藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

これからの進化。

年を取った、とは思いたくないが、携帯電話などなかったのである。
そこにショルダーバッグくらいの携帯電話が発明され。
次に「広辞苑」くらいの携帯サイズになり。
それでも、まだ「ほとんどの社会人が一人一台の携帯」になると想像できなかったのが、たかだか二十年前である。

IT業界にいて、「常に次の進化」を考えていたつもりである。
けれど、現実はいつも「想像を少し超えたところ」にあった。
性格には「思い通りではなかった」という事だろうと思う。

テクノロジーは順調に進歩したものの、それに伴うソフトウェアの進化は迷走している。
SNSとか、セカンドライフとか、バーチャルで成長するに違いない、と言われたものが次々と淘汰されている。

そうした二十年の間に、ついに「無料通話」が台頭してきたのは大きな特徴だと思う。
これは「これまでのキャリアのビジネス」がその土台を問い直す時期でもある。

アスファルトで舗装された道路が当たり前になったように、
通信のインフラが限りなく無料に近くなった先にどのようなサービスが主流になってゆくのか、
決して一度きりの現象でなく、これからの時代を読む練習をしておくべきである。
ますますこれからの時代、「固有のコンテンツ」しか価値を発揮できないのではないだろうか。


無料通話アプリ「comm」、開発の舞台裏
「LINE」追うDeNA、若手エース70人投入2012/12/2 7:00ニュースソース日本経済新聞 電子版
ディー・エヌ・エー(DeNA)の無料通話・メールアプリ「comm(コム)」が知名度と人気を上げている。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けアプリの人気ランキングでは、先行する「LINE」を上回った。とはいえ、年内に「世界1億ユーザー」をうかがうLINEは、簡単に追いつける相手ではない。挑戦者はどこまで本気なのか。開発の舞台裏をのぞいた。(文中敬称略)

真新しいオフィスには年配者が見あたらない。年配どころか、30歳代を見つけることも難しそうだ。ここはcommの開発が行われているオフィスフロア。DeNA本社が入居する東京・渋谷の複合ビル「ヒカリエ」の25階である。

commの開発体制を探るべくチームに集まってもらうと、まるで大学サークルの雰囲気。しかし、あなどるなかれ。若さと活気に満ちたこの面々こそが、「70人」もの開発チームを率いる中心メンバー。“ヒカリエ対決”に臨む精鋭だ。

わずか6階下のフロアでは、NHN Japanが世界8000万ユーザーを突破(11月30日時点)したLINEを開発している。その開発体制は「コアが60人、周辺も含めると約100人」(執行役員の舛田淳)。デビューしたてのcommの開発陣容は、それに迫る勢いだ。

■「『1年目』ということに特に抵抗感はない」
LINE対抗アプリとして10月23日、アンドロイド・iOS版ともに公開されたcomm。その開発チームを、comm戦略室の室長を務める山敷守(25)が率いる。東京大学を卒業後、DeNAに入社した山敷はまだ新卒3年目だが、ヤフーとの事業提携などを成功させた手腕を買われ、開発チームの筆頭に抜擢された。

山敷をサポートするほかの主要メンバーも、エンジニアを束ねる長田一登(28、東大卒)、海外や緊急対応を見る宮田善孝(28、京大卒)など優秀な若手ばかり。新卒1年目の山本麻友美(23、東大卒)は全体の進行管理を任され、同じく1年目の松江萌(23、慶大卒)は「スタンプ」のデザインや選定の責任者だ。

「入社1年目で!?」と驚く記者に、「はぁ……。でもDeNAでは『1年目』ということに特に抵抗感はないので」と不思議そうな山敷。この若きエリートたちを中心とするcommの開発チームが今、ゲーム事業中心だったDeNAの進化の象徴として社内での影響力を強めている。

■「どれくらい人員を補強したら満足できるのか?」
 「社内的には、まずは『ベータ版』としてcommをリリースしてみて、機能追加をしながら徐々にやっていこうと。最初はアプリのランキングもあまり上がらないだろうと。そういう位置づけでした」。守安功(39)は、こう振り返る。それがリリースするや否や一変した。

リリース直後、「アップストア」や「グーグルプレー」といったアプリストアのランキングでcommが急上昇。無料アプリ全体のトップ10に食い込んだ。そこからの判断と行動が素早い。

リリース翌日、事業提携のため台湾にいた守安に「好発進」の報告が入ると、守安は現場トップの山敷に「一気に攻めよう。どれくらい人員を補強したら満足できるのか、考えてくれ」と指示し、緊急ミーティングも設定された。それまでの開発チームは約20人。山敷はアンドロイド対応、iOS対応など開発ユニットごと必要な人数をはじき出した。その数、約70人。3倍強もの大幅増強案は、帰国後、すぐに守安によって決裁された。

