藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

脳内と同化するために

asahi.comより。
(反響はあまりなかったけれど)
以前も書いたことがあるのだが、筆記具と紙の関係について。
筆記具については、日本のメーカーはダントツに種類が豊富で、万年筆などにうるさい外国人も目を丸くしていることが多い。
文具マニアにもそうした好事家がいて、よく酒場などでそういう人と巡り合って文具談義などするのはとても楽しいものである。

特に筆記具の書き心地では、使用するインクの顔料の種類や(明るめ、暗めなど)発色の度合い、そして何より「線の太さと下記味の滑らかさ」についてはこれでもか、というほど種類が豊富で、また新製品の開発も活発である。

一方、筆記の相手方である紙のこと。
特に特殊用紙を求めれば別だが、一般のメモやノートはこと「紙の種類」という観点では非常に種類は少ない。
手帳や日記なども、紙の書き心地よりはレイアウトなどが重視されている。
などと思っていたらいました。
紙の(書き心地の)専門家が。

 ペン先は滑らかに動くか。妙なでこぼこを感じないか。ゆっくりと筆を動かしながら、指先に神経を集中させる。

余談だが、自分は「筆記具と紙の書き心地」が「文章の創作やアイデアの発想に与える影響」はとても大きいものがある、と信じている。
ペンも紙も「それ」を意識させないのが究極である。
発想するままに手が動き、それを紙に転写する。

ペンも紙も、「脳の中身を写し取るための道具に徹する」といった感じか。

こうした筆記具メーカの人たちは「そこへ至る努力」を延々と続けている研究者に違いない。
あらためて感謝と敬意の念を払いたいと思う。

(凄腕つとめにん)書き心地を点検するノート300製品
 ■マルマン 企画グループ長代理 遠藤恒夫さん(42)
 ノートの質を決めるのは、紙の書き心地だ。
 紙の強さや滑らかさは、機械のテストでも測れる。だが、人間が感じる「書きやすさ」は、それとイコールではない。自らの感覚が試される。
 製紙会社が納めてきた紙のサンプルを、机に広げる。万年筆を手にとり、紙の上に3センチほどの横棒を5本引く。次は波線を5本。漢字の「井」の字を5個。「万年筆」「筆記テスト」などと、思いついた文字を書いてみる。
 ペン先は滑らかに動くか。妙なでこぼこを感じないか。ゆっくりと筆を動かしながら、指先に神経を集中させる。書き終わったら、一つひとつの字にルーペをかざし、インクのにじみの大きさをみる。紙を裏返し、もう一度チェック。ボールペン、蛍光ペン、水性ペンなど10種類以上の筆記用具で、同じテストをくり返す。
 テストは月1〜2回。1枚の紙に1時間ほど費やす。
 評価の基準は、うまく言葉で説明できない。これまでのテストのデータは、すべて自分の感覚に刻みこまれている。自分が「書きやすい」と納得できれば、オーケーだ。
 紙は工場でつくられる工業製品だが、原料の水やパルプの状態で出来ばえが微妙に変わる「生き物」でもある。「全神経を集中して、これまでと変わらない品質かを確かめます」。細かい書き心地の変化は、製紙会社と慎重に原因をつめる。
 自社オリジナルの紙を使ったノートやスケッチブックは300製品。それらすべての書き心地をチェックする。
 営業から品質管理担当に異動して10年。同僚は「彼にしか分からない感覚が、我が社のノートやスケッチブックの品質を支えている」と評する。社内では紙についての知識を買われ、達人、「ペーパー・マイスター」と呼ばれている。
 磨いた感覚が、ヒット商品も生む。
 学生用のルーズリーフの新商品をつくるとき、ライバル社と自社の紙の書き心地を試してみた。ライバル社の紙は、シャープペンシルのペン先が少し滑る感覚があった。一方、自社の紙はペン先がひっかかるのが気になった。
 「この中間の紙質を」。紙の厚みをほんの少し変えて発売した「書きやすいルーズリーフ」は、大学生の人気を得て定番商品になった。
 ノートに魅力を感じたのは、中学生のとき。6歳上の兄からルーズリーフをもらったのがきっかけだ。
 「大人っぽくてかっこいい」と感じ、いろんなデザインの紙を買って、ファイルにとじた。アルファベットの学習用や音楽の授業用に五線譜が入った紙は、実際に使うことはなかったが、ファイルを眺めているだけで笑みがこぼれた。
 ルーズリーフの端には、小さな文字で社名が入っていた。大学生のとき、就職雑誌の中にその名前を見つけた。迷いなく入社を申しこみ、今に至る。
 「少年時代に自分が感じた魅力を、いつまでも守り続けたいんです」(牧内昇平)
 ■凄腕のひみつ
▼新種ペンに目光らす
 使う道具によって同じ紙でも書き心地は変わるため、なるべく多くの筆記用具を手元にそろえている。新しいタイプのペンが発売されていないか、文房具店を回るのが日課だ。
 ▼引き継がれるバトン
 品質管理担当になった10年前、社内で「紙の神様」と呼ばれていた先輩と出会った。2年間一緒に働き、品質テストのノウハウを教わった。
 「神様」はすでに退社し、良質なノートをつくるためのノウハウを、自分が守る立場になった。「先輩から託されたバトンを、私も後輩たちに引き継いでいきたい」
 ■プロフィル
 えんどう・つねお 1971年、東京都生まれ。大学を卒業後、マルマンに入社。10年間、営業を担当した後、品質管理担当に。紙の品質テストを行うかたわら、新商品の開発にも携わる。