藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

プロの能力。

日経より。
飛行操縦のベテランパイロットは計器にほとんど頼ることなく見える景色から自機の様子を把握しているという。
またベテランの視点は特定のポイントを見るのではなく全体をぼんやり眺めるのだそうだ。
「観の目つよく、見の目よわく」は宮本武蔵の一節だが、人が機械を操ったり、試合をしたり、何かを演じたり表現したりするというのは結局「何かに臨む姿勢そのもの」ということに尽きるのだろうか。
例えば仕事でも、大きな規模であればあるほど、また作業が細かいものであればあるほど「全体観」のようなものが要求されるのはしばしば感じることである。
音楽の表現でよく「自分の音を聞いて」とか「周囲の音が聞こえているか」といわれるのも同じか。
マチュアほど目の前のことに心を奪われ、調和を失うということは自分自身、嫌というほど経験している。
習熟するとかプロフェッショナル、というのは「その場全体を俯瞰し、あるいは支配できる技術」のことなのではないだろうか。
細かな部分で躓いているのでは、そんな瞬間は程遠い。
いつしかそんな心境になりたいと願う。

「落ちない飛行機」が空を飛ぶ日 編集委員 西條都夫
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だ。戦争で命を落とした人たちだけではない。30年前の8月12日には日航ジャンボ機の墜落で520人が犠牲になった。お盆休みの帰省ラッシュのシーズン。満員の乗客のなかには家族連れも少なくなかった。墜落現場となった群馬県御巣鷹の尾根で520本のろうそくに灯をともし、黙とうをささげる追悼慰霊式が今年もしめやかに行われたと13日づけの日経新聞は伝えている。
■ベテランパイロットと「観の目」
国交省羽田空港の発着枠拡大をめざす
 こうした悲劇を繰り返さないためにはどうすればいいか。東京大学工学部の鈴木真二教授が開発に取り組むのが「落ちない飛行機」だ。鈴木教授はかつて航空会社の依頼で、ベテランパイロットと新米パイロットの操縦技術の違いを分析したことがある。そこで分かったのはベテランは計器にはほとんど頼らず、窓の外の景色の見え方で機体の姿勢や高度、速度まで正確に把握して、操縦しているという事実だ。
 視点も特定のポイントを見つめるのではなく、全体をぼんやりと眺めるのが大切で、そうすることで非常事態への対応力が増すという。宮本武蔵の『五輪書』に記された「観の目つよく、見の目よわく」という言葉も同じ趣旨で、部分に固執する(見の目)のではなく、全体をとらえる(観の目)ことで敵がどう切り込んできても素早く反応できるそうだ。昔の剣豪と今のパイロットには意外な共通点があるのだ。

西條都夫(さいじょう・くにお) 87年日本経済新聞社入社。産業部、米州編集総局(ニューヨーク)などを経て編集局編集委員論説委員。専門分野は自動車・電機・企業経営全般・産業政策など。
 鈴木教授はこうした知見を踏まえ、さらに人工知能(AI)技術をつかって、機体に深刻なトラブルが発生しても何とか飛行を続けるための実証研究を進めている。例えば飛行中に主翼の一部が脱落した場合、パイロットは機体の姿勢やエンジンの状況、尾翼の向きなどを様々に調整して、試行錯誤のなかから飛行を維持する方法を見つけようとする。
 それと同じことをコンピューター制御によって、人間よりもはるかに高速で様々な飛行方式を試すことで短時間で最適解を見つけ出し、墜落を未然に防ぐのが「落ちない飛行機」のコンセプトだ。航空関係者の間では、1941年の零戦の試験飛行中に左右の補助翼が吹っ飛んだにもかかわらず、巧みな操縦で無事帰還した二階堂易中尉の逸話がよく知られているが、AIの補助によってあらゆるパイロットを同中尉並みの手腕に引き上げるのが目標である。
■下げ止まった死亡事故率
 すでに富士重工業宇宙航空研究開発機構と組んで実証実験を終えた。「ドローンの普及などで飛行体の墜落事故の切実感が増している。『落ちない飛行機』が活躍する場面は今後さらに広がるだろう」と鈴木教授はいう。
 話を旅客機に戻せば、飛行回数当たりの死亡事故率は順調に下がってきたが、過去10年ほどは100万回当たり0.5回程度で下げ止まっている。航空機事故の死者数が年間1000人を超えることは少なく、同100万人を超える自動車よりははるかに安全だが、それでも今後世界全体の航空輸送量が年率5%近い伸びを示すことを考えると、事故率の下げ止まりは不吉である。これをもう一段下げる技術を世界に発信できれば、それが日本の新たな強みになる。