山敷は「DeNA社内の各部署からエースに集まってもらいました。パフォーマンスの安定も図りつつ、新機能もとなると、それくらいの人数が必要」と話す。同時並行で、テレビCMを中心とするプロモーション戦略でも攻めに転じた。10億円規模のプロモーションだ。

■「年内1000万ユーザー」達成へ前倒し
「commは無料で高音質……。えー、じゃあcommでいいじゃん!」。女優の吉高由里子さんがそうアピールするテレビCMが全国で大量投下されている。リリース翌週にはこのCM企画が具体的に始まり、その翌週の11月7日に撮影。さらにその翌週の16日から放映開始というすさまじいスピード感で企画は進められた。

DeNAの主力事業はゲームサイト「Mobage(モバゲー)」。国内屈指の放映回数を誇るゲーム関連のテレビCMはお手の物だが、同社がゲーム以外のテレビCMを打つのは、これが初めて。それだけDeNAがcommにかけている証といえる。

commのダウンロード数はちょうどCM放映が始まったリリース後約3週間の時点で100万件を突破。守安は当初、「来年春までに国内1000万件」という目標を掲げていたが、これをプロモーション効果で「年内1000万件」に前倒しできると踏んでいる。
ただ、目標となるLINEはすでに国内3600万ユーザーを達成、市場を寡占しつつあり、12月からは「オンライン・ツー・オフライン(O2O)」のインフラを目指すなど新たなステージに移っている。そうした“巨人”を相手に、commは何を武器とし
ていくのか。山敷はCMでも謳われている「高音質」を実証するため、エンジニアトップの長田のデスクへと案内してくれた。

■「音質こそが攻めどころ」
「僕らは、いかに相手のいっていることが聞き取れるかを重視していて、通話音声の背景にある環境音などのノイズを除去する処理をサーバー側で施すなど、かなり工夫を凝らしています」
そういって山敷と長田が見せたのは、ノイズ(雑音)処理前の音声の波形と、処理後の波形の違い。長田が再生しながら、山敷は後者の波形では話していない無音部分から細かなノイズがきれいに消されている様子を説明した。確かに後者の方がより声が際立つ。

このほか、山敷ら開発チームは、音声を圧縮して送信、展開する「コーデック」技術などを複数、組み合わせ、地道な改善を重ねることで高音質化に成功したという。こうした高音質をcommの売りとしたのは、既存の無料通話アプリに対する音質への不満が目立っていたからだ。その一例としてDeNAは、commのCM発表会で今年2月のマクロミルによるスマホユーザーへの調査結果を提示。「通話の接続状態・音声品質が悪い」という回答が突出していた。

だからこそ、現場は「音質こそが攻めどころ」とし、守安も「通話無料で品質が高いというのは利用者からするとキャッチー。多くの人に刺さる」と賛同した。

■無料スタンプ、年内1000個目指す
開発チームの「若さ」も武器の1つ。リリース直後の動きのように、“大人”がついていけないようなビジネスのスピード感に加えて、感性も生かしている。例えばLINEが爆発的に普及した大きな要因とされるスタンプ。comm開発チームは調査を重ねたうえで、あらゆる年代や性別に支持されそうなスタンプを独自に作成した。中でも特に意識したというのが、10代後半から20代前半の女性。だからこそ、新卒1年目の松江がデザイン・選定作業の責任者となった。

「新卒の立場を生かし、開発者というより常にユーザ目線で考えています」と話す松江は、臆することなく、次々と作業を進め、commのスタンプをリリース時から約100個増の230まで増やした(11月末時点)。山敷が補足する。「目標は年内1000個。既存の人気キャラクターも追加する予定で、すべて無料で提供していきたい」

今は余計な雑音を気にせず、ひたすらにユーザーを増やすことに集中せよ。これは社長の守安の方針でもある。守安は山敷を始めとする現場にこう指示した。「スタンプを有料で販売するだとか、有料の企業アカウントだとかは、一切考えるな。いわゆるモバゲーとの連携みたいなものも一切考えるな」

■「モバゲーとの連携は、あまり考えていない」
モバゲー事業を統括する執行役員兼ソーシャルプラットフォーム事業本部長の松井毅は、しばらく投資先行が続くcommをどう思っているのか。じつは松井はモバゲーのみならず、今回のcommも合わせて見る立場にいる。

「モバゲーとどれくらい連携できるかは、はっきりいってあまり考えていない。DeNAとしていろんな軸のビジネスを育てることが重要」
こう話す松井は先の「コンプガチャ騒動」を通じて忸怩たるものを感じていた。「ソーシャルゲームってなんやねん? 儲かってて、怪しいよね。悪しき会社じゃないの。世間一般のDeNAに対する見方やソーシャルゲームへ対する感覚はそうじゃないかな。それがくやしかった。DeNAはそれだけじゃない。違うものをやらないとこれからの成長はないよね、という思いがあった」

