藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

プレッシャーをバネに。





スケートのメダリスト、清水宏保さんが対談で語っている。

プレッシャーをサプリメントにする。

「国の代表としてのプレッシャーは当然かかります。
そのプレッシャーをサプリメントとして、自分を成長させればいいんじゃないでしょうか。」


そしてもう一つ。
「ピーキングの思想を捨てる」とも。これは何かというと、
「自分の目標を五輪にピークを合わせるのではなく、80%の力しか出せなくても勝てるようにする」というもの。


多くのアスリートたちの中で、さらに頭一つ抜きんでる、ということには深い精神性が関わっている。
そして世阿弥花伝書にも似た、本番前の精神の整え方、について抜き書きしておきたい。


清水 例えば試合当日、僕は3時間半ぐらい前に会場入りします。
   まず何を最初にするかというと観客席に座る。
   4カ所ぐらいに座って、自分の滑っている状態をイメージしながら、メンタルリハーサルをするんです。これでかなり落ち着くことができます。


西村 以前、試合前「幽体離脱」するように、自分を上から見て、自分自身を客観視する、という話もうかがいましたね。


清水 それもやりますね。
   ずっと上までもっていくと、さらに自分のちっぽけさがわかるんです。
   地球には戦争をしている場所もある。
   地震で壊滅している都市もある。地球温暖化で沈もうとしている島もある。
   自分はこんな小さなリンクで、レースなどという小さなことに悩んでいる。
   なんとちっぽけな存在か。
   そう感じられるようになれば、すっと楽になれるんです。プレッシャーなんてどうでもいいことだと。

   人それぞれの考え方がありますから、一流の選手はそれぞれの方法を持っていると思いますけどね。


「自分を"蟻"のように見る」ということがどれだけ難しいか、は我われは自分の自我を通して、「ある程度」は知っていると思う。
大勢の中の一人、と思える自分を、一番気にして、一番冷静に見られないのが自分である。


だから、プロはその「最弱点」の克服にかかるのだろう。
「それ」そのものが人間の最も弱い部分かもしれない。


何事につけ、「自分の関わる出来事」には、自分は無関心ではいられない。
それがまあ、人間らしい、ということでもある。
だってそれがなければ「自分と他人の区別」がなくなってしまうから。


だが。
一たび、プロが観客の前に立つような、そんな場合。
今度は「自分への気持ち」が客観性を邪魔してしまう。
その、「何よりも気になる自分」を如何に解放するか。


プロ達はそんな技も身につけている。
何にしても、そんなギリギリの精神世界を追い求める者の言葉に興味は尽きないものである。





asahi.comより>

バンクーバー冬季五輪開幕を目前に控え、熱気が高まってきた。
前回のトリノ五輪まで4大会連続で冬季五輪に出場し、金銀銅メダルを獲得したスピードスケートの清水宏保さん(コジマ)と、1994年のリレハンメル五輪前から清水さんを取材してきた西村欣也・編集委員バンクーバー五輪への期待を話し合った。

    ◇

 西村 五輪を目前にして、自分が出場しない五輪というものに違和感を感じていませんか。

 清水 そんなに変な感じはしませんね。
もちろん出たかったですが、今の自分の実力では出ていても参加するだけの五輪になっていたでしょう。
勝負がかけられないのなら、出場してもあまり意味はありません。
それより五輪前の世の中の雰囲気を感じられて、逆に新鮮です。


 西村 やはり一番の関心は男子500メートルということになりますか。

 清水 自分が打ち込んできた種目ですから、そうなりますね。日本勢はエース格が3人いますが、だれかがメダルに届いて欲しいと思います。

 西村 長島圭一郎日本電産サンキョー)と加藤条治(同)が日本勢では抜けているように思えるのですが。

 清水 僕の見方は少し違います。
一番安定しているのは、及川佑(ゆうや)(びっくりドンキー)でしょう。
彼はいつもシーズン後半にいい成績を残します。これは、しっかりと練習できているからです。
長島も実力はあるのですが、スピードが少し劣る。
エース視されることでプレッシャーもあるでしょう。
ただ、バンクーバーのリンクは高速リンクではないので、彼に向いていることは確かです。
加藤は1回勝負ならスピードもあるし、3人の中で最も強い。
でも、2回そろえられるかどうか。まだ潜在能力だけで滑っているところがある。
そこが問題ですね。


