になりそうだ。
自分の"何か"を磨いておくに越したことはないだろう。
 
ビズリーチ南氏「100年変わり続ける会社つくる」
2019年8月3日 4:30

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)が急成長している。テレビCMで知られる会員制転職サイトに加え、最近は企業の生産性向上支援や、中小企業などの事業承継支援サービスにも乗り出した。創業から今年で10年。人材大手がひしめく中、新たな市場を切り開く秘訣は何か。創業者の南壮一郎社長に聞いた。

働き方の選択肢広げる

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
みなみ・そういちろう 1999年米タフツ大卒、米モルガン・スタンレー証券入社。2004年に「楽天イーグルス」の立ち上げに参画。09年ビズリーチを設立し、社長に就いた。海外生活が長い帰国子女で、自らを「マイノリティー」と指摘する。趣味は夫人との海外旅行。南極への新婚旅行など、これまで27カ国を訪ねた。好きな言葉はマハトマ・ガンジーの「明日死ぬと思って生きなさい。永遠に生きると思って学びなさい」。43歳。
――転職サイトの会員数や導入企業数が伸びています。急成長をとげてきた理由は何でしょう。
「私が一番大事にしているのは事業を正しくつくることです。事業はなぜ存在するのか。世の中の課題を解決するためですよね。社会が構造変化する際には必ず課題が存在します。その課題を発掘し、磨いていく。世の中に必要とされている事業であれば受け入れられるはず。だからなぜやるのか。どうしたいのか。志の部分が重要です」
――人材市場での課題とは何だったのですか。
「小売業界と同じですよ。小売りでは売りたい人と買いたい人の間の流通が力を持ち、互いの顔が見えなかった。それがネットの普及でアマゾンや楽天が出てくると、直接売り買いできるようになったわけですよね。その点、人材市場はなお紹介会社などが強く、可視化されていなかった」
「雇用が流動化し、新しい働き方が求められる時代にこれはどうなのかと。転職情報を見える化し、みんなが自ら働き方やキャリアを選び、企業も人材を主体的に取りに行けないか。そう考えたのが創業の理由です」

人生100年時代」見据える

――それが転職市場の情報を公開して、企業が求職者に直接アプローチできる「ダイレクトリクルーティング」ですね。
「ええ。ITの進化で課題解決の手法はいくらでもあります。我々はあくまでプラットフォーム。採用したい企業だけでなく、人材紹介会社などに利用してもらってもいい。求職者は登録しておけば、さまざまな企業からアプローチが来る。これなら便利ですよね」
――人生100年時代になると、転職は当たり前になってきますね。
「転職だけではありません。いざ100歳まで生きるとなると、人生のつじつまが合わなくなることばかりですよね。私が就職した20年前は60歳まで働けばあとは年金で国が面倒見てくれると言われましたが、仮に80歳まで働くならあと37年。20年頑張って振り出しに戻った(笑)。社会保障の問題も含めて、日本の雇用制度がもたないのは当然でしょう」
――逆に言えば社会の課題、つまりビジネスチャンスはまだまだある?
「その通り。働き方改革や人手不足もそう。生産性向上のため、企業向けに人材データをクラウドで管理するサービスを始めました。最近は事業の譲渡を検討する経営者と買い手の企業をつなぐサービスも手掛けています。経営者不足に悩む中小企業は本当に多い」

累計の譲り受け企業数3300社

――事業承継の成果は出ていますか。
「まだ一年半ですが、累計の譲り受け企業数は3300社を超えました。必ずしも会社を売らなくてもいいんです。登録して会社の市場価値を知るだけでも意義はある。いわば健康診断と一緒です。現状を把握してどう手を打つか。経営の選択肢が広がる。会社の売却はネガティブなことではありません。雇用も資本も流動化してこそ活力が生まれる。日本もそんな社会にならないと」
――急成長により、社員数は1500人を超えました。かじ取りが大変ではないですか?
「創業者は腕力で起業する人が多いと思いますが、私の場合はITも人材市場も全く知見がなかった。同じ思いを持つ初期メンバー6人で役割分担し、チームで立ち上げました」
「私の狙いは事業をつくり続け、社会にインパクトを与え続けること。その実現のためどうすべきか。会社の規模が大きくなってきた時に真剣に考え、5年前に世代交代しました。社内組織を思い切って既存事業と新規事業にわけ、ビズリーチなど既存事業を後任に委ね、私は新規事業に専念することにしたんです」

サイバー藤田氏の教え「会社にいるな」

――任せることに不安はありませんでしたか。
「会社には創業期、成長期、継続発展期があり、それぞれ経営手法が違います。人によって得意不得意もある。私が得意なのは新規事業の立ち上げ。ならほかは任せたほうがいいと。最初は経営会議にも関与しましたが、今は取締役会で議論するぐらいです」
「やらないことを決めるのも社長。私は本社にもいません。近くの別ビルにいます(笑)。これはサイバーエージェントの創業者の藤田(晋)さんに教えてもらったんです。『社長がいたら文句言うじゃない。だからいない方がいい』って」
「でも効果は大きい。社員1000人規模の事業を経営できるわけだから、若い優秀な人が集まってきます。経営って決断のスピードと、判断の正確さのかけ算なんですよ。体育会サッカー部が長い私は目的を定めたら、それぞれが役割を全うするやり方が合う」

「私はマイノリティー

――新しいことに挑み続ける経営哲学の原点は何なのですか。
「私はカナダで育った帰国子女で、大学や就職先も米国でした。周囲とは違う、いわばマイノリティーです。新しい環境にも、業界が変わることにもちゅうちょしないのはそれが底流にあります」
楽天イーグルスの立ち上げ時の師匠だった三木谷(浩史)さんの影響も大きい。まず学んだのは事業をやる際の大義や志の大切さです。公共性の高いプロ野球で地方の活性化につなげたいと。東北は東日本大震災を経験しましたが、復興の旗印として地域が団結し、次第に変わっていったのを見て身が引き締まる思いがしました。そうした事業の志を今度は社員に伝えたい。それが自分の役目です」
「もう一つ学んだのは世界がすごいスピードで変化する中、変わり続けるため学び続ける姿勢です。100年続く会社も素晴らしいですが、100年変わり続ける会社をつくりたい。その方が楽しいし、面白いですから」

若手育成術に期待

 
 帰国子女で海外生活が長く、米金融大手に入社。プロ野球球団立ち上げに参画したかと思うと人材会社を起業する。型にはまらぬ経歴を見れば「マイノリティー」と自認するのも分かる。
 そんな南氏の特徴は新しい環境や出会う起業家から貪欲に学ぶ点だろう。楽天イーグルス創設時代には、師匠と呼ぶ三木谷浩史氏(楽天社長)から事業をやる際の志の大切さを学び、上司と呼ぶ当時球団社長の島田亨氏(人材派遣インテリジェンスの共同創業者、現USEN-NEXT HOLDINGS副社長)からは経営者の人としての資質を学んだという。起業家の薫陶を受け、自らの経営に生かす。日本でも起業の輪の広がりを感じた。
 驚いたのは主力事業の経営をあっさり若手に譲ったことだ。経営の得意分野を冷静に見極め、自ら「立ち上げ屋」に専念するのはそうできることではない。新事業を次々若手に任せるのはサイバーエージェント流にも似る。伸びるスタートアップから起業家予備軍が次々育つ。そんな環境を期待したい。(日経産業新聞編集長 宮東治彦)
日経産業新聞 2019年7月29日付]

命と値段。

*[医療]医療の意味。
日経より。
厚労省は2018年、延命治療にいくらまで公的医療保険から支出すべきかを問う調査を計画。
日本医師会常任理事(当時)の松本純一(67)は「命に値段をつける性格のもので断固反対だ」と批判し、調査が中止に追い込まれた過去もある。

 医療とお金の話。

一見タブーな、昔話にもよく引かれる話題である。
人の命はお金では計れない、と。
けれど、自分たちは民法や刑法ですでに多くの「人間的な犠牲」をお金で置き換え流、というルールを採用してしまっている。(これはこれですごい決断に違いない)
 
今さら医療だけが「お金で計れない聖域だ」というのはむしろおかしいだろう。
どんどん進む医療や研究開発と、それに伴う費用の負担をいつまでも曖昧にしておくべきではないと思う。
世界に誇る、日本の国民皆保険制度は「どこまでが限界か」ということをはっきりと議論するべき時期にきているのではないだろうか。

 楢山節考を生んだ日本は、実はどうもそうした問題に慎重すぎるのではないだろうか。

問題点をはっきりさせて、いよいよ皆がそれについて考える時期だと思う。
 
がんは克服できるか(4) 公的保険「何とかしないと」
2019年8月2日 2:00
「何とかしないと」。厚生労働省保険局と財務省主計局の担当者は今春の打ち合わせで、ともに表情を曇らせた。公的医療保険の下での血液がん治療薬「キムリア」の公定価格(薬価)が3349万円に決まる方向になったためだ。先に販売された米国での価格は下回るが、国内で最も高い薬が誕生した。

