藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

本当の進化はこれから始まる。

IT技術の特徴は、まず技術ありきで「何に使えるか」が不明な状態で生まれることにある。
インターネットも登場当時から革命的と言われつつ、未だに「スピードと網羅性」以外に大した要素はない、という指摘も多い。
「より早くより便利に」という表現には一見、革新性はそれほどないのではないか、とも思えるがそれがある閾値に達したところで本当の革新に至るのかもしれない。
毎日、というほどではないが3Dプリンターについての報道を都度都度見ているとそんな気がするのである。

ネットが普及し、スマホが携帯されるようになってSNSとか通販とかが一般化してきたけれど「あんなものは皮相的」という意見も多い。
ITの進化の仕方は、まずゲームとかSNSとかの「とっつきやすいけれどリアリティのないものから普及する」ということだろうか。

3Dプリンターはそうした世界とは違う「製造」に何かをもたらしつつあるようである。
人と人とのコミュニケーションがより早く、より便利になる、ということではなく「モノづくり」がより早く、より網羅的になるということは"コミュニケーションの進化"とはまた別物の世界を作り出すような気がする。
物づくりというのはそれだけハードルも高いし、「これまで存在していたコミュニケーションの改善」とは違う「これまではモノづくりをしていなかった人たちに物作りを可能にする」という可能性をはらんでいる。

第二次産業である物作りの世界は、第一次産業と同様にあまり部外者には親しみはない。
記事中にある3Dプリンターの普及は、金型などの製造業、芸術、趣味、医療などとすでに広範囲に紹介されているが、楽しいものから危険なもの、実利的な物から芸術まで、これまでなら「文章とか絵画とか」の範囲に限られていた「個人の世界」が物作り、つまり製造の世界に広がってくることを示唆しているように思える。

多くの人たちががこれまでは市中のマーケットで「出来上ったものの購入」しかなかった選択肢が「自分で作る」ということができ、その先には「個人メーカー」を標榜することになるだろう。

誰もが製造者になる。

産業の垣根がいよいよ取り払われる時代が来るのではないだろうか。

よみがえった3Dプリンター ソライズの再挑戦
編集委員 大西康之2015/2/9 7:00日本経済新聞 電子版
 その会社が設立されたのは今から25年前。当時はまだ「3Dプリンター」という言葉がなく、3D・CADと呼んでいた。「ものづくりの革命」ともてはやされたが、リーマン・ショックで2009年に経営破綻。3年で更生手続きを完了し、社名をインクスからソライズ(東京・千代田、古河建規社長)に変え、自動車メーカーなどから熱い視線を集めている。
■更生手続きを完了

顧客の要望に応えるため、最新鋭の3Dプリンターをそろえている
 トレーの上に微細な金属の粉末を0.01ミリの厚さで敷き、炭酸ガスレーザーを照射すると、レーザーが当たった部分だけが焼結する。その上にまた粉末を敷き、レーザーを照射する。この工程を何度も繰り返すうちに、複雑な形をした自動車部品が姿を現す。
 「契約上、お客さんの話はできませんが、自動車メーカー、自動車部品メーカーからの受注が売上高の7割。最近は医療分野からの受注も増えています」。ソライズの主力事業である試作モデル制作事業を担当する100%子会社、ソライズ・プロダクツの後藤文男社長は静かに動くマシンを見つめながら、感慨深げに言う。
 ソライズの前身、インクスが設立されたのは1990年。製造業に欠かせない金型を3次元CADを駆使して低コスト・短納期で作るビジネスは脚光を集めた。「ものづくりのフロンティア」を求めて東大、東工大などから優秀なエンジニアが集まった。大手コンサルティング会社から転職してくる者もいた。創業期に20人だった従業員数がわずか数年で1000人規模に膨れあがった。
 バブル崩壊後も順調に業容を拡大していったが、2008年9月に訪れたリーマン・ショックで状況は一変する。頼みの綱だった自動車メーカー、自動車部品メーカーからの受注がピタリと止まり、経営難に陥った。背伸びをして高価な最先端設備をそろえていたことがあだになって資金繰りが悪化。09年2月に民事再生法の適用を申請した。
 社員の多くは散り散りになったが、後藤社長ら一握りは3D・CADの未来を信じ、地道に開発を続けた。やがて3D・CADは「3Dプリンター」と呼ばれ、製造業の最先端に躍り出た。世界最大の3Dプリンター・ユーザーとされる米ゼネラル・エレクトリック(GE)は1台1億円以上する造形装置を数百台保有し、航空機エンジンやガスタービンの部品を作っている。日本ではトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車など自動車メーカーによる利用が盛んだが、製造業全般で見ると、まだ従来型の金型から抜け出し切れていない。
 従来型の金型で複雑な部品を作る場合、金型を3つ4つのピースに分けなくてはならない。だが、3Dプリンターなら一体造形できるのでコストと時間を大幅に削減できる。

