藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

私がやる

日経・ブラックジャックシリーズより。
*[次の世代に]最悪を考えるのは私。
他人は変えられないが、自分か変えられる、という話。
7つの習慣」の「関心の輪と影響の輪」だ。
最悪の場合、電源が失われる。その最悪の事態に至ってもなお、患者の命を救うべく、最善の手立てを尽くす決意をした。すなわち暗闇でも手術を成功させるため、患部を克明に記憶して執刀する難手術に挑んだというわけだ。孤独で静かな闘いの末、子供の命は救われた。

最悪の場合を考え、自分が打てる最善の手を考える。』

なかなかできることではないが、世の中の一つ一つの問題は、実はこういうことなのかもしれない。
相手に働きかけ、交渉し、頼む。
けれど叶わぬ場合にも「最悪」を避けるように考える。
結局「自分」が臨機応変に、「いかようにも」動くしかないことに気づく。
「私がカバーします」ということだ。
人生のあらゆる場面はこういう原理かもと思う。
反対に「他人を動かすことに終始する」という人もいるが、あまりうまく機能していないと思う。
多分そういうものなのだ。
 
納得できない業務評価 ブラック・ジャックはどう諭す
2019年2月1日 21:30
(C) Tezuka Productions
もしも天才外科医のブラック・ジャックが現代のビジネスパーソンの悩みに答えたら、どんなセリフを言うだろう。核心をズバリと突いた洒脱(しゃだつ)な一言で必ずや、私たちの迷いを断ち切ってくれるに違いない――。
 
本連載は各話3部構成。
(1)[ある職場で] よくあるビジネスパーソンの悩みやボヤキを紹介します。
(2)[ある一話] (1)のヒントになりそうな『ブラック・ジャック』の物語を紹介します。
(3)[ここに注目] (2)の物語が(1)の悩みやボヤキにどんなヒントになるかを考えます。

[ある職場で]同期に先を越された中堅社員

Hさんは大学院を出た後、シンクタンクに就職。5年目になる。
昨年、同期のIさんが人事異動で同じ部署にやってきた。
彼とは専攻分野が比較的近く、学生時代から研究会などで会う機会があった。当時は研究者肌で他人には関心が薄い、どちらかといえば協調性に乏しい印象だった。Hさんも似たタイプなので、何となく親近感を抱いていた。
だが、久しぶりに会った彼は、すっかり変わっていた。
爽やかで明るい。毎朝研究スタッフの一人ひとりにしっかり挨拶し、小さなことでもお礼の言葉を忘れない。同僚の顔と名前をすぐに覚え、家族の話で盛り上がったりしている。
今の部署の研究は、Iさんには新しい分野で苦労もあるようだが、愚痴ひとつこぼさず勉強に励んでいる。同時期に入った新人に声をかけては、連れだって詳しい先輩に質問に行く。そうやって謙虚に学び続ける姿が、若手のいい刺激にもなっているようだ。年齢的にも若手とベテランの中間なので、研究スタッフの間でコミュニケーションの潤滑油的な存在だ。彼が来てから職場の雰囲気が随分良くなった。
こうして1年がたった今年の春、Iさんは、ある重要な研究プロジェクトのリーダーに指名された。
Hさんは違和感を覚えた。この部署に来て間もないIさんが、自分より先にリーダーになるなんて。それに、その研究テーマに一番精通しているのは、この部署で間違いなく自分だという自負もあった。関連する論文をこれまでに何本も出している。「それなのに、なぜ?」と思う。
ふと気付いた。Iさんを抜擢した上司はもともと研究者ではなく、管理部門出身だ。だから、自分とIさんの研究実績の差がよく分からなかったのだろう。
このまま不満を抱えていてはいけないと思い、Hさんは自分の考えを上司に伝えることにした。人事評価面談で、これまでに自分が出した論文の数と内容などを具体的に示し、「我々は研究職である以上、評価基準も研究実績を主軸にするべきではないか」という旨、やんわり話した。そうやって、Iさんの抜擢に納得していないことを伝えようとしたのだ。
しかし、上司は「研究職だからといって、研究だけで評価するのはどうなのかなぁ……」と、同意できない様子だ。
数日後、上司はHさんの業務を一部変えたいと打診してきた。これまで与えられていた研究テーマを1つ減らす代わりに、派遣スタッフの管理を任せたいという。「リーダーシップを発揮してほしい」とのことだが、Hさんは屈辱だと感じた。何が不満で、自分から研究を取り上げ、雑務を押し付けようとするのか。同期と比べて、不公平ではないか。
上司に失望したHさんは、学生時代の研究室の先輩と飲みに行って愚痴をこぼした。
「同期でね、自分より明らかに実績がないのに評価されているヤツがいるんですよ。確かにいいヤツなんですよ。人当たりが良くて。だから上司にすれば使いやすいんでしょうけど、そこで評価するのはどうかなって、僕は思うんですよね。あの人は自分で研究をしたことがないから分からないんだろうなあ……」
この事例にブラック・ジャックのある一話を思い出した。

