この度、NHK経営委員になった大学教授が野村秋介氏の自死を誉めていた、という報道について。
このコラムが朝日新聞に載っているということも微妙だと思うがそれはともかく。
まず自分は民法他局はともかく、国営放送であるNHKが実はそんなに大仰なルールで運営されているとはまったく知らなかった。
NHK経営委員会は、NHKの経営に関わる最高意思決定機関で、国会の同意を得て首相に任命された12人の委員で構成される。
経営委は会長の任免権を持ち、会長任命には放送法に基づき12人中9人以上の賛成が必要だ。経営委は昨年12月、籾井氏を全会一致で会長に決めた。
国会の同意を得て、というあたりがさすが国営だが、それはともかく。
放送法は、経営委員が個人の思想や信条を公にすることを制限していない。NHK経営委員会事務局は「個人の信条に関わることで、コメントする立場にない」としている。
というのはどうだろうか。
個人ではなく公人。
経営委員が「国の政策に反することを述べてはならない」というのは思想統制で好ましくないだろうけれど、経営メンバーの思想や信条は当然「経営に影響する要素」であるはずである。
ただ国営放送の経営スタッフというのなら、その(さもあろう)深い見識や思想信条を持ちつつも、「国営放送の経営中枢の要員」としての"経営者としてのふるまい"が要求されるのではないだろうか。
就任前の自分の思想信条や、就任後の言論の自由はともかく。
現役の経営スタッフが発するメッセージは、今リアルに動いている経営体に影響がある、と見るのが当然ではないかと思うのである。
会社の経営者が、たとえ個人的にとはいえ「全社、関係取引先に影響する可能性のあるメッセージ」 を発したら、それはいわゆる関係者に何らかの刺激をもたらすのは当然である。
だから、特に中立を要求されるメディアの経営陣は、その任期の間こそ"メディアのレフェリー"たることが求められるのではないだろうか。
今の関係者のコメントはどうも責任感が薄くて、「個人で何かするのは勝手でしょ」という狭量な事なかれ発言に聞こえて仕方がない。
経営委員である間は、その発言は「国の意思」くらいに考えて行動してしかるべきではないだろうか。
長谷川三千子氏、政治団体代表の拳銃自殺を評価2014年2月5日21時05分
NHK経営委員で埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏(67)が委員就任前の昨年10月、新右翼の著名な活動家で、朝日新聞東京本社で拳銃自殺をした野村秋介氏の追悼文を文集に寄稿していたことが5日、わかった。* 長谷川三千子氏の追悼文全文
長谷川氏は安倍晋三首相が国会の同意を得て、昨年12月に任命した委員。首相の再登板を支援し、首相復帰後の昨年5月には首相公邸で食事をともにするなど近い関係で知られる。
長谷川氏の追悼文は野村氏の自殺について「神にその死をささげたのである」「彼がそこに呼び出したのは、日本の神々の遠い子孫であられると同時に、自らも現御神(あきつみかみ)であられる天皇陛下であつた」と称賛。野村氏の死によって、天皇が「(日本国憲法が何と言はうと)ふたたび現御神となられた」と書いている。
追悼文集は、昨年10月18日に東京都内で開かれた野村氏の追悼集会「群青忌」で配るために制作された。発行元は「野村氏の弟子の一人」という蜷川正大氏が代表の二十一世紀書院(横浜市)。機関誌「燃えよ祖国」の発行や野村氏の著書の出版を通じ、野村氏の思想の普及活動をしている。文集は、集会に参加した約500人に配ったという。
蜷川氏は朝日新聞の取材に「(長谷川氏は)保守論壇で最も尊敬する学者の一人。先生の著書『神やぶれたまはず』を読んだか、は我々の合言葉」と話す。2000年に開かれた群青忌で講演してもらった縁があり、蜷川氏の方から寄稿を頼んだという。
