藤野の散文-私の暗黙知-

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反転-闇社会の守護神と呼ばれて-田中森一著

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その登場人物の豪華さと、
彼らのどぎつい振る舞い、
そしてそれらの赤裸々な描写、に一気読み。


ただし特に人に薦めたくなる内容、でもない。
読み物の読後感としては軽めだ。


そういう意味では「単に面白い」本、だったが。


最高裁判決に怯える著者


石橋産業事件で、懲役三年の「実刑判決」に上告中の著者、元特捜検事の田中森一(もりかず)氏。


昭和十八年、長崎平戸の貧しい漁村に生まれ、定時制高校から岡山大へ進み、昭和四十四年、司法試験合格。


その後検事になり、文字通り「たたき上げ」で、検事の花形「特捜」へ登りつめる。


そうして著者自身も「なぜだかわからない」という流れで弁護士へ転身。
著者の弁護士時代はまさに「バブル」と共にあった。

拓銀をつぶした男、といわれる中岡信栄が宿泊する
ホテルオークラのインペリアルスイートでミルク風呂に浸かる安倍晋太郎や、
・フランスに日帰りする山口組元若頭、宅見勝組長

著者は検事の退職金800万円に比し、弁護士事務所開設の祝儀は6000万円を得たという。


会社の顧問料だけでも毎月1000万円超と。


まさにこの時、バブル経済はピークに。


著者は数々の「バブル紳士」と関係する。



「ヤミ社会」の守護神だ。

・アイチの森下安道
イトマンの伊藤寿永光(すえみつ)
大阪府民信組の南野洋
・アイワグループの種子田(たねだ)益夫
大阪日日新聞の北村守
・仕手筋、コスモポリタン総帥の池田保次
許永中(顧問契約はしていない)
イ・アイ・イ・高橋治則ほか仕手筋の大物たち…


みながヘリを持ち、数千万のカネを持ち込んで、お互いのゴルフ場を渡り歩く様は「狂宴」ということばがぴったりだ。
(著者も七億のヘリを購入。一度しか乗っていないとのこと)



また一方には厳しい「社会の裏側」の記述もある。


世の中、「きれいごと」では片付かない、という当たり前だが、悩ましい現実。


同和問題、人種差別、建築業とヤクザのかかわり、など現実に起こったトラブルの当事者を語ることで、揉め事を収拾し、調整する「だれか」が必要だという指摘も認めざるを得ない、と思う。


自分たち一般人は普段「見なくても済んでいるところ」には、とんでもなく厳しい格差や貧困、という現実が潜むのだ、ということを見せられもした。



また「特捜にいた検事」の意見としてホリエモンの立件は

体制の一翼を担う放送局を、ホリエモンのようなうろんな(疑わしくあやしい、の意)輩に握らせるわけにはいかない、という検察上層部の判断があってこその立件だったのだろう。(後略)

と記述している。


立花隆が「ジェットコースター人生」と称するほどその浮き沈みは激しい、のだが。


なぜ出版したのか


第七章以降、著者が現在かかわる「イトマン事件以降〜石橋産業事件まで」が詳述される。


作品中、もっとも詳しく事件の経緯が記されている。

その中で著者は「検察側が主張していた私と彼(許永中)との密会・謀議は存在しないし、それを立証することはできない」としながらも、


最後に拘置所中村天風の「成功の実現」を繰り返し読み、有罪確定の妄想にうなされながら、「いまはそう自分を納得させている」と結ぶ。


読後感、として、二つのこと。


<つづく>