藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

自分らしさ、人間って。

スポーツ報道がAI作成の記事で遜色ないレベルに来ている、という話。

最低限の情報は漏れなく入っており、結果と簡単な経過だけを知りたいなら十分だ。

スポーツは特に定型化しやすいかもしれないが、よく考えればこれってスポーツに限らない。
政治だって経済だって「5W1H」が入っていれば通用する。
よっぽど批判的(あるいは提灯的)に書くのなら「人ならでは」になるかもしれないが、すでにAIくんは「同じキーワードを100回入力しても、100通りの原稿ができあがる」そうだから、すでに自分レベルは超えていると思われる。

何せ情報処理の量とスピードでは敵わない相手だ。
そのうち「朝日風」とか「日経風」になるのなら、もうそれはコンピュータの出来事の範疇ではないのだろうか。

AIで二極化も スポーツジャーナリズムの未来 スポーツライター 丹羽政善
 もはや、スポーツの現場に行かなくても、原稿ができあがるような時代になって久しい。しかもそれがビジネスとして成立する。

 例えば、ある試合を現場で取材した記者の記事が、インターネットに掲載されたとする。後はそれを要約するなり翻訳するなりして、“紹介する”という体裁でネット上に掲載すれば、ページビュー(PV)に応じて広告収入が得られる。取材経費がゼロなのだから、抜群の生産性である。

 もちろん、そうしたビジネスのあり方には批判もある。本来、出典を示して引用することに問題はない。むしろ、必要な補完作業だ。ただそれは“主従”でいえば、あくまでも従であるべきだ。ところが、その主従関係が逆転し、たんに要約したようなものが出回るようになって、モラルもなにもなくなった。

■まったく現場に行かない記者の台頭

 ここ数年、米スポーツメディア大手はそんな記事流用が氾濫するようになって監視の目を強めてきた。だが、同時にそうした現場に足を運ばず、独自の見方、考えを持たない“コピー&ペースト”ライターは、遅かれ早かれ淘汰されるとも見ている。別の意味で、まったく現場に行かない記者の台頭が著しいからだ。

 今年の6月終わり、世界でも屈指の規模を誇る米AP通信が、マイナーリーグのリキャップ(試合の要約)を「オートメーテッド・インサイツ」社が開発した自動記事作成システムを使って、各メディアに配信すると発表した。ついにスポーツジャーナリズムに本格的な人工知能(AI)の参入である。

 同社はマイナーリーグの公式ページで使われている「GAME DAY」という速報データを利用して記事を作成。これまでそうした原稿は品質の面で実際の記者が書く記事には及ばないと考えられていたが、実際に配信された文章を読むと、違和感がない。例えば、「打球がギリギリで外野フェンスを越えていった」「フルカウントからの際どい球をボールと判定されて投手が冷静さを失った」といった状況の描写はなく、単にそれらは本塁打、四球として処理される。だが誰々が先発した、どちらのチームが何対何で勝った、誰が勝ち投手になったという、最低限の情報は漏れなく入っており、結果と簡単な経過だけを知りたいなら十分だ。

 今はマイナーリーグだけだが、そうしたシステムが大リーグや他のメジャースポーツでも利用され、試合終了と同時に公式ページなどに掲載されたとしよう。するとテレビやインターネットなどで試合を見て、どこよりも早く速報をネットに掲載してPVを稼ぐメディアなどは、AIのスピードには到底勝てまい。

 また今後、こう報じられているといった要約などは、もはや人間が行う作業ではなくなるのではないか。

 その時代はもうそこまで来ていて、「ARTICOOLO(アーティクーロ)」という自動記事作成サイトでは実用化が進んでいる。テーマを与えると原稿を書いてくれるだけでなく、リライトや要約、適したコメントまで探してくれるという。同じキーワードを100回入力しても、100通りの原稿ができあがるそうだ。

