*[次の世代に]本人ありき。
寿命の伸びとともに、自分たちは認知症を避けては通れないらしい。
高齢者(65歳以上)の五人に一人が認知症、と言われては是非もない。
いっその事「そこまで」長生きをしなくてもいいのでは、とすら思う。
けれど本人からの明確な意思表示がなくては、周囲は決めかねるだろう。
これからの「認知症(共生)社会」ではこれは切実な問題だ。
科学や医学が進んだからこそ、「どこまでも周囲の手を借りて生き続けたい」か、「自らの生活機能だけで寿命を全うするか」を自分で決める必要がある。多くの人は「ともかく生き続ける」という選択をしないのではないだろうか。
科学が発達して、人がそれを判断する。
科学がそこまで「人」へ身近になった時代だ。
人が科学を使いこなすのは、これからなのではないだろうか。
なってからでは遅い!親とあなたの認知症、これだけは知っておくべき
----------認知症になれば、老親本人もよくわからないままに、ある日トラブルに巻き込まれるかもしれない。しかし、役に立つ知識を持っていれば、万一のときも冷静に行動できる。65歳以上の5人に1人が認知症になる時代。なってからでは遅い…。親とあなたの認知症、「これだけは知っておくべき対応策」を全紹介します!----------暗証番号がわからなくて、お金がおろせないときどうしたらいいのか?----------親の診断書持参で交渉を----------「一人暮らしをしていた84歳の父親から狼狽した声で電話があったんです。『銀行にいる。キャッシュカードの暗証番号が思い出せない』って。書き残していないし、思いつく数字をいくつか試してもダメだったと」埼玉県在住の65歳自営業男性Aさんはそう語る。後日、Aさんの父親は軽度の認知症と診断された。長男のAさんが同居して面倒をみていたが、半年が限界だった。「父には200万円の定期預金があったので、それを解約して施設に入所する費用にするつもりでした。でも私が父の通帳と印鑑を持って、銀行に行ったところ、窓口の職員は『ご本人でないと手続きはできません』の一点張り。私は父の保険証や自分の免許証も見せましたが、埒が明かない。父を連れてくれば、『俺のカネをどうするんだ』と怒り出すのは目に見えています。私は何もできず銀行を後にしました」キャッシュカードの暗証番号がわからないと、「子どもであろうとも、親の口座からお金はおろせない」よくそう言われる。だが、認知症になった親の医療費や介護費用を捻出するために、至急でお金が必要な場合は簡単に諦めてはいけない。「私は父親の口座から現金を引き出すことができました。まず私が用意したものは、父親の通帳、届出印、キャッシュカード。次に父親が認知症であることを示す診断書と要介護認定証、自分が子どもであることを証明する住民票、さらにお金が必要な理由を箇条書きに記した文書も揃えました。それを持参して父の口座がある銀行の支店で、担当の課長と面談。直談判したところ、『私の責任で了解しました』と言われ、200万円をおろすことができたんです」----------定期預金は早めに解約----------実際、正当な理由を示せば、銀行の理解を得ることは可能だ。大手都市銀行も本誌の取材にこう回答する。「ご預金者以外の第三者からの払戻請求においては、基本的には、『お引き出しの目的』『ご本人と来店者の関係』『当該口座の普段の管理の状況』などをお伺いし、総合的に判断のうえ対応いたします」(みずほ銀行広報担当者)「預金者本人に成りすました第三者によるご預金の引き出しといった不正は、絶対に防がなければならないと考えている一方で、可能なかぎりお客さまの利便性との両立を意識して、事情を確認させて頂き、個別対応を行っております」(三菱UFJ銀行広報担当者)本誌は広報部にも問い合わせたが、証券口座からの第三者による引き落としも、緊急時はケースバイケースで判断するとのことだ。介護や福祉に詳しい弁護士の外岡潤氏が言う。「預金をおろせる条件は金融機関によって異なります。例えば地元密着の信用金庫と顔なじみなら、あっさりと引き出せることもある。本人が署名した委任状を用意する方法もあります。窓口で『本人に代わって委任状で対応してもらえますか? 』と確認し、親の代理人として手続きができれば一番それがスムーズだと思います」基本的に金融機関は、成年後見制度を利用するように勧めてくる。だが、手続きには2~3ヵ月はかかる。