藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

yomiuri online「佐藤記者の精神医療ルネサンス」より。
この度のコラムのテーマは先に起きた京都祇園でのワゴン車暴走事故についてのもの。
原因は、一つの仮説として「てんかん発作による意識障害」が疑われたものの、10年前の言語障害の症状に着目した「高次脳機能障害ではないか」というものである。

専門家ではないが、「前頭葉を損傷すると「脱抑制」が起こりやすい」という指摘はこの度のシチュエーションの説明には適合しているような印象を受ける。

が、それにしても。
この佐藤記者のコラムを読んでいると「患者の日常と医療の現場の温度差」、そして特に精神科という分野での難しさは推して余りあるものがある。

そもそも、医学の分野は時代の経過とともにどんどん発達し、細分化・専門化し、医師自身もしばしば「各科目の全体感の欠如」を口にする人は多い。
分子生物学を軸にした、免疫療法など最新の学説を唱える研究者と、抗がん剤やホルモン療法を勧める医師たちの相互の連携が取れていない例、など「全体からみた誤謬」はいつか是正されねばならないだろうと思う。

それもともかく。
佐藤記者のコラムからだけでも、この「精神科」という分野でどれほどの「よくて試行錯誤、悪くて誤診」が行われているか、という現場の様子は非常にリアルに伝わってくる。
特に、養護施設などで起こっているこうした実態を見るにつけ、未成年に対する向精神薬の投与、という問題はまだ「人智未達の域の話」ではないかと思えて仕方がないのである。

オーバードーズ(過剰服用)とか、統合失調症への投薬の悪影響とか、記者でなくとも「本当に適性か」と疑問を抱かざるものは多い。
診断を下す医師も疲弊しているだろうことも感じ取れる。
他部門の医療も、まだまだ研究の途上なのだが、こと心療内科については「生活環境の因子」と切り離せない問題も多いように思う。

細分化を指向している様々な医療分野を、"指揮・統合するためのシステム"が必要ではないかと強く感じた。
これは何も心療内科に関してだけではなく、あらゆる科目に必要な機能ではないだろうか。
こうした"専門化"が進む故に、相互の連携や、全体の方向性を考えていく機能が必要なのである。

そして、「そうしたシステムを生みだすこと」こそが、これまでになかった"知性"なのではないだろうかと思う。
木を見て森を見ず、はここでも箴言なのではないだろうか。

祇園暴走事故は脱抑制?
今回は、4月12日に京都・祇園で起きた軽ワゴン車の暴走事故について考えてみたい。
 車は最初、タクシーに追突し、直後に暴走を始めて多くの歩行者をはね、電柱に衝突した。多数が死傷する大惨事となり、運転していた男性も死亡した。
 車はなぜ暴走したのか。男性にてんかんの持病があったため、最初は発作による意識消失が疑われた。だが間もなく、車の暴走の仕方などから意識はあったとの見方が強まった。そこで、様々な憶測が飛び交った。
「追突事故で焦って逃げたのではないか」
「性格的な問題で自暴自棄になったのではないか」
 これらの可能性も、ゼロとは言い切れないが、事故直後の行動としてはあまりにも異様だ。追突事故で大きなショックを受けたのであれば、逃げるよりもまず、凍りついたようにしばらく動けなくなるのではないか。
 仮に、男性が当て逃げを試みたのだとしても、そんな臆病な人間が、一時しのぎの逃走のために人を何人もはねるだろうか。
 事件が報道された当初から、気になっていた情報がある。「10年前のバイク事故で言語障害を起こすようになった」という家族の証言だ。男性はこの事故の負傷がもとで、外傷性てんかんを発症したとされる。だとすれば、脳損傷で起こる高次脳機能障害も患っていた可能性がある。
 高次脳機能障害は、症状として記憶力や注意力の低下が知られるが、前頭葉を損傷すると「脱抑制」が起こりやすい。気分や感情のコントロールがうまくできず、ささいなことでひどく興奮する。周囲から見ると、急に性格が変わったように映るが、脱抑制に陥った時の記憶は本人にはないことが多い。
 男性は、ふだんはおとなしく真面目な性格だったようだが、追突事故のストレスで、潜在化していた脱抑制の状態に陥ったとは考えられないだろうか。そこで、高次脳機能障害治療の第一人者として知られる「やまぐちクリニック」(大阪府高槻市)院長の山口研一郎さん(脳神経外科)に意見を聞いた。
「実は私も高次脳機能障害を疑い、彼を知る関係者に話を聞きました。今回の暴走に、てんかん発作が関係したとは考えにくく、自暴自棄になるような性格でもなかった。脱抑制の可能性は高いと思う」
 強調しておかなければならないが、高次脳機能障害を患う人の運転が危険なのではない。山口さんが診察した約800人の患者の中には、仕事に復帰して車を運転している人も多いが、問題は起こっていない。
 脱抑制は、専門的なリハビリで抑えられるようになる。やまぐちクリニックでは、週に一度のグループワークなどで、脱抑制の一歩手前で気持ちをコントロールする術を身につける。
「まず大切なのは、自分の脱抑制に気づくこと。そして、なぜ陥ったのかを振り返り、陥らないための方法を考える。感情が高ぶってきたら、深呼吸をする。その習慣を身につけるだけで、脱抑制は避けられる」と山口さんは語る。
 問題になるのは、脱抑制が起こりうることを本人が知らず、抑え方を身につけていない場合だ。事故を起こした男性も、このコツを身につけていなかったのではないか。
 山口さんらの努力で、高次脳機能障害は近年知られるようになったが、日常的には問題が表面化せず、見逃されているケースもある。精神症状も見据えたリハビリにきちんと取り組める医療機関は少なく、適切なリハビリを受けられぬまま脱抑制を繰り返し、精神科病院に入院して更に状態が悪化するケースもある。高次脳機能障害と精神科入院の問題は、後日取り上げる。
 事故はなぜ起こったのか。バイク事故以降の男性の症状と治療の経緯を、高次脳機能障害の観点から詳細に検証することが欠かせない。