JBpressの「ムーアの法則はまだまだ終わらない」という記事。
記事中にも引かれているさらばムーアの法則と題した日経テクノロジーの記事を読み、てっきりそれが正しいのだと思っていた。
当の日経BP社は訂正をしないという指摘だが、それにしても自分の知識とはこの程度なのだな、と自嘲せざるを得ない。
一体、一定の実績や権威のあるメディアの記事について、自分が本当の"オリジナルな知識"で接するということはどれほど出来ているのだろうか。
最近このことばかり考えている。
政治のことも政策のことも、経済のことも、ましてや科学のことも、自分は「本当に知っている」と言えることはどれほどあるのだろう?
猜疑的に考えてみると、本当に自分の頭で考えていることなんかないんじゃないのか、という気がしてくる。
自分が全てを確信的に説明できないから「半導体の集積はもうすぐ終わるよ」とは他人には意見しないものの、「そういうものなのだな」とすっかり思っている自分がいた。
こんなのはほんの一例だけれど、こうしていつしか「あたかも自分が見知って」いて、「自分で考えたことのよう」に色んな知識を話し始めているのが自分なのではないか。
周囲に溢れる情報を集め、その整理に執心するようになってしまえば、もうどこからどこまでが本当に「自分の物なのか」について非常に懐疑的である。
「お腹がすきました」とか「眠くなりました」とかいう感情表現以外に、自分が確定的に話す事柄というのはどこまでが信頼し、自身を持って話していいのかは実に曖昧だ。
出来れば話し言葉や書き言葉についていちいち「本人による確認済み」とか「見聞きしただけで未確認」とかの符号をつけないと、他人に迷惑をかけてしまいそうである。
さらに「本人による確認済み」とて安心はできない。
謝っているかもしれないから。
まあ自信を持って言ったことが誤っていたのなら、自らの責任になるのはやむを得ないことだけれど。
「日経新聞を読んだ方がいいよ」とか「歴史書を繙(ひもと)きなさい」とかいうのも本当に正しいのかどうか。
情報に接し、理屈を学んで、一つ一つ自分で確信を得ていくしかない、とは思うのだがそれにしては「借り物で発言していること」があまりに多いことに気が付いた。
気を付けて話をしなければと思う。
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電機・半導体
「ムーアの法則」はまだまだ終わらない!人類滅亡の日まで続くかもしれない半導体の微細化
2015.4.29(水) 湯之上 隆
日経BP社が発行する雑誌「日経エレクトロニクス」(2015年4月号)に、「さらばムーアの法則」という記事が掲載された。本記事は紙の雑誌だけでなく、「日経テクノロジーonline」にも無料公開されている。
記事のリード(導入部)には、「過去50年にわたって電子産業を支えてきたムーアの法則が、終焉を迎えつつある。トランジスタを微細化して回路の集積度を高めるほどコストが下がり、性能が高まる黄金時代は既に去った。エレクトロニクス業界はムーアの法則に依存した開発手法から、創意工夫をこらして価値を生み出すスタイルへの転換を迫られている」と記載されている。
リード後半の「創意工夫をこらして価値を生み出すスタイルへの転換」について異論はない。というより、今さら強調して言うほどのことではない。というのは、2007年頃から米テキサス・インスツルメントをはじめとして、最先端の微細化を放棄する半導体メーカーが次々と現れたからだ。
特に日本においては、NANDフラッシュメモリで韓国勢とつばぜり合いをしている東芝を除いて、ほぼすべての半導体メーカーが最先端の微細化から脱落した。だから、「創意工夫をこらして価値を生み出すスタイルへの転換」は5年以上も前から起きていたことであり、何を今さら、という気がする。とはいっても、その「・・・転換」はまるでうまくいっておらず、日本半導体産業は衰退の一途をたどっており、問題を再認識するためというならば、この記述もやむを得ないかもしれない。
しかし、リード前半の「ムーアの法則が、終焉を迎えつつある」という記載には納得できない。依然として微細化は止まっておらず、したがってムーアの法則は終焉を迎えてなどいないからだ。
