藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

判断力。

秘密法の報道も心なしか少なくなってきたが、賛否両陣営の対談記事より。

これまで諸外国にあった秘密保護を単に法制化するだけだ、という賛成派。
それを「権力者」が操ることによる専制化を懸念する反対派。

「委縮か国防か」と短く二元論的な見出しも躍る。
さてどうなるだろうか。
自分は「運用で決まる」と思っている。
なので、「何が秘密なのか、をバラしてしまっては保護できない」という理屈は許されないだろうと思う。

どちらも対極に立ってしまえば、結局妥協点はなくなる。
だから「あって当然」という「制定する側」がきちんとした運用を考えない限り、ある意味"権力者の凶器"となり得るような存在なのだろうと思う。
「使いようによっては危ないが、それは大丈夫」と言う理屈は社会では通らない。
国防やテロの予防のための「運用ルール」こそが最も肝心な部分であり、法律の条文と同様に厳格なルールが必要だと思う。

同時に、今の首相は靖国問題等、ある種の思想的なふるまいも見せている。
また仮にリーダーが変わってもルールは変わらないものでなければならないだろう。
かつて沖縄密約を隠し、今また「法律は曖昧なもの」という表現で「さあ武器を持たせろ」というのは無理筋の話ではないだろうか。
運用にこそ、自分たちは関心を払わねばならないのである。

秘密法は立憲主義を守れるか? 長谷部・杉田両教授対談
通常国会が24日に開会し、昨年12月に成立した特定秘密保護法は、引き続き主要なテーマのひとつとなる。この法律に賛成した長谷部恭男(はせべやすお)・東京大教授(憲法)と、反対の立場をとる杉田敦(あつし)・法政大教授(政治理論)に改めて、秘密法の論点は何かや、そこから見える日本の政治・社会の課題や展望について、語り合ってもらった。

