藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

認知症という魔物。

*[次の世代に]病気を追いかけすぎないこと。
まあそれにしても、「科学技術が進歩すればするだけ、課題もどんどん増えること増えること」。
時代劇では「流行り病」で済まされていた病気の種類はどれほど増えているだろうか。
そして解明が進めば進むほど、さらに分からないことも増えてくる。
認知症」とか「神経内科(精神科)」とか。
昔は「ボケた」という表現で理解されていた症状が、今や大問題になっている。
ここ数十年は「認知症」についての取り組みが一番のテーマになりそうだ。
それはともかく。
 
高齢者の問題は「病気の話」が圧倒的に多い。(次は貧困だ)
高齢になれば、何かの病気や機能不全が始まり、そのうち寿命を全うする。
その自然の摂理を、どこまでも「病い」として追求することを、私たちはやめない。
健康寿命、という言葉はもう常識になりつつあるが、けれど誰も「さっさと逝きましょう」とは言わない。
高齢者の側から、そういう潔さを意思表示せねばならない時代になるだろう。
自分はそうしたいと思っている。
 
 

アルツハイマー予防」に既存薬が劇的効果 大阪市立大教授が発見、メカニズムを解説

ライフ週刊新潮 2019年2月28日号掲載

アルツハイマー予防に劇的効果の既存薬――富山貴美(1/2)

 近い将来、認知症患者が1千万人を超えることはもはや避けられない現実。一方、医療の最前線では、「予防」によってアルツハイマー病を克服する研究が進められている。大阪市立大学の富山貴美研究教授が明かす新たな認知症対策のカギは、意外にも既存薬にあった。
 私が「リファンピシン」という薬に、アルツハイマー病の原因となるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」の蓄積を抑える作用があると発表したのは1994年のことです。この発見が四半世紀の時を経て、「予防薬」として結実しようとしています。
 研究のきっかけとなったのは、92年に報告された、日本のハンセン病患者に関する論文です。端的に言うと、ハンセン病患者の人たちは高齢になっても認知症を発症する頻度が極めて低かった。この論文に目を通した私は、「何かある」と感じました。
 ご承知の通り、ハンセン病患者は当時の国の政策によって強制的に隔離されてきました。そうした方々は長期にわたって外界から隔絶され、しかも、同じ薬を投与され続けてきた。
 もちろん、その時点では仮説に過ぎませんでしたが、患者が服用してきた何らかの「薬」が、アルツハイマー病の発症を抑制したのではないかと考えたのです。
〈謂(いわ)れなき差別に晒され、社会との接触すら奪われたハンセン病患者の痛ましい過去。時を超え、現代の「国民病」に立ち向かう斯界の権威が、かつての患者たちの歴史から、曙光を見出した瞬間である。
 認知症治療薬の開発が急がれるなか、目下、世界中の注目を集めているのが、富山貴美研究教授が進めるこの研究だ。〉
 ハンセン病患者に関する論文を読んだ私は、早速、患者たちに長期投与されてきた薬の調査に乗り出しました。主な薬はダプソン、クロファジミン、そしてリファンピシン。これらの薬を入手して「アミロイドβ」の凝集を防げるか調べたところ、最も顕著に効果が現れたのがリファンピシンでした。
 その後、原因タンパク質の小さな集合体である「オリゴマー」の形成を抑えることができるかを調べると、ここでもリファンピシンが断トツで優れた結果をもたらしたのです。さらに研究を重ね、リファンピシンはアミロイドβだけでなく、タウやαシヌクレインといった、様々な原因タンパク質のオリゴマー形成も抑制することが判明しました。
 これにより、リファンピシンがアルツハイマー病だけでなく、脳の神経細胞が徐々に失われることで発症する、他のタイプの認知症にも効く可能性が示されたわけです。
 続けて、私たちは遺伝子改変マウスを使った実験に移りました――。
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ライフ週刊新潮 2019年2月28日号掲載

