藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

コップの中の嵐は激しい。

ソフトブレーン創業者の宋さんのコラムより。
彼のようにアウトサイダーから見た日本、というのが自分の国を理解するのには一番ためになる。
(というのもお粗末な話だ)

自分がどう生きるかではなく、どうやって無事に退職できるか、どうやって組織内のピラミッドをよじ登るかが彼らの目標です。

上海に住む(日本に詳しい)友人が「日本は実に高度化された共産主義の国だ」と言っていたのを今更ながらに思い出した。

『保身。』

日本で大企業を語るときに重要なキーワードだ。
中小企業出身の自分はこの言葉を知らなかった。

会社そのものが大きく、力がある場合には、なんとその組織内では「守る力」が最重要になるのだ。

「事なかれ」「足を引っ張る」「謀(はか)る」そんな言葉も目立つ。

「大船」に乗ってしまったら「船そのものの行方」は一番の関心事ではなくなる。
まるでタイタニック

大企業の人と親しくなるにつれて、こうした事が「本気で」行われているのを知って慄然とした。
官僚的、という言葉はいろんな意味で使われるけれど、生きていく上では(私生活でも)一番注意しなければならない言葉ではないだろうか。

自分の物言いが官僚的かも、と思ったら老化を疑わねばならないと思う。

かんりょうしゅぎ【官僚主義
官僚制や官僚政治における、権威主義、独善性、秘密主義、形式重視などの側面を批判的にいう語。

東芝問題の裏に隠された本当の問題

15年前、私は東芝の経営陣と公私両方の付き合いがありました。お世辞抜きにとても素晴らしい方々でしたし、人間的に尊敬できました。

東芝は本当に良いリーダーが居て良い企業でした。そんな東芝がこうなるとは驚きです。本当かと疑うほどです。凋落組織は凋落のリーダーを生み出し、凋落のリーダーがさらに組織を凋落させる。これはあらゆる組織が凋落する際の軌跡です。

東芝の凋落は15年前から兆候がありました。東芝のある役員から「宋さん、当社には2千人も博士がいる。人材の宝庫だからもっと伸びてもいいはず。」と言われた時、私は「人材が多すぎて倉庫になったのでは。少しでも我々のような新興企業に分流すればお互いが助かります。」と答えました。

しかし、名門企業に入った社員が中小企業に来るはずがありません。東電、東芝、シャープ、ソニーなどの名門にいる社員達は「自分が誰か」よりも「自分がどこに属するか」のほうが大切です。自分がどう生きるかではなく、どうやって無事に退職できるか、どうやって組織内のピラミッドをよじ登るかが彼らの目標です。

辞める人がいないため、東芝中途採用の社員に会ったことがありません。話によると東電の約5万人の社員にも中途入社の社員は一人もいなかったそうです。自社しか知らない、自社にしか適応できない社員の中から誕生した社長が、大きな井の中の一番大きな蛙であり、ガラパゴス島の王者です。人脈が広いが、視野が狭い。順風に強いが、逆風に弱い。気が大きいが、肝が小さい・・・。

昨年、事故防止の義務を怠ったことで東電の旧経営陣が東京地裁に強制起訴されました。しかし、事故対応の詳細を調べてみると、事故の被害が拡大した最初の5日間に旧経営陣が頼ったのはまさに弁護士でした。どうやって事故の被害を止めるかよりも、どうやって法的リスクを減らすかを懸命に弁護士と相談していたのです。「義務の怠慢」で起訴されるとはまったくの「想定外」でしょう。

読者の皆さんはすぐ「だから東電はダメだ」とか「だから東芝が落ちた」と言うかもしれませんが、これは中小企業を含む多くの日本企業の共通点です。経営目標実現のための法律相談よりも、保身のための法律相談が多いのです。中小企業なのに海外企業との契約書の審査に数週間もかける現実をみて、私は呆れてもう彼らにビジネスを紹介する気にもなりません。

弁護士は法的リスクの有無と大小を教えてくれますが、経営を教えてはくれません。リスクを嫌う日本的経営者が弁護士や専門家に回避対策を求めているうちに、経営リスクがどんどん次のリーダーに先送りされます。このリスクのリレーがやがて限界に達して爆発してしまうのです。それが原発事故の本質であり、東芝危機の本質であり、築地市場移転問題の本質でもあります。

東京地裁が東電を「義務の怠慢」として起訴していますが、そもそも日本企業は正社員と個別に労働契約を結ばないため、義務を明確に定めていないのです。明確な契約が存在せず年収が途上国よりも低いのが日本の経営者の特徴です。無事に社長任期を終え、会長や名誉会長で長く居座ることで終身報酬を増やそうとする彼らも哀れです。

個別経営者の素質問題として東電や東芝への批判が多いのですが、これらの経営者は最近まで年金運用株の代表格であり国策と二人三脚を演じてきた名門企業のリーダー達です。彼らは決して特別に悪い人たちではありません。彼らをいくら批判しても、なぜ世界的名門企業が次々凋落するか、なぜ世界的新興企業がなかなか誕生しないかという疑問は解けません。東芝問題の裏に隠された日本企業のガラパゴス化こそ、本当の問題なのです。