藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

イノベーションの方法(1)

*[次の世代に]昭和と平成の俯瞰
日経産業より。
こうした関連紙の記事を読めるのは電子版の恩恵だ。
ネスレの高岡社長と早稲田の入山教授の対談より。
――銀行が株主になったことが原因だと。
高岡氏 そうです。銀行は最初は出資先の会社が小さいから、配当より長い目で育てようとする。
そこに、日本的な株主総会が生まれた。
大株主が銀行で、配当より成長を最優先するから厳しく追及しない。
成長資金も足りないからさらに金を貸す。
これで全ての産業で利益率が低くても容認する土壌ができ、総会も「異議なし」のしゃんしゃん総会になった。
自分は思う。
確かにこうした「日本性」はグローバルな視点からは批判的だが、本当にこれが悪いことなのだろうかと。
欧米の会計や価値基準に則った「効率経営」は本当に正しいのか、なんてことをよく考える。
日本の「もたれ合い」は確かに辟易する部分もあるけれど、どうもどちらも極論のような気がしてしようがない。
なんでも欧米基準に盲従せずに、本当の日本型経営を今一度考えてみてはどうだろうか。
働き方改革とか、雇用の正規・非正規とか、どうも議論の中心がずれている気がするのだ。
「刹那と長期のバランス」とはつくづく難しいが、どうにもオリジナル性がないと思う。
ふう。
(つづく)
 
 
記事引用(長文です)
働き方改革より経営改革を ネスレ高岡氏×早大入山氏
2019年5月12日 19:30
「令和」時代が幕を開けた。今後われわれの働き方や組織、会社のあり方はどう変わっていくのか。新時代に求められるリーダーの資質とは何か。ネスレ日本の高岡浩三社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授に紙上対談してもらった。(聞き手は日経産業新聞編集長 宮東治彦)
――令和時代が始まりました。今後われわれの働き方や会社のあり方はどう変わっていくのでしょう。
早稲田大学 入山章栄教授
いりやま・あきえ 1998年に三菱総合研究所に入社し、自動車、政府機関への調査・コンサル業務を担当。2008年に米ピッツバーグ大経営大学院の博士号取得。13年に早大ビジネススクール准教授。19年から現職。46歳
入山氏 僕はいい時代になると思いますね。働き方が自由になるのは間違いない。まず副業、兼業は常識になる。転職も増える。自分のやりたい仕事をその時々で選ぶようになる。
平成は昭和時代を引きずった新卒一括採用・終身雇用が残った。これはもうすぐ崩壊するでしょうが、それは社会がイノベーションを求めているから。これからは変化が激しく、先が読めない。新しい発想を生むには、異なる知を持った人と人が組み合わさるのが何より重要だが、新卒一括採用・終身雇用は最もイノベーションに向いていない。
高岡氏 ネスレ働き方改革が日本で目立っているとすれば、それは日本全体が遅れているから。正直、平成時代は失われた30年だと言わざるを得ない。日本企業の問題は根深いんです。
ネスレ日本 高岡浩三社長
たかおか・こうぞう 1983年にネスレ日本入社。「キットカット」等のマーケティング部門などを歩み、2010年に初の生え抜き社長に就任。「ネスカフェアンバサダー」を推進し、業績を大幅に伸ばした。59歳
戦後、日本は新興国型のビジネスモデルで驚異的な成長をとげた。特殊なのは新興国と違い、日本政府や有識者が外国資本の導入をよしとしなかったことだ。日本は敗戦国でローカルの投資家もいなかった。普通は外資を入れるが、日本は資金を持つローカルの銀行に目をつけ、銀行を株主にした。これは極めて特殊です。メインバンク制がある国なんて日本ぐらいですから。
実はこれがガバナンスが育たなかったとか、プロ経営者が育たなかった根底にあると思うんですよ。僕は勝手に「日本株式会社モデル」と名付けています。
――銀行が株主になったことが原因だと。
