洗濯物の全自動折り畳み機が実用化されたという。
家事と家電というのはなかなか奥が深くて、つまり一朝一夕にはカタがつかない分野であると思う。
古くは70年の万博で人間洗濯機なんてのがあったし、その後も「便利そうで普及しない製品」というのは数多い。
消費者というのはそれだけ気まぐれでシビアな存在である。
それにしても「洗濯」という工程に今さらながらメスを入れる試みは勇気がある。
45年前の69年に発明された衣類乾燥機が未だに六割に満たない普及率(しかも自分の周囲でも実際使っている人は少ない)だというから、「必ずしも便利なら普及する」ということでもないところが難しい。
食洗器などもその類だろう。
「人は一生のうち375日を洗濯物を畳んでいる」という統計は正しいのだろうけれど、そのために十数万円の家電を購入するかどうかは多分、数学の話ではない。
人は感情で買い物をする、とよく言われるが本当にそうだ。
思えば衣食住、どれをとっても、やれお洒落に見えるとか、住み心地がいいとか、もてなしが心地いいとか、
一般には計りにくい指標がまだまだ主流を占めている。
自分の部屋で、夜中に洗濯をして「朝までに畳んでおいてくれる機械」に自分たちはどれほどのコストを払うのだろうか。
それにしてもこういう製品を考えるのは自分たちの生活と密接なだけに楽しいものだ。
リアリティが感じられるから。
大和ハウスが「全自動折り畳み機」に描く夢
東洋経済オンライン 10月14日(水)5時55分配信
「人生に新たな時間を創出する」――。世界初となる全自動洗濯物折り畳み機「ランドロイド」を開発した、セブンドリーマーズの阪根信一社長は高らかに宣言した。【詳細画像または表】
セブンドリーマーズによると、人が一生のうち洗濯に費やす時間は1万8000時間。そのうち9000時間は洗濯物を畳み、仕分けし、仕舞うために使うという。9000時間は375日。つまり、一生のうち実に1年以上を、洗濯物を畳むという行為に費やしているというのだ。
「375日は大きいなぁ。それが節約できるんだよ」。セブンドリーマーズのシリーズAの資金調達に2000万円を出資した、大和ハウス工業の樋口武男会長は感慨深げだ。
■ 10年の試行錯誤を繰り返す
衣類乾燥機が普及した結果、洗濯作業の中で「畳んで仕舞う」という行為が残った。ランドロイドは、Tシャツなどのシャツ類、パンツ類、スカート、タオルなど4種を識別し、全自動で折り畳む。オプションで畳み方の好みまで把握し、好きな形に折り畳むこともできるようにした。
セブンドリーマーズは、洗濯物を折り畳むというプロセスを「つかむ」「広げる」「認識する」「折り畳む」「仕分け・収納する」という5つのプロセスに分けて分析。画像解析とロボティクス技術を融合することで解決した。洗濯物をつまむアームも30種類以上を作成するなど、約10年の歳月をかけて試作機の開発までこぎ着けた。
現在は1枚のTシャツを畳むのに3分40秒かかる。試作機は一度に最大40枚(4.5キログラム)の洗濯物を畳むことができるが、これだと単純計算で2時間半以上かかる。「夜寝る前に放り込んで朝に仕分けができていると、とらえてもらいたい」(セブンドリーマーズ広報)。
ただ、これも改良を続けることで時間は短縮されるはずだ。実際、全自動洗濯機も、2000年の発売当初に比べると、改良を重ねたことで洗濯時間はほぼ半減した。
今後は2017年に一般家庭向けの折り畳み・仕分けに特化した専用機を発売、2018年には介護福祉施設・病院向けの業務用を投入する予定。2019年には洗濯から乾燥、折り畳み、分配まで備えた「オールインワン」タイプ、2020年には「ホームビルトイン」タイプをスマートハウスにオプションとして装備する計画だ。
同タイプでは、家の中に装備されたランドロイドに汚れた衣類を放り込むだけで、きれいに洗い上げた洗濯物を家族ごとに仕分け、それぞれの部屋のタンスの中にしまい込むまでを行うという。
■ 大和ハウスがまず狙う市場とは?
2020年に投入予定の「ホームビルトイン」タイプでは、大和ハウスとセブンドリーマーズはがっちりタッグを組むことになる。だが、自身も有料老人ホームや介護付き老人ホームを経営する大和ハウスがまず期待しているのは、介護福祉施設向けの専用機だ。
介護施設はまだまだ不足しており、今後も需要は高水準が続く見込みだ。一方で、人手不足という供給制約にもぶち当たっている。そして、介護事業に働き手が集まりにくい原因の1つが長時間労働にある。
たとえば、洗濯にまつわる作業がそうだ。入所者の衣類やタオルなどは、入所者が必要とするときに都度、戻すことが求められる。このため、外部の洗濯業者に出すことは難しい。結果的に、介護ヘルパーは仕事がすべて終了した後や日中の空き時間を見つけ、膨大な量の洗濯物を畳み、仕分け、利用者に届ける作業を繰り返している。
仮にこれらの作業から解放されたらどうだろう。本来の仕事である介護に割く時間が増えるのはもちろん、個人個人の自由な時間を取り戻すこともできる。「最初は価格の問題もあるので、一般家庭より先に有料老人ホームや介護施設での普及が早いかもしれない」(樋口会長)。
介護福祉機器に認定されれば、介護労働環境向上奨励金が支給される。認定までの道は相当険しいが、仮に認定を受けることができれば、購入金額の2分の1(上限300万円)が支給され、普及に弾みがつく。
とはいえ、本格的な普及のためには、量産を行い、価格を下げることが必要だ。また、新規参入による市場の活性化、省エネ技術の装備などランドロイドそのものの洗練も不可欠となる。
家庭向けに衣類乾燥機が販売されたのは1969年。省エネ技術の取り込みによって普及速度が上がったが、発売開始から40年以上経った2015年3月時点でも、普及率は6割弱にすぎない(内閣府「消費動向調査」)。人類が初めて手にする機械が、あまねく広がるには時間が相当かかりそうだ。
筑紫 祐二