■「自信がなかったら始めていない」
DeNAはもともと、総合ネット企業だった。最初はネットオークションのシステムから始まり、モバイル向けのゲームサイトやeコマースサイトを軸に成長、いつしかソーシャルゲームの売り上げが突出し、ゲームの会社というイメージが定着した。

しかし今回のcommは、ソーシャルゲームが大ヒットしてから初めてとなる大型事業。松井は、総合ネット企業としての意地を世間に見せつけたいと考えている。「まだLINEに勝てる可能性は十分にある。自信がなかったら始めていない」

強気の発言。相当な自信だ。12月1日時点でどれほどのダウンロードがあったかは不明だが、例えばグーグルプレーでは、commのランキングはLINEの3位を抜いて2位。好調ぶりは続いており、ある日突然「1000万人達成」のニュースが出るかもしれない。ただ、当然ながら茨の道のりが待ち受けている。

■「高音質」、いつまで売りに
例えばDeNAが主張する「高音質」。いつまで売りにできるかは分からない。LINEの利用者が急増していた局面において、LINEの無料通話は断続的に切れてしまうこともあった。しかしLINE陣営も「通話品質については、我々も山ほど改善を重ねている」(NHNの舛田)

LINEとcomm、そして韓国生まれで国内展開はヤフーが協力する「カカオトーク」の通話音質を客観比較した結果、LINE、カカオ、commの順で音質がよかったという調査結果もある。commのレビュー欄は当初、高音質を評価する声が目立っていたが、次第に「不安定」「LINEの方がいい」という声も増えてきた。ユーザー増にともない音質が低下している可能性もある。

commのリリース直後は、セキュリティーやプライバシー面で問題があると一部ユーザーが騒ぎ、ネット上で“炎上”したことも。こうした騒動の悪影響も懸念される。DeNAは「誤解を招く表現があった」として利用規約を修正、知らない第三者から検索されることを拒否する機能などを追加して対応した。

要するに、勢いがある一方で、「未熟さ」も目立つ。しかし、DeNAも「本気」で改善・改良を施し、何とかキャッチアップしようと懸命だ。そこには、すでに国内4500万人のユーザーを抱え、アイテム課金を中心に年間1500億円超を稼ぐモバゲーのノウハウが存分に注入される。

ともかく無料通話・メールアプリをめぐる大競争時代が始まった。競争で音質や使い勝手が向上するのは、ユーザーにとって喜ばしい話。携帯電話会社にとっては苦々しい話であることには違いない。(以下、インタビュー記事が続きます)

「半年から1年の時間軸でチャレンジする」(DeNA・守安功社長)
―― commはDeNAにとって、守安社長にとって、どういう新規事業と位置づけているか

「非常に可能性があるサービスだと思っています。我々はゲームもコマースも、それ以外にもスマホ上でいろんなサービスを国内外問わず展開していきたいと思っている。ユーザー基盤が多ければ多いほど、いろんな事業を立ち上げたときにアドバンテージになります」

「ゲームは好きな人もいればまったく興味がない人もいる。でも、リアルの友だちとのコミュニケーションは、ほぼすべての人がニーズとして持っていて、全世界の人に使ってもらえるサービスになり得る。成功した時の当社にとってのバリューはとんでもなく大きなものになる。その意味で、この事業に対しては肝入りで頑張らせていただいています」

―― 競合との差別化ポイントとして「高音質」を掲げる一方、「実名登録」も挙げている

「『実名』については、最初はそれがいいのか分からないと思うのですが、通話の高品質に関しては、刺さると思います。1回は使ってもらい、それで認めてもらえれば、日常的にcommを使ってもらえるんじゃないのかなと」

■「実名登録にはこれからもこだわる」

「一方で実名のよさが出てくるというのは、けっこうなボリュームが出てきてからだと思うんですね。数百万人規模だと、実際の友だちや知り合いが少ない。でも、1000万人、2000万人と、ある一定のボリュームを超えたタイミングになると、じゃあ高校の友だちを探そうかと検索する時に実名の強さが生きて、おもしろくなると思います」

スマホ向けで『実名かつクローズド(閉じた)コミュニケーション』というのは、大きくなりうる新しいジャンル。LINEやフェイスブックメッセンジャー)を意識はするけれども、それらと同じものだと思われるのは、よくないなと思っています」

「中には、『やっぱり実名はイヤだ』という人もいるんですね。知らない人から電話がかかってきてイヤだとか。それはいろんな微修正をしていますが(注:現在は無料通話の着信を友だちからのみに限定)、実名登録にはこれからもこだわっていく。こだわるポイントを決めておかないと、ぜんぶ一緒になっちゃう。commをどういう場にしていきたいかを意識しておかないと、当然、競合に勝つのは難しい」