 
キムリアの薬価は3349万円に決まった(5月15日の中医協)
普段は予算編成でぶつかる厚労省財務省だが、相次ぐ高額薬が医療保険財政を逼迫させるとの危機感を共有する。両省は調整の難航を覚悟のうえで、公的医療保険でどうカバーしていくか検討を進めている。
人の生死にもつながるセンシティブな問題だ。厚労省は2018年、延命治療にいくらまで公的医療保険から支出すべきかを問う調査を計画。日本医師会常任理事(当時)の松本純一(67)は「命に値段をつける性格のもので断固反対だ」と批判し、調査が中止に追い込まれた過去もある。
財務省財政制度等審議会では16年、高額がん治療薬「オプジーボ」の登場を受け、患者に年齢制限を設ける意見が出た。オプジーボは効果が期待できるかわからないのに投薬期間の明確な基準がなく、何度も使うことが可能だ。100歳の患者への投与実績もある。だが「年齢制限を言い出せる政治家はいない」と立ち消えになった。厚労省オプジーボの使い方を示したガイドラインに年齢規定を盛り込むことはなかった。
厚労省は18年度に高額薬の価格を機動的に下げる仕組みを導入。薬価は原則2年に1回しか見直さないルールだが、販売額の急増など条件を満たすと速やかに値下げできるようにした。オプジーボの価格は当初の4分の1程度に下がった。高額薬を対象に費用対効果を分析して薬価に反映する仕組みも始まったが、十分とはいえない。
「(公的医療保険は)個人が負担しきれないリスクに重点化する方向にかじをきるべきだ」。健康保険組合連合会の理事、幸野庄司(60)は5月15日の中央社会保険医療協議会中医協)でキムリアの薬価が決まった直後の記者会見で訴えた。湿布や花粉症など軽症向けの医薬品の保険給付を縮小すべきだと指摘した。この1週間前には、日本医師会会長の横倉義武(74)が「何が何でも保険適用という時代ではなくなるだろう」と発言した。
キムリアなどの治療薬の登場は公的医療保険制度の形も変えるかもしれない。
(敬称略)
 

ネットでも貫くこと

*[ウェブ進化論]モノだけでは足りない。

日経より。

コミュニティマーケッター。
カスタマーサクセス。
ピープルアナリスト。
エバンジェリストにデーターサイエンティスト。
 
耳慣れない職種のネーミングだが一体何をする人か。
実は「新しいサービスとお客」を結ぶ人たちがほとんどだ。
端的に言えばネットの発達で「商品の数とお客の数」が急激に増えたことが原因だと思う。
ネット販売で消費者の様々な動向を分析するサービス。
商品の説明を細かくSNSで発信するサービス。
そして、いろんなソフトウェアを使ってみて評価を集め、開発者にフィードバックするサービス。 
商品の数が増えただけ、消費者とメーカーの間の空気は薄くなってきた。
これまでは「ご町内の商店」でやってきたことを、世界中に広げようという話だ。
つまり「御用達の極意」はあまり時代を経ても変わっていない。
顧客の声を注意深く拾い、
謙虚に受け止めて、
「作る側」に届けること。  
そんな基本的なことをネット世界でもやりきった人たちが支持されるのに違いない。
結局、あんまり原則って変わっていないものなのだと思う。
 
令和、羽ばたく新職種 データ社会で変わる販売・人事
2019年8月2日 4:30

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

コミュニティーマーケッターやカスタマーサクセス、ピープルアナリスト――。聞き慣れない言葉かもしれないが、いずれも最近存在感を高めている新たな職種だ。商品を売り切る形から、サブスクリプションなど定額制で顧客とつながるサービスが現在急速に広まっている。新職種はそんな令和の時代を支える担い手たちだ。その仕事ぶりを探ってみた。

会計ソフトのfreee(フリー、東京・品川)に、売上高10倍の法則がある。同じソフトでも売り方の違いで差が出るのだという。好成績に貢献する立役者が「コミュニティーマーケッター」と呼ぶ人たちだ。
この職種は商品やサービスに魅力を感じるファンを見つけるのが仕事だ。その上で対話やイベントを通じてファンの熱量を高め、ファンが周囲に口コミで商品を広める台風の目になってもらう。
「24時間365日、ファンと対話している」と語るのは、フリーの川崎緑コミュニティーマーケティングマネージャー。フリーの会計ソフトを使う会計士のコミュニティー「マジカチ」を仕切る中心的人物だ。
マジカチは地域別に5つの拠点があり、2~3カ月ごとに会計士らが集まり事務所の運営事例を共有している。川崎さんはマジカチの各拠点にいる3人のリーダーと毎日連絡を取り合うほか、マジカチに参加しそうな人のSNS(交流サイト)を日々確認している。

トラブル仲裁も

参加者同士のトラブルが起きれば、泥臭く立ち回る。あるとき、リーダー同士が意見の食い違いで仲たがいした。川崎さんは「リーダーを降りる」と返送されてきたマジカチのTシャツを握りしめ飛行機に乗り、2人を仲裁しに駆けつけた。
マーケッターのきめ細かい働きがファン拡大につながり、マジカチに参加する会計士は今や全国に約300人。フリーの商品を広める伝道師になっている。
「合理性より共感で顧客を動かす、まさに現代の仕事だ」と、企業のマーケティングを支援する小島英揮氏は指摘する。小島氏は米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の日本立ち上げ期にコミュニティーマーケッターなどを統括していた。
インフルエンサーと違い、コミュニティーの参加者に報酬を支払わないため、サービスに愛着を抱いて周囲を巻き込む人を見つけるのは難しい。だが成功すれば参加者が自ら商品を売ってくれる。AWSのコミュニティーは1万人以上が参加するなど、AWS躍進の原動力になっている。
この職種を置く企業は日本オラクルや人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)など、IT(情報技術)業界を中心に広がっている。あらゆるモノ(X)をサービスとして提供する「XaaS」の台頭が、新職種を重用する背景にある。
サービスを継続利用してもらうにはコミュニティーマーケッターのような販売面だけでなく、顧客サポートの充実も欠かせない。

クラウドサービス大手、米セールスフォース・ドットコムは、「カスタマーサクセス」と呼ぶ職種を日本で設けている。
この仕事は、顧客からの問い合わせを待つカスタマーサポートより能動的な仕事だ。セールスフォースでは契約後にカスタマーサクセスが顧客企業の担当者と会い、ソフトを活用して顧客の事業を伸ばす手助けをしている。

事業に活用提案

日本法人でカスタマーサクセス統括本部に所属する坂内明子サクセスプログラム部長は「短期の売り上げでなく、顧客の最終的な成功が我々の成功に直結する」と強調する。顧客と共に商談成約率などの目標を決め、達成に必要なソフトの活用方法を提案する。
自社ソフトが使われ続けているかを常に確認するのも仕事だ。遠隔でソフトのログイン率やデータ更新頻度などを自動で点数化している。
「一定の点数を下回った顧客をフォローする。解約前に改善点を探る」(坂内部長)。スコアは解約率の低下だけでなくカスタマーサクセス担当の評価につながる。
日本法人の社員約1500人(4月末時点)のうち、カスタマーサポートは数百人いるとされる。販売後の顧客接点の充実が、同社の成長につながっている。
データが価値を生み出すこともXaaSの特徴だ。経験や勘で行っていた業務もデータを駆使する動きが相次いでいる。人事や採用で、データ分析を通じて戦略を練る「ピープルアナリスト」が活躍し始めている。
「現場の言われるがままの人事はしない」。LINEで2人いるピープルアナリストの1人、田中賢太さんは語る。
同社は常時400以上の職種で求人するなど、中途採用が多い。現場からは常に人員増を求めてくる。だが言われるまま採用募集することが解ではない。データを使って最適な戦略を考えるのがピープルアナリストだ。
例えば職種ごとに応募数と内定率の相関関係を調べる。応募数の割に内定者が少ない場合は、募集広告の説明が不十分で、採用のミスマッチがあるのではないかと分析する。
採用時の選考過程ごとの歩留まりや、自社メディアで募集した求人による応募増加数などをモニタリングしている。「採用に関して50以上の項目をデータで示せるようになった」(田中さん)という。

顧客との関係や人事のあり方を変えることに難色を示す企業もあるかもしれない。ただあらゆる業種でビジネスのあり方が変わりつつある令和時代、社内組織もその変化に対応することが企業の成長には欠かせない。
(企業報道部 吉田楓)
 

成功はゴミの中に

*[ウェブ進化論]転移の科学。
日経より。
落谷は気づいた。がんは、自分の細胞から出るエクソソームに、転移を引き起こすマイクロRNAを入れ、血液に乗せて全身へ送っている。血液を調べればがんを検査できる――。
(中略)
治すのが難しい膵臓(すいぞう)がんも検出精度が95%を超えた。