長谷川氏は朝日新聞の取材に「追悼文は個人の活動で経営委員とは無関係。野村氏と面識はないが、著述を読んで非常に重要な問題提起をしていると思った」と説明。言論機関である朝日新聞社内で野村氏が拳銃を発砲した行為も「メディアに対するテロや圧力でなく、精神的な意味を見いだすべきだ」と話している。
放送法は、経営委員が個人の思想や信条を公にすることを制限していない。NHK経営委員会事務局は「個人の信条に関わることで、コメントする立場にない」としている。
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〈長谷川三千子氏〉 1946年生まれ。専門は比較思想、日本文化論。選択的夫婦別姓制度や婚外子の相続差別規定を廃止する最高裁決定に反対している。今年1月、女性の社会進出が出生率低下の原因であり、少子化対策には女性が家で子を産み育て男性が妻と子を養うのが合理的とするコラムを発表。議論を呼んだ。
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〈野村秋介氏拳銃自殺事件〉 「週刊朝日」が政治団体「風の会」を連想させる「虱(しらみ)の党」という表現を掲載したことに、同会代表の野村秋介氏が抗議。1993年10月20日、野村氏は朝日新聞東京本社で社長らと話し合っている最中に、「朝日新聞に社会の木鐸(ぼくたく)として、しっかりと日本を指導してもらいたい」「おれは朝日と刺し違える。そう公約したんだ」と言ったあと、「すめらみこと、いやさか」と繰り返し、拳銃で自殺を図った。野村氏は搬送先の病院で死亡した。同氏はこの事件で、銃刀法違反と火薬類取締法違反の疑いで書類送検された(容疑者死亡のため不起訴)。
■言論機関へのテロ行為、称賛する内容
〈映画監督で作家の森達也さんの話〉 NHK経営委員が思想や信条を明らかにすることは問題ない。彼らの考えや人となりから、委員にふさわしい人物かを判断できるからだ。ただ、長谷川氏の追悼文は言論機関へのテロ行為を称賛する内容。メディアが圧力に屈したことで血が流れてきた歴史への認識が欠落しており経営委員には不適格だ。
■菅官房長官「放送法に違反せず」
菅義偉官房長官は5日の記者会見で、NHK経営委員の長谷川三千子・埼玉大名誉教授が、朝日新聞社で1993年に拳銃自殺した右翼団体元幹部を礼賛する追悼文を発表していたことについて「経営委員が自らの思想信条、そして表現をすることは妨げられていない。放送法に違反するものではない」と述べ、問題視しない考えを示した。
NHK経営委員に推薦した政府の判断については「我が国を代表する哲学者、評論家として活躍しており、我が国の文化にも精通している。国会に提出し、同意もいただいた」と、適切だったとの考えを強調した。
安倍首相は5日の参院予算委員会で、民主党の有田芳生氏の質問に対し、「(追悼文を)読んでおりませんから、答えようがありません」と述べた。参考人として出席したNHKの籾井勝人会長も「経営委員会の方々についてのコメントを、私がする立場にない」と答えた。
NHK経営委員会は、NHKの経営に関わる最高意思決定機関で、国会の同意を得て首相に任命された12人の委員で構成される。経営委は会長の任免権を持ち、会長任命には放送法に基づき12人中9人以上の賛成が必要だ。経営委は昨年12月、籾井氏を全会一致で会長に決めた。
長谷川氏や作家の百田尚樹氏ら5人を充てることを政府が提案したのは昨年10月25日。長谷川氏の追悼文が会合で配布された1週間後だった。5人の人事は11月8日に国会が同意。両氏については民主、共産、社民各党が採決で反対した。
民主党は参院総務委員会での集中審議を求め、長谷川、百田両氏に質問したい考え。榛葉賀津也・参院国対委員長は5日の記者会見で「2人は特に問題がある。任命責任と、同意人事で賛成された方々の責任は、極めて重い。事実関係を確認するために公の場でお話を聞いてみたい」と述べた。NHKや放送法のあり方について検証するプロジェクトチームも6日に立ち上げる。