複雑な形の部品を一体造形できる(ソライズ・プロダクツの後藤文男社長)
 ソライズが手掛けるのは試作部品の製造だ。設計データを3Dプリンターに入力し、顧客が求める性能の試作部品を、金型を使うより安価・短納期で仕上げる。
 3Dプリンターには、紫外線硬化樹脂に紫外線レーザーを照射する「光造形」、粉末状にした樹脂・金属材料に炭酸ガスレーザーを照射して焼結する「粉末造形」、インクジェットで樹脂材料をプラットフォームに直接印刷し、紫外線で硬化させる「インクジェット」、ABSなどの熱可塑性の樹脂材料を溶融し、ノズルの先端から垂らして積層する「熱溶融法」などの方法がある。
■自動車メーカーが求める精度
 最近、話題になっている安価な個人用の卓上型3Dプリンターは熱溶融法。手軽だが、この方法では自動車メーカーが求める精度や強度は出しにくい。ソライズは光造形、粉末造形、インクジェットの最先端装置をそろえ、顧客が望む性能の部品を、金型を使う場合の5分の1の時間、10分の1のコスト(粉末樹脂の場合)で作り上げる。
 例えば数年前、ある自動車メーカーから「中のガスの流れを見たいから、透明のインテークマニホールド(自動車の排気部品)を作ってほしい」と言われ、耐熱性のある透明な樹脂で同部品を作った。文具メーカーからはキャラクターグッズの金型設計の期間短縮を打診された。はやりすたりの激しいキャラクターグッズはタイムリーに製品を出さないと、商機を逃してしまうからだ。ソライズは従来3カ月かかっていた設計完了までの時間を1カ月に短縮し、文具メーカーを喜ばせた。
 「米メーカーはすべての種類の3Dプリンターを使い分け、これまでとは次元の違うものづくりを可能にしつつある。日本も活用を急がないと」と後藤社長は警鐘を鳴らす。破綻からよみがえったベンチャーが、日本に3Dプリンターの芽を植えている。

世界を変える3Dプリンター、「10」の先進事例
2013/4/9 7:00日本経済新聞 電子版

 ものづくりの世界を変える――。産業界に大きなインパクトを与えると期待されている3Dプリンターが、いよいよ普及フェーズに入った。3Dデータを基に断面形状を作製し、材料を積層して立体モデルを造形するこの技術は、「装置の低価格化」や「造形材料の品ぞろえの充実」などにより、個人ユーザーにも手が届く存在になった。「誰でもメーカー時代」の到来である。3Dプリンターを使った、10の先進事例を紹介しよう。

【ユーザーが作り手に】 お仕着せの商品から卒業

事例1:自分好みのスマホのカバーを作る
 フィンランドNokiaは2013年1月、Windows Phoneをベースにしたスマートフォンスマホ)「Lumia 820」の背面カバーの3Dデータを公開した。その名も「3D-printing Development Kit」。ユーザーはこのデータをそのまま使って好きな色で3Dプリントしてもよいし、カスタマイズを加えて造形することも可能だ(図1)。

図1 作成したスマホ用カバーとカバーの3Dモデル

 アセンブリ(組み立てた)状態の3Dデータ(図1右の青)と、構成する6部品それぞれの3Dデータ(図1内のグレー)を用意する。同製品はもともと、カバーを付け替えられるようなコンセプトのもので、例えば米国では25ドルでカバーが販売されている。

事例2:オプション部品、あなたが作って下さい
 スウェーデンTeenage Engineeringも、自社製品の3Dデータを公開し、ユーザーが部品を3Dプリンターで作れるようにした。同社のシンセサイザー「OP-1」のオプション部品(ストラップ用部品など)の3Dデータを自社のWebサイト上で公開している(図2)。

図2 オプション部品の3Dデータとオプションを取り付けたシンセサイザー

 マーケットサイト「Shapeways」からも3Dデータをダウンロードできる。ユーザーは、同社のサイトからデータをダウンロードして自分で3Dプリンターで作ることも、 Shapewaysから3Dプリンターによる造形品を購入することもできる。

 なお、メーカーが提供する部品も買える。例えば「Pitch Bend」と呼ぶオプション部品(図2の赤い部品)は、メーカー直販サイトで9米ドル、 Shapeways経由の造形品は4色あって3.57米ドルから4.47米ドルで販売されている。

事例3:ユーザーが決めたメッセージを形に
 インクスが運営する3Dプリントサービス「インターカルチャー」では、3Dプリンターで造形したさまざまな商品を販売する。図3右は、ワインボトルに取り付けられる装飾品。基本形状は用意されているが、文字(メッセージ)の部分をユーザーがカスタマイズできる。