高岡氏 そうです。銀行は最初は出資先の会社が小さいから、配当より長い目で育てようとする。そこに、日本的な株主総会が生まれた。大株主が銀行で、配当より成長を最優先するから厳しく追及しない。成長資金も足りないからさらに金を貸す。これで全ての産業で利益率が低くても容認する土壌ができ、総会も「異議なし」のしゃんしゃん総会になった。
入山氏 戦後まもなくはソニーやホンダなどのイノベーティブな企業が出たが、1970年代以降は今の新卒一括採用・終身雇用が定着した。これは低コストで大量生産する製造業に適したモデル。キャッチアップ型経営で通用したのは高度成長の70年代~90年代初めまでですね。
高岡氏 ええ。戦後50年で人口が5千万人増えた事実は見過ごせない。つまり日本の高成長は優れた経営者の能力によるものではなく、人口増でマーケットが増え、勤勉な労働者が安い賃金でいい品質のものを作った。これが現実です。
成長するから誰でも経営できた。順送りでトップに就けるように社長の任期も短くなり、短い分、会長、相談役ができて、長く皆で恩恵にあずかれるようになった。全部ひっくるめて日本株式会社モデル。これをまず理解しないと。
――それを平成の30年で変えられなかったと?
高岡氏 そうですね。日本は社員がモーレツに働いてきたから成長してきたのであって、経営手腕によるものではない。だから今の働き方改革も、僕に言わせればやればやるほど国力がそがれるだろうな、と。残業削減を目的化している会社がほとんどでしょ。減らして勝てる戦略があればいいが、それもない。だから働き方改革というより経営改革をしないといけないんです。
早稲田大学教授の入山章栄氏
入山氏 ええ。プロジェクトベースでゆるく仕事をする人が増える。するとプロジェクトが終わるとやめていい。それは株式会社との決定的な違いです。株式会社は上場企業になると、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)といって株主のためにリターンを返し続けないといけない。
株式会社はやめられないので「事業転換」という謎のことをする。それで苦しんでいるのが米ゼネラル・エレクトリック(GE)。日本の大企業はみな苦しんでいる。でも当初の役目を終えた会社も多い。液晶大手のジャパンディスプレイ(JDI)なんかもそうかもしれません。令和時代は株式会社の存在意義が問われる時代になるでしょうね。
――令和時代に企業のリーダーに求められる資質は何でしょうか。
入山氏 センスメイキング理論と言いますが、リーダーの役割は自分のビジョンを部下や共感してくれる人に説くこと。外資系企業はみなそうです。ネスレグループもそうだし、英蘭ユニリーバの前CEO(最高経営責任者)のポール・ポールマン氏などはその典型で、宗教家のようにビジョンを繰り返した。
それは日本でも同じ。会社が納得感のあるビジョンを示し、従業員を啓蒙していかなければならない。逆に自分が共感できないトップの企業ならやめればいい。転職などいろいろチャンスがある時代ですから。
――日本にビジョナリーな経営者はいますか。
入山氏 今の勝ち組の企業はリーダーの顔が見える。日本電産永守重信さんやファーストリテイリング柳井正さんであり、部下に夢を見させられる人だ。壮大なビジョンを語り、それにほれて人が集まる。
ビジョンは30年とか時間軸が必要。2期4年の社長ではビジョンの腹落ちができない。米デュポン(現ダウ・デュポン)は100年委員会みたいな組織があり、毎年100年先を考える。極端ですが、孫さんは300年先ですよね(笑)。
高岡氏 経営者に必要なのは戦略立案能力です。うちの社員が戦略をプレゼンするとき、その資料の社名をネスレから競合他社に変えてみる。それで違和感なく、他社でもできそうなものは全部バツですよ。
企業が有価証券報告書で公表している戦略や、業績発表会の時に社長が説明する経営戦略をそういう目で見てください。残念ながら99%はバツでしょう。この会社にしかできない、他社には容易にまねできないというものがほとんどない。
――グローバルな経営者と比べるとそこが見劣りするということですね。
ネスレ日本社長兼CEOの高岡浩三氏