―― LINEはすでに世界8000万ユーザーを達成した。勝算はあるのか
「地域を分けて考えた方がいいと思っていまして、LINEが強いのは、日本と台湾。韓国がカカオトーク。中国が『WeChat』。そのくらいまでがデファクトといっていいシェアがあり、欧米では『Viber』『What’sUp』など、いろいろあるけれども、圧倒的にシェアを抑えているところはない」

■「世界は広いので、チャンスがない、ということはない」

「では日本など強いプレイヤーいるところでどう戦っていくのか。プロモーション含めて音質がよいというポイントで、ある一定ラインまでいく。その上で、実名を強みにしていく。ある一定ラインまでいけば、ひっくり返せるジャンルだと思っています。一方で欧米は、何でこの手のアプリが受け入れられてないのかを分析しながら、若干サービスを変えていくかもしれない。いずれにしても世界は広いので、チャンスがない、ということはないですね」

―― どういう時間軸で考えているのか
「電話帳をベースにしたコミュニティーなので、フェイスブックやmixiなどの『リアルSNS』より広がりが早いと思っています。リアルSNSだと2年3年かけて逆転してきましたよね。でもこのジャンルでは半年とか1年とか、そういう短期決戦にもっていかないと、なかなか厳しい。2年3年かけて追い越そうというよりは、半年から1年でチャレンジするという考えですね」

―― commの収益化や、モバゲーとの連携をどう考えているのか
「いま収益化のことを考えても仕方がない。まずはより多くのお客さんを集め、ユーザーベースさえ作ってしまえば、広告、グループのサービスへの送客、あるいはスタンプやゲームでの課金と、何とでも料理できる。マネタイズ(収益化)自体は心配しておらず、強いポジショニングを築けるのかが、すべてだと思っています」

「モバゲーは(見知らぬ人との)バーチャルグラフ、commは(知り合い同士の)リアルグラフと、違いがある。それを無理に統合しようとは考えていない。今、主力でやっているソーシャルゲームがcommに適しているとは思っていないんですね。だからモバゲーとは分けて考えるべきだと思っています」

■「最初の騒動は非常にくやしかった」

―― 一部ユーザーのあいだで、commの情報が第三者に渡ってしまうかのような規約になっていると騒ぎになった
「実名で使っていただきたいので、やっぱり信頼を得ることが重要だと思っていて。そういう意味では、最初の騒動は非常にくやしかったですね。我々の経験不足と、あとは規約に対する考え方の問題です。企業防衛ではありませんが、捜査に協力する時などあらゆる可能性を幅広く想定して規約を考えていた。ちゃんとユーザーにとって分かりやすく、誤解のないものを作ろうという考え方ができていなかった。そこは反省すべきです」

―― 実名で登録していると、いくらでも検索されてしまい、「出会い系」サービスのように使われてしまうという指摘もある
 「社内でも明確に、一切『出会い系』的な使われ方はさせないよう徹底しています。一方で通信の秘匿という問題もあって、中のメッセージを見てはいけない。どうやって出会い目的から防御していくか。対策は、『この人は怪しい』と思われる人を通報機能で判別して利用制限するなど、様々なことをやっていきます」

フェイスブックは機能的に出会えないかというと、出会えるんですね。でも、出会い目的で使っている人はほとんどいない。ユーザーには、『そういうサービスじゃないんだよ』というメッセージを出していかなくちゃいけなくて、このインタビューでも出会い云々の話は書いてほしくない。この手のサービスはそういうイメージがつくと終わりなので。というぐらい、徹底して出会い色は排除していきたいと思っています」

■「我々はもともと総合ネット企業」
―― DeNAはすっかりゲームの会社のイメージになったが、もともとは、オークション、eコマースなど、総合ネット企業を目指していた

「2009年に『怪盗ロワイヤル』が大ヒット。そのタイミングで内製ソーシャルゲームのチームを作って、外部の開発会社にも入ってもらい大きな事業になった。海外市場もスマホも狙い、ソーシャルゲームのプラットフォームのナンバーワンになるためリソースをそこにぐーっと振ってきたんですね。で、ようやく、この春先から海外でもヒットが出てきたりして、ナンバーワンが現実味を帯びてきた」

「一方で、我々はもともと総合ネット企業というか、特にモバイルの強みを生かしていろんなサービスを生み出していくというのがアイデンティティ。そういう意味で、やっぱりそろそろ何か出していかなければ、という1つがコミュニケーションサービスだった。今、ほかにも仕込んでいる新サービスがある。モバイル分野で来年早々にも発表できそうです。定期的にさまざまなサービスをきっちりと出していけるような会社にしていきます」
(電子報道部 井上理)