藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

これから来る未来。

高齢者問題の相談を受けていて、一番驚くのは本人と家族の「無関心」である。
医療技術や薬のこと、介護の保険や施設のことなどが複雑すぎることもあると思うけれど。

「なぜその病気になったか」「なぜこの治療法か」「なぜその施設を選ぶべきか」「なぜそのリハビリが必要か」
そんな一番大事な"なぜ?"を本人も家族もあまり聞こうとしない。

特に「認知症」については現在も研究途上で、特効薬もまだない。
食品や薬やサプリメントや、様々な対応(ケア)の方法を試行錯誤しながら今に至っている。

認知症はここ10年で"一千万人時代"が来ると言われている。
こうした混沌とした病気にこそ、最新の情報を知っておいて、身近で患者が出た場合に備えたい。
そして何よりも、自分自身が病気について情報を集めておくべきだと思う。
ネットだけでもかなりのことが分かる時代だ。

実は大きい認知症診療の格差、その理由とは

見落とされがちな認知症診療の問題点に目を向ける【前編】

2018/8/23 田中美香=医療ジャーナリスト

2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計され(*1)、今や認知症は、すべての人にとって「明日はわが身」の病気となっている。それにもかかわらず、「今の認知症診療には、認知症のある人に接する際に肝心な『本人の視点』が、医療従事者にも家族にも抜けていることが多い」と、東京慈恵会医科大学精神医学講座教授の繁田雅弘氏は指摘する。現在の認知症診療に潜む問題と、今われわれが目を向けるべき課題について今一度考えてみよう。

*1 「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)について」(2015年)

「もしかして認知症?」と疑って、1人で受診する人が増えつつある

あちこちの病院で「物忘れ外来(メモリークリニック)」を見かけるようになりました。こうした外来を受診するのは、家族に連れられて、という人が多いのでしょうか。

繁田 かつては、家族が心配して本人と一緒に病院に行くことが多かったのですが、最近はその限りではありません。「細かいことを思い出せない、認知症かも…」と、記憶力の減退を自覚して、1人で受診する人も増えてきました。

 当院では、立地(東京都港区)の影響かもしれませんが、約3分の2は1人で来院されています。重要なプロジェクトを任されている、会社を経営している、などの社会的責任がある人が万一に備えて、あるいは1人暮らしの人が「独立した子どもを心配させたくないから」という理由で早めに受診するようです。受診する人の年齢は、当院では平均60〜80歳ですが、40〜50歳の人も時折見られます。

物忘れが増えたことを心配して、1人で受診する人も多い。(c) szefei-123RF

 でも、早く受診したからといって、すぐに認知症と診断されるわけではありません。病院によっては、せっかく本人が物忘れに気づいて受診しても、「まだしっかりしているから大丈夫」で済まされてしまい、数年たって症状がかなり進行してから家族が気づき、さらに近隣の人たちも異変に気づいて再受診するというパターンも多いように思います。

 物忘れ外来で「今は大丈夫」と言われても、1年に1度くらいのペースで同じ医師に診てもらうことをお勧めします。そうすれば、1年前の状態との比較ができますから、物忘れがどのくらいの速さで進んでいるか、薬による治療は必要かなどの判断がつきやすいと思います。

中高年になると誰でも物忘れが増えますが、ただの物忘れと認知症との決定的な違いは何でしょうか。「こうなると認知症だ」という決め手はありますか。

繁田 認知症の症状は、種類も程度も人それぞれです。認知機能が従来と比べて例えば、1〜2割低下したときに、一定の基準で見ると、認知症の範疇に入る人もいれば、入らない人もいます。それはベースとなる知能レベルに個人差があるためで、もともと知能が高く、少々レベルが低下したからといって一般的な認知症の基準に該当しない人もいれば、少し能力が低下しただけで認知症に該当してしまう人もいるわけです。

 そのため、「こんな物忘れがあるから」「認知機能を調べるテストが△点だから」と、線引きをして認知症を判断することはできません。私は、認知症かどうかを判断する際、テストの点数よりも、日常生活の中でどんな変化が、どのくらいの期間で起きてきたかを知る「問診」を大切にしています。

