藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

次の時代が。

これまでの量子コンピュータの構成とは一線を画する日本人研究者の功績で、一気に量子化の時代が来るかもしれない、という記事。

従来の計算機(量子計算機に対して、古典計算機という)は1ビットにつき、0か1の何れかの値しか持ち得ないのに対して、量子計算機では量子ビット (qubit; quantum bit) により、1ビットにつき0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持することが可能である。

『n量子ビットあれば、2^nの状態を同時に計算できる。』というから、そして今のスパコンで2の20乗程度、ということなのでちょっと現在の想像を遥かに上回る"超並列マシン"が誕生することになる。
もう十年以上も前からその実現が噂されてきていたけれど、どうもそのインパクトは革命的なものになりそうな予感がする。

巡回セールスマン問題

計算機の詳しい構造はかなり理解するのが難しそうだが、その効果はすごい。
セールスマンが複数の出張先の最短ルートを探る「巡回セールスマン問題」などの典型的な問題を"組み合わせ最適化問題"というけれど、これが「近似値でなく解ける」という。

例えば、巡回経路が非常に多い巡回セールスマン問題が解ければ、あらゆる自動車の移動ルートを最適化できる。つまり、世界中から交通渋滞が消滅する可能性がある。

これまであり得なかったような効き目の医薬品が開発できる可能性もある。医薬品メーカーは今、タンパク質の構造をどう変えれば、薬効の高い医薬品ができるか、コンピューターを使って分析している。このようなタンパク質の構造分析も、組み合わせ最適化問題だ。

人間のように思考するロボットの実現も夢ではなくなる。人工知能の開発で欠かせない機械学習の処理の実態は、「『変数選択』や『クラスタリング』といった組み合わせ最適化問題ばかり」(機械学習の研究者である東京工業大学の鈴木大慈准教授)だからだ。

今経済学や自然科学で言われている"複雑系"と言われる物の解析ができるようになるというのだ。
量が質に変化する、という言葉があるがまさにそんな感じである。
今の計算機ではできない「世界中の人間の動態把握」とかさらには自然界の動態の把握、例えば海の中や地上の生物や海流や天気などについても全て「計算ずく」で把握できる日が来るのかもしれないのである。
それが言われてみれば"神の域"ということかもしれない。
確かに今の計算機では「そこ」には程遠く、まだまだ未来のSFだと言うのも無理もなかったレベルへの変化が、自分たちが生きているうちに始まるかもしれない、と思うとなんと今はまだIT黎明期ではないか、と愕然ともするのである。

「ゲームとか、セールスの記録にコンピューターを使っていたね」などと今のプログラミングマシンのことを懐かしむ時代が来るとすれば、それはもう第三次産業革命と言うしかないだろう。
いつの時代もこうした話題にはわくわくさせられるものである。

グーグルも導入 突然登場した「量子コンピューター」

2014/5/26 7:00
日本経済新聞 電子版
 実現は遠い未来のことだと考えられていた「量子コンピューター」。それが突然、従来とは異なる方式で実現した。カナダD-Wave Systemsが開発し、米グーグルや米航空宇宙局(NASA)が導入。これが期待通りの性能を出すことができれば、現在のビッグデータ活用が子供の遊びに思えてくるほどの、計り知れないビジネス上のインパクトがもたらされる。知られざる量子コンピューターの真の姿に迫る。

量子アニーリング」を世界で初めて考案した東京工業大学理学部長の西森秀稔教授
量子アニーリング」を世界で初めて考案した東京工業大学理学部長の西森秀稔教授

東京工業大学理学部長を務める西森秀稔教授。彼こそがNASAやグーグルが注目する日本人研究者だ。2014年3月下旬には、NASAとグーグルが米国に西森教授を招き、意見交換をしている。なぜNASAやグーグルは、西森教授に注目するのか。

「西森教授が提唱した理論『量子アニーリング』が、カナダD-Wave Systemsが量子コンピューターを実現する上で、大きな役割を果たしたからだ」。西森教授を招いたNASAエイムズ研究センターのルパック・ビスワス探索技術担当副ディレクターはこう語る。

量子コンピューターとは、「量子力学」の原理を応用して演算を行うコンピューターだ。既存のコンピューターに比べて圧倒的に高速に計算できる「夢のマシン」であり、1990年代から世界中で開発が進められてきた。しかし、これまで「実現は早くて21世紀後半」と目されていた。

ところが2011年、カナダの新興企業であるD-Wave Systemsが、量子コンピューターを世界で初めて発売したと発表した。ユーザー第1号は、米ロッキードマーチンだった。

米国カリフォルニア州シリコンバレーにある米航空宇宙局(NASA)の「エイムズ研究センター」に設置された、カナダD-Wave Systemsの量子コンピューター「D-Wave Two」。同社は西森教授の「量子アニーリング」に基づいて量子コンピューターを開発した

米国カリフォルニア州シリコンバレーにある米航空宇宙局(NASA)の「エイムズ研究センター」に設置された、カナダD-Wave Systemsの量子コンピューター「D-Wave Two」。同社は西森教授の「量子アニーリング」に基づいて量子コンピューターを開発した

2013年5月には、NASAとグーグルが共同でD-Waveの量子コンピューター(以下、D-Waveマシン)を導入したと発表した。NASAとグーグルは量子コンピューターを使って人工知能を研究する「量子人工知能研究所(QuAIL、Quantum Artificial Intelligence Lab)」も設立している。