 例えば、フリーエージェントになる前の日本人選手が大リーグへ移籍する場合に使われる「ポスティングシステム」とキーワードを入れたとする。そうすると自動的にネットを検索して、この新聞社の誰々はこんな意見を書いている、別の記者はこんな主張をしているといった情報を集め、さらにはそれを「現行のポスティングシステムに賛否両論」といった1本の原稿を瞬く間に仕上げてくれるに違いない。

■人を出すよりはるかに費用面で効果的

マーベリクスのキューバン氏は2人の記者にホームゲーム取材を禁じた=AP

 アーティクーロが提供するサービスの値段は、原稿10本で19ドル(約2200円)、50本で75ドル、100本で99ドルとなっていて、月単位の契約だとさらに安くなる。最初に紹介したオートメイテッド・インサイツの価格は5000本で750ドル、1万5000本で1500ドル。前者は個人でも購入できる価格で、後者は企業向けといったところか。750ドルを払って5000本も原稿を書いてくれるなら、需要が決して高いとはいえないマイナーリーグの取材にわざわざ人を出すよりも、はるかに費用面で効果的だ。

 さて、そうした技術革新の流れの中で先日、米プロバスケットボール、NBAマーベリックスマーク・キューバン・オーナーが、米最大のスポーツメディア「ESPN.com」に所属する2人の記者のクレデンシャル(取材許可証)を無効とし、マーベリックスのホームゲームを取材することを禁じて注目を集めた。

 こんな背景があったという。

 2人の記者は、マーベリックスの全試合を取材するわけではない。不在のときなど、「ESPN.com」はAP通信によって配信された記事をネット上に掲載している。しかし、そのAP通信は先ほど紹介したようにAIを利用した記事を配信し始めている。オーナーとしては現場に来て、人間に取材をしてもらって、人間に原稿を書いてもらいたい。機械化に対する抗議の意を込めて、あえて、影響力の大きいメディアに対して出入り禁止を命じた――。

 もちろんAP通信は、NBAや大リーグなど四大スポーツの取材にはきちんと記者を出し、AI記者による記事は配信していないと説明。キューバン・オーナーも理解しているが、いずれ利便性に負けるのではないかと危惧する。

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 彼はソフトウエアの開発で頭角を現し、ハイテク産業界で莫大な財をなすなど技術革新の最先端を歩んできた。そのオーナーが現場に記者を出せ、人間に記事を書かせろと、アナログな主張をすることにはギャップがあるが、彼はスポーツジャーナリズムの変化に一石を投じた。

■メリット、単に利便性にとどまらず

 ただ、これで歯止めがかかるかといえば、もはや難しい。彼もそれを知っているはず。メリットは単に利便性にとどまらないのだ。

 今夏のリオデジャネイロ五輪では、ワシントン・ポスト紙が、自社で開発した「ヘリオグラフ」という自動記事作成ソフトを使い、結果、速報、競技予定、メダル獲得数などをブログなどに掲載し、話題になった。同紙の分析では「膨大な作業量が削減され、記者や編集者は時間に余裕ができ、より詳細な分析、現場の雰囲気、深い洞察が記事に反映できるようになった」そうだ。

 確かに、試合展開を追うような記事は必要だが、誰が書いてもその差はわずかなのに、それでいて手間がかかる。記者も編集者もそこから解放されれば、その分、企画の立案に時間を割いたり、空いた時間で取材を重ねて調査してデータを作り、それをじっくり分析したりするといったこともできるようになる。

 となるとおそらく、これからのスポーツジャーナリズムは二極化していくのではないか。

 AIによるステレオタイプ化と独自の取材、視点による差別化。後者は記者が実際に取材をして、それが1次情報ならば、AIは太刀打ちできない。AIが得意とするネットでの情報収集に関しても、情報を読み解き、独自の考察を加えられれば、やはりAIは人間にかなわない。

 当然、そこで記者の力量が問われるが、結果として人の手によって書かれた記事の質が高まるのだとしたら、それこそAI化に伴う将来のスポーツジャーナリズムのあり方といえるのかもしれない。