藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

性悪説はコスト高。

マンションの杭打ち問題は未だ収束しないけれど、またこれで法律が改正されて検知基準が厳格化される方向になりそうだ。

こうして、世の中のルールは「これも規制、あれも規制」でどんどん厳しくなって、いわゆる「ガチガチ」の状態になって行く。

一旦定められた基準は緩める方向にはなかなか向かないものだ。
なぜならもし基準を緩めたことで何か事故があると、緩めた人が責任を問われるからだ。
従って世の中のルールは、どんどん厳しくなって行くのだろう。
一旦課したルールにはその後は誰も無関心なものなのだ。

多くの法律には「時間の定めがない」と言われる。
どんどん新しい法律が出来たり、既存の法律が改正されたりしてゆくからどの法律が効力を持っているのかがどんどん複雑で分かりにくくなって行く。
法治国家の宿命とも思えるが、今のIT時代、もう少し法律全体の管理をスムーズにしてはどうか。

そもそも区分所有に関する法律は、明治31年に施行された民法においても、建物の一部について所有権の制定を認める例外規定(旧民法208条)という形で存在していました。

なんて言われても困惑するというものだ。

今回の一連の騒動も、「建築業を性悪説に立って検証し直す」という話が出ているが、何か時代遅れの感覚ではないだろうか。

今回の事件で知ったが、過去の欠陥マンションの問題でも、多くの住民が未だ係争中で決着がついていないという。
こういう分野にこそ、保険会社とか行政とかが「基準頼み」ではない安心して購入できる仕組みを作るべきではないかと思う。
"性悪説の管理コスト"はいたずらに高いものにつくのに違いない。

杭打ちデータ改ざん、建設業が警戒する次のシナリオ
帝国データバンク・藤森徹2015/11/18 3:30日本経済新聞 電子版
 傾斜マンションに端を発して続々発覚する杭(くい)打ちデータの改ざん。今後の推移を考えるとき、手がかりになるのはかつての「耐震強度偽装事件」だ。問題の根本にある下請け構造のきしみと合わせて、信用調査マンの視点で読み解いてみよう。

横浜市の傾斜したマンション

耐震強度偽装事件の教訓
 横浜市の傾斜マンション問題は、杭打ちデータの改ざんが全国各地の施設や他業者の手がけた物件に広がり、いっこうに収束しない。ただし、マンション建設で不正が発覚したケースはこれが初めてではない。2005年には耐震強度偽装事件、いわゆる「姉歯事件」があった。
 注目したいのはその後の推移だ。
 耐震強度偽装事件では、再発防止のために07年6月、建築確認・審査を厳しくした改正建築基準法が施行。その結果、建築確認申請の手続きが大幅に見直され、着工から完成までの期間が延びた。その影響は大きく、同年9月には新設住宅着工戸数(全国)が前年同月比40%と大幅にダウン。資金繰りがつかない中小の建設業者が続出し、企業倒産数が跳ね上がった。帝国データバンクの調べでは、改正建築基準法の影響による倒産は07年10月〜10年9月の3年間で430件となった。
 今回の傾斜マンション問題の発覚後、石井啓一国土交通相は11月10日の衆議院予算委員会で「実態を解明したうえで再発防止策をしっかり検討したい。必要であれば法律の見直しも含めて検討していきたい」と発言。着工から完成までの期間は今後、延びることが予想される。それに伴い、減少が続いてきた建設業の倒産件数は増加に転じる可能性がある。資金繰りに余裕の乏しい中小企業を中心に、かつての二の舞にならないよう慎重な対応が必要になりそうだ。
 傾斜マンション問題の場合、「三井不動産レジデンシャルほどの大手の物件で、なぜこうしたトラブルが起きたのか」にも関心が集まっている。その疑問を解くには、建設業界の構造を改めて知る必要がある。
 国内で建設事業にかかわるのは約47万社(者)あり、それぞれ建築工事業土木工事業など、事業内容によって区分された工事を請け負う。ただし、総合建設業いわゆるゼネコンは複数の許可を受けている。このため、ゼネコンは、例えばマンション建設で販売主である不動産開発業者(デベロッパー)から工事を受注すると、1社で事足りるはずだ。しかし、実際にはゼネコンは工程別に工事をそれぞれの下請け業者に発注している。
 マンション建設の工程は大まかに6つある。すなわち(1)建物を硬い岩盤で支えるために数メートルから数十メートルの杭を打ち込む(杭工事)、(2)地下の躯体を造るために土を掘削。崩れないようにH型鉄鋼や矢板鋼などの打ち込み、はめ込みを行う(掘削工事)、(3)躯体と杭を結ぶため、地中の耐圧はりや床の鉄筋を組み、コンクリートを打設する(基礎工事)、(4)柱や壁を組む(躯体工事)、(5)アルミサッシや水回り、断熱材、電気、防水、タイル、塗装、設備などの工事を行う(内装・外装)、(6)建物の周囲についての整備(外構工事)――の6つだ。


