藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

数学の時代。

*[ウェブ進化論]足りなかったもの
すごい時代だ。日経より。
(政府の有識者提案では)「数理・データサイエンス・AI」をデジタル社会における「読み・書き・そろばん」に当たる素養と規定。
(中略)
行列やベクトルの概念を知らない大学初年度の学生に、近年のAI関連イノベーションの中核である深層学習の原理をどう教えるか。あるいは深層学習の原理は教えずに、使い方だけを教えるのか。 
自分はシステム開発の現場にいる立場として思う。
「数学の知識」は確かに、圧倒的に足りていない。
だってほとんどの(ソフト開発の)人が、文科系出身者だ。
 
日本では理系学部の学生は、直ちにメーカーに吸い込まれていった歴史がある。
(自分も制御系の仕事で「ラプラス変換」とか「ベクトル解析」と言われてびっくりしたが、それを理解出来るエンジニアはごく僅かだった。)
今後は理科系の特に応用分野では「現場との融合」が進む時代になりそうだ。
同リポートが指す「数学」は、純粋数学応用数学統計学、確率論、さらには数学的な表現を必要とする量子論素粒子物理学、宇宙物理学なども含むとしている。AIなど専門領域のプログラマーの能力は数学により飛躍的に高まるとし、数学は破壊的なイノベーションを起こすための普遍的かつ強力なツールになるとうたう。
"数学こそ"が武器になる時代になるのがIoTなのかもしれない。
さらに
一方、日本は「コンピューターサイエンスが専門分野に閉じ過ぎている」と複数の大学関係者が指摘する。複数の分野を専攻するダブルメジャーなどを通じた、他の産業との連携にたけた人材の育成ができていないというわけだ。
確かに日本の研究者は「他分野との交流」も苦手だと感じる。
「サイエンティストはコミュニケーションやマネジメントが極めて難しい」というけれど、変わらねばならないのは当の研究者のマインドそのものだろう。
大流行りの「オープンイノベーション」が一番必要なのは研究者の世界ではないだろうか。
 
この東大のデータサイエンスのスライドは面白いです。
 
 
 

 

衝撃のAI人材25万人育成計画、裏に2つの「失策」

政府の統合イノベーション戦略推進会議は2019年3月29日、人工知能(AI)技術を活用できる人材を年間25万人育成する大胆な戦略案を取りまとめ、公表した。今夏に正式決定する。当のAI研究者にとっても衝撃的な内容だったようだ。
 
有識者提案として公表された今回のAI戦略案は、政府がAI関連領域で直ちに実行すべき政策を提言したものだ。
数理・データサイエンス・AIをデジタル社会における「読み・書き・そろばん」に当たる素養と規定。年間約50万人が卒業する大学生や高等専門学校高専)生全員に、文理を問わず初級レベルの数理・データサイエンス・AI教育を課す。このうち約25万人について、それぞれの専門分野でAIを応用できる人材に育成する。日本における大学・高専の理系学生のほぼ全てと文系の一部を「AI人材」に仕立てる考えだ。
 
■行列・ベクトル知らない大学生
AI研究の第一人者として知られる、はこだて未来大学の松原仁教授は、25万人育成という計画について「AI研究者にとっても驚きで、仲間の間で大いに話題になった」と話す。そのうえで「初学者向けカリキュラムの作成など、具体的な実装は容易ではなさそうだ」と述べた。
特に大学の教育現場で混乱を生みそうなのが、高校の学習指導要領との整合性だ。12年度入学以降は「データの分析」が必修になる一方、「行列」が削除された。22年度からは「ベクトル」が文系の必修から削られる予定だ。
行列やベクトルの概念を知らない大学初年度の学生に、近年のAI関連イノベーションの中核である深層学習の原理をどう教えるか。あるいは深層学習の原理は教えずに、使い方だけを教えるのか。大学の教育現場は悩ましい問題に向き合うことになりそうだ。
政府のAI戦略は、19年をめどに初級レベルの標準カリキュラム・教材の開発と全国展開を進めるとしている。外国の優良教材を含めたMOOC(大規模公開オンライン講義)の活用もうたっている。
 
