藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

受け手の問題。

政治家の発言もよく取り沙汰される。
タブーとか不規則発言、などという。
爆弾低気圧」とは山でも使う用語だが、確かにインパクトは強烈。
けれど、もし爆弾で被害にあったとか、戦時中に親族が関係したとかいう人がいれば、相当「嫌な気分」になるだろう。
そんな人は今や少ないからこそ、そういった注意が疎かになるものである。

心ない言葉、というのは案外多い。
爆弾よろしく、「つい強烈な表現」をしたいばかりに粗っぽい単語を使ってしまうことはよくある。
ゲリラ豪雨」も日本ではあまり問題ないかもしれないが、政情の不安定な国の人たちはどう思うだろうか。

そういえば、子供のころには仲間や教師などからも結構そんな言葉を浴びせられた思いがある。
思わぬところで他人を傷つけない言葉づかいというのもなかなか難しい。

爆弾低気圧は“禁止語”ですか。読売新聞では使いません。
1月15日付夕刊(一部地域16日付朝刊)の「おことわり」
急速に発達した「猛烈低気圧」のため大雪となった1月14日から一夜明け、凍結した路面を慎重に歩く人たち。(1月15日、東京都港区で)
 爆弾低気圧は、30年以上前にアメリカの気象学者が使った「bomb cyclone」の和訳というのが定説ですが、日本で誰がいつ言い出したのかは、はっきりしません。
 気象庁のサイトによると、「中心気圧が24時間で24ヘクト・パスカル以上低下する温帯低気圧(気圧の数値は緯度によって変動する)」が爆弾低気圧。ただし同庁では「急速に発達する低気圧」などと言い換えることにしています。

流行語大賞トップテンに入ったことも 本紙初登場は2004年1月の北海道版で、「気象関係者は、急激な発達をとげる低気圧を"爆弾低気圧"と呼んでいる」とあります。2012年には21回、紙面に載りました。この年、「現代用語の基礎知識選・ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにもランクインしています。
 数年前、新聞協会加盟社の用語関係者の会合で、この語が話題になったことがあります。気象庁も使っていない、こうした俗語的な用語はいかがなものか、という問題提起があったためです。

「あえて言い換えない」 「爆弾」には強い喚起力があります。「急速に発達する低気圧が接近中」と言われても聞き流してしまいそうですが、「爆弾低気圧が接近中」なら、今日は飲みに行くのはやめて真っすぐ帰ろう、となりませんか。いったん聞いたら忘れられない語だからこそ、流行語大賞にも入ったのでしょう。このとき、読売新聞をはじめ各社は、「読者に危険性をより強く訴えるため、あえて言い換えない」ことでおおむね意見が一致しました。
 新聞には様々なニュースが載ります。残念ながら、悲惨な事件・事故も後を絶ちません。こうした記事のすぐ近くに「爆弾」の2文字が躍っていたら、読者はどのような印象を持つだろう。少なからぬ記者がそんな思いを抱いていました。同じようにインパクトのある語を考えよう。知恵を絞って、たどり着いたのは「猛烈低気圧」。1月15日付夕刊(一部地域は16日付朝刊)から実施しました。

ゲリラ豪雨」は「局地豪雨」に 物騒な気象用語には、2008年の流行語大賞にランクインした「ゲリラ豪雨」もあります。こちらの歴史は古く、本紙初出は1969年8月に遡ります。「新潟県中部上空には、ゲリラ豪雨の黒雲が不気味に広がっている」(夕刊社会面)。70年安保、大学紛争などで騒然としていた当時の時代背景もあるのでしょう。以後、すっかり定着した感のある語ですが、これも「局地豪雨」と言い換えることにしました。ちなみに気象庁では「局地的大雨」としています。
 (編集委員 鈴木明男)
(2013年2月19日 読売新聞)