藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

SFの現実。

日経・脳の特集より。
*[ウェブ進化論]意識という自分。
自分たちがここ十年でみた映画の世界が現実になり始めているらしい。
これまでの時代にはもう少し"予想と現実の時間"にタイムラグがあったと思うが、今ついに技術革命が現実になっているようにも見える。
脳の機能が測れるようになった先には、その働きを操る時代が開ける。
海外ではトップアスリートたちが脳を操る技術「ブレインテック」で脳を鍛え始めた。
スキーのジャンプ選手の跳躍力が十数%改善したとの報告で人気に火をつけた。
プロのアメリカンフットボール選手やメジャーリーガーも利用しているそうだ。
理屈はともかく。
脳の「どこか」を刺激すれば身体能力が上がる、という臨床実験だ。
果たしてどんな結末をもたらすだろうか。
「脳を触る時代」の到来である。
そうして脳の解明が臨床的に進めば。
人間とはどこからきてどこへ向かうのか。
一体何者なのか。
古代ギリシャのころから哲学、芸術、そして科学が探究してきた永遠のテーマだ。
脳は宇宙と並び最後のフロンティアとされ、正体に迫れば答えは見つかるかもしれない。
21世紀。
自分たちはようやく「最後のフロンティア」に向かおうとしているのだろうか。
 
今は「(脳というのは)脳科学でみると1千億個以上の神経細胞ニューロン)が連なる全長100万キロの巨大な情報ネットワークにすぎない」という。
ではその「神経細胞とは何か」。
20年後、脳科学者で東京大学渡辺正峰准教授は自分の脳と機械とを接続して一体化するつもりだ。
意識を機械にアップロード(移し替え)し、寿命を迎え身体が滅びた後も機械の中で永遠に生き続ける。
これって。
全くSFの世界にはお定まりの設定だ。
漫画では五十年以上前からあるストーリーだ。
いよいよそれが現実化するのかもしれない。
「シンギュラリティー(技術的特異点)」と呼ぶ概念で今のAI社会を予言した、未来学者のレイ・カーツワイル氏も人の意識の機械への移植は今世紀半ばに実現するとみている。
著作やブログなんかで残さなくても、近々「自分の意識や反応」はお墓のようにコンピューターに移植できるようだ。
ますます残す「意識そのもの」がどれだけの値打ちがあるかを考えねばならない。
 
 

0.4秒 脳力が勝負を分かつ ブレインテックで鍛える

学びのカタチ(4)

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長らく日本の情報通信技術を支えてきたNTT厚木研究開発センタ(神奈川県厚木市)。ここの地下にプロ野球球団顔負けの室内練習場があった。足を踏み入れると、乾いた球音が気持ちいい。マウンドに立つピッチャーと対峙するバッター。よく見るとどこか奇妙だ。2人ともユニホームではなく全身黒タイツのような装い。額からつま先までセンサーとゴーグルが計18個ついている。位置情報や加速度のデータから、打ったり投げたりする真剣勝負の「脳の様子」をみる。
00:00 01:32
プロの場合、ボールがピッチャーの手を離れてからバッターに到達するまでの時間はおよそ0.5秒。時速160キロ超を投げるメジャーリーガー、大谷翔平選手になるとわずか0.4秒しかない。豪速球を打ち返すにはボールが手を離れた瞬間から球筋を見極め、打つか見送るかを判断する。スイングに備え、体の微調整もいる。スポーツ脳科学プロジェクトを統括するNTTの柏野牧夫フェローによると「選手自身も自覚できない、無意識的な0.4秒の世界が勝負の分かれ目になる」。