問診では、例えばどんなことを聞くのですか。

繁田 問診では、いつから物忘れが見られるようになったか、物忘れ以外にどんな症状が気になるかなどについて、本人や家族にヒアリングし、その人の元の状態からどう変化したのかを調べます。さらに、認知機能に影響を与えるさまざまな要因、例えば治療中の病気や薬についてもお聞きするので、メモにして持参するとスムーズです。さらに、症状が軽く診断が難しい場合は、ウェクスラー記憶検査、ADAS(エイダス)などの認知機能テストを行うこともあります(表1)。

表1 認知症診療では、問診に加えて各種検査を行う

心理検査

  • 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE):認知症の疑いを拾い出すスクリーニング検査。結果が悪ければすでに中等度を超えた認知症のことが多い
  • ウェクスラー記憶検査(WMS-R)、ADAS(エイダス Alzheimer's Disease Assessment Scale):上記検査より精度が高く、特に軽度の認知症を判別する際の参考になる

画像検査

  • 脳の形を見る検査:CTやMRI認知症の原因や、認知症以外に脳の重大な病気がないかを調べる
  • 脳の働きを見る検査:脳の血流を調べるSPECT検査、脳の代謝を調べるPET検査などがある。費用が数万円〜数十万円かかり、すべての病院で対応しているわけではない

その他の検査

  • 他の病気が原因で物忘れが起こる場合があるため、血液検査、心電図検査、胸部X線検査など、一般的な全身の検査を行うこともある

アルツハイマー型など、認知症にはいくつかのタイプがあるといいますが、問診だけでタイプまで判別できるのですか。

繁田 認知症には表2のようなタイプがあります。問診だけで、認知症のタイプまでは確実に判別できませんが、ある程度の見当をつけることは可能です。

表2 認知症の半数以上はアルツハイマー型が占める

アルツハイマー
(50〜60%)

脳に特定のたんぱく質アミロイドβなど)が蓄積し、記憶を司る「海馬」の神経細胞が破壊され、脳が萎縮する

脳血管性
(約20%)

脳梗塞脳出血くも膜下出血などによって脳の血管が詰まる・破れることにより、神経細胞が壊死して起こる

レビー小体型
(約20%)

レビー小体というたんぱく質神経細胞を破壊する。妄想や幻覚が起こることが多い

その他

前頭側頭型認知症、正常圧水頭症、硬膜下血腫、甲状腺機能低下症などによっても認知機能の低下が見られる

 他の重要な脳の病気を除外するため、あるいは認知症の原因を調べるためには、MRIやCTなどの画像検査も有効です。物忘れなどの症状から診断された方はアルツハイマー認知症と呼ばれますが、真のアルツハイマー病と診断するためには、脳の中にアミロイドがたまっていることを確認する必要があり、それを調べたい人には PET(*2)を勧めることもあります。多くの場合、画像診断の結果も参考にしながら、問診や認知機能テストを主軸に、アルツハイマーや血管性の疑いがある、と判断して治療を進めます。

*2 PETはPositron Emission Tomographyの略で、ポジトロン断層撮影、陽電子放射断層撮影という。がんの検査で使われることが多いが、放射性同位元素を利用するため対応する医療施設が限定され、費用が10万〜数十万円前後かかる。研究用に用いられることが多い。
次ページ

見落とされがちな認知症診療の問題点に目を向ける【前編】

2018/8/23 田中美香=医療ジャーナリスト

認知症の薬は安易に使わず、まずは生活環境を整えることが必須

病院で認知症だと診断されたら、認知症の治療薬をすぐに使うのでしょうか。

繁田 認知症の薬物治療では、認知機能の程度やその人の状況に応じて、4種類の薬が使われます(図1)。ただ、薬の使い方には注意が必要です。「あなたは認知症です」と診断されると、本人はショックのあまり混乱をきたすことがあるからです。動揺した人が薬を飲んで脳を刺激すると、さらなる混乱を招きかねません。不安が強ければ、精神的に追い込まれた結果、逆に興奮することもあります。認知症だと診断されたからといって、即、薬だけに頼ってはならないのです。

図1 認知症に使われる薬の種類

[画像のクリックで拡大表示]

 薬を使うにあたり、まず大切なのは生活の基盤をきちんと整えることです。他の病気で処方された薬を飲み忘れていたり、特に1人暮らしの人は食事や睡眠が不規則になっていたりするので、生活全般を見直す必要があります。その上で薬を使うなら、かなり効果があると私は考えています。ただ、生活を整えることには相当な手間がかかり、診察時間も長くなります。そのため、1人の患者さんに長く時間をかけられない医師もいるのではないか、だとしたら認知症医療の質に格差が生じているのではないかと懸念しています。

