藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

運転の職人。

オフィスの前。
片側一車線の道。反対方向に向かうタクシーが一台。
方向が逆だから、と思っていたら、運転手と一瞬、目が合う。
後方に見遣りながら軽く頷く、やいなや、タイヤを軋ませてUターン。
キュキューッ!
目の前に滑り込む。まだ止まっていないのに、自動ドアは全開。
身を屈(かが)めて乗り込み、足が入り切ったと思ったとたん、発車。ドアは閉まりながら。

運転手「どっち!!」
自分「ええ、と」
運転手「右ッ!?左ッ!?」
自分「みみ、右っ!」
キュキューッ。

運転手「で!どこッ!まっすぐ!?」
自分「ま、まっすぐ! じゃない!ニューオータニッ!」

キューーッ。(急左折)

う、運転の姿勢が。
歩行者や他の車に注意を払うため、背もたれにくっつかず、常に前にのめり。
首だけ前に突き出て、眼がギョロギョロしている。

リズミカルに首を左右に振りながら、鋭い視線を放ち、常にミラーをチェックするその様は、さながらサッカーのミッドフィルダーか。

キュキュキューッ。(坂道を注意抜かりなく、急右折しながら)
運転手「オータニ!どこッ!?」
自分「へ?」
運転手「オータニ!!新館?本館?ビジネス棟?」
自分「あっ、ほ本館!」
運転手「どっち!?」
自分「ふ?」
運転手「一階!二階!どっちッ!?」
自分「ああ、に、二階です!」

と言うと同時に二階へと向かうスロープを登っていた。到着。
むろん、完全に停止する前にドアは全開。と共に
運転手「あーしたぁッ!」(有難うございました、の短縮形だろう)
ワンメータ。

千円札を一枚、差し出す前にレシートと(いつ用意したのか)つり銭340円。
受け取る前に車が発進してしまわないか、キモを冷やす。

キュキューッ。
ドアを閉じつつ、ホテルのスロープをダッシュで駆け下りる、前のめりの勇姿を見送る。
乗ってから所要時間、一分半。
「かみ、かぜ…」
しばし放心。