日本の教育制度はもう古きに過ぎると言われて久しい。
詰め込み主義、偏差値指向、正答至上主義、などもう日本人なら誰でもが知っている話。
最近は大学も法人化され、民間人の登用も盛んで、実績があれば数年で国立大学の教授に就任したりするようになった。
MBAでは数多くのケーススタディをするというが、同じことをするのではなく、日本の大学は徹底的に企業経営者からの声を聞いてはどうだろうか。
記事の西川さんのような大物だけではなく、各界の技術をリードする中小企業や、さらにそれよりも重要なのは「ベンチャー起業家」だろう。
学生と年端の違わない起業家たちが、何を考え、どのようにして起業し、またいまのマインドセットはどんなものか。
そうした生の姿を見ることにより、机上の学問ではないリアル感を感じ、さらに生きることへもリアリティが出てくるのではないだろうか。
できれば、失敗した人も積極的に招きたいところである。
そんな講座がひしめいているのが、大学の経済学部のカリキュラムなら心底行きたい、と思う若者も少なくないだろう。
これまでは理論一辺倒だった学び舎が、半分くらいは「生の声」を採り入れるである。
ぜひ検討してもらいたい。
阪大の風変わりな授業 (西川善文氏の経営者ブログ)
2012/8/30 7:00ニュースソース日本経済新聞 電子版
西川善文(にしかわ・よしふみ)1938年8月生まれ。 住友銀行時代には経営難に陥った安宅産業の処理に携わるなど若くして頭角を現し、頭取としても財閥を越えて、さくら銀行との合併を断行。その辣腕ぶりから「最後のバンカー」の異名を持つ。民営化のために日本郵政社長に就いたが、政府の路線転換で辞任を決意した。「怖い上司」と恐れられたが、仕事を離れれば気配りの人。
母校の大阪大学に今もたまに顔を出す。法学部国際公共政策学科の野村美明教授に頼まれて、ボランティアで授業のお手伝いをしているのである。
大学に行くと、かつてを思い出す。1年生のころは自宅から通学していたのだが、畝傍御陵前駅から近鉄に乗って焼き肉で有名な鶴橋に出て、国鉄と阪急を乗り継いで大阪平野の北のはずれへ。奈良と大阪の市街地を縦断する形で、片道1時間半ほど。よく混んでいた。阪急の石橋駅を降りて大学に向けて坂道を上るころには、もうくたびれていた。
当時の校舎は木造で、歩くとガタピシと鳴ったものだ。今は立派な建物になり、当時を知る者とすれば、うらやましい環境である。
ボランティアでお手伝いしている授業も昔にはなかったものだ。テーマは「リーダーシップ」。法学部以外の学生でも受講できるというこの講義には単位も出るらしい。
変わっているのは、メインの講師が教授ではなく、企業の経営者である点だ。毎回、第一線で活躍する経営者が招かれ、講義をするのである。4カ月間、毎週講義があり、講師の経営者は週替わりとなる。私は野村教授からアドバイザーとして経営者の人選を頼まれており、最終日には講義も任されてしまっている。
毎回大教室で200人前後は集まっているのではないか。やはり大学の授業としては珍しいらしく、好評のようである。経営者の生の声で、経営の話を聞けるという実践的な内容は学生も興味があるようだ。卒業して社会人になってからもヒントになることがあろう。
東大が秋入学を検討するなど「大学改革」の必要性が指摘されている。学生に「自ら勉強してみたい」と興味を持たせるために、大学ができる工夫の余地はまだまだ残されているのではないか。学内に閉じこもった画一的な授業はなお多いのではないか。
国の力は人が作る。大事なこれからの人材を育てる工夫はこれまで以上に重要になっている。もっと柔軟なアイデアが必要である。
西川善文 三井住友銀行顧問のブログは隔週木曜日に掲載します。