* 特集「特定秘密保護法

 杉田敦・法政大教授 長谷部さんはなぜ、秘密法に賛成されたのですか。
 長谷部恭男・東京大教授 国を守るためです。単に領土を守るとか、国民の生命と財産を守るということではない。日本国憲法の基本原理である立憲主義を守るということです。
 杉田 一般的にはその説明がわかりにくい。立憲主義とは通常、憲法をつかって権力を制限するものだと理解されていますが。
 長谷部 世の中にはいろいろな考え方をする人がいて、しかも何が正しくて何が正しくないか、そう簡単に決着がつかない。多様な考えを持つ人たちが、何が正しいかをめぐって殴り合ったり殺しあったりすることなく、公平に暮らしていける枠組みをつくらなければならない。それが立憲主義の考え方。権力が制限されるのは、みんなを公平に扱う社会の仕組みをつくるためです。
 しかし世界には今、中国や北朝鮮のように立憲主義の考えをとっていない国がある。私たちはそれらの国々から、憲法の定める自由で民主的な現在の政治体制を守らなければならない。そのために秘密法をつくり、特別に保護されるべき秘密が外に漏れないようにする必要があるのです。
 杉田 日本では、権力は危ない、とにかく制限すべきだという考え方が強い。秘密法への批判の多くも、そういう権力観がベースになっていたと思います。しかし、権力の危険性はふまえつつも、同時に権力には、生活保障や安全保障など、広い意味でのセキュリティーを確保する積極的な側面もあることは確かです。
 とはいえ、どうでしょう。板前さんが包丁を持っていても心配ありませんが、こわもての人が持っていると恐ろしいですよね。
 長谷部 そうですね。
 杉田 秘密法への反応もそういうことではないですか。法律は相互に関係し合っています。憲法改正集団的自衛権の行使容認など、安倍政権がめざす法制度改革の文脈に秘密法を位置づければ、不安も出てくる。情報が遮断された中で、いつの間にかとんでもない所に連れていかれるのではないかと。秘密法で国を守ろうとした結果、私たちの生活が脅かされるとすれば本末転倒ですよね。
 ■「政権への不安は理解」
 長谷部恭男・東京大教授 秘密法は民主党政権のもとで構想されたもので、民主党政権が提出していたらこれほど反発されなかった可能性が高いと思います。安倍政権の何が問題か。安倍晋三首相は昨年末、「国のために戦い、尊い命を犠牲にした御英霊に哀悼の誠を捧げる」と、靖国神社を参拝しました。
 しかし私に言わせれば、靖国にまつられている人たちは、戦前・戦中の憲法体制を守るため、つまり今の日本とは「別の国」を守るために死んでいった。参拝は当然だという首相の論理は相当あやしい。「国を守る」といっても私と首相の言う意味はまったく違います。国を守るためと称して集団的自衛権の行使容認や、憲法改正を目指している安倍政権に多くの人が不安を抱くのは理解できる。私も集団的自衛権行使容認や憲法改正には反対です。
 ただ、秘密法は、多くの先進諸国が持っているありふれた制度のひとつです。だから政権のありようとは別に、純粋に法技術的な観点から判断されるべきです。包丁の持ち主はいずれ代わるのですから。
 杉田敦・法政大教授 法の種類にもよります。秘密法を使えば、有権者が政治的な判断をする際の前提となる重要な情報を、場合によっては60年間ずっと隠し続けられる。安倍政権が、例えば手形小切手法を改正しても不安にはなりませんが、秘密法もそれと一緒ということにはなりません。
 機密保護や治安維持を目的とする法律は、私たちにセキュリティーをもたらす面がある一方、侵害する面がある。だからこそ中立・公平性の高い第三者機関をつくり、法律が恣意(しい)的に運用されていないかチェックさせる必要があります。
 長谷部 第三者機関の意味は限られていると思います。情報に触れる人が増えれば機密保護という制度本来の趣旨が損なわれるし、専門性をもたない素人は何を特定秘密に指定すべきなのか判断できません。
 ■「条文あいまい、不安招く」
 杉田 第三者機関の限界は原発をめぐって露呈しました。事故以前にも専門家による原子力安全委員会という第三者的な組織がありましたが、実際には利害関係者の「ムラ」と化した。必要な対策も後回しにされ、結果として原発事故を防げませんでした。
 そうした経緯を目の当たりにした私たちは、外部チェックの仕組みさえつくればいいと、単純に主張するわけにはいきません。かといって東京電力のような企業・業者や、機密にふれる官僚機構のような組織内部の規制だけに任せるわけにもいかない。今は決め手がない。だったら、できることを全部やるしかありません。