筆者に言わせると、この記事は微細化のトレンドグラフの書き方を間違えている。そのグラフが原因で、「ムーアの法則が、終焉を迎えつつある」いう間違った結論が導かれているのだ。
日経エレクトロニクスの本記事は学術論文ではない。しかし、半導体業界における同誌の影響力は大きく、この間違ったグラフと結論は業界関係者をミスリードする危険がある。そのことを日経エレクトロニクス編集部にも直接伝えた。ところが、編集部は訂正する気がないようだ。
そこで本稿では、本記事の微細化のトレンドグラフの間違いを指摘し、正しいトレンドグラフを示す。そして、半導体の微細化は続いており、したがってムーアの法則も引きつづき継続されるであろうことを論じたい。
半導体の微細化の鈍化を示すグラフ 図1に、日経エレクトロニクス編集部が作成した半導体の微細化のトレンドのグラフを示す。表題は「急ブレーキがかかる微細化」となっている。この図から、「半導体の微細化のペースは、技術世代(ノード)が32nmを迎えた頃から鈍化している」と主張している。確かに、図を一見するとそのように見える。
図1 急ブレーキがかかる微細化
(出所:日経エレクトロニクス、2015年4月号、30ページの図30)
この「微細化の鈍化」が原因となって、以下に示すように、NANDフラッシュメモリ、DRAM、マイクロプロセッサ(MPU)が、微細化の終焉を迎えるような結論を導き出している。
「NANDフラッシュメモリでは、現在量産中の16〜15nm世代で微細化が終焉。微細化によるメモリ容量増大は128Gビット前後で打ち止めとなる」「DRAMも20nm台の技術世代を迎え、微細化が止まりつつある」「製造コストの上層に加え、キャパシタの微細化が難しく、周辺回路の微細化などで補う必要が出てきた」(米Micron Technology社 Vice President of Japan Process R&D 五味秀樹)
「同様な状況が早晩、マイクロプロセッサ(MPU)にも訪れる・・・(中略)・・・メモリから数世代遅れて、限界が訪れる」「今後、MPUの微細化は7nmあたりまで行きそうだが、その先はいよいよ難しくなる」(東京大学 生産技術研究所 第3部 桜井貴康教授)
記事に書かれているように、本当に半導体の微細化は32nmで鈍化し、終焉を迎えようとしているのだろうか?
インテルの微細化トレンドを対数軸でプロットしてみると ここで、微細化の最先端を牽引してきたインテルのトレンドを見てみよう。インテルは、1997年以降、2年おきにきっちりと微細化を刻んできている。ただし、14nmについては1年遅延した(表1)。
表1 インテルの微細化のトレンド
(出所:大原雄介「半導体プロセスまるわかり 新技術導入で浮上した銅汚染問題」)
この技術世代(ノード)の微細化は、次のような意味を持っている。1997年および1999年の技術世代は250nmおよび180nmである。この180nmは次のようにして算出される。
180 ≒ √(250×250/2) ・・・式(1)
つまり、ある世代から次の世代に移行する際、技術世代の2乗で計算される面積が半分になるように、次の技術世代が設定される。大雑把に言えば、トランジスタの面積が半分になるように、その技術世代が微細化されると言うことである。
さて、このように微細化を推進してきたインテルの技術世代の年次推移を、グラフに書いてみよう(図2)。青丸は左の縦軸(リニア軸)、赤丸は右の縦軸(対数軸)に従ってプロットしてある。
図2 インテルMPUの技術世代(量産開始時期)
リニアの縦軸でプロットした青丸は、年々、微細化のペースが鈍化しているように見える。特に2010年以降は、微細化が止まりそうな気配となる。
ところが、対数軸でプロットした赤丸は、一貫してほぼ同じペースで微細化が続いていると読み取れる。このまま行けば、2015年以降も、順調に微細化が継続すると予測できる。実際、次世代の10nmはもちろん、次々世代の7nm、そのまた次の5nmの開発も着々と進んでいることが漏れ聞こえてくる。
インテルの微細化推移について、同じ値をプロットしたにもかかわらず、縦軸がリニアの場合は微細化が終焉を迎えたように見え、縦軸が対数軸の場合は微細化が今後も続くように見えるわけだ。
