- 作者: 矢部正秋
- 出版社/メーカー: 成美堂出版
- 発売日: 2005/10/01
- メディア: 文庫
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民族学者の宮本常一氏は、十五歳で故郷を離れるとき、父親から「見知らぬ土地につたら、高いとこに上がれ」と助言を受けたという。
これは、梅田望夫氏のいう「見晴らしの良い場所」に通じる表現だ。
村でも町でも新しく訪ねて行ったところは、必ず高いところへ上がって見よ。
そして方向を知り、目立つものを見よ。
峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺に目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目を引いたものがあったら、そこへは必ず行ってみることだ。
高いところでよく見ておいたら道に迷うようなことはほとんどない。
「民族学の旅」より
宮本常一氏は山口県大島郡の貧農の子供として生を受けた。
見知らぬ土地を訪ね歩き、漁師や木こりと昼夜を通し話し込む。
それが常一氏のフィールドワークのやり方であった。
第二次大戦の前後の緊迫した時代゛でさえ、年間二百日いじょうもフィールド・ワークに費やしている。
汚れたリュックサックにコウモリ傘をさげ、ズック靴で日本全国をくまなく歩き続けた常一氏は、しばしば富山の薬売りと間違えられたという。
そんな常一氏の父が、「若くして一人脱ちする息子に「人生の旅」の心構えを教えた十カ条の第二の教えが「高いところに上がれ」だと。
十カ条。
第一に、汽車に乗ったから外から窓をよく見よ
田畑に何が植えられているか、
作物の育ちのよしあし、村の家の大小なと、駅での人の乗り降り、服装に注意はすれば、その土地のことか分かる」
なにより、宮本氏のこの十カ条は「親の温かさ」いっぱいだ。
第一に、汽車に乗ったら窓から外をよく見よ。
田畑に何が植えられているか、作物の育ちの良し悪し
村の家の大小など、駅での人の乗り降り、服装に注意すれば、その土地のことがわかる。
第二に、初めて訪ねるところは必ず高いところに上がって広く見渡すこと。
第三にその建物の名物や料理を歩いてみること。
第四にできるだけその土地を歩いてみること
第五に金と言うものは、儲けるのは難しくないが、使い方゛か難しいことを忘れないように。
第六に、これからは好きなように生きていいが、身体は大切にせよ。
三十歳を過ぎたら、親のあることを思い出せ。
第七に、病気や自分で解決のつかないことがあったら、郷里へ戻って来い。
親はいつでも待っている。
第八に、これからは親が子に孝行する時代だ。
そうしないと世の中はよくならない。
第九に自分で思ったことは、やってみよ。
それで失敗しても、親は攻めはしない。
第十に人の見残したものを見るようにせよ。
その中に大事なものがあるはずだ。
あせらず自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。
司馬遼太郎も敬愛止まない宮本常一。
その人が最後に求めたのは、その原点ともいえるフィールドワークだった。
どこの現場にせよ。
どんな主題にせよ。
多少は「世間様」の価値観に引きずられる。
「それ」を分かりながら「自分の意見」をどれだけ構築できるのか。
そんなことが「最近の自分たち」に求められている観がある。
ようするに「地に足をつけて考えよう」。
そんなメッセージに聞こえたり。
なんとはなく、来年にはいろいろと「価値観の整理」が起こりそうではないか。