藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

本物がくる時代。

ビジネス界でAIが一通りブームになり。
そしてそろそろ「本当の人工知能」が問われつつあるようだ。
ITの現場では「AI盲信」がすでに懐疑されている。
「AI脅威論」でもなく「AI不毛論」でもない。
科学技術の先端が及ぼす影響については、とかくバイアスがかかるものらしい。

「AIの設計への利用はいつごろ始まるか」と聞いたところ、「6〜10年後に始まる」「11〜20年後に始まる」との回答が多かった

そして。

いずれかの時期にAIによる設計を使うようになるとする回答が多い。
(中略)
平均を算出すると、7.4年後という値が得られる

これが現場のエンジニアの考える「本当のAI観」ではないだろうか。
つまり、そのくらいの時期には「人の設計スキルとか創造力」の一部分は多分AIに依存するようだ。
「設計」という最も人間的なはずの領域に、いよいよ自動化のメスが入る。

AIの脅威は、今語られているような皮相的なものではなく、もっと人の能力の核心部分にあるのではないだろうか。

AIが設計する時代 人間に求められる「良否の判断力」 限界突破の設計改革(下)
 コンピューターにより良い設計案を探索させる「ジェネレーティブ・デザイン」や人工知能(AI)を、設計者が使いこなす時代が近づいている。そこで重要になるのは、どのように案を探せばよいかを的確に指示することだ。

 コンピューターに設計の一部を任せる目的は、より良い設計を突き詰めることである。設計者が“楽”をするための手法というわけではない。最適化ツールを使っているあるユーザーは「設計者なら、例えば強度を高めるためにはどうしたらよいか、といった課題をほぼ完璧に検討する。しかし、さらに振動特性を確保して軽量化を図り、製造要件も盛り込むというように、複数の目的を同時に完璧に考慮できるだろうか。コンピューターを使う方が、正解に近い案をより早く得られると思う」と説明する。

 キヤノントッキ(新潟県見附市)商品開発推進センター機構設計部設計推進室の太田明氏氏は、「真空チャンバーはドアを含めて6面あるから、本来はまとめて設計の最適化を図りたい」と語る。そうなると、例えばリブの置き方のバリエーションが指数関数的に増える。そのような、これまで人間が頭で考えられなかった範囲の検討を実行できる手段が、身近に利用できるようになってきたことに間違いはない。

 「ジェネレーティブ・デザインやAIを設計に利用する上で、設計者に何が必要になるか」についてニュースメール配信「日経ものづくりNEWS」の読者に聞いたところ、多くの回答者が「計算結果についての良否を判断すること」「関係者に対して設計上の課題についてコミュニケーションができること」「機械力学、材料力学、電磁気学などの基本を理解すること」などを挙げている()。

図1 ジェネレーティブ・デザインやAIの利用に必要となる知見。「日経ものづくりNEWS」の読者を対象に調査した。コンピューターが出してきた答え、すなわち「計算結果についての良否を判断すること」が必要とする回答が最も多かった

 これらは、設計上の問題を深く理解することと表裏一体である。重要な要素とそうでない要素を整理して問題を明確に記述した上で、計算に入れていない重要な要素がないか、あるとすればそれは何かが分かっていてはじめて、計算結果の妥当な評価が可能になる。

■問題設定の比重は全体の60%

 マツダ 技術研究所先進ヒューマン・ビークル研究部門アシスタントマネージャーの小平剛央氏は、最適化計算において計算自体よりも重要なのが「問題の定式化」、すなわちクルマの車体の何をコントロールして、どのような制約を満たし、何を目指すかを的確に表現することだと指摘する。

 「定式化がきちんとできれば、後の計算は自動で進む。ただ、それで満足できる解が簡単に見つかるわけではなく、最適解の解釈を通してさらに軽量化案を出し、定式化に反映させる。重要性で言えば、定式化の占める割合は全体の60%」(同氏)という()。

図2 最適化計算で重要なのは「問題の定式化」。マツダは最適化計算の作業のうち、設計者と解析技術者の能力を最も注ぐのが問題の定式化であり、重要性を割合で表現すれば「全体の60%を占める」という。その後の解析計算や最適化計算(マツダは複数の解析計算を実行した後、その結果を基に「応答曲面法」と呼ばれる一種の近似計算で最適解を探す)は自動で進む。その結果の評価にも時間をかける

 車種によって軽量化に関わる問題の性質はかなり異なるため、ある車種での定式化方法は別車種には使えないことが多い。小平氏は「最適設計技術が古くからあるのになかなか普及しなかったのは、個々の問題を1つひとつ理解することを大事にする技術者が意外と少なかったからではないか」とみている。「設計案件に応じて問題を作り上げるセンスこそが重要で、問題は与えられて解くものという意識とは異なる」(同氏)という意見だ。

 キヤノントッキの太田氏は、真空チャンバーの扉の最適化計算による軽量化を実現した後、設定した問題を見直し始めた。制約として変位0.1mm以内という条件を設けたが、この値は既存設計と同じにしただけで、0.1mmという値が問題設定として最適かどうかの根拠はない。「本当に0.1mmがよいのか、0.15mmではいけないのか、もっと突き詰めていく必要がある」(同氏)と考えている。

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■計算プロセスにノウハウ

 最適化計算を適切に実行するノウハウも必要になる。「現状では最適化計算には位相最適化、形状最適化、数値最適化の3種類があることを、設計者が理解しておくことが重要」と太田氏は言う()。

