藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

今できること。

*[次の世代に]勝負のしかた。
日経、ブラックジャックシリーズより。
(記事の内容は特に面白いので読んでください。)
テーマは「部下への不満」というタイトルだが、これはどの集団にも共通するテーマだと思う。
ことは部下だけではなく、「現状への不満」であり「自分への不満」でもある。
つまり自分たちは「今持っているカード」で勝負しなければならない、という事実だ。

 兵力のなさとか、武器のなさとか、天気の不遇とか、「そういうこと一切」を引き受けて勝負するのがリーダーだ。

そしてそれは「自分自身」そのものへ、と通ずる。
自分の今の持てる能力とか、環境とか。
そういうもの一切で「これからの勝負」に出るのが自分なのだ。
だから「足らずを嘆く」のも「慢心にはやる」のも冷静さを欠いている。
 
今あるカード、でどこまでの勝負ができるのか。
限られたリソースでこそ知力や工夫が効いてくる。
実力というのはそういう力ではないだろうか。 
 
部下への不満 ブラック・ジャックはどういさめる
2019年2月8日 21:30
(C) Tezuka Productions
もしも天才外科医のブラック・ジャックが現代のビジネスパーソンの悩みに答えたら、どんなセリフを言うだろう。核心をズバリと突いた洒脱(しゃだつ)な一言で必ずや、私たちの迷いを断ち切ってくれるに違いない――。
 
本連載は各話3部構成。
(1)[ある職場で] よくあるビジネスパーソンの悩みやボヤキを紹介します。
(2)[ある一話] (1)のヒントになりそうな『ブラック・ジャック』の物語を紹介します。
(3)[ここに注目] (2)の物語が(1)の悩みやボヤキにどんなヒントになるかを考えます。

[ある職場で]凸凹チームを率いる新米マネージャー

証券会社の営業部門で働くL課長は、昇進して2年目のマネージャーだ。
昇進したての昨年は、とにかく既存顧客のフォローだけで精一杯。それでも何とか目標の予算を達成し、「最低限の役割は果たせた」と胸をなで下ろしていた。
だが、今期の予算は前期より30%高い。
「担当顧客を増やすので、さらに大きな数字を目指してほしい」と、上司は言う。
「30%増ですか……」と、L課長は思わず口ごもった。
「去年ですら、部下の分を私がカバーしてギリギリだったのに、この予算を達成するには今のメンバーだけでは……。人を増やせないですかね」ふと思いついて、お願いしてみた。すると上司は「そうか、そうだな。人事に掛け合ってみよう」と、意外にも前向きに答えてくれた。「どんな部下がいいか、君が求める人材像を整理しておいてくれ。その通りの人が採れるとは保証できないけれど、できるだけ頑張ってみるよ」と言って去った。
どんな部下を自分は求めているのか。この機会にあらためて考えてみた。
L課長には2人の部下がいる。
一人は、入社3年目の若手。ようやく独り立ちできたばかり。真面目で好感の持てる青年だが、担当する顧客の対応を一人で任せるには不安がある。週に一度、L課長から声をかけ、進捗確認することが欠かせない。
もう一人は、役職定年を迎えたばかりの年上の部下。以前からの顔見知りでもあり、新米マネージャーのL課長には協力的だ。だが、年のせいか「最近の金融商品は複雑だから」と、慣れた商品ばかり扱いたがる。そうするとできる仕事の範囲が限られてしまう。本音では、「もう少し新しいことも勉強してください!」と言いたいが、気を使ってしまって、口に出せずにいる。
何となく感じていた不満にはっきりとした輪郭が見えてくる。そしてしみじみ思った。
「経験と知識を備え、新しいことにも意欲的に取り組める中堅が欲しい」
しかし、そんな人材がいれば誰もが欲しがるだろう。都合よく自分のところに来てくれるはずもない。そう思いながらも、半ばダメモトで上司に伝えておいた。
それから1カ月後、上司がうれしそうにやってきた。
「西日本ブロックのMさんが転勤を希望しているそうだ。来月から来てくれるぞ」
Mさんといえば、ここ1、2年、急速に営業成績を上げ、社内トップ10の表彰も受けている実力派だ。L課長は大いに喜び、期待した。ところが……。
Mさんが着任して2カ月後、上司が「どうだ、新しく来た彼は?」と声をかけると、L課長は、なぜか浮かない表情をしている。
「さすがに仕事はきっちりやってくれるんですけどね……。まだなじむには時間がかかりそうですね……」と、歯切れが悪い。
本当はどうも相性が悪いと思っていた。実績があるせいか、自分たちを見下しているように感じる。仕事がやりにくいのだ。しかし、せっかく無理を押して増員に応じてくれた上司を前に、そうも言えない。L課長はもんもんとしてしまった。
理想の部下は、なかなかいないものだ――。
この事例にブラック・ジャックのある一話を思い出した。