 こういうニュースを聞くと「科学とはすごいものだ」とつい肩入れしてしまう。

一方、世界の医療全般をみると「病気か否か」「治すべきか否か」「コストは合うか」などと議論は絶えない。
「新しい病気やその原因を解明しては、治療方法を探す」という医学と「どんな生活をしてどう生き、死ぬか」という人生観の問題はせめぎ合っている。
けれど科学は進む。
科学の探求なくしては今の生活はないだろう。
軍需に使われたり、効果がなかったり、間違っていたりするけれど人の最大の能力に違いない。
どれ一つとってみても大変なテーマだと思うが「科学への憧れ」というのは未だに心の中にあるのです。
 
がんは克服できるか(3) 血液検査「ごみ」が突破口
2019年8月1日 2:00

 
落谷氏の研究が新たながん検査の道を開いた(6月、東京都内での講演)
「成果がもうすぐ世に出る」。国立がん研究センター研究所客員研究員の落谷孝広(62)は6月、シンポジウムでこう語った。血液から「早期のがん」を見つける世界初の手法が2020年にも始まる。血液から調べる検査は日本発の市場と期待される。はじまりは、ごみと言われた体内物質の評価が宝へと180度変わったことだった。
「信じられない」。落谷は2007年、英科学誌にくぎ付けになった。がん解明のヒントが書かれていたからだ。キーワードは「エクソソーム」。体内の老廃物と考えられていたが、その中に、がんの転移にかかわると落谷がにらむ物質、マイクロRNA(リボ核酸)が含まれる。論文はそう示唆していた。
落谷は気づいた。がんは、自分の細胞から出るエクソソームに、転移を引き起こすマイクロRNAを入れ、血液に乗せて全身へ送っている。血液を調べればがんを検査できる――。
「エクソソームはごみ同然」が常識のなかで、落谷は研究を転換。経済産業省に支援を申し出て、14年に企業と技術開発プロジェクトを発足させた。海外の研究動向や特許から世界の先頭にいると認められ、79億円の大型予算を得た。取り組んでみると乳がん、大腸がん、治すのが難しい膵臓(すいぞう)がんも検出精度が95%を超えた。
パラダイムシフトを起こせるかもしれない」。同センター中央病院医長、加藤健(50)は医療現場の立場から新手法に期待している。画像や組織の採取による現在の診断法は、がんがある程度大きくないと把握できない。いち早く診断できれば死亡リスクを抑えられ、国の財政を助けることにもつながる。
落谷のプロジェクトに参加していた東レは年内にも、がん検査キットを製造販売できるよう国に承認申請する。血液が1滴でもあれば分析できる。参加メンバーの東芝、アークレイ(京都市)も実用化する計画だ。「早期がんを発見する血液検査は実現していない」と加藤。日本は確かに先頭を走っている。
「深層学習で精度を高めたい」と話すのは、企業価値が10億ドル(約1千億円)を超すユニコーン、プリファード・ネットワークス(東京・千代田)社長の西川徹(36)。同社もプロジェクトに参加していた。人工知能(AI)で14種類のがんを早期発見する技術をディー・エヌ・エーと開発中だ。落谷から始まったイノベーションが、次々にかたちになろうとしている。
(敬称略)
 

そうして時代は過ぎてゆく。

*[次の世代に]今イケてる企業は?
日経FTより。
米ハーバード・ビジネス・スクール(写真)が、企業による社会還元『インパクト』を財務情報に取り込む基準作りに着手した、という。 

企業を測る基準とかは、時代とともに様変わる。

多分500年前なんて、他国を侵略していても成長している会社は評価された。
いやいや、かの大戦の時代だってそうだった。
まだ70年ほど前の話だ。
 
そして自分の生きてきた30年前には「環境負荷」とか「地球温暖化」という言葉はあれど、「それと企業の活動が関係ある?」という風潮だった。
そしてここ10年は環境負荷とか、サスティナブルとか、CO2の話がむしろ重視されている。
「わが社はキャッシュフロー第一です」なんて言ったら失笑される時代になってしまった。
どんどん文明の民度が上がってきているのに違いないけれど、働いていて大事なのはそんな風に「企業の価値観も時代とともに変わってゆくもの」という柔軟な見通しだろう。
今や環境を無視していては商取引きにからも排除される時代である。
「株主が」「従業員が」「取引先が」「下請けが」「消費者が」「周囲の地域が」どんどん重要視される時代に、自分たちはどんなビジネスをするのか、お金儲けとの両輪で考える時代になってきていると思う。
米金融大手ゴールドマン・サックスが持続可能な成長を支援する金融業務を専門とする「サステナブル・フィナンシャル・グループ」を立ち上げた。

あんまり下品な金もうけは、ますます疎んじられるに違いない。

 
 
 
  米有名大、企業「インパクト」の基準作

    米ハーバード・ビジネス・スクール(写真)が、企業による社会還元『インパクト』を財務情報に取り込む基準作りに着手した=AP 
こうした動きは、いままでハーバード・ビジネス・スクールが教えてきた「キャピタリズム(資本主義)」と矛盾すると思う人もいるかもしれない。だが、セラフィム氏はインパクトを会社の財務指標に組み込むことはこれから当然のことになると指摘する。
ハーバード・ビジネス・スクールは、欧州を代表するベンチャーキャピタル(VC)「エイパックス・パートナーズ」の創業者、ロナルド・コーエン氏と協力して、インパクトを財務指標に取り込む基準「インパクト・ウェイテエッド・アカウンツ・イニシアチブ(IWAI)」を作るプロジェクトを始めた。コンサルティング大手マッキンゼー、複数の投資銀行投資ファンドも参画し、数年後には正式基準として世に出す計画だ。
だが、その前に複数の企業で試験的に運用を行う。ハーバード・ビジネス・スクールによると、インドのIT(情報技術)大手インフォシスやドイツのスポーツ用品大手プーマなど19企業が協力する予定という。加えて、冒頭で触れた4社も試験運用に参加する。
セラフィム氏は、「インパクトに関する情報を正確に把握できるようになれば、経営陣はインパクトを経営計画に組むことができるようになる。重要な一歩だ」と語る。
ハーバード・ビジネス・スクールのプロジェクトを「ESG(環境・社会・企業統治)に関する指標はすでに存在する」「もうこれ以上新しい基準はいらない」と批判する人もいるかもしれない。確かに世の中はアルファベットの基準名であふれている。
約20年前に国際組織「グローバル・リポーティング・イニシアチブ(GRI)」が誕生し、企業は気候変動や人道問題への取り組みを報告する基準を得た。その後、企業が投資家にESGへの取り組みを報告する「サステナビリティ会計基準審議会(SASB)」の基準が設けられ、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」は環境対策に関する基準を設定したといった具合だ。
だが、セラフィム氏はIWAIはいままでの基準とは異なると主張する。企業活動の「インプットとプロセス(投資や過程など)」を評価するのではなく、「アウトプットとインパクト(成果や影響など)」を明瞭化する基準だからだ。また、既存のGRIやSASBの要素も取り込み、IWAIを包括的な基準に育てることで、より大きなビジネス革新を起こすことを目指しているという。
この試みが成功するかどうかを判断するには、まだ数年かかりそうだ。だが、著名人や有名な企業が支援している試みであることを考慮すると、注目に値すると思う。また、この事例はESGの基準作りでビジネススクールや会計士の存在が重要になってきていることを示している。戦う会計士の時代が到来した。
By Gillian Tett
▼ゴールドマン、「サステナブル金融グループ」を設立
米金融大手ゴールドマン・サックスが持続可能な成長を支援する金融業務を専門とする「サステナブル・フィナンシャル・グループ」を立ち上げた。証券や投資銀業務など幅広い部門で顧客からサステナブル金融への質問が相次いでいる状況に対応する。2018年10月就任のデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は縦割りを脱却し、部署間の融合を進める「ワン・ゴールドマン・サックス」を経営戦略に掲げているが、社内でサステナブル関連への取り組みに対する理解を共有する狙いもあるという。
(c) The Financial Times Limited 2019. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
【Moral Money(モラル・マネー)】
FTの米国版エディター・アット・ラージのジリアン・テットが毎週、環境保全や社会貢献に関わる新たな投資トレンドを紹介する。

技術が本当に生きる場所

*[ウェブ進化論]はやりとは違う場所で。
日経産業・ハネウェル社の記事より。
今の時代、ビジネスで成功するのに「技術かマーケティングか」という問いだけでは説明がしにくい。
技術がただ優れていればいいか、というとそれだけで芽の出なかった会社は数知れない。
しかしマーケティングだけがただうまかった、という企業が長く発展しているわけでもない。
ハネウェルが成功しているのは、地味ながらそういうところのような気がする。
 
まず確かな技術を蓄えること。
それを利用できる分野を考えること。
そうしている間に「流行りの技術やマーケット」に惑わされないようにすること。
そういう意味では「すぐに流行る技術はすぐに廃れる」という風にも思える。
 
