藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

老後の蓄財。

リバースモーゲージという考えが日本に入ってきたのは、もう十年も前になるだろうか。
流行りの欧米式金融緩和の流れ(ビッグバン)の中で、今後の高齢化社会へ向けて「これからはこれだ!」とばかりに着目されていた言葉である。

「逆の住宅ローン」というこの概念は、1300兆円を超す蓄財を持つ日本人は、もっと老後の生活不安を悲観的に考えずに、「むしろ消費して楽しむこと」を考えるべきだ、という風潮から生まれた。
実際、平均2-3千万を蓄財したまま寿命を終える人が多い、という事実からは「蓄財が過ぎるのではないか」という推論は成り立つだろう。
しかし。
しかし日本人は蓄財を止めない。
国民性が「慎ましい」と言えばきれいだが、やはり「国に対する無条件の信頼」とか「路頭に迷い、国に保護を恃むか否か」という判断では、どうしても「安心できるレベルまで」は蓄財をせねば気が済まぬ国民性に根ざしていると思う。
これはこれで「自己責任で食べていく」という強い自立意識と、実に「均等な所得の配分システム」が共存しているということなのだろう。

中国の友人は、日本の税金制度のことを「高度な共産主義システム」と表現するが、さもありなん。
極度なお金持ちも少ないが、飢えて命を落としたり、また国の保護にだけ頼る人口も非常に少ないのだ。

けれど、数千万円の財産を後にして天寿を全うする人が多いかどうか、というとこれはまた疑問。
「老後に生活費がなくて苦労するのは嫌だけど、別に美田を遺さなくともいい」という人も案外に多いものである。(というか多くの場合、美田は問題のタネとなるのだ)
自らの財産を「本当に十分使い切るような保険などのシステム」があれば、利用者はずい分多いと思われる。

当日経の記事を見て見ても、金利のリスクや、より高齢化した時のリスクなど、まだまだ注意点も多い。
いずれにしても、お年寄りが「自分の財産について自由に考えられる」ような仕組みと説明ができれば、これからの高齢化社会は相当なスピードで「資産の回転」があるかもしれない。
今の段階の世代が、本格的な"アッパー70ty"を迎えるころに、使いやすく、安心できる「リバース商品」ができていれば、その先の高齢者の財産は十分に流動化するだろうと思う。

自宅担保に老後資金 注目 金利や地価に注意必要
日本経済新聞 電子版
老後の生活を支える年金や退職金への信頼が揺らぐなか、新たに注目を集めているのが「リバースモーゲージ」だ。自宅を担保にお金を借り、最終的には土地売却資金などで返済する仕組み。高齢化を背景に取り扱う金融機関も増えている。

リバースモーゲージを直訳すると「逆・住宅ローン」。時間がたつにつれて借金の残高が減る普通の住宅ローンとは反対に、債務が徐々に増えるため、「逆」が付く。

「昨年の問い合わせ件数は前年比2割程度増えた」。2005年にこの商品の取り扱いを開始、既に2000件の実績を持つ東京スター銀行の担当者は話す。自宅を老後資金作りに活用しようという意識が、退職を控えた人々などの間で広がっているようだ。
もちろん、一般的に本人が生きている間は、そのまま自宅に住み続けることができる。

■相次ぐ新規参入
東京スター以外では、中央三井信託銀行群馬銀行飛騨信用組合(本店・岐阜県高山市)がリバースモーゲージを扱っていたが、昨年になって2つの金融機関が参入した。

まず、りそな銀行。資金使途を自宅リフォームに限っているが、今後徐々に広げたい考え。まずは一定の条件を満たす老人ホームの入居資金も含める方向で検討中だ。もうひとつは、西武信用金庫(本店・東京都中野区)。営業地域は東京都の西部や多摩地区が中心で、こちらは生活資金であれば広く使える。

ここでは、新規参入組のリバースモーゲージを、これまでの商品と比べながら見てみよう。

資金使途をリフォーム向けに限るりそなの商品は、ほぼ同様のローンを扱ってきていた中央三井信託に追随した内容になっている。申込時に60歳以上80歳以下の人が対象で、マンションも担保として認める。借りられるのは自宅の担保評価額の5割までで、1500万円が上限。元本返済は死亡時だが、利息は毎月払う。今の金利中央三井より高いが、一定の条件を満たせば中央三井並みの金利で使える。

西武信金は、利息分を毎月払うタイプと死亡時に払うタイプを扱っているが、実績があるのは前者のみ。

このタイプは、申込時に55歳以上80歳未満の人が対象。担保評価額(相続税を計算する際に使う路線価とほぼ等しい)の7割以内(上限1億円)の融資枠の範囲内で必要に応じて借り、余裕があれば返すこともできる。その時々の債務残高に対応する利息を毎月払う。

■配偶者も契約
死亡時に元本を返す際に、土地売却による収入が元本を上回れば、その分は払わなくていい。契約者本人の死亡後も配偶者が改めて契約を結べれば、原則として元本返済は待ってもらえる。

以上の仕組みは東京スターの商品と似ているが、主に2つの違いがある。まず東京スターと違ってマンションは原則として担保にできない。死亡時に土地売却による収入が元本を下回ったときの差額の扱いも異なる。東京スターだと払わなくていいのに対して、西武信金では相続人が請求される。

老後の助けになり得るリバースモーゲージには、リスクもある。3つの注意点について、具体的な例を挙げながら考えてみよう。

まず金利上昇リスクを頭に入れておくべきだ。変動金利型が一般的だからだ。例えば西武信金の商品では平均的な借入額が1200万円程度。これに対する利息は今の金利だと毎月2万5000円程度で済むが、金利が倍に上がれば5万円程度に増える。

地価下落の影響にも留意が必要だ。自宅の評価額や融資枠の点検が実施される商品があるからだ。東京スターは年1回見直す。枠ギリギリまで借りていてそれが下げられた場合は、返済が必要になる。

■続く利息支払い
長生きした場合も思わぬ事態に直面しかねない。例えば群馬銀の商品。限度額の範囲内で最高85歳まで毎年一定額ずつ融資を受け、債務残高に応じた利息を毎月払う仕組み。だが85歳を超えると毎月の融資は止まるのに、利息の支払いだけは続く。

これらのリスクから、リバースモーゲージの利用はあまり進んでいない。「米国を参考にして公的支援を検討した方がいい」(野田彰彦・みずほ総合研究所上席主任研究員)との声も多い。米国には担保評価額の下落リスクなどに対処する公的な保険制度が存在する。

日本にも公的機関がかかわるリバースモーゲージはあるが、利用できる人は限られている。

例えば、都道府県の社会福祉協議会が実施する不動産担保型生活資金貸付事業は原則として「低所得世帯」が対象。東京都武蔵野市には独自のリバースモーゲージ制度もあるが、武蔵野市の住民向けだ。リバースモーゲージの普及には公的な枠組みの整備も欠かせそうにない。
編集委員 清水功哉)
日本経済新聞朝刊2012年2月8日付]