藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ジャイアンのいない街

*[次の世代に]中心のない世界。
「米単独行動主義 苦痛の叫び」というFTの記事より。
「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大な国に)」とトランプは言いつつも、衰退しながらも「落とし所」を探しているという指摘は的を射ている。
オバマのコメント「アメリカはもう世界の警察ではない」とも繋がっている。

けれど、もう少し穿ってみればこれは「時代の変わり目」ということではないだろうか。

今、ネットワークの爆発的な普及で、それこそ革命のように「既存のマンモス企業」が滅びつつある。
先進国では、大手小売や代理店業、通信業者などはさながら戦国時代の様相だ。
一方、途上国では実際にブロックチェーンの仕組みを使って「銀行を介さない送金システム」が普及し始めている。
 
「世界のメガバンクがいつまで安泰か?」と問われても答えを見つけるのは困難だ。
ネットの中では"中心にのない世界"になりつつあるが、リアルの外交もそれをなぞっているのではないだろうか。
アメリカ・ファースト!とかっこよく言いつつも、徐々に地域の国として縮んでいく。
アメリカがいち早くそれに着手しているとしたら、世界一クレバーな戦略だ。
国連を牛耳ったり、武器の開発で覇権を握ったりという「ジャイアンみたいなスタイル」はいよいよ流行らなくなるのではないだろうか。
 
 
米単独行動主義 苦痛の叫び
2019年5月14日 17:09
覇権国にとって自国の優位が揺らぐのを見ることほどつらいものはない。トランプ米大統領の怒りに満ちた単独行動主義は中国との貿易戦争であれキューバへの制裁であれ、強い米国を示そうとするものだ。ただ別の見方をすれば、同氏の攻撃的なツイッターへの投稿は今や伝説のごとく美化された過去を取り戻したいという苦痛の叫びにも聞こえる。
イラスト Ingram Pinn/Financial Times
第2次世界大戦末期、チャーチル英首相との会談を準備していたルーズベルト米大統領はステティニアス国務長官からこんな忠告を受けた。「英国人はあまりに長く世界の盟主の座にいたので、2番手の役割に慣れていない。だからチャーチル首相も新たな戦後の国際秩序を受け入れたがらないだろう」
ステティニアス氏は正しかった。英国は戦争で深刻な財政危機に陥ったが、米国は好景気に沸いた。戦争終結後、西側の盟主の座は正式に米国に移った。
英国はこの変化に心理的に適応するのに長く苦しい時間を要した。1956年のスエズ動乱で出兵し、国際世論におされて完全撤兵するという屈辱を経験した後でさえ、覇権国としての地位を失ったことを認めようとしなかった。きっと英国の政治家たちは自国が米国、ソ連と並んで「ビッグ3」の一角を占めていると思っていたに違いない。信じがたいことだが、欧州連合EU)からの離脱派のリーダーたちが描く「グローバルな英国」というスローガンにも、この苦悩に満ちた叫び声が感じられる。

好戦的な外交政策で力を誇示

今度は米国の番だ。トランプ氏は、好戦的な外交政策によって米国が思い通りにふるまえると世界に誇示しようとしている。米国ほどの力を持たない国は多くの国際ルールに従わざるをえないと感じるかもしれないが、米国は多国間のいざこざや第2次大戦後につくられたカネのかかる同盟関係にわずらわされず、独自に行動できるのだとでもいうように。
米国が覇権国としての地位を失いつつあるという点は英国と似ているが、違うところもある。米国は経済的、技術的、軍事的に傑出したグローバルパワーであり続けている。米ドルが基軸通貨として各国間の決済に用いられ、米国は経済的な強制力を行使できる特殊な立場にある。一方、ロシアは大国だが衰退しつつあり、ユーラシア大陸の支配を目指す中国の計画はその実現に数十年はかかる。
とはいうものの、米国の一極支配は冷戦終結後に突如現れたのと同じくらい短期間で終わった。米国は様々な挑戦を受け、相対的に見れば着実に衰退している。
フランス人が「ハイパーパワー」と呼ぶ超大国として、米国は少し前までは楽々と世界で優位に立っている将来を想像していた。だが、米国がかつて西部開拓による領土拡大を正当化した「マニフェスト・デスティニー(明白な使命)」を、中国が独自に解釈して世界で勢力拡大を図り、今やライバルとして立ちはだかる。米国の地位が侵食されるにつれ、米国に絶対的な忠誠を誓う国は減っている。プーチン大統領率いるロシアは確実に衰退しつつあるが、あからさまな反米姿勢を崩さない。

