藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

時間の価値観

*[次の世代に]終わりを思う力。
日経、寿命がわかるかもという記事より。
 
自分は必ず死ぬ。
という大事なことを「最重要なこと」として分かっていない自分がいる。
致死率100%と言われる人間が「もっとも確かな未来」について意識が低いのはいかがなものか。
実はでも「はっきりわかる未来」だからそのことを「あえて考えないふり」をしているのが人間なのかもしれない。
60歳かもしれない。
70歳かもしれない。
100歳かもしれない。
「だから今考えるのをよそう」という思考パターンは「人の一番弱い部分」だと思う。
現に「余命三年」とか「半年後に生存率20%」などと言われた人たちの心に残る物語は多い。
見えないゴールを意識するのが苦手な自分たちだからこそ「それ」について考える必要がありそうだ。
若い頃はもう刹那的に時間を貪るような過ごし方をするけれど(それが青春とも)、それはともかく"たった百年の生き方"について、大まかな文脈くらいは考えておきたいものだ。
 
「寿命がはっきりした途端に慌てふためく」という当たり前のことを、予め心積もりしておくだけで生き方も変わってくるだろう。
50歳も超えるとそうした感覚はかなりリアリティがあるが、そうした感覚を持つべきは若者だろう。
できれば三十代くらいでその後の"人生の使い方"なんかが考えられるといいのではないだろうか。
これからの時代がとても面白いものになりそうだから、自由に未来を発想してもらいたい。
自分もあと五十年くらいを想像して過ごしたいと思う。

自分の余命 知りたいですか? 検査値で生存確率判定

 

未来の読み方(1)

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「次の人生を歩みましょうか」。医師は重い病を抱えた患者の枕元で、穏やかな口調で語った。手元のタブレット型端末で呼び出した電子カルテ。「1カ月後の生存確率は33%」。コンピューターがはじいた余命が記されていた。「次の人生は、もう治療はいらない」。患者は仕事を部下へ引き継ぎ、娘は病棟でささやかな結婚式を挙げた……。
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がん患者1000人のデータが暗示

遠い未来の話ではない。緩和ケアの専門家である筑波大学の浜野淳講師は「自らの最期を知り、残り少ない人生を充実させたいと思う患者の望みにこたえたい」と話す。すでに技術はある。進行がんの患者約1000人のデータを調べ、血液成分や心拍数など検査値のパターンが1週間~3カ月先の生存確率を暗示していることに気づいた。研究を積み重ね、人生の締めくくりを迎える時期を予測する方程式を導いた。日々の検査結果をコンピューターに入力するだけで、健在である確率を1週間先ならば約8割の精度で判定する。
 

コンピューターや人工知能(AI)が進歩し、未来を高い確率で予言できる時代が到来しつつある。数ある予測のなかで「自分がいつまで生きられるのか」は最大の関心事だ。医療関係者によると、命の炎が燃え尽きようとしていても、医師は余命を長めに伝える傾向にあるという。遺族からは「人生が残りわずかとわかっていたら、治療の負担をなくし好きなように過ごしてもらいたかった」との声もあがる。
治療を続けるか、積極的な治療を控える緩和ケアに切り替えるか、その判断は人には難しい場面もある。告知の是非はともかく、死期を察する予測技術の研究が絶えないのはこのためだ。世界でもここ20年、さまざまな予測手法が検討されてきた。米国では、患者の診断内容を入力すると余命が示される医師向けのサイトが公開されているという。
将来について知りたいとの願いは、古今東西に共通する。古代ギリシャでは、疫病の流行や戦況を占ってもらおうと多くの人が神殿を訪れ、巫女(みこ)が伝える神のお告げに耳を傾けた。こうした予言の多くは「運命」や「宿命」と受け止められた。その時をどう迎えるかが大切で、あらがうものではなかった。
ところが技術革新がディスラプション(創造的破壊)を引き起こす。未来がわかりさえすれば、運命は変えられる。こんな期待が漂い始めた。人類は長い歴史の中で感染症などを克服し、確かな記録が残るここ約300年で平均寿命は40歳弱から80歳超まで延びた。天寿を全うするうえで、将来がいっそう気にかかる。
 

血液などの生体物質を低温保存するため液体窒素で満たされたタンク(仙台市東北大学東北メディカル・メガバンク機構)