[ある一話]なんという舌

全国青少年珠算コンクールで決勝進出を決めた村岡少年は、ホッと額の汗を拭う。そして、多くの観客の中からブラック・ジャックを見つけて駆け寄った。
「先生のおかげです 先生が この手をくださいました」
喜ぶ少年に、ブラック・ジャックはそっけない。
「ばかいえ その手は死んだ中井という少年の手だ 中井くんに感謝したまえ」
さらにこう諭した。「まあ準優勝までいけたんだから満足したまえ」。手術で付けた手なので、長い運動には耐えられないというのだ。「別の日に優勝戦があるんならべつだが たった十分のちにもう一度やるのではだめだ」。
少年はしばらく両手を見つめていたが、毅然と顔を上げて言った。
「ぼくは……きっと!!優勝してみせます みていてくださいっ」
会場へ戻る村岡少年。残されたブラック・ジャックの背後から新聞記者が話しかけてきた。
「村岡くんがサリドマイド児で短肢症だったというのは事実なんですか!?」
「それを あんなりっぱな腕につけかえたのはあなたですか!」
と、矢継ぎ早に質問を浴びせかける。ブラック・ジャックは振り返って言った。
「このことは記事にかかないでいただきたい!」
記者の「全国の身体障害児に大きなはげましになりますのに!!」という反論も、突っぱねた。
「全国にはりっぱな腕につけかえられない子どもがゴマンといるんですぜ」
会場では優勝決定戦が始まった。8桁の読み上げ算が続く。それを見つめるブラック・ジャックは3年前のことを思い出していた……。
当時、小学3年生だった村岡少年は、ソロバンの先生に連れられて、ブラック・ジャックのもとへやってきた。両腕を使えない少年を先生はソロバンの天才だと紹介する。
サリドマイド障害児でソロバンの天才ですって?」
ブラック・ジャックがいぶかしげに問うと、うつむいた少年の隣で先生は答えた。
「そうなんです 手のかわりにからだのある部分を使ってやります」
先生が、「まあみてください」とソロバンを置いて読み上げを始めると、パチパチと珠を弾く音が響いた。少年は前かがみにソロバンに向かって小刻みに動いている。そして瞬く間に正解を出す。それを見たブラック・ジャックがつぶやく。
「……それは天才じゃない 訓練ですね」
「そうです 努力でここまでできたんですわ で でも努力してやれたというのは天才だからでしょう」と、先生はうつむく少年の肩に手を置いた。
「それで なぜ他人の腕をつけてくれなどというんですか?」と、ブラック・ジャックが問うと先生は説明した。
(C) Tezuka Productions
「この子がソロバンを使うと友達が笑うというのです」
「だから もうこの子はソロバンをやりたくないっていうんですの はずかしいからって……」
そんな少年をブラック・ジャックは静かにたしなめた。
「笑うやつには笑いかえしてやれないのか」
そして「つけかえた腕でソロバンができるようになるなんて保証はしませんよ」と念を押す。
それでも、先生の熱心な説得に、ブラック・ジャックは手術を承諾し、成功させた。
その後、少年は新しい腕で3年間、血の出るような訓練を続けた。そしてとうとうこの珠算コンクール決勝にたどり着いたというわけだ。
多くの人が見守る優勝決定戦の会場では、ブラック・ジャックの忠告通り、少年の移植した腕には限界が迫っていた。
「だめだ 指がすばやく動かなくなってきた」
冷や汗がほほをつたい、体は震え始める。
「やめよう 優勝はやっぱりむりだった……」とうつむき、とうとう完全に手を止めてしまう。
……が、次の瞬間「くそーっ」と覚悟を決めた少年は、キッと顔を上げた。
そして、腕がなかった頃に使っていた、ある体の部位でソロバンを弾き始めた。「46,473,152円ナリ!」という出題者の声に合わせて、少年は舌を出したのだ! なりふり構わず前かがみでソロバンに舌を打ち付ける村岡少年。鬼気迫るその姿に観客たちは驚きの声を上げた。
(C) Tezuka Productions
「ワーッ!」
驚嘆の声が響いた会場は、やがて拍手に包まれる。
「パチパチ」「パチパチパチ」「パチパチ」
少年が問題に正解すると、大きな歓声が上がる。
一方、審査員席では何かを話し合う姿が……。舌でソロバンを弾くことがルールに反しないかどうかの確認だ。
「出題4! 用意!」
出題者の声が響いた。舌を使うことが正式に認められたのだ! 涙があふれ出す少年。
「ねがいましては―」
こうして決勝戦は続く。ブラック・ジャックは結果を見届けることなく、会場を後にした。
(『ブラック・ジャック』第54話「なんという舌」=秋田書店 少年チャンピオン・コミックス6巻/電子書籍版3巻収録)
目標に向かうひたむきな努力や熱意といった大切なものを思い出させてくれる。
この物語が、どの部下にも満足できないL課長に、どんなヒントになるのか。

