藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

喜ぶ力。

江上剛さんの書評から。


もう13年以上、日本の自殺者は3万人を超えた。
そしてその中には少なからぬ「新卒」の若者も含まれているという。
「勤めないという生き方」には「仕事そのもののが人生に与える意味」が綴られている。


毎日を「何のために働くのか」という問いには、自分たちはなかなか即答できない。
だが、「今必要なことから、将来の自分たちの道を探ろう」というアプローチこそは、経済主導ではなく、本当に自分たちの「やりたそうなこと」を見つけることになるのかもしれない。


これまでになく豊かだからこそ、自分が働くことの意味も、そして自分の「これからの生活」にも確たる方向性を失う。
「仕事」は生きてゆく上では必須の項目であり、そうだとすれば一体自分は何をしたいのか?という今さらの問いに対して、改めて自分なりの解を持つ必要があるのかもしれない。


周囲の文明がどれほど進もうとも、また進んでゆくなかでも「自分オリジナル」の働き方を選択する力を、これからの「豊かな時代の中の人」は求められるようにも思う。
「豊かさ」の価値観は、もうすでに「お金持ち」的なことではなく、実に多様化しているのだろう。
そんな多様化する価値観のなかで、さらに「自分の住みか」を見つけることは、ますます重要なのだという気がする。


さて、自分はどこで生きてゆこうか。

勤めないという生き方 [著]森健
■仕事と生きることが一致する喜び

 去年、自殺者数は13年連続3万人を超えた。今回の特徴は就職失敗による自殺が、前年比で2割増になったことだ。その中には、53人の学生が含まれている。2007年の3.3倍。超氷河期と言われる厳しい就職環境を反映しているのだろう。


 本書には13人の勤めないという生き方を選んだ人たちが登場する。例えば、東京大学医学部からワコールに入社したが、手染め職人になった人、京都大学大学院からトヨタに就職したが島根県隠岐島で島起こしをしている人などだ。


 「本書はいわゆる“成功本”のたぐいではない」と著者は言う。誰もが途上だ。沖縄県南大東島のサトウキビからラム酒を造るベンチャー企業を立ち上げ、独立した人は「目の前のことで精一杯(せいいっぱい)ですよ」と言い、起業時を振り返る余裕はない。大手化学メーカーを辞め、職人がつくるものをネット販売して成功した人は、様々な失敗をして初めてこれしかないと気付く。


 著者が書きたかったのは、彼らの「仕事と人生に対する考え方であり、それを実践に移した行動の軌跡」。考え方の共通点は収入よりも自分の好きなことをすることだ。パソナを辞めて養豚業を営む人は「むかし何もわかってない頃にお金だけに憧れたけれど」、今は「仕事が生きることと一致している。これ以上の喜びはない」と言う。


 行動の軌跡の共通点は「どうしても」という強い思いと「出会い」だ。皮革メーカーから転職して極貧生活にあえいでいた人は「革しかなかったんです」と革職人として独立する。博報堂を辞め、建築家になった人はある日、「ここ(会社)にいたら、おれの人生って決まっちゃってるんだ」と思う。彼らは会社を辞める時、これをやりたいというものを持っていたわけではない。しかし、彼らはよく動く。動きから「出会い」が生まれ、師匠と仰ぐ人が現れ、現在につながっていく。とにかく動かないとだめなんだ。

 私も銀行を辞め、作家になった。彼らのことは理解できる。本書は、会社や就活で悩む人たちに力を与えてくれるだろう。

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 もり・けん 68年生まれ。フリーライター。『人体改造の世紀』など。