■「数学」とIT戦略に隔たり
政府のAI戦略案がここまで挑戦的な内容になった背景には、日本の科学技術政策における2つの「失策」への反省がありそうだ。
1つは、これまで日本は産業におけるIT(情報技術)の重要性は訴えつつも、その基盤である数学と産業との連携がおろそかになっていた点だ。
経済産業省はこれまでITの重要性を喧伝(けんでん)する一方、工学系の研究者と交流するばかりで、数理系の研究者へのアクセスがほとんどなかった」。経産省情報技術利用促進課の中野剛志課長はこう率直に反省する。「今後は文部科学省と連携し、数理へのウエートを高めていく」(中野課長)。
IT産業の隆盛を誇る米国のコンピューターサイエンス(計算機科学)は伝統的に数理科学の研究との結びつきが強い。例えば米グーグルを創業したセルゲイ・ブリン氏は大学でコンピューターサイエンスと数学の双方を専攻している。
経産省はこの反省に立ち、文科省と共同で19年3月26日、「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える~」というリポートを発表した。
同リポートが指す「数学」は、純粋数学応用数学統計学、確率論、さらには数学的な表現を必要とする量子論素粒子物理学、宇宙物理学なども含むとしている。AIなど専門領域のプログラマーの能力は数学により飛躍的に高まるとし、数学は破壊的なイノベーションを起こすための普遍的かつ強力なツールになるとうたう。
 
■既存産業との連携で出遅れ
科学技術政策におけるもう1つの失策は、AIやデータサイエンスといった研究領域と、製造業など既存産業との連携を図る施策で、海外に出遅れた点だ。
米政府は1980年ごろから、AIやデータ分析を含むコンピューターサイエンスの重要性を提唱。この結果、多くの米大学が電気工学科などを縮小し、コンピューターサイエンスの学部を立ち上げた。日本は遅れること10年、90年代後半からコンピューターサイエンスの拡充に乗り出した。
だが当の米政府は07年に方針を転換した。中国やインドの大学がコンピューターサイエンスの人材を大量に育成し、従来のままでは競争力は維持できないと分析。機械、法律、医療などと組み合わせ、複合領域で専門を持つ人材を育成すべきだと提言した。これが後に、あらゆるモノがネットにつながるIoTや自動運転、医療AIなど新たな産業領域を生み出すきっかけとなった。
 
一方、日本は「コンピューターサイエンスが専門分野に閉じ過ぎている」と複数の大学関係者が指摘する。複数の分野を専攻するダブルメジャーなどを通じた、他の産業との連携にたけた人材の育成ができていないというわけだ。
メルカリのAI戦略を担う木村俊也エンジニアリングディレクターは、世間が認識するAI人材と、現実に不足している人材にズレがあると指摘する。「AI技術そのものよりも、AIに学習させる実データがどこにあるか、AIをプロダクトにどう落とし込めるかを担える人材が実は不足している。そうした人材を積極的に採用したい」(木村氏)。
 
数理やデータサイエンスを強みとする人材を活用するうえで、日本の企業には人材の専門性を正当に評価するノウハウが不足しているとの指摘もある。
AIやデータサイエンスに強みを持つALBERTの創業者で社長退任後に産学連携支援ベンチャーを立ち上げた上村崇氏は「ALBERTで多くのサイエンティストを雇用したが、サイエンティストはコミュニケーションやマネジメントが極めて難しい」と率直に語る。「全ての社員を同じ軸で十把一絡げに評価するのではなく、専門人材としてそれぞれ異なる評価と待遇が必要になる」(上村氏)。
 
■戦略に魂を入れる作業を
「25万人育成」など大胆な数字をうたう今回のAI戦略案には、こうした過去の失策の反動という側面が透けて見える。インパクトのある数字を提示することで、固着した現状を動かそうとする気概を感じる。
ただし、戦略を実効性あるものにするには、学生の数理の素養に応じた多様なカリキュラムの検討や、産学連携を得意とする人材の発掘や育成など「魂を入れる」作業が不可欠だ。それなしにはAI戦略に基づく各省庁の施策も、ただの数合わせに終わる恐れがある。
(日経 xTECH/日経コンピュータ 浅川直輝)
[日経 xTECH 2019年4月3日付の記事を再構成]