[ここに注目]今あるもので何とかする

私たちは、不足していることや理想と違う現状に対して敏感で、不満を感じやすいものだ。そして、それを補う何かがあればと望む。職場でもそうだろう。
事例のL課長は、部下に不足を感じ、その不満を解消すべく人員の追加を望んだ。そしてかなえられた。にもかかわらず、理想の人材ではないと愚痴をこぼしている。
一方、物語の村岡少年には腕がないに等しかった。しかし、腕がないことに目を向けるのでなく現実にあるものに目を向けた。
今あるのは舌と足。ソロバンをするなら舌を生かそう――。猛烈な訓練で、舌を駆使してソロバンを弾く技を編み出し、指で弾くのと同じレベルにまで磨き上げた。
ソロバンの先生は、その姿をずっと見てきた。
この少年であれば、手術で腕を付け替えた後も、その腕を使いこなすため、誰にも負けない努力をするに違いない。そんな思いを先生は、手術を渋るブラック・ジャックに言い募っている。
「この子はきっと…その新しい腕をりっぱに使ってくれると……わたし…信じてます!!」
(C) Tezuka Productions
今あるものを最大限に生かそうとする少年の姿勢は、先生だけでなくブラック・ジャックをも動かした。そして手術の成功後、少年は期待された通り、移植された腕で血の出るような訓練を積んだ。もともとは他人の腕。ブラック・ジャックからも「つけかえた腕でソロバンができるようになるなんて保証はしませんよ」と言われていた。それでも全国珠算コンクールの決勝進出にまでこぎ着けたのだ。
例えば、カレーを作るのが得意な人がいたとしよう。今日は得意料理を家族に振る舞おうと、張り切って冷蔵庫を開けたら、人参と玉ねぎしかなかった。
もしもL課長なら「肉もないんじゃあ、カレーを作るのはムリだ」と言って諦めてしまうかもしれない。しかし、村岡少年なら「肉はないけど、人参と玉ねぎがある。だったら……」と工夫して、その材料でできる料理を作るに違いない。
さらにもしも、家族が気を利かせて豚肉を買ってきてくれたとしよう。今のL課長なら、「いや、俺が一番得意なのはチキンカレーなんだよ! 鶏肉はなかったのか!」と言い出すかもしれない。自分の望む材料でなければ成果は上げられないのだと……。
どの部下にも不足を感じると嘆くL課長。その前に、今いる人材を最大限に生かす努力をしただろうか。
伸びしろのある若手を育てるためにできることは、まだまだあるはずだ。シニアの部下が新しい商品を扱うのが苦手というなら、若手とチームを組ませる手もある。フレッシュな感覚を持つ若手と、経験に裏打ちされたコミュニケーション力を持つシニアの組み合わせなら、幅広い顧客ニーズに応えられそうだ。L課長から見れば「上から目線」が鼻につくMさんにしても、確固たる自信が相手に安心感を与えることもある。彼に指導役として責任を与えれば、それが長所として生きてくるかもしれない。
村岡少年ならきっと、この3人を最大限に生かす努力をするに違いない。L課長が難癖をつけているうちに……。
(C) Tezuka Productions
ブラック・ジャックなら、L課長にこう言うだろう。
「切りがないな。思い通りにいかないといつまでも文句を言い続けるのか、それとも今あるものでと覚悟を決めて前に進むのか。どっちがいいのか腹をくくることだ。愚痴はそれから聞こうじゃないか」
[『もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら』から再構成]

 

 
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