今やビジネス界の日常は、「新しいネットの技術×マーケット」のオンパレードだけれど、本当に技術か生かされる分野は、着々と準備を始めているような気がする。
「とりあえず、これとこれを合わせてアプリにする」という発想以外にも、本筋で望まれる技術分野について考えておきたいものだと思う。
技術が本当に生きる場所は、自分たちのごく身近にあるのではないだろうか。
 
IoTで稼ぐハネウェル CEO「専門性が生命線」
米ハネウェル・インターナショナルが異彩を放っている。航空機、高機能化学品、ビルシステムなど複数の事業を抱えるコングロマリット(複合企業)の2018年12月期の連結売上高は418億ドル(約4兆4726億円)。稼ぐ力はライバルを圧倒しており、足元の時価総額は13兆円を超える。同社のダリウス・アダムチック会長兼最高経営責任者(CEO)に成長戦略を聞いた。

ソフト・ハードが事業の両輪

 
Darius Adamczyk 米ハーバード大経営学修士号(MBA)取得後、88年ゼネラル・エレクトリック入社。ブーズ・アレン・ハミルトンやインガソール・ランドを経て、メトロロジックの買収により08年にハネウェル入社。17年に社長兼最高経営責任者(CEO)、18年から現職。ポーランド出身。
――あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を核にしたソフトウエア企業への転換を掲げています。
「デジタル化は重要な柱のひとつだ。ただそれは戦略のパーツにすぎず、優れたテクノロジーを提供することがまず根本にある。デジタルの領域にとどまらず、エネルギー関連、宇宙、化学品などで技術に根ざしたソリューションを提供している」
「データを取得できる製品とソフトウエア製品は両立する。ハネウェルはそれらの製品を抱える『ハイブリッド企業』だ。純粋なソフトウエア企業、ハードウエア企業という枠組みには当てはまらない。この両輪を協調させることが生命線であり、だからこそ競争力があるIoT事業を生み出せる」

デジタル経済への移行、まだ初期段階

――IoTが浸透するなかで、顧客が求める技術水準も高度化しています。
「産業向けのIoTはまだ黎明(れいめい)期だ。顧客企業も混乱しており、提供する事業者も乱立している。適切なソリューションを選べなければ、顧客が運用する高価な設備をリスクにさらすことになりかねない」
「ハネウェルは専門性、信頼性を強みにしており、長年のパートナーである顧客と強固な関係を構築している。そうした基盤を踏まえながら、拙速にならないようにIoT導入を進めている。デジタル経済への移行はまだまだ初期段階で、抜本的な転換をすぐに迎えるとは考えていない」
――米IT(情報技術)大手「GAFA」、中国勢が勢いを増しています。
GAFAなど消費者向けの企業が所有するデータと、ハネウェルが取り扱う産業向けデータは全くタイプが違うと認識している。ただ、それぞれ企業・顧客に対して何らかの価値を創造する機会を生むのであれば、彼らと協業する可能性も否定しない」

IoT、企業の淘汰進む

――IoTビジネスの潮流をどう見通しますか。
「IoT革命は今、ブームの真っ最中だ。1990年代の後半にインターネットビジネスが過熱し、多くのプレーヤーが参入した。結果的に優れたビジネスモデルが構築されて、ネットは持続可能なインフラとなった。おそらく米アマゾン・ドット・コムはネット技術をもっともうまく活用した事例だろう。IoTでも同じような現象が起こる。5~10年でマーケットが形成され、進化とあわせて淘汰も進んでいく」
――優勝劣敗が加速するなかで、どう競争力を磨きますか。
「ハネウェルは産業向けIoTで高い独自性を持つ。航空機、工場、倉庫、ビルなどのソリューションをそろえ、一貫した制御技術を基盤としている。これらをすべてつなぐことでデータを収集している。データを現在の制御用途に限らず、あらゆるかたちで派生できる。それぞれの分野で高い専門性を誇ることも強みである」
――日本でも重電、電機メーカーがIoTに軸足を移します。
「日本は1920年代に参入し、長年にわたって関係を維持している重要なマーケットだ。日本はグローバルでみても、まだ成長が見込める有望市場と位置づけている。製造業に加えて、物流、航空機、安全などでのIoT活用は、日本が抱える課題に応える大きなテーマといえる。ハネウェルが展開する商品戦略にも合致している」

事業選別で「稼ぐ力」

ハネウェル・インターナショナルは制御機器から航空機部品やシステム、高機能化学品などの多分野を手掛けるコングロマリット(複合企業)だ。創業は1886年。米ニュージャージー州に本社を構え、世界の約970カ所に拠点を持つ。
従業員は約11万人。そのうち技術者が1万8000人で、ほぼ半分がソフトウエア分野に携わる。2018年12月期の売上高は418億ドル、営業利益は67億ドル。過去3年のROIC(投下資本利益率)は15.4%と群を抜く。
「事業の対象をシンプルに絞る」(アダムチック最高経営責任者=CEO)。ビジネスの選別が企業価値の向上につながっている。
18年10月に自動車部品ターボチャージャー事業、住宅用空調関連事業をスピンオフしたうえで、IPO(新規株式公開)した。
中核ビジネスに定めた航空、ビルシステム、高機能化学品、センサーを活用したソリューション事業で4本柱で攻勢をかける。いずれも部門別の営業利益率は20%前後と抜群の「稼ぐ力」を誇る。「各事業に対してハネウェルとしての価値や技術・能力を活用できているか、評価や見直しを毎年繰り返す」(アダムチックCEO)。

国内で大手企業と相次ぎ提携

日本でのビジネスの歴史は古い。1953年に山武計器(現アズビル)と合弁事業を設立し、計測技術などで提携。2002年まで資本関係が続いた。その後も、日本では航空・物流・機能化学品などで事業展開している。
航空分野では17年に日本航空に燃料消費量の分析サービスを提供している。19年2月には物流で日本通運インテルと共同でセンサーを用いた輸送状況の可視化サービスも始めた。19年5月にはデンソーと電気の力で飛行する「空飛ぶクルマ」の基幹技術の開発で提携したと発表。モーターやインバーターで構成し、動力を発生させる「推進システム」を共同開発する。
国内で矢継ぎ早に大企業との協業を進めている。日本ハネウェルの西巻宏社長は「我々の技術を顧客に届けるには1社だけでは不可能。注力分野で企業とのアライアンスを強化していきたい」と一歩踏み込み、得意とするIoT技術を進展させる。
(企業報道部 福本裕貴)

結束のために

*[世界史]一悶着あって。
日経FTより。
イギリスがますます「離脱ありき」で突っ走っていて、一方EUサイドではかなり冷静に鎮静を図る人たちがいる。
これ、なんとなくのお芝居のように見えなくもない。
「外交は茶番ではなく歌舞伎である」とえらい先輩が言っていた。
かぶくは「傾く」で「変わった身なりや行動をすること」らしいので、そういう劇場なのかもしれないではないか。
傾くものと往(い)なすもの。
で劇場が成り立っているとか。

だから今回の英国の離脱は「また戻ってくるための歌舞伎」ではないかと思っている。

先のえらい先輩曰く「英国(かの大英帝国)が歴史上、大陸から離れることはあり得ない」ともおっしゃっていた。
仲良くまとまるためには、まず一度大喧嘩が必要な場面なのではないだろうか。
そう思うと米中とか中東とか、みんな「まとまるための前哨戦」だといいなと思うのでした。
 
仏欧州問題担当相、EU統合推進に意欲
2019年8月1日 11:51

Financial Times

フランスのアメリー・ドモンシャラン欧州問題担当相は、マクロン大統領が掲げる欧州連合EU)統合推進路線を支えていく決意を明らかにした。ただ、ユーロ圏経済から防衛まで多岐にわたる結びつきの強化を巡り、他のEU加盟国からは反発も出ている。

