藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

相談の本質。

*[次の世代に]自由な眼
日経より。
静岡の富士市に行れのできる経営相談所があるという。
富士市産業支援センター」という無料相談所だがその秘密はなんだろうか。
記事中ではマルミヤ食品の経営相談だがふと「自由な視点」ではないかと思い当たった。
「扱えるのは小ロット」ならば「小ロットのニーズがあるところ」に話を持ち込めばいい、とか。
「なんでもレトルト化できる」のなら「余り物をレトルト化したい」と思っていそうな生産者に声をかけてみる、とか。

なんだろう。

自分では気づかない、自分の会社の能力の可能性を考えること。
つまりとらわれない発想だ。
本業に専心していると、往々にして自分を客観的に見ることは難しい。
業界のことも知っているし、商売の慣習もある。
いつの間にか自由な発想がなくなっている、というのがこの記事のエッセンスではないだろうか。
 
ビジネスも人間関係も、経験が蓄積するほどに「そこから離れて考える」ということがコツなのだという気がする。
一度自分について改めて考えてみるのはどうだろう。
 
 
お金かけず知恵で変える
2019年6月11日 19:30
 富士山の麓、静岡県富士市。市立図書館の一画に起業家の卵や悩める中小企業の経営者などがひっきりなしに訪れる部屋がある。年間に寄せられる相談は4000件超。「行列のできる経営相談所」と呼ぶ人もいる。その名は富士市産業支援センター(f-Biz、エフビズ)。市の公的機関だから相談は無料。率いる小出宗昭センター長(59)が編み出した支援術は「エフビズモデル」とも言われ、全国に広がる。
2012年の今ごろだったと記憶しています。地元の加工食品メーカーであるマルミヤ食品(静岡県焼津市)の社長さんが深刻な表情でセンターを訪れました。「設備の老朽化で廃業を考えています」。下請けとしてレトルト食品をつくっていたのですが、仕事の依頼が少なくなり、お手上げの状態だったのです。
「廃業」という言葉が飛び出しましたが、うちを訪ねてきたということは「何らかのアドバイスがあれば」という期待があるのだろうと思いました。センターを開設して約4年。それなりに実績を重ねてきたころです。
 センターのモットーは相手を「褒めて励ます」ことだ。
「最小の生産ロットはどれぐらいですか」と聞くと、社長は「設備が古いから100個からです。生産効率が上がらないのです」と話されました。私はこれを聞いて「すごいじゃないですか。こんな小ロットから対応できるだなんて、すばらしいことですよ」。社長はキョトンとしていましたね。でも本当にすばらしいことなのですよ。
こいで・むねあき 1959年(昭和34年)生まれ。83年法政大経営卒、静岡銀行入行。支店や国際部、情報営業部(M&A担当)などを経験。創業支援施設などへの出向を経て08年に退職し、「富士市産業支援センター」のセンター長に就任。
というのも小ロットは小回りがききます。これまでにレトルト食品にしたい商材があっても工場側がロットの小ささを理由に難色を示して商談にならないケースがあったことを知っていました。レトルト業界では最低ロットは1000くらいからでした。
企業支援の要諦はターゲットとニーズが明快で競合がいないことです。マルミヤ食品はまさにこれが当てはまったのです。社長さん本人が気が付いていないセールスポイントに気づかせることが大切なのです。うなだれていた人を褒めまくるのです。
そこでレシピの数はどれくらいあるか聞いてみました。すると「長くやっているからどんな商品でもレトルトにできます」というではありませんか。すかさず「すごいですね。必ず取引先が見つかるようにします」と答えました。社長さんは「そんなに仕事はあるのですか。そんなところがあるのですか」と半信半疑。私はこう答えました。「大丈夫ですよ」
 明確な根拠は無かったが勝算はあった。国が進めている農業の6次産業化のトレンドも追い風だった。
レトルトの技術は農家にとっても福音になるはずです。例えば大きさのまちまちな規格外のトウモロコシがあるとしましょう。これまでなら廃棄を余儀なくされていたモノがレトルトのコーンスープにできるのです。ロットが少ないから機動力がいかせます。6次産業化の話しをすると社長さんはさらに驚かれていました。「農家からも話しがあるのですか」
地元企業の経営者らからの相談を聞く(中央が本人)
次は行動あるのみです。お金はありませんが、ネットの時代ですから誰でも発信できます。ブログを立ち上げて会社の取り組みを紹介し、地元新聞にも取り上げられるとすぐに引き合いがありました。
初めに問い合わせてきたのはホテルチェーンでした。このホテルは朝食でおいしいカレーを提供することで知られていましたが、仕込みに手間暇がかかり従業員の負担になっていたのです。以前、このカレーをレトルトにしようと食品会社に相談すると、最低のロットが5000~10000と言われたそうです。賞味期限内にはそれだけの量をさばけないので断念した経緯がありました。当然、今回は商談成立です。
数カ月の内にいろんな話がきました。北陸の漁業者からは「魚が取れすぎたので何でもいいからレトルトにしてほしい」と依頼されました。カンピョウの話もいただきました。おかげでマルミヤ食品の業績はV字回復です。
お金をかけずに知恵を使って流れを変える。こんなに早く結果が出るとは思っても見ませんでしたね。業績が良くなると後継者や事業継承の問題も円滑に進みます。
日本では全企業に占める中小企業の割合は99.7%です。これから起業をしようとする人も起業したての人も最初は零細です。小さな会社ならではの悩み事は尽きません。この記事を読んで何らかのビジネスのヒントを得てもらえればありがたいです。
編集委員 田中陽)
日経産業新聞2019年6月11日付]