[ある一話]病院ジャック

ある病院で一人の子供の手術が始まる。執刀医はブラック・ジャックだ。
腹部にメスを入れたそのとき、ライフル銃を持った覆面の男たちが乱入。手術を中断させた。テロ組織のメンバーだ。彼らはこの手術室だけでなく、病院全体を占拠した模様。目的は、自分たちの要求を政府に受け入れさせること。病院ジャックだ。
メスを入れた患部は大きく開いたまま。その傷口をふさごうとするスタッフに、男が銃を突き付ける。
「そのままその患者に手をつけるなっ」
そしてブラック・ジャックに、患者の命がどのくらい持つかを尋ねた。
「ジワジワ出血するし麻酔もさめる よくもって1時間だぞ」
その回答を、男はトランシーバーで幹部に報告した。するとテロ組織は、政府に対し、1時間以内に要求をのむよう伝えた。さもなければ、手術を中断させられた患者は死ぬ。さらに攻撃などの動きがあれば、病院の電源を破壊するという。電源が失われれば手術中の患者だけでなく、すべての入院患者の命が危険にさらされる、というわけだ。
「しょくんの運命はただ……政府の回答いかんにかかっている!」
患者を救いたい手術スタッフは、ブラック・ジャックに打開策を相談する。しかし、彼は「どうにもならないじゃないかね 待つよりしようがない」と、そっけない。そして麻酔で眠る子供の患部をじっと見つめる――。
「カッチ カッチ カッチ」
病室に時計の音が響く。焦るスタッフたちはブラック・ジャックに再び声をかける。
だが、彼は一言も返さず、切り開かれた患者の腹部を凝視したまま動こうとしない。
あきれたスタッフたちは口々に言う。「話にならん」「あの人 ウワノソラだ」……。
しびれを切らした1人が、テロ組織の男に交渉を試みる。
「手術をつづけさせてくれれば、きみたちを安全に脱出させてあげるし できるだけの便ぎをはかってあげよう」
ところが、それがかえって相手の機嫌を損ね、スタッフ同士の会話すら禁止される。緊張と静寂に包まれた手術室で膠着状態が続く。
そんな中、テロ犯の一人が一瞬の隙を見せた。ここぞとばかりにスタッフが銃を奪おうと飛びかかるが、背後に別のメンバーが隠れていて、あっさり阻止される。
「おっと 待った 手を上げろ 動くなっ」
反撃もこれまでか……。こうしてスタッフが右往左往する間も、ブラック・ジャックは沈黙し、ひたすら患者の腹部を見つめて微動だにしない。
(C) Tezuka Productions
その直後、テロ組織の幹部による館内放送が流れた。
「同志よ 計画は失敗した!!引き揚げだ!!」
「われわれは報復処置として この病院の電源を爆破する!」
テロ組織のメンバーは全員、逃亡。同時に電源が破壊され、すべての照明が消えた。
真っ暗な手術室。スタッフたちは狼狽し、ドアを開けようとするが開かない。分厚いドアの向こうから、逃げるテロ組織と、病院に突入してきた機動隊が争う音が響く。
暗闇の中、放置された患者には命の限界が迫っていた。
誰もが手術を諦めかけたそのとき、ブラック・ジャックが沈黙を破った。
「オペはつづける」「手さぐりでわたしに器具をわたせ」
指示する彼の額にも緊張の汗が……。
(C) Tezuka Productions
「先生 いくらなんでも無理です もしミスったら大出血ですよ!」
心配の声をよそに、ブラック・ジャックは手術を再開した。
「さっきから1時間 わたしは万一のときを思って クランケの患部だけをずーっと見つめていたんだ だからいま まっくらでも頭ん中にはっきり患部のこまかい所までわかるんだっ」
暗闇の中で続く手術。そして最後の縫合が終わった直後、電源が回復し、照明がついた。
「あっ ついたっ ついたぞっ 患者はっ」
患部を確かめたスタッフが驚嘆の声を上げる。「完全だ ま…ま まるで神わざじゃ」手術室に拍手が湧き起こる。こうして子供の命は救われた。
しかし、電源を失った院内では結局5人の患者の命が奪われた。
病院を出るブラック・ジャック。連行されるテロ犯たちを見て、力なくつぶやいた。
「たいしたやつだな……簡単に五人も死なせるなんて こっちは……ひとり助けるだけでせいいっぱいなんだ……」
(『ブラック・ジャック第95話「病院ジャック」=秋田書店 少年チャンピオン・コミックス11巻/電子書籍版7巻収録)
犠牲が避けられなかった不条理な現実。ただ、ラストシーンには勇気ももらえる。ブラック・ジャックですら「ひとり助けるだけで せいいっぱいなんだ……」とつぶやいた。日々の仕事を頑張る意義はあると感じさせてくれる。
この物語が、同期の抜擢に複雑な思いを抱くHさんに、どんなヒントになるのか。

