藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

つねに自然体を

万能細胞の報道、についての藤代ジャーナリストの考察記事より。
この報道の性質が「おっさん思考」だと氏は言う。
確かに。

・万能細胞 祖母のかっぽう着姿で実験 主導の小保方さん(毎日新聞
・泣き明かした夜も STAP細胞作製の30歳女性研究者(朝日新聞
・論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙(読売新聞)
・「間違い」と言われ夜通し泣き、デート中も研究忘れず…常識破りの新型万能細胞を開発した小保方晴子さん(産經新聞

「そういう」フェミニンを記者たちは追っているようである。

もし小保方さんの研究室の「花柄のソファ」が、ある男性では「鉄道模型」だったり、
今貼ってある「ムーミンのキャラクターシール」が少年漫画のキャラクターシールだったら・・・

記者のおじさんたち、がどうしても「女性の取材対象ゆえ」のバイアスをかけてしまっている、と筆者はみている。
確かに。
新聞の見出し、という戦場ではそうした「バイアス」が少なからずある。
だからKIOSKのスタンドではすべての新聞の「見出し」が必ず一番目立つように置いてあるのだろう。

30歳の女性研究者、そこで「デート」や「ファッション」の質問をするのですが、そこが無自覚ではないかと思うのです。自分でも気づかない間に、それがニュースだと思い込んでいるが、どこかの見方に強く依拠している。

筆者の言うこの「無自覚」こそが、すべての「経験者」の落とし穴ではないだろうか。
その業界や分野が分かっているからこそ、自分の「これまでの知識」を動員し、また時間を短縮して「あるものの見方」へとショートカットする。

思考の対象が「過去の世界の中のもの」であれば、この図式は非常に効率的だが、「過去にない新しい分野」になったとたん、過去の経験や知識は柵(しがらみ)と化してしまうのだ。

バスタブに浸かりながら万能細胞のアイデアを思いついたという小保方さんだが、報道する側の「柔軟性」もぜひとも維持してもらいたいものである。
自分たちはやはり二次情報以上の報道に接して、日々暮らしてゆくことが圧倒的に多いので、なおさらそう思うのだ。

「デート」「ファッション好き」革命的研究者の紹介に見る根深い新聞のおっさん思考
藤代 裕之 | ジャーナリスト


小保方晴子ユニットリーダーの業績を伝える理化学研究所のホームページ


生命科学の常識を覆す画期的な成果」「革命的」。新聞各社は、理化学研究所などが作製に成功した新たな万能細胞STAPについて大きく取り上げています。大変素晴らしい成果のようですが、研究の中心となった理研発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子ユニットリーダーの紹介記事について、強い違和感を持ちました。

各社のウェブ版のタイトルを並べてみます。並べた記事は社会面の記事で、人物を紹介するものです。研究に関する本記や用語解説は別にあるので、一部ネット上にある「研究の事をもっと紹介しろ」という批判は的外れです。

万能細胞 祖母のかっぽう着姿で実験 主導の小保方さん(毎日新聞
泣き明かした夜も STAP細胞作製の30歳女性研究者(朝日新聞
論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙(読売新聞)
「間違い」と言われ夜通し泣き、デート中も研究忘れず…常識破りの新型万能細胞を開発した小保方晴子さん(産經新聞
と、かっぽう着、デートなどのキーワードが入っています。記事本文を見ると…

自分の研究室の壁はピンクや黄色、花柄のソファを置き、実験器具などには、「ムーミン」のキャラクターのシールなどが貼り付けてある。知人の間では「ファッション好き」で知られる小保方さん。今回の記者会見でも英国の有名ブランドの金色の指輪をつけて臨んだ。

出典:毎日新聞
研究をしていないときには「ペットのカメの世話をしたり、買い物に行ったりと、普通ですよ」と話す。飼育場所は研究室。土日も含めた毎日の12時間以上を研究室で過ごす。「実験室だけでなく、おふろのときも、デートのときも四六時中、研究のことを考えています」

出典:朝日新聞
実験室の壁はピンク色に塗り替えた。机にはキャラクターが並び「女子」の側面をのぞかせる。研究室にはペットのスッポン。「この子が来てから実験が軌道に乗ったので幸運の亀なんです」と笑顔を見せた。

出典:産經新聞
ムーミンやファッション好き、ブランドの指輪、「女子」…もし、30歳男性研究者で言葉を入れ替えてみたらどうでしょうか。

研究室には鉄道模型が飾られ、実験器具などには漫画キャラクターのシールを貼る「男子」の側面をのぞかせる。知人の間では「ファッション好き」で知られ、今回の記者会見でも英国の有名ブランドの金色の指輪をつけて臨んだ。「おふろのときも、デートのときも四六時中、研究のことを考えています」と笑顔を見せた。

男性だってデートもするでしょう。「男子原稿」をあまり見ないのだとすれば、そこには何らかの性別によるバイアスが存在していることになります。もちろん、理系の女性研究者が少なく、政府をあげてリケジョとして支援しているという面はあります。読売新聞の記事はリケジョフォーカスです。ですが、どの記事にも女子を強調するエピソードが入っており、「おっさん」的な視点から書かれていると言ってもよいでしょう。

新聞記者を有る程度やると、「これで見出しが立つ」という質問と回答が分かるようになってきます。30歳の女性研究者、そこで「デート」や「ファッション」の質問をするのですが、そこが無自覚ではないかと思うのです。自分でも気づかない間に、それがニュースだと思い込んでいるが、どこかの見方に強く依拠している。以前に比べて「女性らしい細やかさで…」などと書かれた女性の初物記事(初の女性◯◯)は減りましたが、これらの記事を読んで新聞社の「おっさん」バイアスは根強いと感じざるを得ませんでした。

個人的に一番ニュースだと思ったのは、一度ネイチャーに投稿した際に、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄している」と酷評され、掲載を却下されたこと。ここからどうやって粘り強くチャレンジしたか、もう少し知りたいと感じました。

なお、朝日新聞は研究について比較的詳しく紹介していました。ですが、「お風呂に入っている時も」という発言は、このアイデアを思いついたのはお風呂に浸かっていた時(natureニュース記事中にあるインタビューHaruko Obokata and New & Views author Austin Smith talk how the new cells were made.で「アイデアを思いついた時はバスタブだった」と答えている)で、その事をなぜきちんと書かないのかとても疑問に思います。ノーベル賞を受賞された益川敏英さんもお風呂でアイデアを思いついたエピソードがあり、金色の指輪よりもニュース価値はあるでしょう。

理化学研究所では「60秒でわかるプレスリリース」という取り組みもやっているようですので、研究内容に興味をもった方は確認してみたらどうでしょうか。

藤代 裕之
ジャーナリスト

広島大学卒。徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部准教授。関西大学総合情報学部特任教授。教育、研究活動を行う傍らジャーナリスト活動を行う。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員