どちらのグラフが正しいことを表現しているのか? 技術世代は「式(1)」で算出される。この計算式に基づく限り、技術世代間の差は次第に小さくなっていく。したがって、リニアの縦軸を使うと、微細化が進むにつれて、前世代との差が小さくなることから、自然と「微細化が終焉する」結論が導かれてしまうのである。
微細化を続けるMPU、NANDフラッシュメモリ、LSI ここで再び、日経エレクトロニクスの記事の「急ブレーキがかかる微細化」と題した図1を見てみよう。この図の縦軸はリニアである。本当はインテルのケースで示した通り、微細化のトレンドグラフは、リニア軸ではなく、対数軸で書かねばならなかったのだ。
実際に、リニアの縦軸で書いたグラフ(図1)を、対数軸に変換してみよう(図3)。32nmで急ブレーキがかかったように見えたリニア軸の図1と比べると、対数軸の図3はまるで印象が異なることがお分かりいただけるだろうか。図3を基にすれば、「ムーアの法則が、終焉を迎えつつある」というような結論が導かれることはないだろう。
図3 各種半導体デバイスの量産開始時期
(出所:日経エレクトロニクス、2015年4月号、30ページの図30を基に筆者作成)
半導体デバイスごとに見れば、次のようになる。
プロセッサ(MPU)は、ほぼ順調に微細化を続けている。業界のコンセンサスとなっている5nmあたりまでは、問題なく微細化し続けるだろう。
NANDフラッシュメモリは、2011年の1点だけトレンドから外れたが、あとは、順調に微細化している。ただし、今後、3次元化が進むと平面方向の微細化はスローダウンする可能性はある。
LSI(恐らくスマホ用アプリケーションプロセッサであろう)は、2010〜2013年までやや微細化がスローダウンしたが、2013年末には遅れを取り戻した。MPUと同様に5nmあたりまで微細化を続けるだろう。
DRAMは2010年以降、明らかに微細化がスローダウンした。しかし、微細化はスローダウンしたものの、止まってはいない。20nm以降も微細化は続いている。さらに関係者からは、一度スローダウンしたが再び微細化が加速し、NANDフラッシュに追いつき追い越す可能性があるという話を聞いた。
結局、微細化が止りそうな半導体デバイスは、現在のことろ見当たらない。
人類が滅亡するまで半導体の微細化は続く? では、一体いつまで半導体の微細化は続くのだろうか? これについては、筆者が「日経テクノロジーonline」のコラム「大喜利」に寄稿した論考「人類が滅亡するまで微細化は続く」(2014年3月25日)の抜粋を以下に紹介する。
「いつ半導体の微細化が止まるか?」ということを考えるためには、まず、「半導体の微細化が止まった状態とは何か?」を定義する必要がある。しかしその定義は、なかなか難しい。
スケーリング則に基づいたムーアの法則では、トランジスタのサイズは2〜3年で0.7倍になると言われてきた。2013年版の国際半導体技術ロードマップ(ITRS)を見ると、プロセッサは1nm刻み、その先は0.7〜0.8nm刻みで微細化されることになっている(図4、もちろん、この通りに微細化されるかどうかは分からないが)。
図4 2013年版の国際半導体技術ロードマップ(ITRS)
ちょっと計算してみると、今後の微細化は、3年で0.8倍の割合で微細化されることになる。これが困難になったら3年で0.9倍になるだろうし、それも困難になったら5年で0.9倍、さらには10年で0.9倍になるのかもしれない。つまり、まるでアキレスと亀の競争のように、微細化はこれまで以上に細かくステップを刻むことが予想される。DRAMは既に、そのモードに突入していると言えるかもしれない。
もし、10年で10%しか微細化されない時代が来た場合、「それはもう、微細化が止まっている」という人もいるだろうし、「いやいや、スローダウンしたけれどまだ微細化は続いている」という人もいるかもしれない。このように、「微細化が止まった状態」を定義することは難しいのである。
私は次のように考える。半導体の微細化はスローダウンしながらも、より細かなステップを刻みながら今後も続く。したがって、微細化は止まらないのである。もしかしたら、人類が滅亡するまで、半導体の微細化は続くかもしれない。
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