 西村 だれかが金メダルという可能性もあるでしょうか。

 清水 少し厳しい見方になりますが、金メダルは難しいと思います。
韓国勢が安定している。
世界スプリントで韓国勢が1、2位でしたが、その時1人は腰痛が出ており、もう1人は盲腸の手術からそんなに時がたっていなかった。
そんな不利な状況でのワンツー・フィニッシュでしたから、彼らの方がマージン(余裕)があるんじゃないでしょうか。米国、カナダ、オランダ勢の強豪は世界スプリントを回避した。

ライバルは大勢います。

本当は日本勢を応援したいのですが、個人的には長年、ライバルだったウォザースプーン(カナダ)に勝たせてやりたいという思いもどこかにあります。


 西村 あなたが、長野五輪で金メダルを取った時に「ピーキングの思想を捨てる」と言っていました。
五輪にピークを合わせるのではなく、80%の力しか出せなくても勝てるようにする、と。スピードスケートだけでなく、モーグル上村愛子北野建設)や女子フィギュアの浅田真央中京大)、安藤美姫トヨタ自動車)、男子の高橋大輔(関大大学院)らにもメダルの期待がかかります。
アドバイスがあれば、お願いします。


 清水 ほかの競技は見たことがないので、なんとも言えませんが、国の代表としてのプレッシャーは当然かかります。
そのプレッシャーをサプリメントとして、自分を成長させればいいんじゃないでしょうか。


 西村 それが簡単じゃない。
あなたにはそれができても、他の選手にはなかなかできない。何か具体的な方法はありますか。


 清水 例えば試合当日、僕は3時間半ぐらい前に会場入りします。
まず何を最初にするかというと観客席に座る。
4カ所ぐらいに座って、自分の滑っている状態をイメージしながら、メンタルリハーサルをするんです。これでかなり落ち着くことができます。


 西村 以前、試合前「幽体離脱」するように、自分を上から見て、自分自身を客観視する、という話もうかがいましたね。


 清水 それもやりますね。
ずっと上までもっていくと、さらに自分のちっぽけさがわかるんです。
地球には戦争をしている場所もある。
地震で壊滅している都市もある。地球温暖化で沈もうとしている島もある
。自分はこんな小さなリンクで、レースなどという小さなことに悩んでいる。
なんとちっぽけな存在か。
そう感じられるようになれば、すっと楽になれるんです。プレッシャーなんてどうでもいいことだと。
人それぞれの考え方がありますから、一流の選手はそれぞれの方法を持っていると思いますけどね。


 西村 トップアスリートを取材していると「自分を客観的に見る」という言葉をよく耳にします。
メジャーリーガーのイチロー松井秀喜も同じことを言います。
どうやって自分を客観視するか、ということがプレッシャーをサプリメントにする方法だということですね。
それにしても、浅田真央やスピードスケートの高木美帆(札内中)らについては自戒をこめて騒ぎすぎのような気がします。


 清水 確かに真央ちゃん一色の五輪というイメージがありましたね。
でも、逆に高木美帆が出てきたことで、プレッシャーを分け合うことができているような気がします。
高木は15歳ながら、落ち着いていますよ。過剰な報道の中でも自分を保てていると思います。
高木が出場する女子団体追い抜きは、対戦相手に恵まれれば、メダルに届く可能性があると思います。


 西村 五輪に参加するすべてのアスリートにメッセージがあれば、お願いします。


 清水 五輪は強いだけでは勝てません。
アーティストがライブで最高のパフォーマンスをして観客に恩返しするように競技に臨んでほしいと思います。
4年に1回の個展を披露する。
そういうストーリーを自分で描ければ、楽になりますよ。
あとは日の丸のためというのではなく、日本を好きになってほしいですね。
支えてくれた人や地元や日本という国に感謝しながら、五輪に臨んでほしい。
スポーツは見る人にパワーを与えられるものですから。
ただお祭り騒ぎに参加するというのでなく、日本のスポーツ文化を高めるという意識も選手には持ってほしいと思います。

    *

 しみず・ひろやす 1974年北海道・帯広市生まれ、35歳。
長野五輪で男子500メートル金メダル、1000メートル銅メダル。
ソルトレーク五輪で男子500メートル銀メダル。
162センチと小柄ながらロケットスタート世界新記録を4度樹立。
バンクーバー五輪出場を逃し、今季で第一線から退く決意を固めた。