それよりもまず先に、預金先の担当課長あるいは支店長と直接交渉してみるべきだろう。「親の病気や老いが進むと、暗証番号を聞くことはできなくなると断言できます。それは弱った親に対して、『死の宣告』をする気分になるからです。付け加えるならば、生体認証(指静脈認証)機能のついたキャッシュカードも親には不要。普通のカードで十分です。ファイナンシャルプランナー・桑野恵子氏もこうアドバイスする。「シニアの方はキャッシュカードを持っていないケースも多々あるんです。その場合は子どもが親と一緒に銀行で発行を申請する。そうすると暗証番号を把握できます。あとは相続時のトラブルを避けるため、病気になる前に自分が親の生活費を毎月おろすことを公正証書にしておくと安心です。他に知っておくべきは、ネットショッピングのIDと暗証番号ですね。何を購入しているかなどチェックできるようにしておく必要があります」暗証番号は頭の中にしかない。だからこそ、とてつもなく厄介なのだ。万引き、食い逃げしてきちゃった 誰がどうすべきなのか?----------家族が事前に店に説明する----------「シニア層は自宅の近所にあるコンビニやスーパー、飲食店を行きつけにしている方が大半です。認知症になって判断能力が衰えてきた方の中には、いつもの店でいわゆる万引き行為や無銭飲食をしてしまう人がいる。本人はそのつもりはまったくなくて、ちゃんと自分はお金を払っているという意識の方もいれば、悪いことをしている意識がないままの方もいます」被害に遭った店から家族に連絡がいき、弁償すれば示談は成立し、警察沙汰になることは少ない。だが、何度も同じ被害に遭う、家族がすぐに来られないといった場合、店側が警察に通報することもある。窃盗事件に詳しい鳳法律事務所代表弁護士・林大悟氏が言う。「家族が認知症の診断書を持参して、警察で説明しなければならないでしょう。処分については、前科の有無を調べて、初犯であれば通常はそのまま帰されると思います。再犯ということになると、起訴される可能性は十分あります」認知症を患う家族を犯罪者にするわけにはいかない。万引き、食い逃げに事前の対策はあるのだろうか。前出の大野氏はこう語る。「ある認知症の高齢女性がスーパーの大きなビニール袋を両手に抱えて自宅に帰って来た。袋の中には食材がいっぱい。家族は『お金を払っていないのでは』と慌ててスーパーを訪ね、責任者の方に会って、事情を説明した。すると責任者は『お母さんは認知症なのですね。顔写真を見せていただければ、今後は社員にそれを周知しておきます』と言ってくれたんです。商品は、返品することで話は収まった。認知症の女性は商品を持って帰ったことすら忘れているので、あとから家族が返品しても気がつきません。大切なことは認知症の親が行きそうな店にこちらの事情を事前に丁寧に伝えることです。実際に親が来たら、『お買いになるんですか? 』と店員さんに声をかけてもらう。お金がなかった場合、『今度、家族がいらした時に払ってもらいますから』という対応をしてもらうようにお願いしておく。そうすれば本人を傷つけることもありません」高齢者が買い物や食事をする近所の店はかぎられている。その店と普段から意思疎通がとれていれば、大事になることは避けられるだろう。ページ: 3他人を殴った、モノを壊した 病気だから許してくれるのか?窃盗に次いで、認知症トラブルで多く発生するのが、暴力行為である。都内在住の60代主婦の女性はこう語る。「軽度の認知症である86歳の母が買い物していた雑貨店で、『バカにしないで』と急に怒り出し、杖で店員さんを殴った挙げ句、商品の茶碗や皿を壁や床に投げつけて、割ってしまったんです。店長に平謝りし、商品を弁償してなんとか警察を呼ぶことだけは止めてもらいました。店員さんにケガがなかったから、それで済みましたが、もし打ちどころが悪かったらと思うと、ぞっとします」また認知症のタイプによっては怒りっぽい性格に変わってしまうことがある。そのため、プライドが傷つけられたり、不安を感じたりすると、ちょっとしたことで激昂し、暴力行為につながりやすい。そもそもの原因は認知症なのだが、それなら仕方がない、では済まない。器物損壊罪や傷害罪に問われかねないのだ。前出の林弁護士が解説する。訪問看護ステーションぽけっと代表の上田浩美氏が言う。「私が知る80代のご夫婦の話です。夫は70代後半まではよく外出していたのですが、だんだん足腰が弱くなり、認知機能や記憶力も低下。