藤森徹(ふじもり・とおる) 帝国データバンク東京支社情報部部長。スポーツ用品メーカーを経て1992年(平成4年)同社に入社、大阪支社配属。バブル経済崩壊後の数々の企業破綻を現場の第一線で見続けた。2006年福岡支店情報部長、10年から現職。現在は各地で中堅中小企業の経営問題に関する講演もこなす。兵庫県出身。
 各工程の専門業者が1次下請けとなり、そこから2次下請け、3次下請け、さらにその先に工事を発注する。100室ほどの中規模のマンションの場合、元請けのゼネコンを頂点に1次下請けでおおむね50〜100社、2次下請けで100〜200社、多い場合だと合わせて300社ほどのピラミッド構造の下で工事を行う。
 このため、ピラミッド構造では土台に近くなるほど小規模な会社やローカルな会社が中心となる。つまり、有名デベロッパーが販売し、大手ゼネコンが手がけるマンションも実際に工事を行うのは、一般には知られていない下請け企業となっている。傾斜マンションの杭打ち工事の場合、元請けの三井住友建設から日立ハイテクノロジーズ旭化成建材、杭打ち業者A社が発注の流れとなっていた。
■ピラミッド構造に生じたきしみ
 なぜこうした下請け構図が発生するかといえば、やはりコスト面が大きい。建設業は労働集約型産業の面が強い。しかし、元請けはピラミッド構造があるため自社で膨大な社員を抱える必要がない。このため、固定的なコストである人件費を抑えながら様々な工事を行い、利益を生む。下請け業者はその分、人件費の比率が高く、コスト構造が下請け依存につながっている。一方で下請けはこの構造によって営業コストをかけることなく、安定的に受注を得ている面もある。帝国データバンクの調べでは、旭化成建材の場合、資本関係のない杭打ち工事の3次下請けを全国に約40社持っていた。
 ピラミッド構造のもう一つの背景が建設業の受注変動の波だ。1992年をピークにバブル崩壊リーマン・ショックによる急激な受注減少を経た後、東日本大震災からの復旧が進むなかで需要が回復。最近ではオリンピック特需がある。景気対策による公共工事の変動も加わり、下請け構造が需要変動の調整役となっている。
 傾斜マンション問題はこうしたピラミッド構造のきしみによって生じた面があるといえるだろう。データ改ざん問題は杭打ち大手のジャパンパイルにも広がり、これには業界のプロも驚いている状況だという。
 マンションの購入を検討する人はどんなことに気をつけるべきか。チラシ、パンフレットには設計、施工として元請けのゼネコンの社名しかない。このため、下請けの状況について知るには、マンション販売会社に問い合わせるくらいしか手立てはなさそうだが、100社を超える下請けの実態を確認することは不可能だ。
 そもそも多数の下請け業者を審査、管理するのは元請けであるゼネコンの役割。コストの上昇につながったとしても、ゼネコンには従来の性善説から性悪説に切り替えるくらいの慎重さが求められる。責任を下請けに押しつけるのでなく、元請けとして信頼回復を図る取り組みが重要だ。