[ここに注目]相手を変えるのは至難の業

物語の中で、テロ組織のメンバーと手術スタッフは押し問答を繰り広げる。
テロ組織は、政府に要求をのませるために、病院スタッフに銃を突き付け、患者の命を危険にさらした。一方、スタッフは、そんなテロ組織に何とか手術を続けさせてもらおうと交渉を持ちかけたり、反撃の隙をうかがったり、あらがい続けた。
しかし、いずれの試みも成功せず、出口の見えない膠着状態が続いた。
それは、テロ組織も手術スタッフも、自分の要望を相手に通すことに終始したからだろう。
他人の考えや行動を変えるのは至難の業だ。もしできたとしても、自分の思い通りには変わらない。
そこでブラック・ジャックはどう対応したか?
自分たちの運命は、政府の回答いかんに懸かっている――。そうテロ組織に告げられた瞬間、彼の動きが変わった。最悪の場合、電源が失われる。その最悪の事態に至ってもなお、患者の命を救うべく、最善の手立てを尽くす決意をした。すなわち暗闇でも手術を成功させるため、患部を克明に記憶して執刀する難手術に挑んだというわけだ。孤独で静かな闘いの末、子供の命は救われた。
もちろん、当初の段取り通りに手術できれば、そのほうがいい。だが、テロ組織がこれからどう動くか、政府がどう反応するかは、ブラック・ジャックをしても推測が立たない。
そんな現実を素直に受け入れたのだった。
(C) Tezuka Productions
他人は「変えられない」が、自分の行動は「変えられる」。この1点を心得ていたブラック・ジャックは、即座に最悪の事態に備えるべく、自分の手術の仕方を変えた。
職場の事例のHさんは、上司の評価基準を変えようとしたが、うまくいかなかった。
Iさんはどうか。学生時代と印象が大きく変わったということは、どこかで意識して自分を変えたのだろう。学生ならば研究をしているだけでよかったかもしれないが、社会人となれば、研究職でもそうはいかない。組織として成果を上げようとする以上、チームワークが求められる。気の合わない人や価値観の違う人とも折り合いをつけていかなくてはならない。それに気付き、協調性を高める努力をしたのだろう。
Hさんも気付いているはずだ。
Iさんの明るく前向きで、オープンな姿勢が職場を良い方向に変えていることに。その点を上司が高く評価し、Hさんにも身に付けてほしいと願っていることに。新しい業務のアサインにそんな狙いがあることも。
けれど、今の自分に欠けているこの素養が重要であると、Hさんは真正面から受け止められずにいる。認めれば、自分を変えなくてはならない。そこに抵抗を感じるのは、程度の差こそあれ、誰でも同じだろう。
何もブラック・ジャックのように、いきなり難手術に挑めというのではない。
まずは、上司にアサインされた新しい業務を前向きに受け入れてみてはどうか。「派遣スタッフの管理業務、ぜひやってみたいです」と答えてみよう。社会人を続ければ、いつかリーダーシップを求められる。最初からうまくできなくても、いい練習になったと思えばいい。
少なくとも「自分を変える」ことは「他人を変えよう」と躍起になるより確実に状況を前進させるはずだ。
(C) Tezuka Productions
ブラック・ジャックならHさんにこう言うだろう。
「私だって暗闇の中で手術なんてしたくないさ。だが、いつ変わるか分からない相手を待つより、早くて確実だからな。ただそれだけだ」
[『もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら』から再構成]

 

 
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