藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

多様性のヒーロー。

*[次の世代に]あなたの先は常に明るい。
流行に疎いので、「しばしばアメリカで生まれるスーパーアイドル」くらいにしか思っていなかった。
バイセクシュアルを標榜するレディー・ガガが実は「多様性の象徴」だったとは知らなかった。
 
アメリカはやはり「常に新しい、自由なもの」を追いかける象徴だと思う。
圧倒的に、マイノリティにも、若者にも、弱者にも、貧困者にもカタルシスを与える。
現実の世界はそこまで理想的ではないから、みんな「現実の諦め」の日常に生きてはいる。
けれどそことは違う「自分なりの価値観」とか「自分の好みの尊重」とか「自己肯定感」とかを国民に提示し続ける国がアメリカだ。
 
そこにはちょっと理想論ばかりで「胡散臭い」雰囲気だって漂うけれど。
それでも人は「そういう明るさ」を求めて生きているのだと思う。
そんな気持ちが持てさえすれば、厳しい現実はむしろ乗り切れさえするのかもしれない。
 
常に時代の先端に、新しい形のヒーローを生み出し、貧困や差別や戦争さえも「前向きな何か」に誘導していく。
実に優れた「国の運営メソッド」なのではないだろうか。
多分に劇場的だけれど、一般の国民って実は「そういうもの」に馴染みやすい。
どうしたって「大丈夫。先は明るいよ」と思って生きていきたいものなのだろう。
 

神様ではないレディー・ガガ ミレニアルの憂鬱(2)