 
フランスのドモンシャラン欧州問題担当相はEU統合推進に意欲を見せる=ロイター
ドモンシャラン氏は民間エコノミスト出身の国民議会(下院)議員で、現在34歳。4カ月前に欧州問題担当相に任命された同氏は、次期欧州委員長に選ばれたドイツのフォンデアライエン国防相と志を同じくしていると述べた。欧州委員長が職務を遂行する上では独仏両政府からの支持が欠かせない。
一方でドモンシャラン氏は、マクロン氏に比べて慎重だったり、リベラルな方向性を好まなかったりする他のEU加盟国の首脳によって、フランスの提案内容が阻止される可能性もあると認めた。
ドモンシャラン氏の優先事項としては、英国のEU離脱に伴う影響への対処、気候変動対策、移民審査の厳格化、EUの防衛協力、ユーロ圏共通予算計画の維持が挙げられる。
ドモンシャラン氏は「フォンデアライエン氏の話の多くに極めて近いことをフランスで行っている」としつつ、「誤解はたくさんある。フランスが声を上げると、本来の姿より野心的であるように受け止められることが多い。フランスは野心的だが、権力欲の塊ではない」と付け加えた。
「ユーロ圏共通予算というのは、政府支出を国内総生産GDP)比40%にしろということではない。社会改革というのは、セーフティーネット基本的人権のことであって、欧州のあらゆる国がフランスのように最低賃金を設定しろという意味ではない」と説明する。
「軍事機密を共有したければ、軍事力を共有し、ともに動員することを学んで初めて実現できる。しかし『明日から欧州軍にしたい』と言っても無理だ」との見方も示した。
立ちはだかる「合意なき英EU離脱
ドモンシャラン氏の目指す道筋に立ちはだかるのが、就任したばかりのジョンソン英首相だ。ジョンソン氏は悪影響が予想されても「合意なきEU離脱」に突き進むことを辞さない構えで、フランスをはじめとする近隣諸国にとって大きな脅威となっている。
さらにフランスは、地中海を渡って南欧にたどりつく不法移民に手ぬるいという批判をイタリアのポピュリスト政権から浴びている。財政規律に厳しい欧州北部の国々からは、ユーロ圏共通予算の推進で何をたくらんでいるのかと疑いの目を向けられている。EU内の最も重要なパートナーであるドイツのメルケル首相は常に、国の主権をEUに移譲することについてマクロン氏より慎重な立場を示してきた。
それでもドモンシャラン氏は、EUの機関や制度の運営で市民参加を増やす取り組みなど、フォンデアライエン氏とフランスに共通する目標のいくつかで前進できるとみている。
「英国のEU離脱を促したようなEU懐疑論、実態とは異なる社会通念、偽ニュースなどが示唆しているのは、欧州が遠い存在であることだ」と指摘。
「ところが実際の日常生活では、たくさんのことが欧州によって決められている。私は3人の子どもを持つ母親だが、子どもたちが学校で習う内容、医療、ワクチン接種、医薬品の安全性、ゲーム規制などだ。誰もそれを語らないだけであって、政策の実行時にも実生活と関連づけられない」と述べた。
フォンデアライエン氏は、次期欧州委員長として欧州議会で承認されるために必要な左派やリベラル派の支持を取り付けるため、EU共通の難民政策やEU全体を対象とした何らかの最低賃金制度など、マクロン氏やドモンシャラン氏が歓迎するような要素を数多く含む政策方針を打ち出した。
ドイツがユーロ圏共通予算に反対している点を問われたドモンシャラン氏は、経済ショックの影響が偏り、一部の国だけで失業が増大する状況の是正に向けた「財政連帯」メカニズムをフォンデアライエン氏が支持していることに触れ、「それがドイツ的なのかどうかは分からない」と続けた。フォンデアライエン氏が欧州議員の支持を獲得するために言い出しただけではないかとの質問に対しては、「そのような事情があったにせよ、彼女はそう言った」と答えた。
移民問題で問われる手腕
英国の離脱以外で、EUがこれから何カ月にもわたって議論を繰り広げなければならないテーマといえば移民問題だ。マクロン氏は、ポピュリスト勢力やナショナリスト勢力が政権を握る東欧や南欧の国々と同時に、フランス国内の極右政党「国民連合」を率いるルペン党首を警戒している。国民連合は5月に行われた欧州議会選挙で、与党「共和国前進」を小差で破った。
フランスは、EU域内と域外を隔てる国境の管理を強化して不法移民を減らそうとしている。同時に、まだ限定的な成果しか上げられていないものの、EU加盟国間で移民受け入れの負担を分担しながら、保護を受けるべき人々が落ち着けるよう難民申請の処理を迅速化することも目指している。
ドモンシャラン氏は「スペイン、イタリア、マルタ、キプロスだけに移民への対応を任せておくわけにはいかない」と話す。「そうしてしまうと、ポピュリスト運動を生んでしまい、移民が管理されず、連帯と責任を伴う形で組織されていないために、大変危険な思想が勝手に広まるようになる」
ドモンシャラン氏は、EUの制度や分かりづらい意思決定手続きを簡素化し、5億人のEU市民により身近なものとすることにも意欲的だ。2020年から「欧州の未来に関する会合」を2年間にわたって開催するというフォンデアライエン氏の提案を支持している。
「判断を下していくためには、内部の意思決定プロセスの変革が欠かせず、リーダーシップと勇気が必要だ」とし、「東対西や北対南、最悪な形では小国対大国など、欧州内でブロックに分かれてしまうことが最も危険だと考えており、このリスクを取り除くための仲間を見つけなければならない」と語った。
By Victor Mallet
(2019年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/
(c) The Financial Times Limited 2019. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

amazonの逆

北海道の江別市に新型の蔦屋書店がオープンして賑わっているという。
結論としては「何もないところ」に「ここにしかないもの」を配置したということらしい。
それまでの大規模店舗は全国チェーンを中心に配していたと言うが、言われてみればそんなもの飽きるに決まっている。
 
こういう試みを結論から「コンセプトが大事だね」と言うは易しだが、事業をする側にしてみれば重大な決心だったのだろう。

地元の人のための地元の産物やサービスを揃える。

「地元」という概念の希薄な大都市圏ではつい「全国の名産物を集めよう」などと総花的に考えてしまうが、そもそもの当たり前な思考をするのは案外難しいものだと思った。
蔦屋書店の梅谷知宏社長は「amazonとは逆のベクトルの空間を創造したい」とおっしゃるが、かの巨人が"amazonにしかないもの"とか"amazon世界の地方展"なんかをやり始めたらと思うと恐ろしい。
"体験型の消費"にしてもそのうちネットで実現してしまうのではないだろうか。
 
 
蔦屋、令和の「イオン」になる
2019年8月1日 11:30
北海道江別市に蔦屋書店の新型店が2018年11月に開業し、今も平日からにぎわう。3年間札幌に勤務していたが、隣の江別市に対する印象は薄い。実際に運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の事前調査では住民も「何もないところ」と控えめ。なぜ江別なのか。

 
レストラン、物販、書籍が一体となった蔦屋書店(北海道江別市)
約4万4500平方メートルという広大な敷地があったことも大きいが、CCC側は潜在価値を見つけた。近年の札幌は地価が上昇し、マンション価格も80平方メートルで4000万円台と首都圏並みに上昇。このため江別はそのベッドタウンとしての価値が上がっている。
そして市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る。「江別なら田園都市でのスローライフの提案ができる」と判断し、新たな店づくりに乗りだした。昭和は駅前中心の再開発、平成は郊外型ショッピングセンターの建設ラッシュが目立った。
令和はどうか。少子高齢化・人口減が進み、モノは余る。買い物は米アマゾンを中心としたネットやコンビニエンスストア、ドラッグストアが中心になる。リアル店舗の役割は食、地域コミュニティー、知的な刺激など体験型が生命線だ。
江別の蔦屋書店は東京・代官山、銀座以上に一段と脱・本屋が進んでいる。いうならばコトを重視したミニSCで、令和型「イオン」か。江別の蔦屋は3棟建てで食、知、暮らしのゾーンに区分けされる。コアは書籍が中心の約1500平方メートルの知だが、食のゾーンでは同じ規模でフードコートを展開している。
フードコートは地元や北海道で知る人ぞ知る名店だけを集めた。カレー、イタリアン、おはぎなどなど。函館で人気の回転ずしが運営する「おにぎり」店、薫製専門店など全国チェーンのSCでは味わえない店舗を誘致した。
暮らしのゾーンではカフェ併設のグリーンショップ、家具のセレクトショップやアウトドア用品などで構成。子供の遊びフロアも備え、ガラス張りの壁からは実物の電車が見える。
地域密着型を掲げる江別・蔦屋の売り場以外の特徴はイベントだ。これも著名なタレントなどを呼ぶのではなく、料理や手芸など地元の住民が主催する内容が多く、月に100回以上開催しているという。
これまでSCと言えば、全国ブランドの専門チェーンを柱で構成していた。それでは飽きられるし、他地域から人を呼ぶこともできない。地域性の強いテナント構成にすることで"外貨"も集められる。外食企業のバルニバービの佐藤裕久社長も「そこにしかないものをつくらないと町の再生はできない」と指摘している。
CCCは今後、こうした地域型蔦屋書店を積極的に出店していく方針。北海道プロジェクトを推進してきた蔦屋書店の梅谷知宏社長は「アマゾンとは逆のベクトルの空間を創造したい」と話す。何もない制約条件こそ他にないものをつくるチャンスかもしれない。

中村直文(なかむら・なおふみ) 1989年日本経済新聞社入社。産業部、流通経済部で百貨店・スーパー・食品メーカーなどを担当。日経MJ編集長などを経て2018年4月から経済解説部編集委員。専門分野は流通・個人消費など。
 