いまでは自宅のトイレやお風呂に歩いていくのが精一杯になってしまいました。かかりつけの医師からは、リハビリすればもう少し歩けるようになるかもしれないと勧められたそうです。ですが、奥さんは『今のままで十分です。元気になって、暴れたり行方不明になったりして誰かに迷惑をかけたら、私が困ってしまう。いまは夫婦とも穏やかな気持ちで過ごしているからこれでいい』といってリハビリを断ったのです。私はそれも正解の一つだと思います。認知症になれば、自然に衰えていったほうがいい場合もあるのです。そこは家族も諦めが必要だと思います」認知症であろうと、犯罪行為は罰せられる可能性が高い。それだけは親も子も肝に銘じてほしい。逆走して事故を起こした 保険は出るのか、それとも…?----------家族にも賠償責任がある----------本人は逆走している意識すらなかったのだろう。昨年7月、70歳男性が運転する白いセダンが有料道路「横浜横須賀道路」の下り線を約10kmにもわたって逆走した。7台の車に衝突し、最後はワゴン車に正面衝突。6人が重軽傷を負った。神奈川県警は運転手を現行犯逮捕。本人の供述や医師の診断から認知症のおそれがあるとして、釈放のうえ、その後は在宅捜査に切り替えた。ただし、加害者が自賠責保険しか加入していない場合は、死亡者1人につき3000万円が限度額で、対物の補償はついていない。たとえば友人知人から車を借りて運転していた場合も任意保険が適用されず、自賠責保険だけのことが多い。その際、加害者が重度の認知症だったら、その家族が支払いをすることがありえる。「例外的なケースですが、家族が加害者に認知症があることをわかっていながら運転することを止めなかったとしたら、監督義務を十分に果たさなかったとして賠償責任を負う場合があります」(全国交通事故弁護団事務局長で弁護士の吉田泰郎氏)家族が知らないうちに、重度の認知症の高齢者が車で出かけて事故を起こした場合も、家族に損害賠償が請求される可能性がある。「医師から運転を止められていた場合は、車両やご自身および同乗者への補償は対象外になってしまいます」同じくソニー損保の担当者もこう回答した。「ご自分や同乗者のケガ、車両に関する補償はされない場合があります。それは、医師に運転を止められていた場合もそうですし、止められていなかったとしても、お客様が(認知症を)認識して運転していたのであれば、実際の事故の状況などによって判断させていただくことになります」これは自業自得というべきだろう。さらに言えば、認知症だからといって刑事責任が免れるわけではない。前出の吉田氏が言う。そもそも重度の認知症であれば運転自体ができません。高速道路に入るまではちゃんと車を運転していたわけですから、通常の事故と同様に扱われることになります。また、医者に止められていたのに運転したのであれば、事故が故意の行為だと判断されることも考えられる。重大な死亡事故を起こした場合、懲役などの実刑もありえます」'15年10月、宮崎県で認知症の入院歴があった73歳男性が運転する車が歩道を暴走し、次々と歩行者をはねた。女性2人が死亡、男女4人が重軽傷。そして昨年1月、加害者に対する懲役6年の実刑判決が確定した。認知症の疑いがあれば、運転してはいけない、させてはいけない。認知症保険はどこまでカバーしてくれるのか?テレビCMでよく耳にする「認知症保険」。いったい何をどこまでカバーしてくれるのか? まず種類は2つ。認知症と診断されたときに一時金や年金がもらえる生命保険型と、第三者に損害を与えた際に補償してくれる損害保険型がある。ファイナンシャルプランナーの小川千尋氏は「生命保険型に安易に飛びつかないでほしい」と指摘し、こう続ける。「まず生命保険型の認知症保険は保険料が安くない。自分の保険として優先順位の上位なのか、慎重に検討する必要があります。一方、損保型による認知症対策は必須だ。「『個人賠償責任保険』はマストだと思います。自動車保険や火災保険、クレジットカードの特約として存在し、費用も月額数百円ですので契約すべきです。なかでも途中で解約する可能性が低い火災保険に付帯させるのがベストでしょう」(小川氏)たとえば自転車事故で相手にケガをさせた、手が滑って店の商品を壊した、火事や漏水で近所の家に被害を与えた、などのほか弁護士費用も補償される。'07年に愛知県で、認知症患者の男性(当時91歳)が線路に侵入し、電車にはねられ死亡する事故が起きた。そうした鉄道事故も対象となる保険もある。