発症メカニズム

 その結果を示す前に、まずアルツハイマー病の発症メカニズムについて説明させてください。というのも、かつて唱えられていた発症メカニズムには誤解があり、これを理解しないとリファンピシンの効果を正確に分かって頂けないからです。
 そもそも、認知症のなかで最も多いのがアルツハイマー病で、認知症全体の60%近くを占めています。
 そして、このアルツハイマー病に、前頭側頭型とレビー小体型を加えた三つが、脳の神経細胞が徐々に失われることで発症するタイプの認知症です。この三つを合わせると認知症全体のおよそ80%に達します(図1を参照)。
 このような認知症の治療には、「脳内に何が溜まって神経変性を起こすのか」を知ることが不可欠です。
 この点についてはかなり研究が進んでおり、アルツハイマー病の場合は、先に述べた「アミロイドβ」と「タウ」という二つのタンパク質が脳に蓄積して発症に至ることが分かっています。
 ちなみに、認知症を引き起こすプロセスには共通する部分も多く、アルツハイマー病の解明が進めば、認知症全体の治療に繋がるというのが研究者の共通認識です。その上で、アルツハイマー病が発症するメカニズムは、2000年頃までこう考えられてきました。
 まず、アミロイドβが脳に沈着することで「老人斑(オリゴマーの固まった状態)」ができる。すると今度は、神経細胞内にタウも蓄積し始める。これらが脳の神経細胞を殺していく。そして、最終的に認知症が発症するのだろう、と。
 そのため、かつては神経細胞を殺すアミロイドβを取り除き、老人斑を消すことができればアルツハイマー病は治ると考えられてきました。実際、世界各国でアミロイドβ標的薬の研究開発が続けられ、狙い通りに老人斑を除去できたケースも報告されています。
 ところが、です。
 老人斑が消えたにもかかわらず、患者の認知機能は一向に回復しませんでした。
 臨床段階に入った薬もほとんどが失敗に終わっている。そこで、改めて原因を追究していくと、前述の「オリゴマー」の存在がクローズアップされてきました。
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ライフ週刊新潮 2019年2月28日号掲載

認知機能が改善

 オリゴマーとはタンパク質などが二つ、三つと寄り集まった小さな集合体。問題となったのはアミロイドβのオリゴマーでした。オリゴマーは小さすぎて目では確認できません。しかも、水に溶ける性質があるので脳内を動き回り、様々な部分に分散している。そのせいで最近まで存在を掴めていませんでした。
 アミロイドβのオリゴマーが増えると、タウも同じように凝集してオリゴマーを作り始めます。
 こうして誕生したアミロイドβとタウのオリゴマーこそが、脳の神経細胞を殺し、最終的にアルツハイマー病を引き起こす原因でした(図2を参照)。
 これが最新の研究で解明された発症メカニズムです。ただ、そうすると老人斑とは一体何だったのかという疑問が生じますよね。
 実は、画像診断技術の進歩によって、老人斑は高齢者だけでなく、40~50代の中年期からすでに現れていることが分かってきました。
 この点から次のような解釈が導き出せます。
 まず、オリゴマーはアルツハイマー病が発症するかなり以前から悪さを始めているようだ。しかし、患者が若い頃は代謝が活発なのでオリゴマーは分解されてしまう。中年に差し掛かると代謝は衰えるけれど、今度は脳が自らを守るために有害な物質を牢屋に閉じ込めるようになる。つまり、老人斑という形でオリゴマーを1カ所に隔離し、無力化してきた。
 さらに年齢を重ね、ついにオリゴマーを処理できなくなると、沢山の神経細胞が死滅し、最後には認知機能が落ちていく。
 現在ではこのような考え方が定着しつつあります。
 長い年月をかけて脳の神経細胞を失い続けた末に、とうとう症状が現れ、アルツハイマー病と診断される。ただし、死んでしまった神経細胞は決して元には戻りません。そのため、アルツハイマー病と診断されてからアミロイドβを除去する治療薬を投与したところで効果は薄い。だからこそ、発症前に「予防」することが重要になるわけです。
 そして、私が予防薬として可能性を見出しているのが、冒頭で触れた「リファンピシン」という薬です。
(2)へつづく
富山貴美(とみやま・たかみ)
大阪市立大学研究教授。理学博士。1984東京工業大学理学部化学科卒業。大阪市立大学大学院医学研究科准教授を経て、2018年から同大学院の認知症病態学研究教授。
特集「認知症1千万人時代に朗報! 『アルツハイマー』予防に劇的効果の既存薬」より
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