藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ステレオタイプにならないこと。

政府はこの変化の根本にある原因を受け入れているようだ。7月に発表された日本経済「再生」の新たな青写真は、歴代政権の頭を離れなかった日本株式会社の「空洞化」の阻止に全く触れていない。代わりに、環境技術やヘルスケア、農業など、より有望な分野に資源を振り向けることに重点を置いている。

つまり、もう日本は多くの製造業分野では、「国内雇用を考えなくてもいい」と言っている。
雇用が減って酷い、というのは一つの見方。
こうした議論は"どちらかが絶対に正しい"と思っていると柔軟性を失う。
原発容認論などと同じである。
自分の頭を鍛えるのに役に立つ。

政権幹部は「日本は多くの先進国が直面する問題の最先端にいるという認識だ」と語り、高齢化とエネルギー消費の制約を例に挙げる。

つまり、これから「円安誘導」や「インフレ誘導」をして、"既存のカテゴリーでの巻き返し"を図るのか、それとも新しい方向を見つけるのか。
というのは「日本に製造業を残すのかどうか」という設問である。

そして、必ずしも残すことがよい、雇用を「そこ」でうむのがよい、とは限らない。
秋田で大規模に閉鎖されるというTDKの向上と、東南アジアの工場が真正面から競合するのがこれからの日本にとって良いかどうか。

自分たちはこれから、「先進国ゆえの生みの苦しみ」を経ねばならない。
けれど、戦後これまでもそうしてきたように、また「今の社会構造でできる新しいことは何か」という命題と向き合うのである。

しばらくは「方向が見えて、力だけをかけていけばよかった時代」が60年ほど続いていたが、ようやく次のビジョンを見つける時期に来ているという気がする。
その方が「円安誘導」とか言っているよりも、断然前向きな気がするのである。

[FT]日本を去る製造業、空洞化の議論どこへ2012/8/31 7:00ニュースソース日本経済新聞 電子版
(2012年8月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 2011年10月、JVCケンウッドのタイ工場は洪水で水浸しになった。排水・消毒作業の間、同社は生産を横須賀に戻した。
■電力事情が国外脱出を加速
電気の使用制限や料金の上昇が日本企業の国外脱出を後押ししている(中部電力上越火力発電所で建設が進む発電設備)=共同
 「生産を移転するしか選択肢はなかった」。グローバルな生産・調達業務を統括する落合信夫氏はこう語る。同社は技術スタッフの「中核」を日本にとどめていたという。
 だが、12年5月までにタイ工場は活動を再開し、通常の顧客サービスは復旧した。世界初の家庭用ビデオレコーダーを作ったことで知られる、創業85年の同社にとって、自国での生産は「緊急措置」だったのだ。
 売上高ベースで見た海外生産比率が約90%に上るJVCケンウッドは極端なケースだ。しかし、同社が特別なわけではない。経営者が他国の低いコストや安い通貨、強い需要に目を付けた結果、日本の産業基盤は着実に国内から失われてきた。
 昨年の津波以降は、メーカー各社は福島原発危機が招いた電力の使用制限や料金上昇の影響を検討し、国外への脱出は勢いを増した。
 8月31日に発表される7月の鉱工業生産指数は、復興関連の支出に押し上げられて前月比1.7%増とわずかに増える見込みだが、大局的に見ればリーマン・ショック後に生産の縮小は加速している。昨年は全国ベースの鉱工業生産指数が2.2%ポイント低下し、05年以降の累計下落幅は8%近くに達した。弱い統計値は今年に入っても続いている。
■空洞化の阻止に触れない政府
 政府はこの変化の根本にある原因を受け入れているようだ。7月に発表された日本経済「再生」の新たな青写真は、歴代政権の頭を離れなかった日本株式会社の「空洞化」の阻止に全く触れていない。代わりに、環境技術やヘルスケア、農業など、より有望な分野に資源を振り向けることに重点を置いている。
 政権幹部は「日本は多くの先進国が直面する問題の最先端にいるという認識だ」と語り、高齢化とエネルギー消費の制約を例に挙げる。
 より実際的な取り組みを歓迎する向きもある。東京にあるシンクタンク富士通総研の上席主任研究員、マルティン・シュルツ氏は、しぶとい通貨高と内需の縮小を考えると、多くの日本企業が輸出ではなく海外生産を通じて顧客を開拓したがるのも不思議ではないと指摘。「日本が対外投資に目を向けるのは極めて合理的だ」
TDKは秋田県内の工場閉鎖を決めた(秋田県にかほ市の象潟工場)
 日本の純額ベースの対外直接投資は昨年2倍以上に拡大し、07年の過去最高に迫る1160億ドルとなった。相次ぐ大型M&A(合併・買収)や生産拠点の新設・拡充を反映した。日本貿易振興機構ジェトロ)のデータによると12年は記録を更新する見込みだ。
■痛み残す生産移転
 ただ、生産移転が痛みを伴うことに変わりはない。製造業の仕事は、再雇用の見込みがほとんどない場所でよく失われる。例えばカセットテープで有名だったTDKは最近、秋田県内の6工場の閉鎖を含む計画を立てた。秋田は日本で失業率が最も高い県の1つだ。
 最初に台湾へ生産を移転してから40年以上たった今、TDKは主に中国本土の工場網を通じて、製品の84%を日本国外で生産している。海外売上高とほぼ同じ比率だ。「生産の一部を日本国内にとどめるには、全社の生産能力を強化しなければならない」とTDK幹部は言う。
 トレンドに抗ってきた業種もある。例えば自動車業界は、名古屋に比較的活力のある製造拠点を維持してきた。精密機械や輸送設備、セラミックスでは安定した生産が続いている。
 もっとも他の多くの業種では、よそに投資する方が賢明だ。例えば化学メーカーのクラレは前年度の売上高3690億円のうち半分強を日本で生産した。それでも、今後3年間の設備投資予算2400億円のうち約8割を日本国外で使う予定だ。
■競争力の点で日本より米国
 「簡単な話ですよ」と経営企画本部長の阿部憲一氏は言う。「我々は市場があるところで事業を拡大したいんです」
 円高は一つの検討材料だが、もっと重要なのは原材料との地理上の近さやロジスティクスの容易さ、電気代や人件費だと阿部氏は語る。同氏によると、米国ではシェールガスの過剰供給のおかげで電気代が日本より大幅に安いうえ、エチレンを安定して確保できるという。
 クラレが液晶パネルや紙の添加物に使われる樹脂の新工場を米テキサスに建設するのはこのためだ。
 「全体的な競争力の観点からは、日本か米国かという選択肢ならば現状では米国を選ぶ」と阿部氏は言う。
■流れを変える見込みなく
 一橋大学の経済学の教授、深尾京司氏は、法人税引き下げ、自由貿易協定(FTA)の拡充、大幅な円安があれば、日本にもっと多くの投資を呼び込む助けになると言う。
 そうでなければ今の傾向を覆すのは難しいと深尾教授は語る。国際協力銀行JBIC)の最近の調査では、海外事業を手がける製造業者のうち過去最高の87%が今後3年間で海外事業を強化・拡大したいと答えた。一方、日本国内で事業を強化したいと答えたのは4分の1強だった。
 「生産の一部は日本に残るだろう」。こう語ったTDK幹部は、直後に言い直した。「というより、我々は日本に生産を残すために最善を尽くす」
By Ben McLannahan
(翻訳協力 JBpress)