藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

おもろい挑戦。


生きていく上で必要なことは知識よりも経験だろうか。
何か鼻筋の通ったゴリラ、のような風貌である。
京大・山極総長の記事より。

最悪の失敗さえしなければいい。
(ゴリラから学んだ)勝つことと負けないことは同義ではない。
経験しないと身体化はできない。それこそが直観力です。

「ネットには経験がないよ」とは2000年以降に生まれた人にぜひ言っておきたい言葉だ。
山極さんは自然観察をしてきた方なので、説得力がある。

「私が長年やってきたフィールドワークでは、その場で『あっ』と思ったことをノートに書きつけていきます。
自分の身体で体験し、感じたことを手を動かして書くということが、非常に大事だと考えています。」

「例外経験を知識にする」という感じらしい。
例外対応力だ。
そうして直観力を養うという。
つまり直観力というのは、本当の「ヤマカン」ではなく、経験と知識で鍛え上げられた能力のことなのだ。

氏はリーダーには「他者を感動させる能力がいる」という。
リーダーって難しい。

おもろい挑戦で直観力を 京都大学 山極寿一総長(下)
「インターネットの世界にこもらず、外へ出て、おもろいチャレンジをしよう」。京都大学の山極寿一総長は、学生たちにそう語りかける。リーダーには「直観力を磨き、人を感動させる力が必須」。その言葉の意味するところとは。

今年の入学式では詩や俳句を引きながら、新入生に語りかけた

「学生が自ら渡航先や、そこで何をするのかをゼロから計画し、自分の責任で交渉もし、経験してくるというプログラムです。僕は『直観力』が非常に重要だと考えています。直観力を鍛えるためには、既存のレールに乗って既存のメニューをこなすだけではダメ。自分の身体ひとつでチャレンジし、オンリーワンの経験をしてほしい。最悪の失敗をしなければいいと思っています。実際、これを体験すると、学生は本当に一皮むけますね」

「いまの学生は幼い頃からインターネットに慣れ親しんできました。ネットの世界では同じことが繰り返し起きるので、予想ができるし、身構えることもできる。でも自然や人間相手では、同じことは二度と起きません。予想がはずれることも多々ある。海外では特に、思いもかけないことが起きるでしょう。だからこそ、それを体験しておくことが必要なのです。心構えとして重要なのは『失敗しても命を落とさなきゃいい』ということ。正解ではなく、決定的に間違えないことを覚えるんです」

「私はゴリラから、勝つことと負けないことは同義ではないと学びましたが、正解することと間違わないことも同じではないんです。自然界では大きな失敗をしちゃったら命を失いますから、決定的な失敗さえしなければいい。そうやって動物も人間も生きてきた。でも現代の人間はどうしても正解を求め、より正解に近づくことばかり考える。そのためにフレキシビリティーを失ってしまうのです。本当はもっといろんなやり方があるはずなのに、みんな同じように振る舞う。それは直観力を使っていないからです」

――直観力は頭ではなく身体で学べと?

「私が長年やってきたフィールドワークでは、その場で『あっ』と思ったことをノートに書きつけていきます。自分の身体で体験し、感じたことを手を動かして書くということが、非常に大事だと考えています。ITが当たり前の時代に育ったいまの若者は、知識は人から人へ伝達されるものではないと思っている。でも知識というのは、人から人へ、あるいは本から人へ、時には暴力的な形で、身体の中に飛び込んでくるものなのです。経験しないと身体化はできない。それこそが直観力です」

「同じ時に同じ対象を見ても、人によって感じ方はそれぞれです。それは人間が身体を持っているからなんですね。人間のクリエーティビティーは、そういう個別の経験が積み重なり、直観力が鍛えられてはじめて生まれてくるものです。人と交渉をする上でも、新しいことに立ち向かう上でも、他の人とは違うオリジナルの知識を持っているかどうかが問われます」

――リーダーを目指すにも直観力が必要だと?

「リーダーは常に新しいものに立ち向かい、挑戦していかなければならない。その時に必要なのは、自分の身体によって蓄えられた知識です。それは人に感動を与えるものでなくてはならない。そうでなければ人はついてきてくれませんから。僕はリーダーの条件のひとつは『他者を感動させる能力』だと思っています。感動を与えるのに必要なのは意外性です。それが何であるかを瞬時に見抜き、行動できるかどうかは、直観力にかかっています」

――山極さんが理想とするリーダー像を体現していた人はいますか。

今西錦司さん(元京都大学名誉教授)ですね。日本の霊長類研究の草分けで、僕も薫陶を受けました。彼の一番すごい点は、自分が生涯リーダーでありながら、たくさんの弟子を育て、梅棹忠夫さんや伊谷純一郎さん、河合雅雄さんといった傑出したリーダーを輩出したことです。一代限りのリーダーにはなれても、次の世代のリーダーを育てるのは非常に難しい」

「今西さんにそれができたのは、彼は愛されていたけれど、信用されなかったからなんです。それを最初に見抜いたのは、1980年代に英国からやってきた古生物学者のベヴァリー・ホールステッドさんでした。当時、今西さんはダーウィンの進化論に異を唱え欧米でも話題の人でしたから、イギリス人の彼は反論してやろうと意気込んで来たのです。ところが今西さんと会っているうちにすっかりほれ込んでしまった。しかも『今西の弟子たちは、今西の言っていることを誰も信じていない。これはすごい』というわけです」

「自分の周りにフォロワーばかり据えていては、自分を超える人は出てこない。今西さんの場合は、常に挑戦し続ける彼自身の姿勢と、弄するレトリックが面白かったので、弟子たちが自然と集まってきた。今西さんは弟子たちの挑戦も奨励し、許容したんです」

――そこが常人との違いだと。

「普通は自分を超えようとするやつの頭をなんとか抑え込もうとします。でも今西さんはある時から手を放し、譲るんです。梅棹さんには国立民族学博物館を作らせ、伊谷さんには京都大学自然人類学教室を、河合さんには日本モンキーセンターを任せ、京都大学霊長類研究所に生態研究部門を作らせた。弟子たちへの任せ方は実に見事でした」

「現代の社会では、人間関係においても正解を求めがちですね。でも人間同士もお互い100%わかりあえることはないから、探り合うしかない。そこで決定的な失敗に至らなければいい。今西さんはそのことをよく知っていたんだと思います。だから自分に従わせず、直観力をみなに発揮させた。お互いに罵り合うことだってあるけど、楽しいからみんなそばにいるという環境を作った」

「正解に到達することを奨励するのではなく、いろんな新しい可能性を提案してくれる人たちを育てる。大学もそういう場所にしなくちゃいけない。決定的な失敗さえしなければ、いくらでも実験ができる、いくらでも挑戦ができる。その面白さが大学の持つ魅力だと思います」

(聞き手は石臥薫子)

ストレスは感じない
 「ストレス解消法は?」という質問に返ってきた答えは「実はあんまりストレスを感じないんだよね。解決不能とか、山極さん大変ですね、とか言われると逆にうれしくなっちゃう」。関西弁の「おもろい」という言葉が好きだ。ハードルが高ければ高いほど、「おもろいに違いない」と考えるのが信条だという。昔から毎晩、酒は欠かさない。ビール、ワイン、日本酒、「アフリカの地酒も大好き」。尊敬する今西錦司さんと同様、仲間と酌み交わす酒をこよなく愛する。