変化の波の中にいると、そのことがわからない。
近くでは幕末とか戦時のことがよく引き合いになる。
最近ではIT革命とか。
変化のベクトルって、後から眺めてみないとその相対性というのは分かりにくいのかもしれない。
だからいつの時代も「今の若者は変だ」と言われ続けているのだろう。
そんな技術進化の中で、さらに進化が進んでいるらしい。
リクルートが注目しているマッチング。
仮に、1億倍が可能になれば、1千日以上かかった演算処理が1秒ですむことになり、たいへんな進歩だ。
「限りなく正確無比なマッチング」。
もうそうなったらその結論に従う方が楽そうだ。
物理型産業も化学型産業も、重さだけではなく「無重量」の何か(金融、IT、医療、など広い意味のサービス)を加えた経営モデルを作れるかどうかが付加価値の差を生む。
「重さのない経済」という言葉が今ほどリアルに感じられることはなかっただろう。
そういう「重さのないもの」はこれまでは相手ではなかったはずだが、今は「それ」こそが革新の主役になっている。
これからのイノベーションの中心はこの「重さのないもの」が変化の中心になるということなのかもしれない。
さあ、自覚のない変化の中でどう過ごすかを考えましょう。
物理と化学 融合の先に 本社コメンテーター 中山淳史
大学新聞の広告営業から始まり、今では売上高1.8兆円の巨大企業に成長したリクルートホールディングス。創業の頃から変わらないのは仕事、結婚、旅行に関する顧客満足度の高い「マッチング」を追求することだという。
だが、人と情報をつなぐ技術はここにきて大きく変わる気配がある。同社は最近、グループ会社を通じてカナダのベンチャー企業と提携した。提携相手が開発した量子コンピューターを活用して、旅行などの広告効果を高める研究をするという。いわば、最先端の演算処理技術を使う究極の「ケミカル(相性)探索」だ。
専門家によれば、量子コンピューターの計算速度は、対象によっては従来型の1億倍にも達する。コンピューターは通常、「0」か「1」というデジタル信号で演算処理をするが、量子コンピューターは「0であり、1でもある」とする量子力学の「重ね合わせの状態」を使い、並列的に多数の演算をこなすからだ。
一般人には何が変わったのか、パソコンを見ているだけではわからないらしい。だが、広告を出す側にとっては「誰に、何を、どう」を瞬時に突き詰められるため、マッチングの成功率を格段に高められるという。リクルートコミュニケーションズの大石壮吾・アドテクノロジーサービス開発部長は「マッチングは今後、限りなく正確無比になっていく。それが営業的な成果にどうつながるのか、検証していきたい」と話す。
仮に、1億倍が可能になれば、1千日以上かかった演算処理が1秒ですむことになり、たいへんな進歩だ。半分の5千万倍でも一変するのはケミカル探索の世界だけではなかろう。例えば、本来の「化学」領域では、これまで何年もかかった化合物開発のための実験が短期間の計算やシミュレーションで済ませられるようになる。「内燃機関が生まれた19世紀末、インターネットが登場した1980年代に匹敵する変化が、物理学由来の技術革新によって2020年代に起こる」と化学大手JSRの小柴満信社長はみる。
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医薬品も似ている。人類は1928年に発見された初の抗生物質ペニシリン以降、鎮痛剤、高血圧薬、抗がん剤と画期的な発明を続けてきた。だが自然界で見つけた物質を化学の技術で医薬品に変える作業、いわゆる合成化学(低分子化学)は壁にぶつかっている。
今後相次いで出てくるであろう量子をはじめとする高性能コンピューターや人工知能(AI)技術が融合すれば、これまで人間の力の及ばなかった世界に手が届く。発見・発明が次々と生まれる日の再来も夢ではない。
それはバイオ技術を使う創薬、すなわち生物化学(高分子化学)でも同じだ。中外製薬の永山治会長は「人間の体のメカニズム、生理作用はまだ3分の2以上がはっきりと解明されていない。物理と化学が共生・融合すれば、可能になることは多い」と指摘する。
今後は特に、プレシジョン・メディシン(精密医療)が進む。オバマ政権時代に米国で話題になった、遺伝子の塩基配列の変化に注目する医療方法だ。それに従えば、今後の医薬品の処方は肺がんや乳がんというくくりではなく、「どの遺伝子変異がもたらしたがんか」で個人ごとに決まっていく傾向が強まる。医薬品産業にはかねて「カギとカギ穴」という例えがあるが、物理技術の進歩で「複雑な構造のカギ穴(疾病)にも個人単位の分析が可能になり、カギ(薬)の的中率が飛躍的に向上する」(永山氏)という。
産業の歴史を振り返れば、物理型産業(自動車、電機、航空機など)と化学型産業(材料、医薬品、バイオなど)はこれまで個別に発展してきたと言っていい。だが今後はそうはいかないはずだ。
興味深いのは、IT(情報技術)産業を代表する米国のグーグルやアップル、アマゾン・ドット・コムが研究開発に毎年1兆円を投じる一方で、医薬品の米ファイザーや、中外が経営統合したスイスのロシュ・ホールディングも同額を研究に充てている点だ。前者はバイオや材料、後者はAI、情報工学への投資が増えている。
富士通研究所(川崎市)の佐々木繁社長は「今ほど(両分野が)お互いを必要とし合っている時期はない。物理側は情報(データ)の格納、伝送、処理のあらゆる段階で近い将来、技術的な限界に突き当たる。突破口を見つけるには化学と物理が融合したマテリアルズサイエンス(材料工学)の知見が不可欠になる」と話す。
三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長は「21世紀の学校の教科書はコンピューター(物理)の進歩により、物理や化学、生物、経済学がボーダーレスに新結合した内容になる」と予測する。リアルとバーチャル、モノとコト、自然科学と人文・社会科学、理系と文系が境界なく行き交い、組み合わさり、世界が一変するということだろう。
ただし、小林氏は融合を歓迎する一方で、デジタルという「重さのない経済」が膨張する点にも注目する。物理型産業も化学型産業も、重さだけではなく「無重量」の何か(金融、IT、医療、など広い意味のサービス)を加えた経営モデルを作れるかどうかが付加価値の差を生む。車も遺伝子も物質であると同時に、「情報」でもあるからだ。では、付加価値はどこに、どれだけ、どのように生まれるか。その全貌が見えてくるのがこれからの数年だろう。