藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

(その六)情報の扱い方について

弁護士の仕事術・論理術 (成美文庫)

弁護士の仕事術・論理術 (成美文庫)

第三章は「文章で訴える力をつける」。
メモの効用についての指摘。


仏の作家、ポール・ヴァレリーや、ダ・ヴィンチ、そして「種の起源」をダーウィンが記した過程も「メモ」の産物だったという。
パタゴニア群島をめぐり、片っ端からメモをとったダーウィンは、なんと二十年も経ってからメモの山をまとめあげ、進化論へと思い至ったという。


この話を聞いて思い出したこと。

定点観測。


第二次大戦中のこと。
快進撃を続けるも、やがて破綻へと向かってゆくナチス・ドイツ
その戦略を、新聞からの情報だけで、すべて言い当てた人物がいたという。


その人物は新聞で見た重要と思われる情報をスクラップし、並べ替えて整理することでヒットラーの考えを読んだという。

頭の中で推論を色々と考えることは大事だ。
が、ひと手間かけて「抜き書き」して、それらを「並べる」。
そして考える、ということを意外に我われはやらない。

一つ、盲点を見たような気がする。
ぜひやってみようと思う。


また著者は指摘する。

創造的な考えは、突然ひらめくものだという幻想をもつ人が少なくない。
だが、実は頭に浮かんだ思いつきは、そのままではほとんど使いものにならない。
そればかりか、泡のようにすぐに消えてしまう。
創造的な考えは、何百と言う泡のような思いつきを書きためることが基礎になる。
その中からいいものを拾い、組み合わせ、鍛え上げたものなのだ。
頭の中で考えることは圧倒的に感情に影響される。
(中略)


頭の中では首尾一貫しているように思っても、メモをとってみると雑念にすぎないことに気づくことが多い。
自分の想念が圧倒的に感情に影響され、合理的な思考から遠いことを認識するだけで前進である。
考えるという行為は、書くという行為を伴って、はじめて思考として結実する。
私たちは、頭で考えるのではなく「手で考える」のである。

(p112)

メモが大きな流れを持つ

身のまわりに生起するすべてのことがらについて、私たちは何らかの感想をもつ。
その感想を日頃からメモに取っていると、ことがらは一つの輪郭をもち始める。
統一されたイメージをもち始める。
小さなメモ、断片のメモが集積すれば、大きな方向が見えてくるのである。
細部の集積が新たな考えをもたらすという方法は、仕事にも、日々の生活にも大変役立つ。


目の前の案件や課題があまりに大きく、枝葉も広がっており、どこから手をつけたらよいかわからない場合は、とりあえず、わかったことからメモに落していく。
仕事のアイディアに行き詰ったときも、わかっていることから一つ一つメモに書き出す。


こんがらかった糸玉をほぐす作業に似ていて、メモを取り終わったころには、新たな方向性が見えてくる。(p114)

自分もメモを取るほうだが、ここまでの「深み」はない。
そして、ここにも著者の味があった。

私は、二十代の頃から、中断はあったが、ほぼ一貫してメモをとり続けている。
弁護士になってアメリカとイギリスに留学したときは、猛然とメモをとり、二年間の留学生活を通じて、五千枚のカードを残した。
これらのメモが、ダーウィンのノートのように、一つの大構想に結実したわけではない。
だが、日付をふってあったおかげで、いまでは、自分の精神史をたどるよい指標になっている。(中略)


それに比べて五十代のメモは、現象の背後にあるものへの興味が深くなってきている。
現実は現実として受け入れるが、その背後にある原理とか、原則とかを考えるようになっている。
ものごとを全肯定も全否定もせず、良い点、悪い点の双方を見ようとする姿勢がはっきりと出始めている。


自分の考えに自信をもちながら、その自分の考えすら留保つきで眺めているところがある。
だから状況の変化があれば、自由に考えを変える。
他人の考えにも自分の考えにも、とらわれない。
メモを整理していて愉しいのは、こんな発見をしたときである。(p115)

また情報の「質」について。
情報が、入手できた「その時」に「非常に重要なものだ」と気づくことが少ない、という指摘。
そのために「少し気になった」情報を「あらかじめ捕獲」し、あとで整理できるアングルの広さ、のようなことのようだ。
いわゆるスクラップ帳、などはこんなことのためにあるのだろう。

情報を入手したときには、本当の価値がわからないことが多い。
興味はあるものの、将来必要かどうかわからない情報が結構あるものだ。
そういう情報も、ファイルするべきである。


そのとき「なるほど」「これは」と思った情報も、後で探そうとしても見つけることはまず不可能である。
逃げた青い鳥は二度と帰らない。
だから「小さな情報、大きな成果」を肝に銘じ、情報は広く丹念に収集し、ファイルしておく。(中略)


最近は思考力を重視し、知識を軽んじる風潮があるが、あまりよいこととは思われない。
思考力は、一定水準の知識や教養の上にはじめて成り立つ。(p117)