藤野の散文-私の暗黙知-

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やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論


創造の正体。

自分もまったくそう思ってたが、偉大な発明は余人をもって代えがたい「唯一無二の出来事」であったと思っている。

著者の引く、電話の発明者、グラハム・ベルの発明はなんと二時間後にエリシャ・グレイからも出願されいた、という話。

世界に二つとないはずの、世紀の発明が、な、なんと二時間違い!!!そんなバカな。


また、コロンビア大のの研究者が過去の研究を分析した結果、1900年までの約500年の間に、148もの「同時期の発明」があった、という指摘にはまったく目が醒めた思いがした。

創造性とは誰もできないような斬新な考え方をする、他人とは質的に異なる「ユニークな能力」ではなく、必然的に起ころうとしている発見を誰よりも早くつかみ取る「効率のよさ」のこと

  • ロバート・K.メルトン

創造は、偶然すらがもたらす、唯一無二のチャンスを開花させる、という曲芸的なものではなかった。

『この説が正しいとするならば、創造性を高めるとは、何かユニークな能力を高めることではなく、時代の流れとしての社会の叡智の成熟の程度を観察し(つまりよく勉強し)、そこから効率よくアイデアを読み取り、プロジェクトとして実行するという、情報処理能力のことです。

自分が「こう」と思いこみ、固定観念のあるものほど、その底に棲む理屈を知ると驚愕する。
ベルの発明の「二時間差」を聞かされると信じられない、としか思えないものが、「いやあ、五年に一つか二つはあるものだよ」と相対化されることによって、一気に酔いが醒める。
自分の常識など、その程度のものでしかなかった。


終わりに。さらなる推薦書。


備忘録としては異常に長いものにになってしまったが、「濃い」書物にぶち当たった時は、いかんともし難く。

この後、著者の推薦する「研究者の自己啓発とキャリア形成のための20冊」として、七つの習慣はじめ、興味深い本の紹介がされている。


・時間管理について
・コミュニケーションについて
・研究者としての心構えについて
・チャレンジ精神を学ぶために
ストーリーテリングについて
アメリカについて知る
・プレゼンテーションのために


と興味深い推薦書が並ぶ。
この20冊の推薦も合わせて、本書の構成になっているのだと思う。


それにしても、この著書の稀有な点は、その「異質さ」にあるのではないか。
とつくづく思う。


これはウェブ進化論、を読んだ時の衝撃に少し似ている。
当時、勃興する「ネット社会」というものが、まだ発展中だったのにかかわらず、それを完全に「構造化」して説明し切ったところにウェブ進化論の特異性があったのだと思う。
(もう少しあとに、再度評価されるだろうと思っている)

そして「研究者の仕事術」は、おそらく本来は「戦略」とか「戦術」をあまり持たぬであろう研究者、という職種にウェブがその独特のレバレッジを与え、「研究者」という最も素朴そうで、「狡猾さとか、戦略性」と馴染みの薄いと思われがちな分野に、ビジネス社会ではずい分と用いられている「戦略」を応用したらどうなるか、という提言の書なのである。


が。
それなら「研究者の間での戦略の書」で終わればいいはず。
が、そこに不思議なフィードバックができてしまった。

著者が提唱する「研究者の持つべき仕事術」は、そういえば(ビジネスマンに比し)非常に「専門性」を追求するゆえの「厳格な法則」を浮き彫りにしてしまった。

研究者の峻厳。

つまり著者が研究者の仕事を「戦略的にとらえた」結果、「著しく専門性の高いプロとしての研究者の強み」が『ビジネスに従事する者たちにフィードバック』される、ということが起こっているようなのだ。

自分もなぜこの本にそんなに惹かれるのか、というのは最後まで不確かだったが、ようやく分かった。

研究者の仕事術、はとりもなおさず「ビジネスマンの生きる術」でもあるということ。

そういうこと。


何のために仕事をするのか、とか
強みを伸ばす、とか
生産性をあげる、とか
自分の世界で一番になる、とか
変化に対する苦痛・恐怖を克服する、とか
自分のストーリーを語る、とか………


みんな、みーんな、そこいらのビジネスマンでは、そこまでシビアに捉えられていない、研究者ならではの鋭い「感性の指標」なのだった。
著者である島岡要氏が、ウェブ進化論はじめ、あまたのビジネス書に惹かれ、エッセンスをもらったという現象と同様に、
著者はそれを研究者の視点で咀嚼し、そのままビジネスピープルにフィードバックしたのではないか。


素敵な表紙の装丁にも救われたが、貴重な書物とのであいに感謝する。