「米にとって良いことはGMにも良く、逆もまた真なり」

米国はまだ心理的な切り替えができていない。だがトランプ氏の行動に全く根拠がないわけではない。戦後数十年間、米国の国益は驚くほどルールに基づいた国際秩序と合致していた。自由主義的な世界秩序を基盤とする国際機関をつくり上げ、そうすることで自らの繁栄と安全保障を強化した。「米国にとって良いことはゼネラル・モーターズにも良く、逆もまた真なり」という格言は基本的に的を射ていた。米国が欧州や東アジア、中東で和平を推進したのも自国の利益のためだった。
トランプ氏が思いをはせるのはそんな時代だ。手がかりになるのは常とう句である「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大な国に)」の「アゲイン」だ。同氏は経済力を自動車販売台数で評価し、貿易と関税を同一視し、反抗的なイランには米中央情報局(CIA)がクーデターに関与した時代と同じ扱いをしている。
こうした考え方は欧州の社会学エドゥアルド・カンパネラとマルタ・ダッスーが近著「アングロ・ノスタルジア」の中でうまく説明している。まず過去の栄光を理想化し、各地の大衆迎合主義者がお気に召すよう恐怖心をかき立てればあら不思議、古き良き愛国主義、つまりトランプ氏の外交政策の出来上がり、というわけだ。

パワーシフトを正しく理解していたオバマ

オバマ前大統領が不運だったのは、こうした世界のパワーバランスの変化に伴い、米国の利益がどんな影響を受けるか、他の人たちよりも早い段階から理解していたことだった。米国がもはや単独で行動できないなら、同盟国を活用することが最も国益にかなう。もし世界のルールを変える必要があるなら、米国が様々な国に呼びかけて共に議論して新しい秩序を築いていく――。オバマ氏はそうした正しい解決策を導き出していたが、それが故に気の毒にも外交面では及び腰だ、弱腰だと酷評された。
これに対してトランプ氏は、もし国際秩序が米国の国益にならないなら解体してしまえという姿勢だ。その芝居がかった駆け引きからも強硬な対応ぶりが見て取れるが、問題はそれが機能していないことだ。
米国は環太平洋経済連携協定(TPP)など多国間貿易協定から離脱したことで損失を被った。メキシコは対米国境沿いの壁の建設費をまだ1ドルたりとも負担していないし、北朝鮮金正恩キム・ジョンウン)委員長は核保有国として事実上の承認を得た。
イランは米国の経済制裁で痛みを感じているかもしれないが、今後、同国内で反米保守の強硬派が勢いづく可能性は高い。プーチン氏は何のおとがめも受けずにシリアやベネズエラで影響力を強めている。トランプ氏が温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱したことで、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は倫理的に優位に立った。こうした例を挙げれば切りがない。
米国は日本や韓国、北大西洋条約機構NATO)に加盟する欧州各国など同盟国からの信頼も損なっている。同盟国の政策に共通してみられるのは、トランプ大統領の任期が終わるのをただじっと待つのが得策という態度だ。だが、それはおそらく間違いだ。
トランプ氏以外にもこれまでの国際秩序に幻滅を感じている米国人は多い。しかし、同氏が米国の国益を声高に叫ぶほど、世界は聞く耳を持たなくなっている。
By Philip Stephens