図3 インクスが販売する3Dプリンターで造形した商品群

 図3左の発射台と図3中央の運搬車両は、バンダイの「大人の超合金 サターンV型ロケット」と一緒に飾るための商品。運搬車両は、消費者との意見交換の中から生まれた。販売数量の見込みが立てにくい製品でも、3Dプリンターであれば臨機応変に製造できる。

事例4:どんなデザインでもOK
 3Dプリンターを利用することで、非常に個性的なデザインの製品を実現できる。図4は、3Dプリンターメーカー・米3D Systemsの関連会社であるオランダFreedom Of CreationがWebサイトで販売しているスツールとランプシェード。

図4 Freedom Of CreationがWebサイトで販売する商品。左がスツール、右がランプシェード


【誰でも企画・設計】 “唯一無二”を造る

事例5:世界でただ一つのチョコを作る

 2013年2月2日と9日に開催されたワークショップ「ハイスペックすぎる自分型チョコレートを贈ろうの会」(東京・渋谷のものづくりカフェ「FabCafe」とケイズデザインラボが主催)では、参加者の顔をスキャンして得た3Dデータから3Dプリンターで原型を作製(図5左)。その形状をシリコーン型に転写し、チョコレートを流し込んで固め、自分の顔の形をしたチョコレートを作った(図5右)。

 参加した20人弱の女性は、これまでは3Dプリンターとはほとんど縁のなかった一般の人たち。3Dプリンターを活用することで、従来は考えられなかったようなサービスを一般の人が体験できるようになる。このワークショップには、著名なチョコレート職人も注目したという。食品加工の領域でも、3Dプリンターが活躍する場面は増えそうだ。

図5 3Dプリンターで作製した原型と完成したチョコレート



図6 彫刻家の名和晃平氏の作品の30分の1モデル(Manifold_Model (1/30)、2011、mixed media Courtesy of ARARIO GALLERY and SCAI THE BATHHOUSE Photo : Nobutada OMOTE | SANDWICH)
事例6:芸術家だって使いたい
 芸術家も3Dプリンターを活用し始めた。図6は、彫刻家の名和晃平氏の作品だ。2012年に韓国で展示された、高さ13×幅15×奥行12mと巨大な「Manifold」という作品の30分の1モデルを3Dプリンターで造形した。

 なぜ、これを作ったのか。名和氏は、光の当たり方や下から眺めた時の印象などを検討するためだと説明する。作品の手前に写っているのは、同じく人間の30分の1モデルで、これで展示の仕方のシミュレーションができる。

事例7:来場者が触れるよう石器のレプリカを用意
 2013年2月2日〜3月17日に開催された「驚きの博物館コレクション展―時を超え、世界を駆ける好奇心」(明治大学博物館、南山大学人類学博物館、名古屋市博物館合同企画)では、埼玉県砂川遺跡で出土した旧石器時代の石器(国指定重要文化財)を展示(図7)。そのレプリカを3Dプリンターで作り、展示会を訪れた人が手で触れるようにした。考古学や文化財などの分野でも、3Dプリンターは活躍する。

図7 3Dプリンターで作製した石器のレプリカ



図8 人間の骨と内臓の立体モデル
事例8:医師がスキルアップに活用
 医療機関での3Dプリンターの活用も進んでいる。骨の立体モデル(図8上)では、単に外観形状だけではなく、切断したりする際の質感も再現した。内部を多孔質にすることで、樹脂材料を使いながら実際の骨と同等の感触が得られるという。

 内臓の立体モデル(図8下)では、患者のCT(コンピューター断層撮影装置)スキャンデータから3Dプリンターによって立体モデルを造った。透明の材料を使うことで、血管や病巣などの内部を視認できるようにしている。患者に対する説明や手術時の参照用として実際に活用されている。

事例9:医療機械の機能を実証
 医療用機械の機能説明や操作習得のためには、さまざまな体格の人体を模したシミュレータが不可欠として、腹腔鏡手術用の骨盤モデルシミュレータ(図9左)や胸腔鏡手術用のシミュレータ(図9右)などが実用化されている。医師だけでなく、医療機器メーカーからのニーズも強い用途だという。

図9 医療用のシミュレーター

事例10:お腹の赤ちゃんの成長記録を残す

図10 MRIや3Dエコー画像から赤ちゃんの姿を造形
 ファソテックのメディカルエンジニアリングセンターは2012年7月、産婦人科クリニックの広尾レディース(東京・渋谷)と提携し、「天使のかたち」と呼ぶ3Dプリントサービスを開始した。

 妊婦の腹部をMRI(磁気共鳴画像装置)で撮影し、母体を透明樹脂で、胎児を白色樹脂で造形したり(図10左)、広尾レディースでの診断時の3Dエコー(超音波)画像を使って胎児の外形の一部を造形したりする(図10右)。前者が約10万円、後者が約5万円。
(日経ものづくり 中山力)

[日経ものづくり2013年3月号の記事を基に再構成]