 長谷部 理想の制度をめざして努力することは大切です。しかし、制度にはおのずと限界があることをわかった上でつくらないと、法や組織をつくったのに機能していないという批判の対象を、また一つ増やすだけになります。
 杉田 秘密法の条文があいまいなことも、国民の不安を招いた。秘密の範囲が際限なく広がるのではないかと。また、立法過程で、知る権利や取材の自由に「十分に配慮」すると明記され、取材活動は「正当な業務」と位置づけられました。しかし当初は全く配慮されていませんでした。
 長谷部 知る権利や報道の自由憲法の原則なので、法律自体に書き込むかどうかはあまり意味がない。明記されてわかりやすくなったとは思いますが。
 杉田 わかりやすさも大切です。憲法に書いてあるから法律には書かなくていいというのはあまりに法律業界の議論です。これだけ世論の反発を生んだのだから法律のつくり方も拙(つたな)かったと言わざるを得ません。
 長谷部 しかし、政府が法案を提出した時には知る権利などの原則が盛り込まれたのに、「わかりにくい」と批判されました。
 例えば秘密法22条2項では「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、(略)法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」となっていますが、「『著しく不当な方法』とは何かわからない」と批判された。正当な取材方法とは何か、法律にいちいち明確に書かないと理解できないほど、ジャーナリストのみなさんは「子ども」なのでしょうか。
 法律とは総じてあいまいなものです。ガチガチに固めてしまうと、具体的な事例に適用した時におかしなことになるからです。例えば、住居侵入罪は「正当な理由」がないことが構成要件になる。正当な理由が何かは常識で判断されるという前提を抜きにしたら、法律は機能しません。
 杉田 その常識が変えられてしまうという不安を今回、多くの人が持ったのではないですか。あいまいな書きぶりの法律が悪用されるのではと懸念するのは不自然でしょうか。
 長谷部 秘密法の運用基準づくりはこれからです。民主党への政権交代が挫折に終わり、自民・公明の連立へと政権が回帰した今、民主主義や選挙の意味とは何かが改めて問われています。安倍政権をつくったのは有権者であり、民主党政権を徹底的に批判したメディアです。「次」の選択肢の品質も考えないで、とにかく政権の首を切るということで良いのか。有権者の自覚も問われています。
 杉田 今回のような事態で政治不信が広まると、政策論議の土台そのものが壊れてしまいかねない。政治が何を提案しても、まずは不信感が先に立つことになるからです。その意味でも安倍政権の責任は重い。
 有権者の態度も問われます。秘密保護法への反対は盛り上がりましたが、これまで情報隠蔽(いんぺい)への感度は低かった。イラク開戦をめぐって時の政府が不正確な情報を出したことに、米英の有権者や議会は怒り、当時の責任者を激しく追及しました。怒る時にはしっかり怒る、主権者としての自覚が民主政治を支えるのです。
 ■「実践重ね、悪用を防ごう」
 杉田 秘密法が社会にもたらす萎縮効果は大きい。法によって処罰されるかどうかについて、最後は裁判所が判断するから大丈夫だと割り切ることは、普通の人にはできません。逮捕や裁判自体がものすごい負担ですから。
 長谷部 悪用できないような法律は、実は善く使うことも難しい。法律とはもろ刃の剣です。悪用を防ぐためには、日々の実践によって慣行を積み重ね、裁判所による判例を積み重ねていくしかありません。例えばマスコミは「捜査関係者への取材によると」と事件報道していますが、これは厳密に言えば、警察官らが守秘義務を破ったことになり、地方公務員法違反です。でも逮捕されないのは慣行が確立しているからです。
 なぜみなさん、そんなに自信がないのですか。戦前戦中と今は政治体制が全く異なるのに、秘密法ができたらお手上げだ、戦前戦中に戻ってしまうというのは極めておかしな議論です。
 杉田 確かに国の体制は法律の条文だけではなく、慣行や判例の積み重ねによって成り立っていて「ここまでは大丈夫」という線が重要です。その点で、戦後日本の蓄積はある程度評価されるべきで、「秘密法で日本は一挙に戦前に回帰する」というような言い方は誤解を招きやすい。
 ただし、戦後日本の政治体制で最もそういう蓄積がないのが情報公開の分野です。日本は機密が漏れる心配をするより前に、情報公開や公文書管理について制度の整備を進めるべきです。米国では一定の年限を越えたら、質量とも日本では考えられないほどの情報が公開される。
