藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

老いとはなんだろう。

まだ中学なのに「おじさんぽい人」はいた。
「エイジング」とはいうけれど、自分がどうして「どんなふうに」老いるのかは分からない。
見た目に顔のシワが深い人が置いているのか。
それとも歩き方がヨタヨタしている人が老いているのか。
それとも固定観念に縛られている人が老いているのか。

このアミロイドβというカスは、若いうちは逐次分解されて脳から一掃されるようになっている。
睡眠にはこうした老廃物を洗い流す役割があるから、やはりよく眠ることは大切なんじゃな。(中略)

健康な高齢者の脳では25〜30%にアミロイドβ蓄積が見られるが、軽度認知障害の人(アルツハイマーほどではないが年齢相応よりも記憶低下などがある)では約60%、アルツハイマー病患者では90%にこのカスが溜まっているんじゃ

脳は寝ないと老化するのか。
いや「寝ても晴れない悩み」があると老化するのだろうか。
悩みのない人などいないと思うが、その「カス」の処理の仕方で脳の老化にはずい分違いがありそうだ。

アルツハイマー病患者では、側頭葉と頭頂葉、後帯状皮質、そして後に前頭葉アミロイドβの蓄積が観察されるが、より記憶機能と関連するのは、タウの蓄積のほうではないかと言われておる。
(中略)
しかし、病気の進行とともにタウの蓄積が側頭葉や頭頂葉、そして大脳皮質全体に広がっていくにつれて、脳の機能は全面的に崩壊していくことになるんじゃ…

脳そのものの「寿命」なのか。
それとも「生活習慣病」のような脳の「習慣」のせいなのか。
みんなで筋肉体操」のように、これからは脳の使い方についても考える時代になりそうだ。

「新しいことを学べない脳」は、どこにカスが溜まっている?

10/4(木) 6:00配信


写真:ダイヤモンド・オンライン
 「大人の脳は成長しない」はウソ!?脳が衰える人、成長を続ける人の違いとは?26万部突破のベストセラーシリーズ著者にして、イェール大で学んだ米国医師が明かす「エイジング研究」の最前線とは? 最新刊『脳が老いない世界一シンプルな方法』の本文から一部抜粋してお送りする。

※ストーリーの背景となる「老いの科学(エイジング・サイエンス)」については下記参照。
[第1回]
なぜ、身体が30代の若さなのに、脳が50代レベルに「老化」した人がいるのか?
https://diamond.jp/articles/-/180503
● 脳回路の不具合は「老廃物」が原因 ―アミロイドβとタウ

「身体のときと同様、脳についても老化を食いとめたり、脳を若返らせたりすることはできないの?」

私が問いを挟むと、スコットは目を輝かせながら人差し指を立てた。

「うむ。もちろん、そのための方法はある。しかも、根拠のわからない怪しげなものなどではなく、科学的にしっかりとした方法がな。だが、それを理解してもらうためにも、今日は『脳が老化する際のメカニズム』について話をしようと思っておったんじゃ。よいかな?」

この老人が気まぐれなのは、前回のレクチャーで確認済みだ。そのうちにまた「疲れた」とかなんとか言って、ベッドで眠りはじめるかもしれない。仕方なく私は流れに身をまかせることにした。
 「脳というのは精密機器のように複雑な臓器じゃ。脳がコンピューターだとすると、マザーボード上の無数の回路パターンが(ニューロン)だということになる。
脳を使い続けていると、ニューロンニューロンのつなぎ目(シナプス)に、さまざまな老廃物が溜まってくる。その代表格が、ニューロンの表面にあるタンパク質から生まれるアミロイドβじゃ。これは50歳よりずっと前から脳に溜まりはじめると言われておるぞ。

このアミロイドβというカスは、若いうちは逐次分解されて脳から一掃されるようになっている。睡眠にはこうした老廃物を洗い流す役割があるから、やはりよく眠ることは大切なんじゃな。
しかしなんらかの理由で、このアミロイドβの蓄積量が一定ラインを超えてくる。実際、老人の脳を顕微鏡で見ると、老人斑と呼ばれる茶褐色のシミが観察されるが、この大部分はアミロイドβだと言われておるんじゃ。

健康な高齢者の脳では25〜30%にアミロイドβ蓄積が見られるが、軽度認知障害の人(アルツハイマーほどではないが年齢相応よりも記憶低下などがある)では約60%、アルツハイマー病患者では90%にこのカスが溜まっているんじゃ」

