藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

定番のお題。

根源的に、私たちは、自分を、地位や財産の誘引から断ち切ってくれる「きっかけ」を求めていると思います。

人間らしく、よく生きるとは、どういうことなのでしょうか。
自分が乗っているこの道は、そこに向かっているのでしょうか。
これは、古代ギリシャの哲学者、ソクラテスが立てた問いでもあります。

人は自分たちの歴史の中では、もう長いこと同じテーマで悩んでいるらしい。
まあ人の一生は(多分)一回だから誰もが同じような経験をするのだろう。

コツがあるとすれば「囚われ」からいかに自分を解放するか、ということだろうか。

物にでも人にでも地位にでも名誉でも、愛情ですらどこかで自分を縛り始める。
だからと言って全てに解脱する、ということも困難だ。

なんかふにゃふにゃするけれど、力をうまく抜きながら。
でも真面目に。
というところでしょうか。

絶対に、介護漫画『ヘルプマン!』を読もう。介護がはじまったら、または介護の準備のためにも。

漫画でしか表現できない世界がある

この漫画を読むと、文章でも、動画でも表現できない世界があることを思い知らされます。特に介護は、実在の人物を取り上げて、その介護の全貌を表現することにはプライバシー上の問題が発生します。また、排泄介助のリアルな描写は、そもそも動画で出すことはできません。

ヘルプマン!』は、綿密な取材にもとずいた、介護を題材としている漫画です。介護のプロからみた視点になっていますが、主人公が、そもそも介護の世界に飛び込んだ新人なので、主人公の学びが、そのまま読者に伝わるようになっています。

日本漫画家協会にて大賞(第40回)を受賞しているこの漫画は、2003年8月〜2014年9月まで『イブニング』(講談社)で連載されていたものです。その後も『週刊朝日』(朝日新聞社)に移籍し、現在も連載が続いています。

誰が読むべき漫画なのか

本当に読むべきだと思うのは、現在は(まだ)介護に関係していない人です。そしてまた、介護がはじまって、パニック状態になっている人にも読んでいただきたい漫画です。極端に言えば、子供にも読ませたい漫画です。

介護が不安なのは、それがどういうものかわからないからです。また、介護に関する政策や人事制度が、あさっての方向に向かいやすいのは、介護の現実を想像することが難しいからだと思っています。それぞれが一生懸命であっても、現場が想像できなければ、どうしても成果が出にくくなってしまうわけです。

しかし、この漫画を読めば、そうした部分の多くが、解消してしまいます。もちろん、批判もあります。それでもなお『ヘルプマン!』は、社会的な意義のある表現であり、日本社会の行く末を考える上での必読書と言ってよいものです。いずれ、日本が産み出した「偉大な作品」の一つとして、歴史に刻まれるものだと信じています。

介護につきまとうネガティブなイメージが変わる

結局のところ、介護とはなんなのでしょうか。不運にも、自分の身にふりかかった「迷惑なイベント」なのでしょうか。いやいや、それはただ、人が生きるということです。誰のところにも訪れる、当たり前のイベントであって、特殊なことではありません。

ヘルプマン!』の中では、介護の現実をつきつけられ、今にも壊れてしまいそうな人々が多数登場します。未熟な主人公が、そこに届けるのは、具体的で優れた解決策というよりも、介護に対する「考え方」です。それは「理想」であって、現実には難しいということもあります。実際に、Amazonの書評の中には、介護現場からの悲痛な感想もあります。

しかし、普通に生きてきた人にとって、介護における「理想」自体が、見聞きしたことのないものだと思います。介護に関わるということは、こうした「理想」と「現実」の間で苦しみ、悩み、ときに感動するということです。しかし、そこに「理想」がなければ、介護は、悲惨な「現実」の世界だけでグルグルするだけのものになってしまうでしょう。

老いるということは、ただ弱くなることではないでしょう。そこには、普通の生活があり、苦痛だけでなく、夢や希望もあります。言うまでもなく『ヘルプマン!』は漫画ですから、夢や希望のほうが強調されており、苦痛のほうは、リアルではあっても量的には「現実」よりも少なく感じられます。だからといって、意味がないということにはなりません。

よく生きるとはどういうことか、考えさせられる

幸福学の研究成果によれば、ただ地位や財産を追い求める人生は、幸福につながらないことがわかっています。そうした事実があるにも関わらず、私たちにとって、地位や財産の「輝き」はまぶしく、その誘引力に引きずられながら、疲れる日々と戦っています。

根源的に、私たちは、自分を、地位や財産の誘引から断ち切ってくれる「きっかけ」を求めていると思います。人間らしく、よく生きるとは、どういうことなのでしょうか。自分が乗っているこの道は、そこに向かっているのでしょうか。これは、古代ギリシャの哲学者、ソクラテスが立てた問いでもあります。

この漫画が突きつけるのは、介護というイベントを通して、そもそも生きること自体が、この問いと向き合うことだという事実です。もし今、介護で悩んでいるとするなら、それは、介護のテクニック的なこともあるかもしれませんが、結局は、生きることに悩んでいるということだと思います。

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