高岡氏 僕は外資系のネスレに入ったので戦略を作る能力が一番鍛えられた。社長に就いた際、どうするか考えました。キットカットは受験生に好評だったが、ネスカフェの落ち込みはカバーできない。人口減でパイは縮む。値上げが無理なら、イノベーションを起こすしかないと考えた。
イノベーションとは、顧客が気づいていない問題を解決すること。顧客がそれまで諦めていた問題だ。だからイノベーションが起きた時に驚く。新しい現実を見極め、アタマを整理してできあがったのが、オフィスにコーヒーマシンを無料で貸し出すネスカフェアンバサダーの仕組みです。
入山氏 まさにオフィスの常識を覆しましたね。僕も以前は一階にコーヒーを買いに行くのに1日1時間かけていましたが、諦めていましたから(笑)。
高岡さんは率直に天才だと思いますが、最初から発想力があったわけではなく、グローバルネスレにいたのでものすごく多様な人と交流している。そこでは日本の常識が全く通用しない。例えば、「何で日本の会社はハンで押したように新人を4月に一括採用するのか」と聞かれて、答えられなかったとか。
高岡氏 ええ。ネスレではダイバーシティーがすごく進んでいる。ローカル採用でも優秀だと認められると、本人が同意すればグローバルの経営幹部に抜てきされる。その代わり、二度と母国で勤務できない。僕は最初の例外ですが、それだけ人材の多様性を重要視しているわけです。
日本企業はあまりに日本人だけでやってきたから常識だと思っているが、外国人には理解できないことばかり。僕はずっと聞かれ続けてきたので苦労したけど、常に考える癖がついた。これは感謝してますね。
入山氏 僕は「知の探索」と言いますが、イノベーションには知と知の組み合わせが必要。副業も効果的です。ロート製薬は大企業で真っ先に副業を解禁したが、その狙いも新しい経験や知見、人脈を作り、持ち帰ってもらうためです。
高岡氏 ネスレ日本では継続的にイノベーションを起こせるような取り組みを行っています。大事なのは顧客が気づいていない問題を発見すること。この問題発見能力を磨くには新しい現実をみるしかない。例えば、高齢化社会では1人、2人暮らしの高齢者が増えて、孫と会えずに寂しいと。それなら、コーヒーマシンをIoTでつなげば子供の家とつながる。ボタンを押すと安否確認もできるし、メッセージも届く。
そんな発想を募るイノベーションアワードを続けています。初年度は79件しか応募がなかったが、18年は5000件を超えました。
――会社の仕組みとして定着してきたんですね。
高岡氏 そうです。面白いデータがあります。スタートアップで成功した起業家と、大会社の役員の能力を比べたところ、3つだけ違ったと。1つは起業家は最後まで成功に行き着こうとする能力が高い。2つ目はオーナーシップ。雇われでなく、自分のアイデアを自らやるから一生懸命できる。面白いのが3つ目で、人を説得する能力と情熱。自分のアイデアを実現させるために人を巻き込まないといけない。これがリーダーシップにつながる。
――そのようなリーダーの養成には何が必要?
入山氏 1人ダイバーシティーと言いますが、多様な経験を積むことです。米GEなどは極端で「島流し」のような人事もする。新興国で新規事業立ち上げをやったかと思えば、次は先進国のつぶれそうな子会社の再建を任される。多様な知を経験するから、革新的なことを起こせる。大体GAFAなど時価総額上位の会社の多くはこの30年内にできた会社で、ほとんど変人がつくっている(笑)。一方、日本は変人をつくる教育をしていない。
高岡氏 もし社内で育てられないなら外からトップを入れればいい。それがガバナンスだと思う。日本企業のガバナンスと社外取締役の現状をグローバルで見れば、幼稚園みたいな感じですね。日産自動車の問題で言えば、トップの暴走を正当化するつもりはないが、それを止められなかった取締役会自体がガバナンスの機能をなしていない。
本来ガバナンスはトップなどに暴走させないために、取締役の圧倒的多数を社外から持ってくるのが海外のスタンダードです。日本はまだ始まったばかり。注目はリクルートホールディングス。経営諮問委員会のメンバーをやりましたが、外部の意見をどんどん採り入れて、グローバルに近い経営をしています。
――日本でもスタートアップが育ち始めています。今後必要なことは?