「きゅ、90%にカス……。たしかに、そんな脳がまともに動くとは思えないわね」

祖母の脳に、たくさんの老廃物が溜まっているのを想像すると、胸が痛くなる。

スコットはものすごい勢いで、私の知らない知識をまくし立てていく。
レクチャー中の彼はいつもとはまるで別人だ。

「さらにもう一つ、脳の老廃物として注目されるのが、タウというタンパク質じゃ。通常、タウはニューロンの形を整える役割を担っておるんじゃが、ニューロンが死んでしまうと、タウを含む骨格だけがカスとして残ってしまう(神経原線維性変化)。
タウの蓄積は、アミロイドβの蓄積よりも15年ほど遅れるため、より根本的な原因はやはりアミロイドβだという指摘もあるんじゃが、いずれにせよ、こうした老廃物が引き起こす脳の機能不全こそが、脳の老化現象にほかならないんじゃよ」

● 50歳と90歳、脳は150グラムの重量差! ―人間の脳は萎縮する

「老廃物だらけの脳がうまく機能しないってのは、なんとなくイメージはつくんだけど、脳にカスが溜まることと、脳の動作に不具合が出てくることって、実際はどうつながっているの?」

「いい質問じゃな、ミワ!」老人の目が輝きを増す。
 「脳は老化に伴って、判断力・思考力・計算力・理解力・処理スピードなどを総合した認知機能を失っていく。しかし、アルツハイマー病などに顕著に見られるのは、やはり記憶力の低下じゃ。
ただし、記憶といってもいろいろじゃよ。人の名前などはもちろんじゃが、『外出するときに玄関のカギを閉めたかどうか』を覚えておくエピソード記憶、さらには買い物でお釣りを暗算するときに必要になる記憶(ワーキングメモリ)……これらの機能すべてが、加齢によって低下することになる。
なぜ脳の老廃物の蓄積が、脳の機能低下につながるのか? これにひとことで答えるとすれば、カスの蓄積は神経細胞の死を招き、ひいては脳の萎縮を引き起こすからじゃ」

「……そんなに小さくなっちゃうの?」

「いかにも。50歳の脳と90歳を比較すると、重さにして平均11%(約150グラム)の違いが見られる。健康な高齢者では年0.5%ずつのペースで脳が縮んでいくのに対し、アルツハイマー病患者では年0.9%ずつ萎縮しているらしい(*)」

Wyss-Coray, T. (2016). Ageing, neurodegeneration and brain rejuvenation. Nature

, 539(7628), 180-186; Marcus, D. S., Fotenos, A. F., Csernansky, J. G., Morris, J. C., & Buckner, R. L. (2010). Open access series of imaging studies: longitudinal MRI data in nondemented and demented older adults. Journal of Cognitive Neuroscience
, 22(12), 2677-2684. それを聞いた私は、スーパーで売っている150グラムのお肉を思い浮かべていた。
「ものすごい違いじゃないの!」

ニューロンは一般に分裂しない。しかし、サイズが大きくエネルギー消費量も多いため、十分に世話をしないとたやすく死んでしまう」

「あ、それなら聞いたことがあるかも。脳細胞は死んだら戻らないって」

「それは部分的には正しいが、部分的には誤りじゃな。というのも、脳内にも幹細胞は存在していて、新たな細胞が生み出されることがわかっているからじゃ。
たとえば、記憶を司る部位として有名な海馬には幹細胞がある。しかし、老廃物の蓄積がひどいと、細胞が生み出されるペースよりも、細胞が死んでいくスピードがまさってしまう。その結果、脳が萎縮していってしまうというわけじゃ(**)。
ただし、脳が小さくなることと脳の機能が落ちることは、完全にイコールだというわけではない。脳の機能はそのサイズだけでなく、脳内の神経伝達物質やネットワークの状況など、複雑な要素が絡んでおるからだ(***)」

Eriksson, P. S., Perfilieva, E., Björk-Eriksson, T., Alborn, A. M., Nordborg, C., Peterson, D. A., & Gage, F. H. (1998). Neurogenesis in the adult human hippocampus. Nature Medicine

, 4(11), 1313.

