藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

料理も科学。

*[ウェブ進化論]うまいものの秘密。
日経より。
食ほど身近で、古典的なスタイルから変わっていないものはないだろう。
なぜなら自分たちは「食べる」ということから全く解放されていないし、むしろ快楽としてずっと楽しんでいる。
しかしながら伝統的な一流の店では「一対一」での「食材・調理vs客」の関係はここ数千年、変わらない。
その辺の魚や木の実をもいでガツガツ食べるのではなく、「調理」をするのは未だに人間の大きな仕事のままだ。
その「調理」に元マイクロソフトのCTOが科学の光を当てているという。
製造業の現場にあるような3次元スキャナーを使って、焼き上がったピザの部位ごとの膨らみを測定していた。ピザに特化した新しい料理の本を書くための実験だ。
長らく、流通や保存方法の発達とともに進化をしてきた食文化が、いよいよその「調理そのもの」に話題を移す。
「過去を知りたいときは職人の背中を見ればいい。イノベーションを起こしたいときは物事の仕組みを理解すべきだ」
調理ほど効率化とは縁遠く、しかも神秘的で聖なるものはあまりない。
料理人の細かなノウハウは、いろんなレシピに残されてきたけれど「今ひとつ」その先に科学が入り込むことは難しかったと思う。
人の最大の欲求の一つである「食」にいよいよ技術とネットが対峙する時代になりそうだ。
 
ちょっと安直だが、誰もが「自分が望む食事」に確実にありつける日常は近いのかもしれない。

マイクロソフト初代CTOが挑む「食のアップデート」 アメリカ発!メシ新時代(4)

 
「ファクトフルネス」「ヒルビリー・エレジー」「シュードッグ」。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ(64)は夏と冬の休暇シーズンが近づくと、おすすめの本をブログに書く。科学や経済、歴史考察からノンフィクションまで、無類の読書好きとして知られるゲイツ。彼はある年、珍しく料理の本を挙げた。「この本は、僕が唯一開いた料理の本だな」。ゲイツは笑いながら著者に告げた。
 

 
ゲイツ氏(左)と技術イベントに参加するミアボルド氏=The Cooking Lab,LLC提供
ゲイツが読んだ唯一の料理本
 
ゲイツが推薦するだけに、普通のレシピ本ではない。まるで科学図鑑のように分厚くて重い。食材が焼けたり沸騰したりする様子を調理器具の断面写真とともに細かく分析しているためだ。レシピの手順に沿ってハンバーガーやリゾットなどを作ることもできるが、「調理」の仕組みを科学的に捉え直した研究書と捉えるほうが正確だろう。
 
【関連記事】

科学図鑑のような料理の本「モダニストキュイジーヌ」(写真は日本語版)
モダニストキュイジーヌ」と題するその書籍を執筆したのは、ネイサン・ミアボルド(60)。ゲイツに自作の料理を振る舞うこともあるミアボルドは、マイクロソフトの初代CTO(最高技術責任者)でもある。「(無償ソフト)リナックスの台頭は我々にどんな影響を及ぼすだろう?」。当時、ゲイツは休日でも構わず質問を投げかけ、ミアボルドと議論した。
 

マイクロソフト初代CTOで料理研究家のネイサン・ミアボルド氏
マイクロソフトを離れ料理の道に
 
ミアボルドは1999年7月に長期休暇を取り、そのままマイクロソフトを離れた。在籍していた86年6月期から99年6月期にかけてマイクロソフトの売上高は約100倍、純利益は200倍近くになった。基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」を載せたパソコンが飛ぶように売れ、アプリケーションソフトも急速に増えていった時代だ。
 
「自分の仕事が現実に世の中を変えていく。魔法みたいだった」とミアボルドは振り返る。一方で「僕の時間の80%をマイクロソフトに費やしていた」。もう少し他のことに取り組む時間が欲しかった。
 