遺伝・生活習慣と病気の方程式解明へ

体育館ほどの薄暗い部屋に、銀色のタンクが所狭しと並ぶ。両腕で抱えきれないくらいの大きさで、その数、20基以上。蓋を開けてもらうと、冷気があふれ出た。白いもやが晴れ、大量の試験管が現れた。
ここは東北大学の東北メディカル・メガバンク機構(仙台市)。「地域の15万人からDNAや血液、尿などを提供してもらい、保管している」と山本雅之機構長。別の部屋では、大きな棚からロボットアームが試験管をひたすら移し替えている。日本人8000人分の全ゲノム(遺伝情報)の解読が進んでいる。
続々と集まってくるのは、生体物質だけではない。DNAや血液を提供した人に、日ごろ、何を食べてどんな暮らしぶりかを聞く。生活習慣を事細かく追跡し、病院にかかった記録や健康データも残す。参加者には、祖父母から孫まで3世代が定期的に情報を提出している家族や、母親のおなかにいたころから調べている5歳児もいる。宮城県内の12万人の参加者のうち、毎年2万人以上が情報を更新する。
どのような遺伝情報の人がどんな暮らしを送ると、どれだけの病気になってしまうのか。病気の前兆は、いつごろどんなふうに表れるのか。今後に備えるための疑問はいくらでもある。あらゆるデータを突き合わせ、人類の未来をたぐり寄せる壮大な謎解きが進行中だ。
人体は複雑だ。2000年代初めにヒトのゲノムが解読されたが「特定の遺伝子の異常だけでは病気の説明はつかない。特定の遺伝子を最先端技術で修正しただけで病気が治るとは限らない」(東北大の田宮元・教授)。生活習慣や環境も体にじわじわと影響を与えていく。
 

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之機構長
計画では、遺伝情報や生活習慣と病気の関係に迫る連立方程式を突き止め、健やかな人生を送るための鉄則を見つける。そうでなくとも、病魔を座して待つのではなく、先手を打って生活習慣を変えたり早めに治療を始めたりして、闘病生活とは別の人生を選べるようにする。未来を変えるのだ。祖父母の世代には間に合わずとも「今後生まれるであろう4世代目以降もデータを集め、世代を越えて健康管理に役立てていきたい」と山本機構長はいう。
これから予測技術が社会のあちこちに普及し、その精度は格段に高まる。先回りしてわかる未来を人類はどう受け止めればよいのだろうか。
「あとどれくらい生きられるのか」。筑波大の浜野講師は生存確率の数字をはじいた後、頭を抱えてしまった。「患者や家族に正直に知らせるべきか。伝えられて幸せになれるのか」。研究成果は出たが、新たな苦しみが始まった。悩んだ末に至った結論は「生存確率そのものは患者や家族に告げるべきではない。最期まで充実した時を過ごしてもらうために自分たちはやれることをやる」。先を見通せる時代だからこそ、私たちは決して生き急がず、いまをいかに大切に生きていけるかが問われている。

「未病」に科学のメス

将来の病気はどこまで予測できるのか。二千数百年来の難題に最新科学のメスが入った。
中国の古い医学書黄帝内経」にこんな記述がある。「上医治未病、中医治欲病、下医治已病」。大まかな意味は「一流の医者は、病気にさせない。二流の医者は、病気になりかかっている人を治す。三流の医者は、病気になっている人を治す」。一流の医者は、まだ病気になっていない「未病」を治すと諭している。健康と病気の中間に未病という状態があり、この時期に体の異常を元に戻せば、簡単な治療で健康を保てると説く。未病のうちに何もできないと病魔は静かに体をむしばみ、ある日、病気が発症する。そうなったら治療に時間がかかったり、重症になったりしてしまう。
 

未病が表れる時期の予測にデータで挑んだのが東京大学の合原一幸教授や富山大学のチームだ。脂質代謝異常や高血圧などが問題になるメタボリックシンドロームにかかりやすい特殊なマウスを飼育し、血液中の成分や体重などのデータを若いうちから集めた。メタボを発症したのは8週目だが、実は5週目の時点で遺伝子のデータが明らかに「揺らいでいる」ことがわかったという。
健康な体はいろいろなデータが安定しているようにみえる。一方、病気を発症しそうな体になる途中、遺伝子や血液中の成分などのデータが変動し始める。一つ一つはわずかな変化でも、総合的に解析すれば、安定した状態から揺らぎ始めるタイミングがつかめる。今回、数学の理論を駆使し、体の状態の変化をとらえる計算方法を編み出した。この方法が確立すれば、生活習慣などが何十年もかけて体にストレスを加え、むしばまれ始める兆候をキャッチできる。肝硬変のような病気を発症前に「治療」できるかもしれない。
合原教授によると、病気にうつろう未病という存在をデータで裏づけた研究例は、少なくとも数学の分野では初めてという。合原教授は「『未病を診断し、治療する』という発想が広がれば、病気の患者が減るだけでなく、治療薬の可能性も広がる」と考える。これまで病気を治すためには力不足だった薬の候補物質が、未病なら治せる「未病治療薬」として日の目をみるというわけだ。
文 猪俣里美、加藤宏志 写真 柏原敬