SFのような存在と見なされていた量子コンピューター。それが突然商用化した背景には西森教授の理論が存在した。だからこそNASAやグーグルが注目するのだ。

スパコンでも解けない問題を解く

D-Waveマシンに、どれぐらいのインパクトがあるのか。NASAのビスワス副ディレクターは、「スーパーコンピューターでも解けない『組み合わせ最適化問題』が、D-Waveマシンなら解ける可能性がある」と語る。

組み合わせ最適化問題とは、複数ある組み合わせの中から、最も条件に合う組み合わせを選び出すという問題だ。一見簡単なように見えるが、実は非常に難しい。例を挙げて説明しよう。

組み合わせ最適化問題の代表例に、セールスマンが複数の都市の全てを訪問する場合に、最も距離が短くなる経路を探し出す「巡回セールスマン問題」がある(図1)。

図1  巡回セールスマン問題の概念図。アルゴリズム不要で、複雑な問題を高速に解ける
図1  巡回セールスマン問題の概念図。アルゴリズム不要で、複雑な問題を高速に解ける

巡回する都市が少ないと、都市の組み合わせの数が少ないので最短経路は比較的簡単に見つけ出せる。しかし都市が増えるに従って巡回経路が爆発的に増加するため、理化学研究所スーパーコンピューター「京(けい)」を使っても、現実的な時間で最短経路を見つけられなくなる。

そのため現在は、数学者やコンピューター科学者が様々なアルゴリズムを考案して、組み合わせ最適化問題の「近似解」を出そうとしている。例えば巡回セールスマン問題では、「最短距離よりも最大1.4倍以内の経路を見つけ出せるアルゴリズム」などが存在する。

■渋滞解決や医薬品開発、ひいては「人型ロボット」実現も

それがD-Waveマシンなら、組み合わせ最適化問題の「厳密解」を得たり、従来より精度の高い近似解を得たりできる可能性がある(図2)。そのビジネス上のインパクトは計り知れない。なぜならビッグデータの活用が本質的に変わるからだ。

図2 D-Waveとスーパーコンピューターの比較

図2 D-Waveとスーパーコンピューターの比較

従来のコンピューターでどれだけビッグデータを分析しても、得られる結果は近似解であり、厳密解ではなかった。もし厳密解が分かれば、今まで人類が経験したことのない精度のデータ分析ができるようになる。

例えば、巡回経路が非常に多い巡回セールスマン問題が解ければ、あらゆる自動車の移動ルートを最適化できる。つまり、世界中から交通渋滞が消滅する可能性がある。

これまであり得なかったような効き目の医薬品が開発できる可能性もある。医薬品メーカーは今、タンパク質の構造をどう変えれば、薬効の高い医薬品ができるか、コンピューターを使って分析している。このようなタンパク質の構造分析も、組み合わせ最適化問題だ。

人間のように思考するロボットの実現も夢ではなくなる。人工知能の開発で欠かせない機械学習の処理の実態は、「『変数選択』や『クラスタリング』といった組み合わせ最適化問題ばかり」(機械学習の研究者である東京工業大学の鈴木大慈准教授)だからだ。

既にグーグルやNASA、米ロッキードマーチンが、D-Waveマシンを様々な用途に使い始めている(図3)。

図3 D-Waveの量子コンピューターで解こうとしている問題の例

図3 D-Waveの量子コンピューターで解こうとしている問題の例



なぜD-Waveマシンは、従来型コンピューターでは不可能な高速計算ができるのか。それはD-Waveマシンが量子力学の原理で動作しているからだ。量子力学とは、原子や素粒子といったミクロの世界で働く、人の日常の感覚では理解できない物理法則である。

量子コンピューターとしてはこれまで、「量子ゲート」という回路を使用する「量子ゲート方式」の開発が続けられてきた。D-Waveマシンは、この量子ゲート方式とは全く異なる方式だ。しかも、D-Waveマシンは量子ゲート方式と比べて、様々なメリットがある(図4)。

図4 量子コンピューターの主な方式と特徴
図4 量子コンピューターの主な方式と特徴

■コンピューターではなく「実験装置」

まずD-Waveマシンは、コンピューターではなく「実験装置」である。D-Waveマシンには、プロセッサーもメモリーも、ハードディスクのような外部記憶装置も存在しない。また、D-Waveマシンを利用する際には、問題を解くためのアルゴリズムを開発する必要がない。D-Waveマシンで解けるのは組み合わせ最適化問題だけだが、先に述べたようにその適用範囲は広い。

一方、量子ゲート方式はこれまでのコンピューターと同じでアルゴリズムを開発すれば様々な問題が解ける。しかし量子ゲート方式用のアルゴリズムの開発は難しいため、現時点では「因数分解」のアルゴリズムなどが開発された程度だ。そのため「量子ゲート方式が実現しても、できるようになるのは『暗号解読』ぐらいで、あまり社会の役には立たない」(東工大の西森教授)という。

興味深いのは、D-Waveマシンが実現した背景に、日本の研究や技術の貢献があったことだ。冒頭に述べたとおり、D-Waveマシンは東工大の西森教授が考案した「量子アニーリング」を基に開発された。また、D-Waveマシンで使われている「量子ビット」などの部品の多くが、日本で発明された。

それだけではない。現在、日本の国立情報学研究所(NII)の山本喜久教授の研究チームが、「レーザーネットワーク方式」と呼ぶD-Waveを上回る可能性がある新型量子コンピューターを開発している。来たる量子コンピューターの時代においては、日本こそが、その開発の中心地になる。

日経コンピュータ 中田敦)

[日経コンピュータ2014年4月17日号の記事を基に再構成]