産経webより。
震災から半年余り。
そろそろ「きちんとした復興ビジョンビジョン」のツケが回りつつある。
経済特区構想の具体案とか、賠償金の請求方法とか、遅ればせながら出てきている対応策は、どれもまだまだ「将来の道筋」を示している感じはしない。
一方、現場では「異形の景気」が起きているという。
東北のセンター都市、仙台では高級腕時計、宝飾品、ブランド物バッグなどが飛ぶように売れている。
欧州製高級車のベンツ、ボルボなど、東北全体の9月の輸入車新規登録台数は1439台で前年同期の2.1倍に上った。
多くのお客さんは現金払いである。夜の繁華街も札束を持った、県外からやってきた工事関係者たちでにぎわっている。
また阪神の震災時には「トン当たり2万2千円」だった瓦礫処理が10万円を超えるケースも出ているという。
せめてそういう「焼け太り」が出てこぬような行政のリードはできないだろうか。
これでは、いくら義援金を集めても、底の抜けたバケツに水を汲むようなものである。
消費税の増税も焼け石に水だろう。
仙台に突如発生した「現ナマ景気」はまさに震災のあだ花である。
いまからでもいい、復興の構造と道筋を考えなおしてはどうだろうか。
仙台、異形の現ナマ景気 増税より復興の道筋示せ
■編集委員・田村秀男「デフレ不況時には、お札を刷ってヘリコプターからばらまけばよい」とは、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長のプリンストン大学の経済学部長時代の言である。確かに、景気というものは「現金なもの」である。
■高額商品が売れる
東北のセンター都市、仙台では高級腕時計、宝飾品、ブランド物バッグなどが飛ぶように売れている。欧州製高級車のベンツ、ボルボなど、東北全体の9月の輸入車新規登録台数は1439台で前年同期の2.1倍に上った。多くのお客さんは現金払いである。夜の繁華街も札束を持った、県外からやってきた工事関係者たちでにぎわっている。被災者やその身内が「癒やし」を求めて高額商品につい惹(ひ)かれる。貯蓄ばかりしてこんな災難に遭うくらいなら、命あるうちに思い切って散財してみよう、と人生観を変えた方々もおられるだろう。
他方では、壊れた家に住み続けている体の不自由なお年寄りもいる。農地も家も津波で流され、仮設住宅で職のあてもなくストレスがたまる日々。被災地全体の言い知れぬ苦難を思えば、何とも複雑な気持ちにさせられるカネの仕業である。
■デフレ吹き飛ばす
仙台へのカネの出所は地震保険、義援金などがまず挙げられるが、8月以降は本格化したがれき処理の代金が高額消費へとなだれ込んでいる。
何しろ、民主党政権は地元自治体の言い値を丸のみして、がれき処理費を100%出している。1995年1月の阪神大震災のがれき処理コストはトン当たり2万2千円。その後、人件費や資材価格が下がるデフレ時代が続いていることから、コスト上昇はないはずなのに、仙台周辺や岩手県ではトン当たり10万円もかかるケースがあるという。「精査していたら時間がかかり、がれき処理が進まなず、マスコミにたたかれる」と民主党関係者は弁明する。
現金ばらまきの余波は全国に及んでいる。9月28日付の日経新聞夕刊によると、建設工事関連の人手不足が深刻となっている。東日本大震災の影響で東北や北関東を中心に建物の補修需要が急増したうえ、がれき処理にも多くの人員が割かれているためだ。鉄筋工事の単価は東京周辺でトン当たり3万6千円前後で震災前に比べて3千円(約9%)上がった。解体作業、足場設置など「とび」工事は、東京周辺では1日・1人当たり1万5千円程度と、今春比で約11%上昇、という具合で関西にも及んでいる。
まさに、日本版ヘリコプター・マネーが建設工事部門に限っては「20年デフレ」を吹き飛ばしている。
■「職」の青写真なし
第3次補正予算が成立し、さらに「青天井」で復興費を来年度予算に計上すれば、日本経済は「復興特需」で浮上すると野田政権は安易に考えているようだ。被災地に職と雇用の機会を回復させるための青写真や設計もない。地域、さらに日本全体の経済を再生する方向へと収斂(しゅうれん)させる政策はどこにもない。自力再建を図る被災農漁業者の高い志を支援する仕組みもない。
例えば、全国的にいちご栽培で知られている仙台郊外の亘理町では、いちご畑が津波に流され全滅した。専業農家の多くは遊休農地を借り上げ、自主努力で再起を図っている。国にできることは金融面での支援ばかりではない。大規模栽培の早期実現に向け、農地の集約を可能にする法制度面での整備である。
漁業の再建も、単に企業に漁業権を与えれば進むというわけではない。海洋の生態系保全や雇用維持を、短期的な収益よりも優先し、長期的な投資に徹する企業を選別する仕組みにしないと、地元漁民は不安になるだろう。
復興債の償還財源は増税だが、政府の増税路線の始まりしかない。財務省は野田首相を通じて、2013年には消費税の10%引き上げを確定させようともくろむ。増税に次ぐ増税は、全国的に消費者心理をますます冷え込ませ、デフレを助長する。デフレ分を加えた実質金利は上昇し、円高がさらに進む。
1995年の阪神大震災から2年後、橋本龍太郎政権が増税・緊縮財政に踏み切り、好転しかけた景気を一挙にデフレ不況局面に突入させた。このときはアジア通貨危機も重なった。今回の臨時増税規模は97年度を実質的に上回る。しかも泥沼の欧州金融危機と重なっている。欧州から逃避した世界の余剰資金は世界最大の対外資産国、日本の国債に向かい、円相場を押し上げる。超円高、デフレと増税の三重苦で企業は基幹技術ごと海外に逃避する。
仙台で突如出現した現ナマ主導景気は茫漠(ぼうばく)とした復興の道の脇に咲く異形のあだ花でしかない。