藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

BPO。

中国の大連で日本語を対象としたBPOが加速しているという。
BPOとはもう二十年も前に取り上げられ、流行りの業務になっていたが、それがそのまま先鋭化し、強力になっているという話。

元々はガラパゴスならぬ日本語独特の会話や知名、商業名詞が「日本ビジネス参入の壁」となっているということが通説だった。
「それ」を乗り越え、しかも日本の内部の人材のスキルを乗り越えて、完全に日本語業務のビジネスをアウトソーシングしているという事実には頭が下がる。

日本人が自身ですらもはや深めようとしない日本語やテクニカルタームとしての知名、医学用語などを習得しているという。
一旦そうした壁を乗り越えれば、銀行業務、保険、その他サービスなど対象は多い。
「努力を超えた」先にはビジネスのチャンスは広がり、そこには母国の人間たちも置いて行かれる世界がある。

純粋に日本人・日本語を対象にしたサービスで、外部委託が進んでいることを日本人はもう少し我が事として考えてみる必要があるのではなだろうか。
3Kとか言ううちに、「地道な人たち」にどんどん職域が侵されているのは自分たちに原因があると思わざるを得ない。
驕りは自国内といえど禁物ではないだろうか。

中国「人海入力」基地を見る 誤字率は0.01%以下

2014/5/11 7:00
日本経済新聞 電子版
 銀行口座や携帯電話の申込書、保険金の請求書――。ビッグデータ時代になっても手書きの文書は世の中にあふれる。文字のデータ化は膨大な作業。これを日本企業から請け負うのが大連などの中国人だ。1万人以上の作業者が日本人よりも速く正確に業務をこなす。日本企業の競争力を下支えする“進化する人海戦力”の現場を歩いた。

■日本語の申込書・請求書・診断書…
カタカタカタ――。テニスコート16面分もあるフロアに500人の中国人がキーボードをたたく音だけが鳴り響く。

運河の街で知られる遼寧省省都瀋陽。車で30分ほど南下した郊外のハイテク団地に、NTTデータの入力拠点がある。20代から40代ぐらいまでの中国女性が一心不乱におのおののパソコンに向かう。

この拠点は日本の保険会社から保険金や給付金の支払業務を請け負っている。保険契約者が手書きした提出書類を読み取り、その内容をキー入力する。500人で1日平均7万6000枚を処理。入力スピードはひらがなだと1分間に180字以上。毎秒3字超のハイペースだ。

スピードだけではない。下の写真は医師の診断書だが、正確に読み取れる人が何人いるだろうか。データ入力を専門に手掛けるインフォデリバ(東京・港、尚捷社長)の伊藤嘉邦副社長は、「日本人でも判読が難しい記述を1字残さず正確に読み取る」と胸を張る。

ビジネス・プロセス・アウトソーシングBPO)――。文字通り、「間接業務の外部委託」を意味する。単純作業を低コストで、という固定観念がぬぐえなかったBPOだが、その質、正確さともに、もはや日本国内には戻せないほどの進化を遂げている。

瀋陽から新幹線で2時間半。大連にある同社の拠点は、日本の生保5社から診断書のデータ入力を受託しており、200人が作業にあたる。

作業者は医療関係者でもなければ、医学部の出身でもない。これだけ正確なのは「乱雑な手書き文字を読み取る力を鍛え、医学用語を覚えているからだ」と、秦連奎・品質管理部長は説明する。

秦氏は驚くべきデータを見せてくれた。同社の大連での診断書読み取り業務は誤字率が1万字に1字(0.01%)以下。日本人が作業すると誤字率は10字に1字(10%)。新聞で言えば誤字が1行に1字か、1ページに1字かという差だ。

「講義を始めます。今日は白内障についてです」。午後3時、講師の声に合わせて一心不乱にデータ入力していた作業者たちが手を止めた。10分ほどたつと「手術名」の穴埋め漢字テストが始まる。ほとんどの人が満点だ。

■「間接業務」の域を飛び越え拡大
中国の作業者たちが満点を取る医学用語の漢字テストの例
中国の作業者たちが満点を取る医学用語の漢字テストの例

「水晶体」「心膜炎」「近視矯正手術」。作業者たちは3カ月かけて7000語以上を覚える。「cough(せき)」など医療関連の英単語や「ギプス」「ドレナージ」といったカタカナも対象だ。
中国人のスキル向上とともに受託する業務の種類も広がり始めている。

日本IBMは中国IBMの大連拠点を使い、東燃ゼネラル石油経理・人事業務を受託している。100人の中国人が単純な伝票処理に加えて、決算資料の作成や給与明細についての日本国内の社員からの問い合わせ対応までこなす。「他社の人と情報交換すると『そこまで任せているのか』と驚かれることが多いが、何の問題もない」。東燃ゼネラルの桑野洋二執行役員経理担当は笑う。

日本語が生かせる仕事に就けてうれしい。どんどん勉強して、もっとスキルアップしたい」。こう話すのはインフォデリバの李楊さん(28)。彼女が担当しているのは、ソニーから受託している特許関連業務だ。電子機器などの特許を世界各国の当局に出願するためには、各国の特許事務所との書類のやり取りが必要になる。

李さんは日系企業で働いていた父親の影響で日本に憧れ、大連の高校卒業後に日本の東京農業大学に留学。日本語や日本の文化を学んだ。日本語と中国語のほか英語を駆使して世界中の特許事務所とやり取りする。

中国全体のBPO市場は2015年に09年比2.6倍の約10億ドルまで伸びるとの予測もある。中国人の業務力は「間接業務」の域を飛び越えて拡大する。

■大連へ15社以上進出、コスト3〜4割安く
日本企業による中国へのBPOは1980年代に始まり00年代前半ごろから本格化した。東北部は日本の統治下だったことや、新生中国の日本語教育拠点となったことから日本語を話せる人材が豊富な一大集積地だ。大連には作業者を100人以上抱える大手だけでも15社以上がひしめく。

銀行の口座開設書、請求書、伝票など様々な書類を「人海戦術」で電子データに変換する。NTTデータなどのほかアクセンチュアやIBMといった欧米IT(情報技術)企業、中国系のIT企業が大連や瀋陽長春に数百〜数千人規模の拠点を構え業務をこなす。

BPOに従事する作業者の給料は、データ入力など単純作業をこなす新人の場合で月2千元(約3万3000円)前後とされる。熟練の作業者や高度な作業をこなす場合は月4千元程度に上がり、責任者クラスになると月8千元を超える人もいるという。

BPOの最大のメリットは業務コストの削減。日本企業が自社でこなすか、あるいは日本国内の企業に委託するよりも3〜4割安いという。
(大和田尚孝)
日経産業新聞 2014年5月8日付]