 医師により、薬の使い方が異なることも問題です。「薬のせいでかえって状態が不安定になる」、あるいは「少し薬を使ってみたが、それほど効果がない」といった経験から薬を積極的に処方しなくなった医師もいます。また、処方する場合でも、量が少なかったり、きちんと効いているかどうかを判定するための認知機能テスト(ADASなど)はあまり行われていません。半年から年1回程度で十分ですが、テストに数十分かかることもあり、あまり行われていないようです。

 きちんと治療効果を調べて、本当に効果がないのなら薬は変更すべきでしょう。逆に、効果が出ていれば薬をしっかり飲んだほうがいい。中途半端な使い方は避けるべきですが、現実は医師によって治療に差が出ているように感じます。

 他の病気ではこうした状況はあり得ません。高血圧の人に、血圧を測らずに薬を処方することはないでしょう。認知症の治療や効果判定に格差が生じている現状は、大きな問題です。

見落とされがちな認知症診療の問題点に目を向ける【前編】

2018/8/23 田中美香=医療ジャーナリスト

認知症では、妄想のような症状も現れます。こうした症状に対しても、まずは環境調整が第一なのでしょうか。

繁田 妄想や興奮、徘徊、暴力行為などは、認知機能が低下するという「中核症状」とは別に、「行動心理症状(周辺症状)」と呼ばれています(表3)。強いうつ状態や、不眠などが現れる場合もあります。うつや睡眠障害があるなら、向精神薬を使うほうがいい場合もありますが、できるだけ薬を使わず、環境を調整することで対処するのが理想的です。

表3 認知症の症状は多岐にわたり、どの症状が出るかは人それぞれ

中核症状

記憶障害、見当識障害、失語・失行・失認、実行機能障害など

行動心理症状
(周辺症状 BPSD)

興奮、妄想、幻覚、徘徊、不安、うつ状態、攻撃(暴言・暴力)など

※上記はよくある症状の一例。人により、この他にも多彩な症状が現れる。
※BPSDは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略。

 周辺症状は、家族や介護者を悩ませますが、実は家族や介護者が助長することも多いことを知っておいてほしいと思います。そうした意味では、「症状」というより「反応」といったほうが適切かもしれません。誰だって、なりたくて認知症になったのではないのに、「また忘れたの?」「しっかりして!」と怒られるのはつらいものです。こうした言葉は、足を骨折した人に「何で歩けないの」と言うのと同じように、本人にとってはつらく、理不尽な言葉なのです。

 反対に、1人暮らしの人は、周辺症状が圧倒的に少ないのが特徴です。自分しかいない環境では、ADL(日常生活動作 *3)が破綻したり、ためこみ症候群(いわゆるゴミ屋敷)になることはあっても、非難する人もいないので、興奮や暴言・暴力に至ることはまれです。

 本来、認知症は急速に進むものではありませんが、不適切な介護やストレスがかかると早く進むことがあります。周辺症状だけではなく、認知機能そのものが軽度から中等度、高度、と段階的に進むのです。妄想も幻覚も、物忘れですら、家族だからこそ許せないのは分かりますが、周囲の関わりが本当に大切であることを知っておいてほしいと思います。

*3 食事や着替え、排泄、入浴、移動、身だしなみなど、日常生活に欠かせない基本的な行動のこと。

 後編(2018年9月27日公開予定)では、認知症の人が自分らしく笑顔で生活するために家族はどう関わるべきか、そして将来自分もかかるかもしれない認知症に対して、どう心構えを築けばいいのかについて聞いていく。

繁田雅弘(しげた まさひろ)さん
東京慈恵会医科大学精神医学講座教授 同大学附属病院精神神経科・メモリークリニック診療部長

1983年東京慈恵会医科大学卒業後、スウェーデンカロリンスカ研究所老年病科客員研究員、東京慈恵会医科大学精神医学講座講師、東京都立保健科学大学教授、首都大学東京健康福祉学部教授・学部長を経て、2011年同大学副学長、2017年より現職。専門は老年精神医学。著書に『気持ちが楽になる 認知症の家族との暮らし方』(池田書店)ほか多数。
編集協力:ソーシャライズ
病気の解説やその分野のトップレベルのドクターを紹介するWebサイト「ドクターズガイド」を運営。