フィンテック序章

*[ウェブ進化論]本当のサービスはこれから始まる。
渡辺千賀さんのブログより昨年末のフィンテックカンファレンスの紹介記事。
紹介されているスタートアップ10社はどれも先見性に秀でているが、
・無料証券
・無料口座開設
・給与の前借り
・債権回収
・資産運用
・仮想通貨プラットフォーム
などなど。
どれももちろん「モバイル」は必須だが、どれも「これは我が目を疑う」というようなアプリケーションではない。
それだけ金融関連業界というのが遺跡のように残っていたということだが、まだまだ「技術のイノベーション」が起こるのはこれからだという気がする。
いろんなデータが桁違いに収集されて分析される時代に入って、まだそんなに時間は経っていないからこれから画期的なサービスが出てくるのだろう。
(体調や脳波を計測して)自分の気分にあった音楽を流すとか、その日にお勧めの食材やお店を案内するとか、
勉強しておいたほうがいい題材を紹介するとか、台風や地震でリスクがありそうな人に注意を促すとか、
今までには想像しなかったことがこれから起きるに違いない。
何か一つくらい自分発のサービスを考えてみたいと思う。
 

未来のマネーは誰の手に。有力スタートアップ10社

 
2018/12/6
アメリカ・ラスベガスで10月21日から4日間にわたり開催されたフィンテックカンファレンス「Money20/20 2018」。数百社の参加ベンチャーの中から、未来のお金をつくるフィンテックベンチャーの可能性を探る。
近未来のフィンテックや決済サービスにフォーカスした世界最大のカンファレンス「Money20/20 2018」。そのテーマは「未来のマネー」だ。前編ではアメリカ金融界の現状をお伝えしたが、まさにそこから近未来の金融を新たにつくりだすプレーヤーとなるのが、有力フィンテックベンチャーだ。「Money20/20 2018」参加企業の中から10社をピックアップして紹介する。

アプリの使いやすさに定評/Robinhood(ロビンフッド
2013年創業、53億ドル超調達。モバイルに特化した証券会社。600万人ユーザー。
株の取引手数料は全て無料。一般の株に加え、2018年2月には仮想通貨の取り扱いも開始して一気に100万人の新規ユーザーを獲得した。株の初心者だけでなく、マージン取引、時間外取引などパワーユーザーにも対応。
通常専門機関に委託する株取引の清算・決済機能についても、2年かけてゼロから構築したシステムが最近完成、低コスト体質をさらに強化している。アプリの使いやすさにも定評があり、金融系アプリとして初めてApp StoreGoogle Play両方で優秀賞を受賞。IPO準備中とのうわさ。
ターゲットはミレニアル世代/Varo Money(バロマネー)
2015年創業、1億2000万ドル超調達。モバイルに特化した銀行。
20〜30代のミレニアルをターゲットとした銀行で、口座維持費もオーバードラフト料もない。さらに、モバイル銀行としては全米初の銀行免許も2018年8月に仮認可済み。許認可が必要な銀行業務に関して、現在はバンコープ銀行と協業しているが、本認可が済んだら全て自社で行えるようになる。実は、バンコープはプリペイドデビットカード発行が主業務のため、使い勝手が少し悪い。
共同創業者は、ビザ・ヨーロッパの取締役、アメックス英国のCEOなどを歴任したエグゼクティブ。オンライン専門銀行の競合には、2016年創業で2700万ドル調達したゼロ、2013年創業でバロ同様1億ドル以上を調達したチャイム、2009年創業で1500万ドル調達したのちスペインのBBVA銀行に買収されたシンプル、驚くなかれ自動車会社のGMが1919年に自動車ローンのために創設したアリー・ファイナンシャルの子会社、アリー銀行などがある。
金利ゼロで給与を前借り/Earnin(アーニン)
2012年創業、3900万ドル調達。給料前借り用モバイルアプリ。5万社と提携。
アメリカの多くの州(※1)には、次の給料日までの間、少額のローン(※2)を貸し出す「ペイデイ・ローン」というビジネスがある。年利にすると数百%という高利にもかかわらず(※3)、利用者は1200万人(※4)。これもアメリカの「合法ウシジマくんビジネス」のひとつであるが、その代替となるサービスのひとつがアーニンだ。
時給で働く人が、銀行口座と働いている会社をアプリに入力すると、既に働いた時間分の給料を500ドルを上限に借りられる。例えば、給料日は2週間後だが、今日8時間働いたという場合、8時間分の給料が前借りできる。借りられるのは、税金など天引きされる分は除いた、本当の手取り分だけ。
そして、なんと、金利はゼロである。「どうやって儲けるのか」というと、「利用者が自発的に支払うチップ」が利益の源泉。アメリカ人のDNAにはレストランでの18〜20%のチップが組み込まれている。100ドル借りて2〜3ドルチップを払うのには、それほど抵抗がない人が多い。しかし、金利で考えると、100ドルを2週間借りて2ドルのチップを払ったら2%、複利だったら年利70%近い。なんというビジネスモデルだろう。
時給で働く従業員が多いスターバックスウォルマートピザハットなどと提携。労務管理システムと直結して自動化、ユーザー総計で毎週500万時間の労働時間になるという。
アプリで債権回収/Scratch Services(スクラッチ・サービシス)
2015年創業、1700万ドル調達。モバイルに特化した債権回収事業。ユーザーは数百万人。

要は「取り立て屋」である。アメリカの取り立ては電話と郵送がメインで、いずれも人海戦術で非効率な運営がされているので、そこをモバイルアプリで自動化。複数の貸し手から重複したローンを抱える人も多いので、それを統合して表示する。
債務者それぞれに、パーソナライズされた支払金額やスケジュールを作成。いつまでにいくら必要か、もらった給料はどれくらい使えるのか、などを管理する機能により、債務者の返済能力そのものを向上させ、回収率をあげると会社側は言っている。
ピンタレスト出身、社員もピンタレスト・アマゾンなどから集め、使いやすいアプリ開発にいそしんでいる。
中小企業貸し付けで急成長/Kabbage(キャベッジ)
2009年創業、16億ドル調達(借り入れ含む)。中小企業向け融資事業。2017年末時点までの貸出総額40億ドル以上。
その名もキャベツ。年間5万ドル以上の収入がある会社に、25万ドルを上限として融資を行う。オンラインで融資申し込みをすると、最短で6分で融資決定。オーナーの個人保証も必要ない。その秘密はユーザーのデータと直結していること。銀行口座や会計ソフト、さらにはツイッターのフォロワー数、顧客からのレビューなどSNSからもデータを直接吸い上げ、独自のアルゴリズムで自動的に貸出額を決定する。
データのつながる先はどんどん拡大しており、小規模の店舗などがクレジットカードでの支払いを受けられるスクエアや、アメリカの宅配事業者UPSも対象となっている。
個人に近い形のオンラインショップなども対象となり、「日々の売り上げ」「配送の回数」など、ありとあらゆるデータを取り込んで最適な融資額を自動的に算出する。日本からはソフトバンクリクルートも投資している。
きめ細かな設定で幅広く展開/Marqeta(マルケータ)
2010年創業、1億3000万ドル以上調達。クレジットカード発行・運用のバックエンド機能提供サービス。

