藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

JOBS Act。

米では、今年3月22日に「ベンチャーの増資を容易にするJOBS Actという法案が可決された」という。

JOBSは略称で、正式にはJump-start Our Business Start-ups、「我々のビジネス系スタートアップの躍進」ですが、略称が「JOBS」となるように無理矢理作った感はあります。

というところ、いかにもアメリカらしい、が。
日本でも、既に掛っている「上場に数億、上場維持にも同様の負担」をもっと緩めよう、というお話。
さすがIPOの本場では、動きが早いと思う。

そして、比較的数の多い投資家から既に資金調達をしていたり、「あまり増資を世に広く広言しないこと」などが求められていたが、そうした基準も緩和されたという。

(なぜ「現状のルールに照らし合わせると違法だけれど、取りあえずやってみる」のか。)
別に誰もが「卑怯な手段で一山当ててやろう」と思っているわけではありません。

「ルールというのは人間が決めるもので、間違うこともあるし、かつて正しかったことでも、状況の変化とともに現状にそぐわなくなることもあります。制度のせい、社会のせいにせず、まず自分から変革していこう、たとえそれが少々ルール違反でも」。そんな考え方もあるのでした。

『まずやってみよう。たとえ少々それがルール違反でも。』
入れ替わりの早い、経済社会のルールだからこそ、こうした"JOBS Act"といったお茶目なルールを認めてはどうだろうか。

日本でもIPOを目指す企業が、様々なハードルが高くて諦めることが増えている。
ただし、「少しでも緩めの運用」があれば、意欲が出てくる若者も増えると思うのである。
ルールの厳格化と、その柔軟な運用という背反する問題だが、ぜひ「若者の参入チャンスを増やす」という観点でのローカルルールを採り入れてもらいたい。

規制で元気をなくし「若者を縛る」のは簡単だが、その逆は難しい。
規制するよりも「許可するため」により労力を使ってもらいたいと思う。

ルール違反でもやってみる
「現状のルールに照らし合わせると違法だけれど、やってみる」というチャレンジをアメリカでは往々にして見かけます。

3月22日に、ベンチャーの増資を容易にするJOBS Actという法案が可決されました。しかし、JOBS Actではじめて合法になったはずのことの中には、実は既に実行されていることがあれこれあります。

JOBS Actについては、前回の起業案内で磯崎さんが書かれているので、詳しい内容はそちらを読んでみて下さい。

JOBSは略称で、正式にはJump-start Our Business Start-ups、「我々のビジネス系スタートアップの躍進」ですが、略称が「JOBS」となるように無理矢理作った感はあります。法案を通すためのセールスポイントが、「起業環境を改善してもっとスタートアップが増えれば、全米の雇用が増える(はず)」ということなので。「 アメリカの、1980年から2005年までの正味の雇用増はすべて、新規に組成された会社によるもの」らしいです。
IPOを容易に JOBS Actにはいくつかポイントがありますが、そのうちの一つが「IPO(新規株式公開)を容易にする」というもの。

売り上げが10億ドル(800億円)未満の会社の場合、IPOの際に開示しなければならないことを減らし、さらに、IPO後5年間も規制を緩める、と。

ちょっと古いですが、2006年の数字で、米国ナスダックに上場するためにかかる費用が500万ドル (4億円) 強、上場維持費用は、売り上げが10億ドル(800億円)以下の企業だけの平均で年間400万ドル(3億円)となっており、相当の売り上げがないと、アメリカではなかなか上場できません。

これを緩めて、IPOを増やそう、そして、それを目指すベンチャーも増やそう、というわけです。
クラウドファンディングの合法化 もう一つが、クラウドファンディングです。クラウド「群衆」という意味のcrowd。JOBS Actにより、ベンチャーが多くの普通の人からお金を集められるようになります。

では、今まではどうだったのか、というと、未公開企業は、増資していることを世に公言してはならず、かつ、ある一定レベルの資産家以外から資金調達をすることは違法でした。アメリカのベンチャーと言えば、自由自在に資金調達をしていると思う方もいるかもしれませんが、実情はあにはからんや

JOBS Actにより、年間100万ドル(8000万円)まで、1口1万ドルまでだったら、大勢に出資を募ってもOKとなりました。一応、上院を通る際に条件が加わり、経営陣と財務についての基本的な情報を開示せよ、とか、50万ドル以上集める場合は、監査済みの財務諸表が必要、となっています。

また、これまでは、株主が500人を超えたら公開企業とみなされ、証券取引所に詳細な届け出をしなければならなかったのですが、これが2000人に引き上げられました。
ほっとしている人たち さて、これでほっとしているのは、ベンチャーの増資をサポートしてきた各種イベントやインキュベータ、その他諸々の組織・企業です。

例えば、投資を受けたいベンチャーが次々とステージにたつLaunchなどのイベントは数多く行われてきました。また、Y Combinatorや500 Startupsなどのインキュベータ・アクセラレータでは、数ヶ月の育成期間を終えたベンチャーが、投資家に向けたプレゼンを行う「demo day」があります。これって、「増資を世に広く公言してることじゃないのか?」という疑問は大いにあります。(実際には、公開イベントでは増資について触れない、demo dayは招待客のみ、など手段を講じていますが。)

また、AngelListというサイトでは、エンジェルと言われる個人投資家と、投資を受けるベンチャーの情報が公開されていますが、これもかなりまずい感じ。

さらには、未公開企業の株のマーケットプレースを提供するSecondMarketやSharesPostといったサービスもあり、FacebookTwitterのようなベンチャーの初期の投資家や社員が株を売っています。株を売ること自体は合法ですが、こうした売買のせいで株主の数が500人を超えてしまうことも。(アメリカでは、ベンチャーストックオプションは、会社が上場しなくても行使できるので、そもそも株主が増えがちです。Googleが上場したのも、500人ルールのせいとも言われています。)

こうした未公開企業の増資にかかわるサービスを提供してきた会社の多くは、JOBS Actの可決で、ほっとしていることでしょう。

また、現実問題として「一定レベルの資産家」でない人から資金調達をしているベンチャーもたくさんあり、その辺りもなんとなくうやむやな感じがあったのですが、これも(所定のステップを踏めば)合法となりました。

というわけで、JOBS Actは、これまでに既に行われていたことを合法化した側面もあります。
なぜ「現状のルールに照らし合わせると違法だけれど、取りあえずやってみる」のか 別に誰もが「卑怯な手段で一山当ててやろう」と思っているわけではありません。
 「ルールというのは人間が決めるもので、間違うこともあるし、かつて正しかったことでも、状況の変化とともに現状にそぐわなくなることもあります。制度のせい、社会のせいにせず、まず自分から変革していこう、たとえそれが少々ルール違反でも」。そんな考え方もあるのでした。


渡辺千賀(わたなべ・ちか) 東京大学工学部卒、米スタンフォード大MBA。三菱商事勤務などを経て、米シリコンバレーコンサルティング会社Blueshift Global Partnersを経営。ITの戦略立案などに携わるほか、共同で設立したNPOのJapanese Technology Professionals Associationを通じて、シリコンバレーで活躍する日本人のネットワーク強化にも取り組む。ブログ「ON,OFF AND BEYOND」を執筆中