藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

顧客は商品か

アップルが米で先行している決済サービスで「顧客情報を集めない」と宣言したという。
これからの時代、あるゆる機器にセンサーが搭載され、録られたデータはスマホなどに送られて収集される、というのはもう逃れ難いのがIT化の宿命だと思っていた。
いち早く「わが社は勝手に集めません」という宣言はビジネスよりも企業文化を優先する同社の気風なのだろう。

データ収集については、センサー機器がまだまだ普及途上ということもあって議論は煮詰まっていない。
今はウェブの閲覧とかメールの内容とか買い物の内容、くらいのものが俎板の上に乗っているくらいだが、自分の移動情報とか健康情報とかこれからの予定とか、どこまでのものがウェブ企業側に吸い上げられるのかについては未知である。
企業サイドは「顧客を商品化」するためにもできるだけの情報を集め、加工して別のビジネスに活かすことを考えるのは当然とも思うが、「顧客は我われの商品ではない」と早々と宣言するアップルの姿勢は再び熱狂的な支持者を生み出す契機になるかもしれない。

こういう「ちょっと変わった偏屈な文化」が同社の本来の持ち味とか遺伝子なのかもしれない。
ビジネス重視のイケイケタイプか、哲学が勝るかの決着はどちらに軍配が上がるか、自分はアップルに一理あり、と思うがどうだろうか。

顧客データはもう集めない アップルが下した決断
林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)2014/12/16付日本経済新聞 電子版
 2015年はシリコンバレーで新たな議論が巻き起こりそうだ。
 火をつけたのは米アップルだ。同社は9月の製品発表イベントで、既に米国で始まっている決済サービス「アップルペイ」の方針として「顧客データを集めない」ことを公言した。これまで世界のビジネス界をにぎわしていた「ビッグデータ」の活用(とそのための収集)というトレンドに逆行する動きだ。
■ティム・クックCEO「顧客は我々の商品ではない」

製品発表で「アップルペイ」の機能を説明する米アップルのティム・クックCEO(9月9日、米クパチーノで)=AP
 ユーザーのインターネット上の行動を計測可能にして製品・サービスの改善に役立てる手法が常とう手段として広まっている。しかし、アップルは故スティーブ・ジョブズの存命中から、スマートフォンスマホ)「iPhone」のアプリなどにしても分析用のデータの収集に関しては厳しい方針を何度か打ち出している。
 米グーグルの「Gメール」は、迷惑メールを振り分けたり、大容量で高機能なメールサービスを支える広告を的確に表示したりするために、メールの内容を機械的に分析している。しかしアップルは、迷惑メールの振り分けはユーザーのパソコンのメールソフトに任せて「のぞき見」はしない方針だ。チャット型のメッセージ交換にしても、グーグルは検索性を重視して履歴をGメールに統合するが、アップルの「iメッセージ」は途中の通信も暗号化し、送信者と受信者しか内容が見れないようにしている。
 アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は米国のテレビ番組に出演し、同社の方針についてこう語った。「我々のビジネスは顧客の情報の上に成り立っているのではない。顧客は我々の商品ではない」「皆、企業がどうやって収益を得ているかを注視する必要がある。お金の流れを見るんだ。そして、もしそれが大量の個人情報を集めることで成り立っているのなら、顧客として心配する権利がある」
■EUの司法裁判所「忘れられる権利がある」と判断
 これまでインターネットでは、どんな情報でもデータ化され、検索可能になり、まとめられたり、分析されたりしていたが、こうした流れに一石を投じる動きは強まっている。

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を23年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。
 今年の5月、欧州連合(EU)司法裁判所は人には「忘れられる権利」があると判断した。自分の過去の債務記録へのリンクの削除を求めていたスペイン人男性が勝訴し、グーグルはリンクを削除することとなった。欧州委員会のビビアンヌ・レディング副委員長は「忘れられる権利は人々を守り、ネットへの信頼を高めることにつながる」と語る。
 これからは「モノのインターネット(IoT)」やウェアラブル端末などの機器が、我々の生活に深く潜り込んでくる。集めようと思えば、毎日何時に起きて、どんな場所でどのように時間を過ごしていたのかまで記録できてしまう。スマホなどでは、こうした個人情報の収集は最初は無効になっており、ユーザーが許可した場合のみ集めるようになっている。
 位置情報などの個人情報をスマホに与えることで、ユーザーは近くにあるお店や友人を発見できたり、たまりすぎた写真を地図から探せたり、など利便性を享受できる。だが、プライバシーと便利さのバランスの基準は人によってそれぞれだろう。
 IT系企業は、これまで一方的に個人情報を集めるばかりだったが、あえてそれをしないことをセールスポイントにするやり方もある。アップルに続く企業は少なくなさそうだ。

日経産業新聞2014年12月16日付]