図3 キヤノントッキの太田氏は「最適化計算には3種類あることを設計者は認識すべき」という。人の頭脳を超えた範囲を探索することで良いアイデアを得るのか、良いスペックを実現するのか、目的による使い分けが今後重要になる

 位相最適化は設計空間(設計対象が存在し得る空間)の中で、材料を必要な部分には濃く、不要な部分には薄く割り当てる計算方法で、濃い部分が板や梁、薄い部分が空洞になる。自由度が高く、構造をどう決めてもよい設計初期に一から検討するのに適する。

 対照的に、板厚や材料特性値などを最適化する数値最適化は、詳細設計に近い段階での活用に向く。基本的には数値を少しずつ変えて、軽量化などの目標に近づけるように計算を進めていく。

 位相最適化と数値最適化の中間に位置付けられるのが形状最適化である。応力の大きい部分を膨らませ、そうでない部分を縮める操作によって形状を変えていく計算を実行する。数値最適化よりもダイナミックな変形を許すが、梁や穴の数を増減するまでの自由度はない。

 これらの最適化計算をうまく組み合わせて、例えば位相最適化をアイデア出しに使い、数値最適化を詳細設計に使ったのが真空チャンバーの扉の事例だ。スズキのフットレスト・ブラケットの例は、位相最適化を2段階に分け、部品寸法がある程度確定するところまで適用した例といえる。マツダの例は、数値最適化を大規模に実行したものに相当する。

 このようなプロセスは、設計対象や設計課題によって異なる。キヤノントッキの真空チャンバーも、扉だけでなく6面全体を対象にすると、「数値最適化では扉だけの場合とは異なった方法が必要になる」(太田氏)。最適化の対象が27カ所の板厚になり、組み合わせは1023(1000垓=1兆の1000億倍)のオーダーに及ぶため、あらゆる場合をしらみつぶしに計算するわけにはいかなくなる。そこで、「応答曲面法」や「遺伝的アルゴリズム」などといった、良好な解を早く見つけられる方法で計算の効率化を図る必要が生じる。

■AI実用化の時期が近づく

 数多くの計算結果から効率的に良い解を見つけ出す技術として、機械学習をはじめとするAI技術にも注目が集まっている。「日経ものづくりNEWS」の読者に「AIの設計への利用はいつごろ始まるか」と聞いたところ、「6〜10年後に始まる」「11〜20年後に始まる」との回答が多かった()。「AIを使うことはない」とする回答は10%程度にとどまり、多くの回答者が時間の差はあってもAIを設計で使うようになる、と考えているようだ。

図4 AI活用設計は「約7年後」に始まる。
「日経ものづくりNEWS」の読者を対象にした調査で、「勤務先でAIを活用した設計が始まるのはいつごろだと思うか」を選択肢方式で聞いた。業種によって差はあるが、いずれかの時期にAIによる設計を使うようになるとする回答が多い。始まる時期について「2年以内」は1年後と読み替え、さらに「3〜5年後」は4年後、「6〜10年後」は8年後、「11〜20年後」は15年後、「21年後以降」を30年後として平均を算出すると、7.4年後という値が得られる

 米Autodeskはジェネレーティブ・デザインへのAI応用をはじめ、AIの設計への適用を研究しており、ユーザー企業の製品設計に応用を試みた成果などを一部公表している〔(a)〕。同社はジェネレーティブ・デザインについて、「人間よりも広い範囲の設計案を探索し、不要なものを省いて、有力な候補に絞って設計者に提示する」(オートデスク技術営業本部エンジニアマネージャーの加藤久喜氏)と説明している。その中から最も良いものを選ぶのは人間の役割だ。

図5 ジェネレーティブ・デザインとAIの設計への応用アイデア。米AutodeskはAIを設計に応用する研究を進めている。(a)は、その実施例の1つである、米Hack Rodとの共同開発によるオフロード向けレーシングカー。既存車種に約100個ものセンサーを付けて砂漠を走行し、そのデータを基にした機械学習によるジェネレーティブ・デザインで骨格構造の設計案を自動計算した。(b)は、3D形状検索とAIを組み合わせ、ユーザーが設計中の部品に形の近い標準部品を提案する機能の想定ユーザー・インターフェース。図中の「Usage」が利用可能性、「Shape Variation」が原形状との差異を示す

 3D形状検索と組み合わせて設計を効率化することも考えられる。設計者が作成中の部品をAIが観察し、自動的に形の近い標準部品や過去に製作した部品を提示したり、場合によっては自動で入れ替えたりすることが可能になる〔図5(b)〕。設計者が標準部品の検索や選択を気にすることなく「機能の実現だけに集中できるようにする」(加藤氏)ことが目的の機能だ。探すのが面倒でつい新規に部品を設計してしまい、不必要にバリエーションが増える、という問題に対しての新たなアプローチともいえる。

 AIは「万能ではなく、過去からのデータの蓄積がなければ学習機能が働かない」という指摘もあり、少なくとも当面のところ、人間の役割がAIに完全に取って代わられることは考えにくい。将棋や囲碁へのAI応用においても、現時点ではAIだけを使うより、AIの助けを借りて知見のある人が打つのが最も効果的という説がある。遠い将来のことは分からないが、過去に確立した基礎的な知見は、決して捨てることのできない財産であり、それは新しい設計と矛盾するものではない。

(日経ものづくり 中山力・木崎健太郎

[日経ものづくり2017年6月号の記事を再構成]