数々の実験を重ねて執筆した「モダニストキュイジーヌ」について熱弁をふるうミアボルド氏
とはいえ、なぜ料理本の執筆なのか。
 
「9歳の時に図書館で料理の本を借りて、家族のために感謝祭(サンクスギビング)の食事を作った」。料理に関心を持ったきっかけを聞かれると、ミアボルドが必ず話すエピソードだ。マイクロソフトを辞めて時間ができたころ、最新のテクニックが詰まった料理の本をじっくり読んでみようと思い立った。
 
■料理界に失望
 
だが、そんな本は存在しなかった。書店に並ぶ料理本の内容は、幼いころに図書館で借りた本とほとんど変わらない。目まぐるしく変化するIT(情報技術)業界の最前線にいたミアボルドは拍子抜けした。一方でこうも考えた。「何かの縁かもしれないぞ」
 

ケンブリッジ大学の博士研究員時代、ミアボルド氏はスティーブン・ホーキング博士に師事した
ミアボルドは天才肌だ。初等教育飛び級で終え、14歳で大学に入学した。理論物理学と数理物理学の博士号を持つ。博士研究員をしていた英ケンブリッジ大で師事したのは「車いすの天才科学者」として知られるスティーブン・ホーキング。コンピューターサイエンスを独自に学んで作った会社がマイクロソフトに買収されたことが、後にゲイツの"知恵袋"になるきっかけだった。「僕の目で料理の世界を見てみたら、新しい発見ができるかもしれない」
 

ワシントン州ベルビューにあるミアボルド氏のキッチン兼研究室
■3次元スキャナーでピザを計測
 
米西部ワシントン州ベルビューに、ミアボルドのキッチン兼研究室がある。ピザの生地をつまむと、英ステイブル・マイクロシステムズ製の食感分析器で上下に引っぱり始めた。「まだいける、まだいける」。しばらく伸びてちぎれたところで、引っ張りに対する生地の強さを数値として記録する。
 
別の一画に目を向けると、製造業の現場にあるような3次元スキャナーを使って、焼き上がったピザの部位ごとの膨らみを測定していた。ピザに特化した新しい料理の本を書くための実験だ。ミアボルドは目を輝かせて言う。「ピザのレシピには神話があふれているけど、大抵は真実ではない。今にもっとおいしいピザを作れるようになるよ」
 

ピザ生地の引っ張り強度を数値化し、焼き上がりや食感との関係を分析する
食の技術革新は「偏っていた」とミアボルドは考えている。大量の食品をできる限り安く加工し、保存期間を伸ばすことに腐心してきたが、料理そのものへの科学的なアプローチは限定的だった。遠心分離機を取り入れたり、きめ細かく温度を制御したりするだけでも仕上がりは格段に良くなるのに、伝統を守ることが優先されていた。調理中のミキサーやコンロを真っ二つに切って見せる図鑑のような本を出したのは「変化を恐れず最高の料理を作ろう」と提案するためだ。
 

ミキサーなどの調理器具を真っ二つに切り、調理中の反応を見られるようにした
■食に変化の波
 
ミアボルドの本は業界を刺激し、料理の世界を少しずつ変えている。たとえばモダニストキュイジーヌの初版を出版した11年時点では珍しかった低温調理。今では一定温度を保つ安価な器具が普及し、家庭でも取り組める調理法になった。ミアボルドの本に触発されて調理機器のスタートアップ企業を興した起業家も少なくない。
 

小麦粉を使わないマカロニ&チーズは「モダニストキュイジーヌ」の人気レシピの一つだ=The Cooking Lab, LLC提供
植物由来の肉や研究室で培養した食品、そして調理方法の革新。科学の視点が入り込むことで、ヒトの根源的な営みの一つである「食」が変化し始めた。「過去を知りたいときは職人の背中を見ればいい。イノベーションを起こしたいときは物事の仕組みを理解すべきだ」と、ミアボルドは語る。米国から始まった食卓の進化は続く。
 
=敬称略、つづく
 
シリコンバレー=佐藤浩実、ニューヨーク=河内真帆)
 

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