Raz, N., Lindenberger, U., Rodrigue, K. M., Kennedy, K. M., Head, D., Williamson, A., ... & Acker, J. D. (2005). Regional brain changes in aging healthy adults: general trends, individual differences and modifiers. Cerebral Cortex

, 15(11), 1676-1689; Gunning-Dixon, F. M., & Raz, N. (2000). The cognitive correlates of white matter abnormalities in normal aging: a quantitative review. Neuropsychology
, 14(2), 224.
● 「新しいことを学べない脳」は、どこにカスが溜まっている?

「脳の部位によって、カスの溜まり方や萎縮スピードにも違いがあることがわかっているぞ。たとえば、アミロイドβは外側の大脳皮質から内部の海馬へと向かって増えていくが、タウは逆に、海馬から脳全体に拡散していく。
記憶に問題のない70歳の人の3分の1にも、相当のアミロイドβ蓄積は見られるから、シンプルに『老廃物の蓄積=認知・記憶の障害』というわけではない点にも注意が必要じゃな」

「『どんなカスが、どこに、どれだけ溜まるか』によって結果は大きく変わってくる、ということね?」

彼の話になんとかついていこうと、こちらも頭を必死にフル回転させる。スコットは満足げにうなずく。

アルツハイマー病患者では、側頭葉と頭頂葉、後帯状皮質、そして後に前頭葉アミロイドβの蓄積が観察されるが、より記憶機能と関連するのは、タウの蓄積のほうではないかと言われておる。
タウ蓄積の主戦場は海馬とその周辺の側頭葉で、海馬が担う近時記憶(数分から数日程度の記憶。エピソード記憶が含まれる)がダメージを受ける。より短い記憶である即時記憶には前頭葉頭頂葉が使われておるし、昔あったことに関する長期的な記憶(遠隔記憶)の機能のほうは、側頭葉や大脳皮質のいろいろな場所にストックされておるから比較的保たれる。しかし、病気の進行とともにタウの蓄積が側頭葉や頭頂葉、そして大脳皮質全体に広がっていくにつれて、脳の機能は全面的に崩壊していくことになるんじゃ(*)」

Dani, M., Brooks, D. J., & Edison, P. (2016). Tau imaging in neurodegenerative diseases. European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging

, 43(6), 1139-1150. 
ここまで一気に話したところで、彼は手元の緑茶をすすった。つられて私も一緒にお茶を口にする。
「……脳の老化メカニズムが、ここまでわかっているなんて……正直、驚いたわ」
「脳の老いを引き起こす老廃物の存在は、それを測定できる技術が出てきて初めて注目されるようになった。その代表格がPET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)という画像検査じゃ。どれ、一つ面白いものを見せるとしよう」

スコットは手元のタブレット端末を操作して、動画を立ち上げた。
最初は紫色だった脳の断面画像だったが、いくつかの部分の色が次第に変わっていき、黄や赤の部分が増えていく(**)。

Bateman, R. J., Xiong, C., Benzinger, T. L., Fagan, A. M., Goate, A., Fox, N. C., ... & Holtzman, D. M. (2012). Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer's disease. New England Journal of Medicine

, 367(9), 795-804.
「世界には、遺伝的に若くしてアルツハイマー病を発症する家系というものがある。発症率が100%の遺伝子型(APOEε4)を持っている人たちがこの世には存在するんじゃ。この動画は、彼ら遺伝性アルツハイマー病患者の脳画像を、発症25年前から発症後10年までの35年間分、ずらっとつなげたものじゃ。色が変わっているところがアミロイドβの蓄積が見られる部位じゃな」

久賀谷 亮(くがや・あきら M.D. / Ph.D.) 医師(日・米医師免許)/医学博士
イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。
日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事する。そのほか、ロングビーチメンタルクリニック常勤医、ハーバーUCLA非常勤医など。
2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。同院長として、マインドフルネス認知療法やTMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開中。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。
脳科学薬物療法の研究分野では、2年連続で「Lustman Award」(イェール大学精神医学関連の学術賞)、「NARSAD Young Investigator Grant」(神経生物学の優秀若手研究者向け賞)を受賞。主著・共著合わせて50以上の論文があるほか、学会発表も多数。趣味はトライアスロン
著書に『脳が老いない世界一シンプルな方法』『世界のエリートがやっている 最高の休息法』『脳疲労が消える 最高の休息法[CDブック]』、監訳・解説書にジャドソン・ブルワー『あなたの脳は変えられる』(以上、ダイヤモンド社)がある。