藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

性の捉え方。

Dr.北村「性」の診察室ブログより。

年頃の女性のピルの利用率。

あるテレビ局の取材では、「女性の生活を豊かにするライフデザイン・ドラッグ(生活改善薬)ともいえるピルに日本人女性はなぜ飛びつかないのですか」

とまで言われては、ちょっとこれまでの性に対しての意識とは違った感じが漂う。
しかし、性に関しては"受け身"である立場の女性にとってみれば性行為を「男性並み」に扱うことが出来るという面も軽視できないのかもしれない。

そして、議論は結局日本人の"性の位置づけ"に焦点を当てる。

セックスを相手とのコミュニケーション手段として大切にできるか。
国際的にも注目されている「セックスレス大国?」の汚名を返上できるかにかかっていると思います。

結局セックスレス大国、という汚名、あるいは美名の現在を、自分たち日本人はどうしたいのか、ということになり、またこんなテーマは「そうだ」とか「ちがう」と言いにくいものではないか。
産めよ増やせよ」と言われても、もうそんな社会環境ではなくなっているではないか、という若い人の声は聞こえてくる。(不安で子供など産めません、という相談は思いのほか多い)

日本が、あるいは世界がこの先"どの程度の将来を描くか"というラフなデザインを描いていく、ということをしないで、「ただあるがままに任せる」という時代は、少なくとも先進国では終わりつつあるのではないかと思う。
もう「産んだけれど飢えている」とか「社会保障の程度が不明」という状態で勝手に人口を増やしていてもいい世の中ではなくなってしまっているのではないだろうか。

ピルの使用もしかり。
けれどその先にはもっとシリアスな、次世代像が求められているのだと思う。

嘘みたい、ピルの取材が殺到
「どうしたのだろう?」というのが僕の率直な気持ちです。実は、低用量経口避妊薬(ピル)の取材が立て続けに起こっているのです。「今さら何を」とは申しませんが、あるテレビ局の取材では、「女性の生活を豊かにするライフデザイン・ドラッグ(生活改善薬)ともいえるピルに日本人女性はなぜ飛びつかないのですか」なのですから、『ピルの邦ちゃん』としては願ったり叶ったり。逆取材で、「どうしてこういうことに興味を持ったの?」と尋ねると、「番組の女子アナがピルの恩恵を受けているようで、それがきっかけになった」と。

 取材は続きます。「日本人女性の中絶に対する意識は?」と聞くものですから、僕は以前英国放送協会(BBC)から取材に来られた女性リポーターの話を紹介しました。

「宗教的な縛りもなく、法律によって中絶が公に認められている国だから、日本の女性はピルを飲むことに消極的なのではないかしら。キリスト教の厳しい教えによって、中絶が厳しく規制されている私たちの国に比べて、妊娠したら中絶すればいいというような安易な風土があるように思います。私たち欧米の女性達が多少の副作用があることを承知でピルに飛びついたのはそのような理由からです」

 そう指摘されてみると、「そうかなあ」という気持ちにもなります。中絶に関連する法律、母体保護法には中絶許可条件というのがあって、まずは妊娠22週未満であること、経済的理由、母体の健康、脅迫や暴力による妊娠とあります。中絶統計によれば、100%に近く「経済的理由」によって中絶が行われていますが、僕自身が行った全国調査の結果によれば、事実は、「相手と結婚していないので産めない」でした。

「日本人がピルに対して抱いている誤解・偏見って何ですか」

 最たるものは、ピルを飲むと子どもができなくなる。「その通りです。ピルを飲んでいる間は確実な避妊が行われるわけですからね。妊娠する危険性は一年間で0〜0.59%(ピルの臨床試験が5000人、5万周期にわたって行われた時の成績)」。でも日本人はピルを飲んだ女性はピルを止めた後に妊娠しづらくなると思っているのです。そんな女性に、僕はピルが開発されたときの話をします。動物実験では避妊効果があることがわかっていたピル。でも、人間ではどうでしょうか。その臨床試験を行うにあたり誰が協力してくれたかは明らかです。妊娠を望んでいる女性。不妊で悩む女性が、仮に失敗してもいいからとピルの服用を決めてくれたのです。排卵があるものの妊娠しない50人の女性が3周期分のピルを飲み、排卵が抑制されたことを確認しました。

 その後ピルを飲むのを止めた女性のうち7人が続々と妊娠したといいます。一時的にせよ排卵を抑止したことで、その後リバウンド(反跳)が起こったのか、女性ホルモンが安定して入ったために生殖器が成熟した結果かはわかりませんが、ピルを飲んでいた女性がピルを止めた後に妊娠しづらくなるというのは誤解でしかないという、歴史が証明した一例ではないでしょうか。

 ピルを飲むと太るという言い方をする女性も少なくありません。ピルの成分である黄体ホルモンは「水を引くホルモン」とも言われていることからそんな誤解が生まれたのでしょうが、僕のクリニックでは確認できません。太るかどうかはピルと言うよりも、食生活や運動量などとの関係の方がはるかに影響が強いからです。

 ピルを飲んでいると出血がだらだら続くという誤解もあります。これも間違い。ピルはとても正直なお薬で、飲む時間がずれると、生理の始まる時間もずれるという女性がいます。ピルを一日1錠服用することで避妊効果は維持できるのですが、服用時間がずれると血液中のホルモン濃度が低下して出血(消退出血)してしまうことはよくあることです。飲む時間のずれが原因であって、ピルに問題があるわけではありません。

 最後の質問は次のようでした。「どうしたら日本の女性達が今まで以上にピルを使うようになると思いますか」

 ピルの最大のメリットは、女性が主体的に使える避妊法であるだけでなく避妊効果が確実なことです。そう考えると、ピルが普及するかどうかは日本人がセックスを生活の中でどう位置づけるかです。セックスを相手とのコミュニケーション手段として大切にできるか。国際的にも注目されている「セックスレス大国?」の汚名を返上できるかにかかっていると思います。

それに加えて、ピル服用に伴うメリットがたくさんあることです。卵巣がんや子宮体がんの発症率を極端に抑えられること、月経痛の緩和、月経血量の減少、何よりも、月経に振り回される生活から解放されて「月経を支配できる女性になれること」。受験、旅行、結婚式など、月経が重なることで不都合が生じる可能性があったら、ピルを上手に使うことで、早めに月経を起こす、あるいは月経を遅らせるなど自在なのです。だから、ピルのことをライフデザイン・ドラッグ(生活改善薬)と呼んだりするのです