うたい文句は、「ソフトウェアエンジニアにフォーカス」。ユーザーとなる企業のソフトウェアエンジニアを自社システムに組み込み、きめ細かな設定ができる機能をAPI(※5)を経由で公開している。
競合となりえるビザとも提携し、ビザがこれまで取り込めなかった小口の加盟店取り込みをマルケータが行うことですみ分けができると、2社は発表している。例えば、リテール業者が社員にカードを発行して仕入先に直接支払うのを可能にしたり、オンデマンドで買い物を代行する事業者が配達員に特定の店舗だけで使えるカードを発行したりする。
また、企業が社員に用途や上限額を細やかに設定したコーポレートカードを発行し、リアルタイムで利用状況を監視する、など幅広い。購買時にその商品限定のローンを設定し分割払いを可能にするといった、昔でいう月賦型の販売を、物理的なカードではないバーチャルカードで提供することもできる。ヨーロッパでの事業展開も発表済みで、近く日本にも進出予定。
銀行業務の自動化で100行以上が利用/Synapse(シナプス
2014年創業、1700万ドル調達。銀行業務を自動化しAPIで提供。100行以上の銀行で利用されている。
書類確認、必要書類提出など銀行のバックオフィス業務を自動化。どちらもAPIで提供することで、自社のシステム開発能力が低い中小銀行でもオンラインバンキングを導入できるようにした。
従来、顧客あたり毎月30〜50ドルかかっていた維持コストを、シナプスは自動化により数ドルにまで引き下げることに成功。さらに、本人確認や出入金といった顧客インターフェイス側機能の自動化にもメニューを広げている。
ユーザーの中には2兆5000億ドルの資産を管理するフィデリティのような大手行も。証券、投信、プライベートバンキングなど多様な事業を持つフィデリティにとっては、煩雑なコンシューマー向け業務をアウトソースするメリットがある。現金だけでなく仮想通貨口座機能も提供しているので、アブラ、クラーケン、ザポなどの仮想通貨ウォレット事業者や、取引所事業者もシナプスのユーザーとなっている。
ミレニアル世代の社会貢献意識に着目/Swell Investing(スウェル・インベスティング)
2015年創業、3000万ドル調達。社会的意義のある企業への投資ができる資産運用事業。顧客数1万人。
年商94億ドルの大手保険会社、パシフィックライフがIDEOを起用して新事業を創造したのがスウェル。IDEOが提唱する「デザイン思考」「プロトタイピング」「Power of 10(※6)」など、最近はやりのバズワードを満載したプロセスで素早く事業化に成功。業界内でも熱い注目を浴びている。
20〜30代のミレニアル世代には「社会的に意義があることに貢献したい」というニーズが高い。そこに着目して、「再生可能燃料」「グリーンテック」「病気撲滅」「クリーンウォーター」「リサイクル」「健康的生活」など、目的別に投資先の会社をポートフォリオ化して投資できるようにした。さらに、より広範な対象に投資したい人向けに、国連が提唱する持続可能な開発目標に即した企業を幅広い領域から選択した「インパクト 400」もある。
アフリカ・アジアで少額融資/Tala(タラ)
2011年創業、5000万ドル調達。途上国の起業家を対象にマイクロファイナンスを提供。130万ユーザー。
アフリカやアジアの銀行口座を持たない人々に、少額融資を提供。30日ローンが基本で、毎回、11〜15%の手数料を取る。複利計算で年利数百%となるので一見、暴利にも見える。しかし、借りている人たちは他に事業資金を借りる手段がなく、この資金で小さくとも儲かる事業を短期間に立ち上げることができるという、ウィンウィンの関係だ。
ローン申込者の85%に対して、10分以内に融資を決定。その根拠は「スマホの番号」だ。これをもとに、申請者の携帯料金支払い履歴、移動履歴、通話履歴等のデータを収集、独自のアルゴリズムで融資を行う。
事業開始時は全くデータがなかったので、とりあえず少額の貸し出しをして、「貸し倒れリスク」を自ら体当たりで算出。そこから事業を拡大していった。現在ケニア、フィリピン、タンザニア、メキシコでサービスを提供。2018年4月時点で130万人に3億ドルを融資した実績がある。
厳選した案件を扱う仮想通貨ベンチャー/Coinlist(コインリスト)
2017年創業、920万ドル調達。適格投資家(エンジェル)向け仮想通貨ICOプラットフォーム。これまでに総計4億ドル以上がコインリスト上のICOで調達されている。
最後は変わり種で、仮想通貨関連ベンチャー。昨年来、何かと話題を呼んだ仮想通貨だが、そのICO(イニシャル・コイン・オファリング)を扱うのがコインリストである。ICOというと、怪しい人が怪しい会社を作り、怪しいマーケティングで巨額の資金を調達して、そのままいなくなる、というイメージがある。実はそのイメージはかなり正しかったりするのだが、コインリストは「まっとうな案件」しか扱わないことで実績を築いてきた。
同社CEOは「2500件の持ち込み案件があった中から、厳選した5件のICOのみを取り扱った」と語っている。米国証券取引委員会が規定する投資家の適格資格審査、ICOを行う母体ベンチャーの情報開示、ICO時の購入取引の処理などが事業内容だ。2018年の年初から10カ月ほどで、ICO市場は94%ダウン(※7)している。しかし、「持ち込み案件は減ったが、優良案件は増えている」(同社)と冷静だ。テクノロジー業界は、景気の悪い時こそ仕込み時ではある。
ソフトウェア開発こそ生き残りの条件
以上、データ、API、自動化、といった単語が何度も出てきたが、金融界がいかにソフトウェア化しているかご理解いただけただろうか。
マーク・アンドリーセンが「ソフトウェアが世界を食いつくす」という有名な寄稿をウォールストリート・ジャーナルにしたのが2011年。GEの前社長ジェフ・イメルトが「全ての会社はソフトウェア会社になる」とインタビューで語ったのが2015年。
 2018年の今、ゴールドマン・サックスの従業員の3分の1、実に9000人がソフトウェアエンジニア(※8)の時代になった。社内でソフトウェア開発ができない会社のビジネスは、今後、スピードの差こそあれ下降線をたどると思われて久しい。あなたの会社はいかがだろうか。
渡辺千賀(わたなべ・ちか)
経営コンサルタントシリコンバレーで日米事業開発のコンサルティングに長年従事。テクノロジー領域での最先端のイノベーションにフォーカスし、投資と共同事業開発を組み合わせた日米企業アライアンスに強みを持つ。 大学卒業後、三菱商事の営業部門に女性初の総合職として入社、IT 関係のハード・ソフト米国ベンチャーへの投資や投資先の日本での事業開発に携わるなどしたのち、マッキンゼー社でマネジメントコンサルティングに従事、大手電機メーカーのインターネット戦略などを手がけた。現MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏のもと、アーリーステージベンチャーの投資・育成に従事した経験もある。2000年に渡米しBlueshift Global Partnersを創業。スタンフォード大学MBA東京大学工学部都市工学科卒 
(編集:久川桃子 デザイン:斉藤我空)
 

バカの効用

*[次の世代に]人生を切り開く面白さ。

Yahoo!ニュース・林家木久扇さんのインタビュー後半より。
ライバルは「先月の売上げ」好きな言葉は「入金」と洒落る師匠が語る。
東京大空襲で自宅を消失したという体験からの流転の人生。
その時々の辛いことからどうやって生きる道を探していくか。
戦争世代はそんな教訓を残してくれる。
高度成長期の"ど真ん中世代"との違いは、やはり諸行無常ではないだろうか。
バカの得意技は、あんまり考えずにまず動き出しちゃうこと。
自分にできることを見つけて、自分で人生を切り開いていく面白さを感じてほしいですね。
与えてもらおう、正解を教えてもらおうと思っていても、楽しい人生にはなりません。
貴重な体験の話は、今聞いておかねばならない。
もうあまり時間はないのである。

今の日本には「バカ」が足りていない―― “笑点の黄色い人”林家木久扇が貫くバカ道

 

現在、弟子が11人(真打ち6人、二ツ目4人、前座1人)。寄席や落語会では、自らロビーに出て「木久蔵ラーメン」を手売りする。「道に向けてガラスに押し当てて、ほらほらって指さすとウケるんですよね。お客さんとあれこれお話しできるのも楽しいですし」
落語には貧乏話がたくさんありますけど、本当に貧乏暮らしをしていそうな落語家が「たくあんは尻尾のところがオツで」なんて話をしたら、物悲しくて聞いてられません。本当はそれなりにステーキとかいいもの食べてるんだろうけど、高座では貧乏をリアルに語るのが芸だし、カッコいいと思う。インタビューで「ライバルは?」と聞かれたら、「先月の売り上げ」と答えています。一番好きな言葉は「入金」ですね。
お金へのこだわりを話しても、ユーモラスでほのぼのした印象を受けるのは、人柄のなせる業である。本当は貧乏ではないのに貧乏を語るのが芸であるのと同じように、バカではないのにバカを演じるのも、磨き上げた芸にほかならない。
バカは楽しいですよ。「あの人はバカだから」と思われたら、誰にも恨まれないし、みなさん仲良くしてくれます。ちょっとぐらい失敗しても「しょうがないなあ」で済んじゃう。「バカの力」は人間関係を円滑にしてくれます。ただ、人を傷付けるようなことを平気で言っちゃう「本物のバカ」には、なっちゃダメです。バカにされたくないとムキになるのも、かなり困った種類のバカですね。いや、私に言われてたら世話ないですけど。

これまでに2度、落語を聴いた人から「死ぬつもりだったんですけど、木久蔵さんの落語で大笑いしたら悩んでいるのがバカらしくなって、死ぬのをやめました」という手紙をもらったことがあるという。「噺家やっててよかったなと思いました」

今の日本には「バカ」が足りていない

最近はなんだか窮屈な世の中になっていますよね。「生きづらさ」なんて言葉もよく目にします。電車に乗っていても、若い人がつまらなそうな顔をしてる。生きているのは面白いことのはずなのに、もったいないですよね。みなさん、バカが足りないんじゃないでしょうか。そりゃあ毎日いろんなことがありますけど、いちいちまともに受け止める必要はない。柳に風で、そよそよ吹かれてればいいんです。悩みや苦しみのほとんどは、考えてもどうにもならないことや、どっちでもいいことなんですから。
戦後の民主主義教育って、いい面もいっぱいあるけど、「みんな平等です」と教えたのはあんまりよくないですね。人間は平等ではありません。与えられた環境は人それぞれだし、得意不得意もある。人と同じものを欲しがるから、手に入らなくて腹が立ったり引け目を感じたりするんです。バカの得意技は、あんまり考えずにまず動き出しちゃうこと。自分にできることを見つけて、自分で人生を切り開いていく面白さを感じてほしいですね。与えてもらおう、正解を教えてもらおうと思っていても、楽しい人生にはなりません。