きらびやかなネオンサインが連なるラスベガス。米国のミレニアル世代を代表する歌手、レディー・ガガ(33)は2018年末から2年間にわたる長期公演を始めた。そこに集う熱狂的なファンの多くもミレニアル世代だ。ガガは集まったファンたちに「あなたはありのままでいいの」と語りかける。神に救いを求めるかのようにガガを信奉するファンたちは、ガガに何を求めているのか。
車を5時間運転して駆けつけたゲイのジョージ(左)とボーイフレンド(2月、ネバダ州ラスベガス)
■ガガは2人目の母
「ガガのファンになってもう10年。僕にとって、ガガは2人目の母みたいなものかな」。22歳でゲイ(男性同性愛者)のジョージは、ボーイフレンドとその妹と一緒にカリフォルニアから車を5時間近く運転して、ラスベガスまでやってきた。メキシコ系移民らしい褐色の肌に、真っ黒な口紅が印象的だ。ジョージは「ガガは全ての人種、どんな性的嗜好も受け入れて、勇気づけてくれる存在なんです」と話す。
08年8月、ドイツでのコンサート=AP
ガガは現代の米国を代表するシンガー・ソングライターだ。08年にメジャーデビューすると、世界各国でチャート1位を獲得し、スターへの道を駆け上がった。ツイッターのフォロワー数は世界6位の7800万件超で、トランプ米大統領(約6000万件)らを上回る。
10年9月、MTVビデオ・ミュージック・アワードで生肉ドレスを着るレディー・ガガ=AP
■「生肉ドレス」に込めた思い
現代アートのような独創的なファッションで知られるガガ。しかし単に奇抜さだけを狙ったものではない。10年のMTVビデオ・ミュージック・アワードでは生肉でできたドレスを着て授賞式に現れ、動物愛護団体が「不快な行為だ」と非難するなど、物議を醸した。ドレスの意図について、ガガは後に語っている。「もし信じるものや権利を守るために闘わなければ、すぐに私たちは骨と肉ほどの権利しか持てなくなる」。当時社会問題になっていた、同性愛者を排除する米軍の規定への抗議だった。
ショーの看板の前で写真を撮るファンたち(2月、ネバダ州ラスベガス)
2月のラスベガス公演会場はジョージをはじめとする熱心なファンで超満員だった。会場を見回してみると気付くのは、同性のカップルの多さだ。25歳のルイーザと28歳のコリーンも女性同士のカップル。「隣人を大切にし、分け隔てなく誰とでも接するというガガの考え方に深く共感する」とコロラド州から来たルイーザは語る。
17年2月、米プロフットボールNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」のハーフタイムショー=AP
LGBTへの賛美歌
バイセクシュアル(両性愛者)を公言するガガ。11年に発表された代表曲「Born This Way」は、LGBT性的少数者)や有色人種ら社会のマイノリティーに向けた賛美歌だ。歌詞を公開する直前の11年1月、ガガは自身のツイッターに「これは何年も前から私の心の中にあったこと。みんなと共有できてうれしい」と投稿した。
その曲が披露されたのはコンサートの終盤だった。「ゲイでもストレートでもバイでも レズビアンでも性転換をしたって 私は正しい道にいる」。生まれたままの自分を愛そうというガガの言葉は、多様なバックグラウンドを持つ観客一人ひとりを包み込む。「黒人 白人 ベージュ(黄色人種)だろうと ラテン系でも東洋人でも 生きるためにこの世に生まれてきた 私は正しい道を歩いている」。ガガが肯定するのは、組織や宗教になじめず社会から拒絶されたと感じる人々だ。
ガガの先輩、前駐日米大使のキャロライン・ケネディ氏の初登校(1965年9月、ニューヨーク)=AP
カトリック系名門女子校で育つ
将来レディー・ガガを名のることになる少女、ステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタが中学・高校生時代に通った学校がニューヨークにある。マンハッタンの高級住宅街アッパーイーストサイドにあるカトリック系の私立女子校「セイクリッド・ハート」で、ケネディ前駐日米大使も通った名門校だ。
「ステファニーは他の生徒と比べておとなしく、友人との交流にも慎重な少女に見えましたね」。同校で当時数学を教えていたクリス・ホワイト牧師は、当時のガガの姿を鮮やかに思い出すと語る。彼女がピアノを弾き、生き生きと歌う姿が今でも目に浮かぶというが、ガガによると彼女はこの頃いじめに苦しんでいたという。
同校では毎週キリスト教の授業があり、聖書や礼拝、イエス・キリストについて学ぶ。「残念ながらステファニーのLGBTの権利に関する主張には同意することができません」。現在はキリスト教の中でも特に保守的な福音派として活動するホワイト牧師は、この点については譲らない。
「聖書は神が私たちを男性と女性に分け、結婚は男女がするものだと教えています」とホワイト牧師。解釈は宗派によって異なるが、聖書には男女の婚姻を神の秩序と述べ、同性愛を罪とみなすような記述がある。「我々は罪を犯します。神の許しを受け、同性愛から立ち直り幸せになった人を私はたくさん知っています」と牧師は話す。
18年の米誌バラエティーのインタビューで、ガガは「学校でいじめられて自分に自信が持てず、醜い人間だと感じていた。唯一の逃げ場が音楽だった」と回想した。この頃の体験が彼女のマイノリティーへの理解につながったようだ。いじめの原因について、ガガは「自分の大きすぎる夢」を同級生に理解されなかったなどと説明しているが、保守的な校風が居心地の悪さにつながっていたことは想像に難くない。
18年9月、カナダでの記者会見=AP
■ミレニアル世代、増えるLGBT
性的少数者であることを自認する人はミレニアルを中心に増えている。米調査会社ギャラップの推計によると、米国のLGBTは成人の4.5%(17年時点)。全人口で換算すると約1500万人に相当する。ミレニアル世代のLGBT比率は8.2%と高く、12人に1人にあたる。その上の世代の「ジェネレーションX」(40~54歳)の2.3倍、「ベビーブーマー」(55~73歳)の3.4倍だ。特にニューヨークやロサンゼルスなどリベラルな大都市では、同性のカップルの存在が日常に溶け込んでいる。
一方、米国社会全体がこうした性的少数者に寛容かと言えば、答えはノーだ。米国の若者を調査するジェンフォワードが18年6月に公表したリポートでは、「全ての人種の若者が米国にはLGBTに対する差別があるとみている」と指摘する。
実際、16年6月にフロリダ州オーランドで起きた銃乱射事件では、ゲイが集うナイトクラブが狙われた。米メディアの報道によると、犯人の男は日ごろから同性愛者を嫌悪する発言を繰り返していたという。今の米国では人種による分断だけでなく、性的少数者との溝も確実に深まっている。ミレニアルは本人だけでなく周囲にもLGBT当事者がいる可能性が他の年代より高く、その悩みも身近な問題となっている。
■ミレニアル世代、増える宗教離れ
ローマ法王フランシスコもカトリック教会でタブー視されてきた同性愛について寛容な姿勢に転じつつあるが、保守的なキリスト教徒の間では同性愛や妊娠中絶、離婚などを認めない考え方もいまだ根強い。ガガと同じくカトリック系の学校に通ったニューヨーク在住のAT・ヌネズ(32)は「ずっと自分を批判されている気分だった。多くの同級生は不可知論者(神の存在は証明できないとする立場)か無神論者になった」と話す。
13年8月、MTVビデオ・ミュージック・アワード=AP
多様性を重視するミレニアル世代の「宗教離れ」は加速している。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの14年の調査では、「無宗教」と答えた人の割合はミレニアルの年長組(1981~89年生まれ)で36%、年少組(90~96年生まれ)で34%に達した。彼らの親世代にあたるベビーブーマー(17%)の約2倍で、もはや米国は無宗教が異端視される社会ではなくなっている。
■等身大の歌姫
とはいえ、宗教から距離をとる若者にとって、人生の道しるべを求める思いが消えたわけではない。彼らの心のよりどころの一つになったのが、もがきながらも強く生きる等身大のガガだった。
19年2月、アカデミー賞授賞式で=AP
17年、ガガに1年間密着したネットフリックスのドキュメンタリー番組で、ガガは過去に経験したレイプやいじめによるトラウマ、婚約者の別れまでをカメラの前にさらけ出した。ガガは同様の被害に遭った若者を支援する活動に力を入れている。2月のアカデミー賞授賞式では、ガガは映画「アリー/スター誕生」の最優秀主題歌賞に選ばれ、受賞スピーチで「私はこのために何年も努力してきました。あなたも夢があるなら戦って」と涙ながらに語った。
「ガガはあなたの神様ですか?」。ラスベガスのコンサート会場でファンに尋ねて回ると、答えの多くは「ノー」。「ガガは等身大の人間だから」との理由が目立った。
「私は私のままで美しい なぜなら神様は間違ったりしないから」(Born This Way)。悩めるミレニアル世代に響いたのは聖書の教えよりも、今の時代を共に生きるガガの言葉なのかもしれない。
=敬称略、つづく
(ニューヨーク=平野麻理子)