入山氏 フリマアプリのメルカリやAI開発のプリファード・ネットワークスのような企業がどんどん出てくる必要がある。令和時代は間違いなく出てきます。いま東大や京大でイケてる層は起業しますよ。そのためには日本の偏差値偏重の教育システムも変える必要があります。
高岡氏 偏差値教育の弊害はありますね。答えがあることに対する教育は一生懸命やるが、社会に出ると答えのある仕事なんてひとつもない。だから、最初の研修のグループワークで新人が役員に発表する時、酷評するんですよ。特に僕が。みな驚くが納得します。
僕はネスレに入った社員に「おめでとう」と言わないんです。ネスレに入って良かったかはまだ分からないし、こっちも分からない。だけど自分のやりたいこと、志が達成できるならいいし、我々もそういう土壌は作りたい。僕だけでなく、皆が考えてどんどん会社を変革していってくれればいい。そう思います。

編集長の目 平成モデルと決別の時

 
 仕事上の付き合いがある両氏はいずれも企業の経営戦略やイノベーションに関する専門家で、論客でもある。「平成は失われた30年」と喝破した高岡氏の指摘は一見厳しいが、グローバル経営の最前線を知るだけに重みがある。
 実際、平成は日本の競争力が低下した時代と重なる。1989年の世界の時価総額ランキングで上位50社中32社を占めた日本企業は現在、トヨタ自動車1社。上位には米GAFAや、中国アリババ集団、騰訊控股(テンセント)など米中勢が並ぶ。
 優秀な社員がいないわけではない。問題は戦略立案能力が弱いこと。すなわち、リーダーシップの差である。従来型の雇用形態を引きずり、新しい発想を生み、育てる組織にもなっていない。必要なのは「働き方改革より経営改革」という高岡氏の指摘は正しい。
 令和時代を迎え、日本は「低迷した平成モデル」と決別するチャンスととらえるべきだ。その芽はすでにある。
 上場したフリマアプリのメルカリに続き、AI(人工知能)開発のプリファード・ネットワークスや名刺管理のSansan(サンサン)など、非上場で企業価値10億ドル以上のユニコーン企業や予備軍が日本でも増え始めた。
 プリファードの西川徹社長は東大大学院在学中に東大や京大の仲間と起業。今や中国、米国など世界中の優秀な若者が門戸をたたく。組織は徹底的にフラット。仕事も上からの指示は一切ない。やりたいテーマを自由に探し、実現のため必要な人材に声をかけてチームを作る。「ロボットとAIを組みあわせて世界一を取りたい」。西川さんの言葉に社員も夢を見る。
 イノベーションを起こすには国籍、性別、世代など多様な人材が不可欠だ。「多様な意見が出れば、当然会議はもめる」と入山氏は指摘する。全会一致の会議にイノベーションなど起きない。少数意見でも耳を傾け、どのアイデアで勝負するか、徹底的に議論し、いざ決まれば目標達成へやり抜く胆力が必要だ。そのためには、画一的な日本の教育システムの見直しも要るだろう。
 スタートアップの広がりなど、若い世代を中心に日本でも起業の動きや働き方に変化の兆しはある。その動きをどう広げ、どう太い流れにしていくか。新時代に持ち越した日本全体の宿題である。(宮東治彦)
日経産業新聞 2019年5月6日付]