 「沖縄密約」が典型ですが、米国の公文書で密約の存在が明らかになっても、日本政府は密約はないと否定し続けてきた。一定の年月が経過したら機密も含めて有権者に公開し、判断を仰ぐのが当たり前という慣行は日本ではまだ確立していません。こんな現状で機密保護だけを先行させるのはどう考えてもおかしい。
 長谷部 文書管理や情報公開の制度は不十分かもしれないが、あることはある。その中で実践を重ねていくしかありません。そもそも秘密法ができたことで、情報公開の観点から何が悪くなると考えているのですか。
 杉田 外交機密、防衛機密に加えて、テロ関係という言い方で警察や公安機関が握る機密も特定秘密に指定され、行政へのチェックが難しくなる点です。
 長谷部 しかし、そういう情報はこれまでも表に出てきていませんよね。それに秘密法では、特定秘密に指定された情報は省庁間で共有することを前提に制度設計されていますから、外務省も防衛省も、本当に隠したい情報は秘密指定せずに手元に抱えると思います。
 杉田 でも、役所はどうせ情報を隠すから同じだということにはなりませんよね。どうすれば必要な情報が適切に管理され開示されるようになるか。この際、一から出直す覚悟が必要ではないでしょうか。
 長谷部 秘密法ができたから状況が悪くなるわけではないということです。いずれにしても秘密法の運用基準づくりはこれからの課題です。いま言えるのは、情報公開も秘密保護も、判例の蓄積も含めて実践を積み重ねる中でよりよい方向に持っていくしかない、ということです。
=敬称略(構成・高橋純子)
 ■秘密法の骨子
・行政機関の長が特定秘密を指定
・指定の有効期間は原則60年。例外で「政令で定める重要な情報」など7項目は60年超
・行政機関の長は秘密を扱う者に「適性評価」を実施
・国民の知る権利の保障に資する報道・取材の自由に十分に配慮
・秘密を扱う者が漏らした時は、10年以下の懲役
・公布から1年以内に施行
     ◇
 〈秘密法と第三者機関〉 秘密法は秘密指定の統一基準をつくる際、「識見を有する者の意見」を聴くと定めた。安倍政権は有識者による第三者機関「情報保全諮問会議」(渡辺恒雄座長)を設置したが、個別の秘密指定の内容をチェックするわけではない。首相はまた、法成立直前に「保全監視委員会」「独立公文書管理監」(ともに仮称)の設置も表明。だが、いずれも政府内に設置され、官僚主導の組織となりそうだ。
     ◇
 〈秘密法と「知る権利」〉 国民の「知る権利」は、秘密法の当初の政府案にはなかったが、公明党の要求を受けて国会提出前に盛り込まれた。条文は「国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」と明記。ただ、どの程度「配慮」されるのかは不透明で、たとえ「報道・取材の自由」に配慮したとしても、秘密を扱う公務員の側が厳罰を恐れて情報提供しなくなり、国民の知る権利が制約されるという問題点は解消していない。
     ◇
 〈沖縄密約問題〉 1972年の沖縄返還をめぐり、日米間で交わされた秘密合意。米国側の情報公開や関係者の証言で存在が指摘されていたが、歴代自民党政権は否定し続けてきた。民主党への政権交代後、岡田克也外相(当時)が設けた有識者委員会は2010年3月、調査報告書を提出。「沖縄返還に伴い、本来、米側が負担すべき沖縄の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりする」との秘密合意を「広義の密約」と認定した。
 ■政治への諦め、育まないために…
 昨年12月6日、根強い世論の反対や懸念を押し切って特定秘密保護法が成立した。だが、法の施行は公布から1年以内と規定されており、廃止や改正をめざす時間はまだある。国民の「知る権利」を守って社会を萎縮させないために、適正な法運用の仕組みが作られるよう、私たちは監視を続けていく。ただ、それだけでは十分ではない。
 この国の政治や社会はどうあるべきか――。秘密法をめぐる議論の「その先」にあるこの問いを深めなければ、「何をやってもどうせ変わらない」という政治への諦めを育んでしまうかもしれない。
 そんな問題意識から、長谷部、杉田両教授に対談をお願いした。専門が違う2人の政治や社会の見方は異なり、秘密法への賛否も分かれた。
 2人の静かな対談を読んでも、留飲は下がらないし、簡単には「答え」は得られないかもしれない。日々のニュースを追う新聞記者は、こんな遠回りは本来苦手だ。だから、あえて。政治や社会に対する理解を深め、どうあるべきかを考えることは、圧倒的な議席を背景に、憲法改正集団的自衛権の行使容認など、この国のかたちを大きく変えようとしている安倍政権と向き合うための大事な「足場」になるはずだ。(高橋純子)