40代で重度の腸閉塞、62歳のときには胃がんで胃の3分の2を切除、そして5年前には76歳で喉頭がんを患った。「空襲も入れて、4回死にそうになりました。今こうやって生きて落語をしゃべっているのは奇跡みたいなもんです」
――昭和、平成と世の中を明るく盛り上げた林家木久扇さんが、令和の時代に持ち越した「宿題」はなんでしょうか。
落語家として、バカとして、たくさんの人に笑ってもらえた人生に悔いはありません。まだまだ元気ですから、令和ではバカの普及と育成に力を入れたいと思っています。
そのためにもやりたいのは、落語のアニメを作ること。落語はライブの芸だから、その場で消えちゃう。でも、今は映像で残すことができる。落語には昔から、小道具を使って盛り上げる芝居噺という手法がありました。今の技術と組み合わせた新しい形の落語があってもいいはずです。そういうのも、言葉遊びと絵を描くことの両方ができる自分の役割かなと思って。
アニメになれば、世界中に落語を広めることができます。矢が飛んできて「やあねえ」なんてのをアニメで表現できたら、小さな子どもたちもきっと飛びついてくれる。子どもの頃から落語に親しめば、人間に対する優しいまなざしみたいなものを覚えてくれて、丸みがあるっていうか、トゲトゲしない大人になってくれそうです。それこそ、バカのふりができるようになる。そういう大人を増やしたいですね。
近ごろは、世の中がどんどん進歩して、なんだか人間の情感が置いてけぼりになっているように感じます。パソコンやスマホに振り回されているし、リニアモーターカーで東京から名古屋に30分ぐらい早く着いたところで、それがいったい何なんだってことですよ。ゆっくり立ち止まって、日常生活の中で面白いものを発見する力を取り戻したり、鷹揚に生きる幸せを思い出したりしたほうがいい。そうなるために、令和の日本では「バカ」がもっと広まってほしいですね。いや、みんながみんな私みたいになっちゃったら、日本の国も困りますけど。

 
林家木久扇(はやしや・きくおう)1937(昭和12)年、東京・日本橋生まれ。落語家。東京大空襲により生まれ育った自宅が焼失。56年に漫画家・清水崑氏の書生となる。氏の紹介で60年に三代目・桂三木助に入門。61年に桂三木助が死去し、八代目・林家正蔵門下に移り、林家木久蔵となる。65年、二ツ目昇進。69年から日本テレビ系『笑点』のレギュラーメンバーとなる。73年、真打ち昇進。82年、「全国ラーメン党」を結成。2007年、木久蔵の名を息子のきくおに譲り、林家木久扇となる。近著に『林家木久扇 バカの天才まくら集』(竹書房文庫)がある。

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、『大人力検定』『大人の言葉の選び方』『大人の人間関係』など、大人をテーマにした著書多数。相手をリラックスさせつつ果敢に踏み込み、本音や魅力を引き出すインタビュー術にも定評がある。趣味は、スマホに頼らず知らない街を徘徊すること。
 

相手の気持ち

*[次の世代に]伝わるかが命。
Yahoo!ニュースより。
漫才コンビ・ナイツの記事。
漫才って、お客さんが近いか遠いかでもスピードを変えなきゃいけないんで(中略)球場の広さによってピッチングを変えるピッチャーみたいな感じですね。
 
『今日の審判はココを取るな』っていうのと一緒で、漫才も『今日はここで笑うな』っていうのが何となく分かって『じゃあ今日はスピードちょっと遅くした方がいいな』とか。ホントそんな感じです」
「今日の審判(聞き手)はここを取る」これだ。
最近、福祉関係の施設を訪問していてつくづく思うのだが、自分たちはあまりに「相手の反応」に関心を払っていない。
言いっぱなし。
「まあ日本語で話しているし、そんなに専門用語もないから伝わっているだろう」と思い込んでいる。
これがお年寄りや子供には通じない。
長文の話も伝わらない。
情報量は極力少なくして、核心として伝えたいことに絞る必要があることにも気づく。
ここから見えてくるのは、ナイツがネタを披露する際には「どんな内容か」だけでなく、「どう聞かれるか」まで徹底的に計算し尽くして準備を重ねているということ。
日常で自分たちが「相手」に対して話すとき、一体どれほど伝わっているだろうか。
営業のプレゼンで、仲間内の会議で、クレームのやり取りの場で「言いたいことを言う」という姿勢があまりにも強くなかったか…
 
この間、プレゼンのうまい先輩にそんなことを聞いてみたら「ああフジノ、それにはスマホで撮って自分で見てみるのが一番だね。大体、実に面白くないからさ」とのことだった。
対策は身近にあった。

吉本問題で浮き彫りになった、漫才師ナイツの“お笑い地肩”の強さ

 

吉本問題で浮き彫りになった、漫才師ナイツの“お笑い地肩”の強さ

 吉本興業の一連の問題に端を発し、「お笑いとは」「お笑い芸人とは」を考えさせられる昨今。若手からベテラン、さらには、引退した大物まで総登場する大喜劇(悲劇?)が続く中、別角度から「これぞお笑い芸人」と感服させてくれた人物がいます。関東漫才界の雄・ナイツの塙宣之さんと土屋伸之さんです。
動画削除の背景に“もう一つの”理由
 まずは7月23日、京セラドームで行われたプロ野球巨人対ヤクルト戦で「吉本いじり」の漫才を披露。この前日にあった吉本興業・岡本社長による「ぐだぐだ会見」を踏まえながら、闇営業問題で揺れる同社を痛烈に揶揄(やゆ)してみせました。
 
この様子は、翌日のワイドショーなどが映像付きで紹介。「ナイツさすが!」と話題になると、「ナイツの本気はもっとすごい」として、22日のライブで披露された「吉本興業 ジャニーズ」と題した漫才動画が一気に拡散。マセキ芸能公式サイトにアップされていた動画の再生回数は100万回を突破しました。ただ、動画はその後すぐに削除されたため、「圧力があったのでは」と臆測が流れる展開に発展したのです。
 
ナイツはこの圧力疑惑について、27日放送の「土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送」(TBSラジオ)で言及。「頭おかしいのか、マセキ芸能社!」とツッコミを入れつつ、圧力ではなく、100万回も再生されると「今後の独演会でも披露したいのにウケなくなってしまう」という理由で、自ら削除を指示したことを明かしました。
 
さて、ここまでの内容は、スポーツ紙やネットメディアなどでも報じられているため、ご存じの方も多いはず。筆者が注目したいのは、ナイツがラジオで語ったもう一つの削除理由について。こちらは、ほとんどのメディアがスルーしていました。
 
塙さん「生鮮食品と加工食品の違いです。何回見ても笑える言い間違いのネタとかは別に(拡散されても)いいんです。旬で、この時期にしかできないネタは、お刺し身と一緒で腐るから。それを(ネット上に)上げないでほしい」
 
土屋さん「ドームのお客さんに向けてやったネタだからね。それをテレビとかで流されると、間とかが違うんだよね」
 
塙さん「そりゃそうだよ。テンポが悪いと思われたら嫌じゃないですか」
 
「100万回も再生されたらウケなくなってしまう」というのは、ある意味で営業的側面。対して上記のやりとりは漫才の技術的な観点から、「ネットで何回も見てほしいネタではない」と語ったわけです。
 
独演会とテレビでテンポが異なる理由
 二人のやりとりをラジオで聞いて、筆者が以前、塙さんに漫才論についてインタビューした際にも同様の話があったことを思い出しました。ナイツの漫才DVDに収録されていた独演会での漫才と、テレビで見る漫才でテンポが違う理由を質問すると、こんな答えが返ってきたのです。
 
「漫才のスピードっていうのは『広さ』によるんですよ。だから、DVDでは(独演会場の)250人の人が一番聞き取りやすいように作っています。DVDで見る人のことを考えてネタを作ったり、しゃべったりはしていないんですよ。お金を払って舞台を見に来てくれた人のためのものなので」
 
「テレビの場合はまた違ってきて、テレビを見ている人を意識してしゃべるので、やっぱり速くなるんです(中略)漫才って、お客さんが近いか遠いかでもスピードを変えなきゃいけないんで(中略)球場の広さによってピッチングを変えるピッチャーみたいな感じですね。
 
『今日の審判はココを取るな』っていうのと一緒で、漫才も『今日はここで笑うな』っていうのが何となく分かって『じゃあ今日はスピードちょっと遅くした方がいいな』とか。ホントそんな感じです」(エキレビ!「ナイツ塙宣之に聞く」)
 
ここから見えてくるのは、ナイツがネタを披露する際には「どんな内容か」だけでなく、「どう聞かれるか」まで徹底的に計算し尽くして準備を重ねているということ。そんな二人ならば、このネタを出したら、いずれネットで話題になることすら計算しているはずです。
 
そこにあるのは、「とにかく面白いものを」という笑いへの矜持(きょうじ)であり、徹底した「お客さんファースト」の視点。だからこそ、誰にも忖度(そんたく)することなく、たとえ圧力があっても屈することはないでしょう。
 
それは、これだけ売れっ子になった今も、テレビだけでなく寄席を主戦場とするナイツだからできる芸当ともいえます。お笑いの危機が一部で叫ばれる今こそ、本当のお笑い力、笑いの地肩が試されているのかもしれません。
ライター/構成作家 オグマナオト