生徒の「集中度」を色分け

スポーツの世界では「心技体」のうち、肉体を鍛える「体」のトレーニングを重んじる傾向にある。しかし、高校球児を経てプロ野球に入るレベルになると、みな高い身体能力を備えている。それでも一軍、二軍の差がつき、日の目を見ないまま球界を去る選手も少なくない。NTTのチームは、脳を使いこなす「脳力」が一流選手には欠かせないとみる。研究では、脳の力を生かして「心」と「技」を磨いてもらう。
多くの計測機器やカメラを備えた「スマートブルペン」(神奈川県厚木市のNTT厚木研究開発センタ)
トップアスリートの脳を探り新たな鍛錬につなげる。こうした取り組みは世界でも珍しい。女子ソフトボールの日本代表が共同研究の契約を結んだ。プロ野球1球団とも協力、メジャーリーグも強い関心を寄せる。
最大のパフォーマンスを求めて、スポーツだけでなく教育現場でも脳にアプローチする試みが始まった。
6月中旬、三浦学苑高等学校(神奈川県横須賀市)の1年生、24人の進学クラスを訪ねた。この日は日本史の授業。3人ずつの8グループに分かれ、歴史を揺るがした太平洋戦争や戊辰戦争がなぜ起こったかを議論した。
生徒全員がハチマキのような装置を頭に巻いている。記憶や思考をつかさどる脳の前頭前野に近赤外線をあて血流から脳力を推し量る。「授業の理解度と集中力が関連するかどうかを検証していく」と東京大学の開一夫教授。教師の手元にあるパソコン画面には、生徒全員の「集中度」が6段階の色別に示される。議論が盛り上がったチーム3人の色は、全員が赤。夢中になっていたようだ。
脳活動計測装置を頭に装着して授業を受ける生徒たち。一人ひとりの脳の活動量はリアルタイムで画面に表示される(神奈川県横須賀市三浦学苑高校)
脳の機能が測れるようになった先には、その働きを操る時代が開ける。海外ではトップアスリートたちが脳を操る技術「ブレインテック」で脳を鍛え始めた。電極を頭に貼って微弱な電流を数十分間流して「トレーニング」する。日本でも重度のうつ病などの治療に使う医療装置の簡易版だ。数年前から市販され誰でも手に入る。スキーのジャンプ選手の跳躍力が十数%改善したとの報告で人気に火をつけた。プロのアメリカンフットボール選手やメジャーリーガーも利用しているそうだ。東京五輪まで1年余り。英科学誌ネイチャーは「脳ドーピングにあたるのではないか」と問題提起した。
人間とはどこからきてどこへ向かうのか。一体何者なのか。古代ギリシャのころから哲学、芸術、そして科学が探究してきた永遠のテーマだ。脳は宇宙と並び最後のフロンティアとされ、正体に迫れば答えは見つかるかもしれない。

意識を機械にアップロード

人間の脳は記憶だけでなく、意識や思考の源で心も宿るとされる。まさに人間そのものだ。しかし脳科学でみると1千億個以上の神経細胞ニューロン)が連なる全長100万キロの巨大な情報ネットワークにすぎない。この10年余、画像解析やセンサー、光遺伝学といったテクノロジーの急速な進化でおぼろげにその姿が見えてきた。動物実験では嫌な記憶を消したり入れ替えたりすることもできるようになった。
脳活動計測装置を頭に装着する生徒たち。正しいデータが出るように、計測前は目をつぶって深呼吸する(神奈川県横須賀市三浦学苑高校)
20年後、脳科学者で東京大学渡辺正峰准教授は自分の脳と機械とを接続して一体化するつもりだ。意識を機械にアップロード(移し替え)し、寿命を迎え身体が滅びた後も機械の中で永遠に生き続ける。荒唐無稽ともいえるが、渡辺准教授は真剣そのもの。実現に向けて2018年12月、大学発ベンチャーも立ち上がった。まず、脳をまねた新しいタイプの人工知能(AI)を開発しニュートラルな意識が宿る機械を作る。「技術的には可能だ。マッドサイエンティスト(狂気の科学者)と呼ばれるかもしれないが、何としても『死』はさけたい」
「シンギュラリティー(技術的特異点)」と呼ぶ概念で今のAI社会を予言した、未来学者のレイ・カーツワイル氏も人の意識の機械への移植は今世紀半ばに実現するとみている。シンギュラリティーは人間を超えるAIの登場だけが脅威というわけではない。人間がつくるテクノロジーがさらなるテクノロジーを次々と生み出し、指数関数的な速度の技術革新が政治や経済、医療や教育、スポーツのあり方を抜本的に変える。ブレインテックはその最たるものだ。
どんな技術にもメリットとデメリットがある。人間の象徴である脳に応用すると影響は計り知れない。予測通りにシンギュラリティー2045年に起こりえるとしたら、遠くない将来、「人間とは何か」を問い続けてきた人間そのものが変容するかもしれない。
文 編集委員 矢野寿彦、猪俣里美  写真 浦田晃之介